プロローグ② 異界より その1
地球ではないどこかの世界。そこにある王城に、声が響いた。
「実験は、成功だ……この世界の全てのダンジョンは、《《別の世界》》に転移した。」
瞬間、王城に歓声が湧き上がった。それは、遥か昔から人々を苦しめ、多くの悲しみの原因を作り続けていたダンジョンという呪いから解放されたことへの喜びと、この実験を成功に導いた《《英雄》》への賞賛からのものだった。王も《《英雄》》を褒め称えた。
白く長い髭を蓄えた齢60ほどの老人が言った。
「賢者ギリック。よくぞこの世界に根付いた呪いを打ち破ってくれた。これでこの世界は救われるであろう。」
王の御前に跪く全身を黒のローブで覆った、ザ・魔術師といった姿をした男が答えた。
「もったいなきお言葉でございます。王よ。」
「其方が望むものをなんでも与えよう。其方の望みは何だ?」
「私が望む物は、この世界の平穏でございます。この世界が平和になるのであれば、これ以上嬉しいものはございません。」
「そうか。其方は実に謙虚であるな。ならば、其方の望んだ通り、平和となったこの世界での新たな日常を其方への褒美としよう。」
「ありがたき幸せ」
こうして、謁見は終了し、賢者は多くの貴族や民衆からの大きな支持を得ることとなった。
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誰もが寝静まる深夜。王城に二つの影があった。
「ふふふ……これで我が国は長年の呪いを打ち払った魔術師を有する国として大いなる権威を得ることになるだろう……。本当によくやったぞ、ーーーーよ」
「気にするな。これで私の偉大なる実験の礎となったモノもさぞ喜んでいることであろう。報酬を期待しているぞ。ーーーーよ」
「ああ、もちろんだ。お前の望むものをやろう。楽しみにしているとよいぞ!」
「私が望むモノはわかっているな? ーーーーよ」
「ああ、もちろんだ。ーーーーーーーであろう?」
「わかっているならいい。では、楽しみにしているぞ」
そう告げて部屋を後にする男。一人部屋に残ったものは、自身に訪れるであろう輝かしい未来に思いを馳せつつ、眠りにつくのだった。
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<《《世界》》を見守る地にて>
人とは思えぬ美貌とオーラを纏う二人の男女が頭を抱えていた。
「あの者たち……なんということを……」
「まさかダンジョンを別の世界に送るとはな。全く、面倒なことをしてくれる……」
「しかも、ダンジョンが送られた先の世界はダンジョンはおろか、魔物も魔法も存在しない比較的平和な世界だなんて……」
「あの世界の人間たちの中で適性がありそうな者たちに力を与えねばなるまい……」
「ええ、そうですね。それと、あの世界の理も変える必要がありますね」
「ああ、そっちの仕事は任せたぞ。我は力を与える者を探してみよう」
「分かりました。では、失礼します」
そう告げて部屋を退室していく女性。その背中を見送り、『こちらも始めなくては。まあ、平和な世界で生きてきた人間たちに強い力を持つことができる者はいないだろうがな……』と考えながら力を与える者をホログラムのような物を利用しながら探していると、ふと一人の若い男に目が止まった。『ほう……これは驚いたな。この世界にこれほど高い適性を持っているものがおるとは。おそらく、この者ならばこの世界の光となれるだろう……』
そこに表示されている名前には《《御手洗》》:適合率97%と表示されていた。
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誰もいない部屋で欲望に満ちた会話をしている二人の人物。彼らは知る由もなかった。ダンジョンの送り先となった世界にもダンジョンに対抗できる可能性がある存在がいることを。
彼らの行為が、彼らの世界の《《管理者たち》》の逆鱗に触れていることを。そしてこの二つの要素が交わる《《特異点》》の存在を。今より少し先の未来に彼らは思い知ることとなる。《《管理者たち》》や《《特異点》》の圧倒的な力と怒りを。自分達の愚かさを。
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