1・炎の皇、帰還 後編
アラートが響き、GOTUI総本部は物理的にも精神的にも揺れた。
すわ敵襲か。浮き足立つ職員の行動を留めたのは、頂点に立つ男の一言だった。
「静まれ」
一種の呪を含ませたその声は、職員に冷水を浴びせるのと同等の効果を現す。静まりかえる手下の様相を見て、天地堂 嵐はにやりと不敵に笑った。
予想範囲内。いや、待ちに待った時が来た。高揚感を押し隠し、彼は朗々たる声で厳かに告げる。
「深層4番格納庫の封印を解け。多分“アレ”が跳ぶぞ」
その声に眼下の職員たちがざわめく。つまりそれは、希望が、現状を塗り替える一手が、“それ”が、還ってきたという事なのか?
不敵に唇を歪めた嵐は応えない。声の端に喜色を滲ませながら指示を出すだけ。
「跳んだ先をトレース。アレの役目は終わる。“代わりのもの”を転送してやれ」
響いた音は、デストロイ・ユニットを含めた全てのものの動きを一瞬止める。
大気を揺らす、強力な振動波。それを伴った轟音は自動機械の電子頭脳にも異常として捉えられたのだ。
「なん、だ!?」
骨の髄まで浸透するようなそれの発生源を走査。結果割り出されたのは。
「あの空間の歪み、か?」
クレーターの中央に未だ存在するそこから、世界を揺るがすかのようなかの音は響いた。何か変化が起ころうとしているのか。
気にはなる。しかし今はそれどころではない。全ては目の前の敵を平らげてから……。
思考を切り替えようとした途端、再びの轟音。さらに続けて二度、三度。
「ええいなんだというのだ! デストロイ・ユニット、あの歪みを吹き飛ばせ!」
戦闘の妨害になると判断した男は、デストロイ・ユニットを殺到させ一斉に自爆させる事により音の源を消し飛ばそうとする。
しかしそれは叶わない。
突然天に展開する魔法陣。GOTUIが使用する空間転移門――通称ゲート。そこから一陣の銀光が奔り、集るユニットを吹き飛ばす。
空間の歪みに“深々と突き刺さった”のは、ひび割れた機動兵器用の巨大な両刃剣。デュランダル。
どくりどくりと鳴動するように点滅するその鼓動に合わせてか、びきり、びきりと微かな音が響いてくる。刀身に走った罅が、少しずつ広がっているのだ。それと同時に――
「え? ど、なあ!?」
――“突き立った空間の歪みそのものにも、罅が入っていく。”
常識では考えられない現象に、指揮を執る男の思考は一瞬止まった。しかしその命を受けたユニット群は構わず体制を立て直し再び亀裂の入った歪みへと殺到する。それが到達する直前で。
歪みが、そしてデュランダルが。粉々に砕け散った。
砕けた歪みは粉雪のように解け元の正常な形を取り戻し、デュランダルの破片だけがゆっくりと舞い落ちる。そこに残ったのは世界を穿つ漆黒の穴。
轟、と熱い風が吹きすさび、再びユニット群が吹き飛ばされる。
漆黒の空間に炎が走る。それは瞬く間にあるものを形作った。
ゲートの魔法陣、に酷似した図形。だが細部が異なっている。新たに展開したその門から、熱風を伴って何かが飛び出してきた。
高く高く飛翔。そして太陽を背に蜻蛉を切り、轟音と共に大地へ降り立つ。
ぼろ切れの塊かとも思わせるそれがゆっくりと身を起こす。そこで初めて全容が顕わになった。巨大な、ずたぼろの外套を纏う、“人型を模した何か”だ。
まさか。
まさか。
まさかっ!
