第一ラウンド クリームソーダの不毛な戦い。
妻と結婚して今年で25年。早いもので銀婚式を迎えた。四半世紀もいっしょに連れ添ったのが不思議なくらいケンカもしてきたが、何とか支え合ってやってきた。子供達も成人して独り立ちした。お互い20歳で結婚した私たちは、その分子育ても早く終えることができたのだ。これは、そんな夫婦のある不毛な争いの物語であります。
ある日の買い物の時、私はたまには童心に帰って甘い飲み物が飲みたいと思って、メロンソーダを購入した。今日は真夏日で暑かったため、私は帰宅すると早速メロンソーダをグラスに注いだ。
「そうだ。いいこと考えた。」
私は冷凍庫に残っていたバニラアイスを取り出すと、ディッシャーを使ってメロンソーダの上にアイスを落とした。古き良き懐かしき『メロンクリームソーダ』を自作してみたのだ。
「げっ、ありえない。」
リビングで私が楽しんでいると、まるでゲテモノでも見るような目つきで妻が否定してきた。
「なんでせっかくのメロンソーダにアイスなんか入れるわけ? ありえないんだけど。」
「いやいやいや。」
私は慌ててそれを否定した。
「クリームソーダってあるだろ? それだよ。」
「クリームソーダは知ってるけどわけわかんないじゃん。」
「なんでだよ。」
ありえないと何度も首を振りながら妻は言った。
「なんでわざわざアイス入れて味を変えちゃうかな。」
これには私も大いに反論した。
「いやいやいや。だって、メロンソーダで1回、アイスで2回、混ぜてクリームソーダにして3回。1つの飲み物で3回も楽しめるんだぞ?? それに、コーラフロートだって定番じゃないか。」
「ありえない。コーラフロートなんてもってのほかだよ。飲んだ後汚くなるし、せっかくのコーラの味が台無しだし。」
「そんなことないだろ。クリームソーダもコーラフロートも100年以上も歴史のある支持をされ続けてきた飲み物だぞ?」
そう、クリームソーダの始まりは明治期にまで遡る。明治35年(1902年)、資生堂の創業者である福原有信さんが、銀座にあった資生堂薬局内にソーダ水とアイスクリームを提供する「ソーダファウンテン(現在の資生堂パーラー)」を開設したのがきっかけで、由緒ある飲み物なのだ。
しかし、わが妻はその歴史ある飲み物を完全否定してきたのだ。
「だってさ。コーラとかメロンソーダに牛乳入れる? 入れないでしょ? 不味いでしょ?」
「いやいやいや。だから、入れるのは牛乳じゃなくてアイスクリームだっての。」
完全に好きとか嫌いの話なのだが、この不毛な夫婦は平行線の言い争いを繰り広げ、結論が出ないままもやもやと夕食を迎えることになる。
「ところでさ。コーヒーフロートはどうなんだよ。」
「あ、それはアリ。美味しいよね。」
「おい、ちょっと待て。」
私は怪訝な顔で抗議した。
「なんでコーラフロートがダメでコーヒーフロートはOKなんだよ。」
「だって、コーヒーにはミルク入れるでしょ?」
しれっと返答する妻の言葉に、思わず納得してしまいそうになったが、
「いやいやいや。おれは認めないぞ! クリームソーダは美味しいんだ!」
子供たちが呆れるくらい、この不毛な言い争いは続くのだった。
クリームソーダ論争おわり、
両者決め手に欠けて引き分け。
平行線のまま第二ラウンドへ。