現状を忘れそれに視線を奪われるGOTUIの面々。
数多の視線が突き刺さる中、それは外套に手をかけて、一気に脱ぎ去る。
焼けただれた装甲。
無数に走る弾痕、裂傷。
パーツの一部は欠損し、内部機構が露出している部分すらある。
左目の部分に刀傷のような裂傷があった。ゆっくりと面を上げながら、ガバーが割れ露出したモニターカメラに光を灯すその姿を、GOTUIの人間が見紛うはずがない。
「バン……カイザー……」
誰かが呆然とその名を口にする。かつて失われ、そして皆がその帰還を待ちわびていた、紅き鬼神。それは間違いなくこの地に再び降り立ったのだ。
誰もが言葉を失う中、天空できらりと何かがきらめく。目にも止まらぬ速度で左肩を掠めるように飛来した“それ”を、紅き機体は右手でしっかりと捕らえる。
デュランダルとほぼ同サイズの、両刃剣。より分厚く、鋭く。炎を意匠化したような紅い装飾が目を惹いた。
一瞬にして各種データが剣から機体に流れ込む。そして確かめるようにゆっくりと、それは振り抜かれる。威風堂々。剣を携えた傷だらけのその姿は、以前にも増して威圧感を放っているように見える。
しかし自動機械には分からない。そのようなことは気にしない。体勢を立て直した一群が即座に空間転移。脅威度を優先し一斉に紅い機体へと取り付こうと――
「還って来るなり、派手な歓迎じゃないかっ!」
――炎が奔った。
灼熱が、瞬時にユニットどもを消し炭に変える。
バーストモード。だが以前とは様相が違う。機体各所から吹き出るのは、波打つ紅き炎ではなくガスバーナーを思わせる青白き焔。陽炎を伴い大地を灼くその姿は、どこか神々しささえ感じられた。
「こけおどしを……っ! あれだけの損傷、まともに機能するものか!」
ここで指揮を執る男は判断を間違えた。心の奥底で鳴り響く警笛に従い、脇目も振らずに逃げ出せば良かったのだ。だが全ては遅すぎる。
「頼むぜ、【スピリットスクワイヤ】」
炎が弾け、火の粉が舞う。その一つ一つが爆発するように膨れあがり、一気に戦場を駆け抜け舞い踊る。
「これ、は!?」
ただの炎の塊ではなかった。それが形取るのは、蜥蜴のような、猛獣のような、自我を持つ何者かの姿。
自然精霊。地球ではそれを召喚し実体化させる技術を持つ者は絶滅寸前となっている。かてて加えてこれ程の数を召喚し行使する存在など最早伝説の中にしかない。
バンカイザーが腕を振るう。それに従い炎の精霊たちが駆ける。狙うはGOTUI側まで深く侵攻したデストロイ・ユニット群。その全てに火の蜥蜴は一斉に襲い掛かった。周囲に被害を与えることなく、目標だけを焼き尽くす。正確で、何より速い。掠める(侵略する)事火のごとしという言葉を体現したかのような攻勢。これにより、一気にGOTUI側の態勢は立ち直った。
ばかなと、否定する間すら与えない。精霊による攻撃を放つと同時にバンカイザーは宙へと舞い、敵陣へと肉薄していた。
空いている左手の中に炎の塊が発生する。電光の速度で飛び込んだその勢いのまま、それは敵陣中央に叩き込まれた。
「インフェルノ・ナパーム!」
超高温の爆炎が炸裂。木の葉のように機動兵器が吹っ飛ばされる。ただの一撃で、戦力が大幅に減じてしまった。しかし。
「まだだ! 全機乱数回避と同時に牽制攻撃、全てのデストロイ・ユニットをヤツに向かってランダムに跳ばせ! 火力を集中して押し切る!」
ランダムな回避行動を取りながら男は反撃を命じる。即座に対応策をひねり出すセンスは見事なものだったが、残念ながら相手が悪かったとしか言いようがない。
転移して即座に自爆。デストロイ・ユニットはこの行動に集中し襲い掛かる。通常ならば回避は至難。防御しても長く保つかどうか。しかし相手はTEIOW。ただでさえ常識は通用しない。その上それを駆っているのは、常に予想の斜め上を行く男だ。
「インフェルノ・ナパーム、全方位に向かって連続発動!」
紅い機体が炎を曳き、“爆発しながら”空を駆ける。その進路上に空間転移してきたユニット群は、己が自爆する前に木っ端微塵に焼き尽くされた。爆発によって爆発を吹き飛ばす。大規模火災などで良く見る手法だが、実戦でしかも突撃技として用いるのはこの紅き機体くらいしかあるまい。これにより最新鋭の自律戦闘兵器デストロイ・ユニットの存在は全くの無意味と化した。
態勢を立て直す前に有人機部隊の眼前へ。炎を纏う鬼神が、目と鼻の先でぎいんと両目を光らせる。ひっ、と幾人かが短い悲鳴を上げる間に、バンカイザーは左手を高く掲げた。
「派手にキメさせてもらおうか! 集え精霊、汝らが王の力を貸せ!」
残りのユニットを全て掃討し警戒するように上空を舞っていた精霊たちがその声に応え、一斉に左手の先に飛来してきた。
炎が集積する。それは互いを飲み込み喰らい合い、そして、爆発的に膨れあがる。
現れるのは、炎を纏いし巨大な人影らしきもの。魔道的なセンスを持つ者達は、本能的にそれが何かを悟った。上位精霊。森羅万象に宿る精霊達の中でも特に強い力を持つ存在。おとぎ話の中にしか存在しないような、伝説。本物の炎の王だ。
その圧倒的存在感は周囲全てに絶大なプレッシャーを与える。蛇に睨まれたカエルのように、一瞬思考が空白になるほどのものを。
そんな隙が見逃されるはずもなかった。
「奔れ炎の王。その力、存分に見せつけてやれ」
炎の洪水。そうとしか表現できなかった。
放たれた炎は一気に空間を覆い尽くし、敵陣を飲み込む。
あまりにも、あまりにもあっさりと数多の機動兵器は炎の中に消え、消し炭と化す。苦闘が、苦戦がまるで嘘だったかのようにあっけなく勝敗は決した。
かに見えた。
「貴様の首だけでも、貰う!」
バンカイザーの背後に空間転移。それは間一髪難を逃れた指揮官の機体。
最早敗北は必至。ならばバンカイザーだけでも冥土の道連れにしようと決死の覚悟で本来離脱用である空間転移装置を使った奇襲をかけたのだ。
必殺のタイミング。普通ならばそれを防ぐのは不可能に近かっただろうが。
「早速の試し斬りだ。起きろ、【レーヴァンテイン】」
紅い剣の表面を炎が覆う。空間を構成する因子を破壊する空間破砕剣、デュランダル。それを基本構造から見直し強度を向上、空間構成因子をただ破壊するだけでなくエネルギーとして転換、すなわち“空間そのものを燃焼させる”よう機能追加し破壊力を増したバンカイザー専用近接兵装。
空間爆砕剣、通称レーヴァンテイン。
ありとあらゆる存在を焼き切る炎の剣が、起動と同時に振るわれる。
電光の速度にて、振り向きざまに一閃。必殺の一撃をかいくぐり流れるように放たれた一刀は、気付けば指揮官機の胴体を上下に解っていた。
「な、見えな……」
驚愕のみを残して、男の姿は炎の中に消える。
炎上、そして爆発。それを背に紅き機体は大地に大剣を突き立てた。
戦闘の終了、そして皇の帰還と言う事実が、やっとの事で皆の心に染み渡っていく。
大地を揺るがすような歓声が上がった。
カメラはシャッターを切り続けている。
撮影しているのではない。持ち手が止めるのを忘れているだけだ。
メモリーが満杯になり、オートで止まっても彼女の指はボタンから離れなかった。いや。
すでに呼吸する事も忘れ去ってしまったかのように見入っていた。
「……凄い」
ごくりと喉が鳴る。全身から噴き出す汗が止まらない。
身体の底から震える。目の前で起こったことが脳裏に焼き付いて離れない。
これが、これがTEIOWか。これが人類が生み出した力、これこそが最強の、戦場の皇たる存在か!
ついに自分は出会った。命を、生涯をかけて追い求めたいものに。全身全霊をかけて世界に知らしめたいものに。
自分は今、間違いなく伝説を目の当たりにしている!
もう耐えられない。一瞬前まで魅入られていたのを忘れ去ったかのように彼女はシートを立ち全速で操縦席の方へ向かう。一刻も早く、あの心焦がれる存在の元に向かうために。
炎の皇に魅入られた存在が、また一人。
膝を付き、注機姿勢となったバンカイザーのコクピットが開く。
そこから飛び降りた人物の姿を見て、ほぼ全員が目を丸くした。
「どいつもこいつも、元気そうで何よりだ」
鷹揚な、それでいて凄味を含んだ声。
紅い鎧のようなパイロットスーツは替わらない。だがその背丈は記憶にあるより頭一つは高く、体格も細身ながら無駄を削ぎ落としたかのように鍛えあげられているのがスーツの上からでも見て取れる。
髪は荒く伸び放題。野生の獣のように跳ね回っているが不潔さは感じられない。
機体と同じ箇所についた、左目を縦に裂くような傷跡。そしてその他に首筋や胸元にも無数の傷跡が見える。
傷の下にある左の瞳は、深紅に染まっている。恐らくは義眼かその類の物だ。
たった半年の時間経過とは思えない、すっかり変わり果てた姿。だがその不敵で皮肉めいた笑顔は、間違いなく――
八戸出 萬であった。
ぽかんと狐につままれたかのごとく皆が唖然とする中、ただ二人迷う事なく前に歩みでた者達がいる。
『お帰りなさいませ、我が君』
一瞬執事服とメイドドレスの幻影が見えたかのような見事な従者の礼。その姿に目を細め、萬は二人に応える。
「よう、待たせたな」
『それはもう、一日千秋のごとく』
済まして返すやいばとはずみの言葉に苦笑し、悪かったよと軽く言い放つ萬。その姿を眩しそうに見ながら二人は語り掛けた。
「ご苦労をなさったようですね、お疲れ様でした」
「しかし見違えましたぞ。御身の勲章、伊達ではありますまい」
「まあな、こっちは半年位しか経っていないようだが、どうも時間とかおかしな方に吹っ飛んだらしくてな」
にい、と萬は笑う。
「2クールアニメなら、10回はエンディングを迎えたさ」
メタな冗談だった。しかし言葉の裏を見れば……それだけの時間を過ごし、経験を積んだという事だ。
やいばの言葉通りその姿は伊達ではないのだろう。萬の事だ、恐らくは壮絶というのも生温いほどの修羅場を潜ってきたに違いない。
「まあ積もる話もあるが、まずは――」
「こんの野郎! 今の今まで何してやがったあ!」
萬の言葉を遮り、何者かが彼に飛び掛かってくる。
言うまでもない、ライアンを始めとした元1444小隊――かつてのチームメイトたちだった。
「畜生生きてるなら生きてるって言いやがれ! こっちが何度死にかけたと思ってやがる!」
「お帰りそして地獄に堕ちろ。顔の形が変わるまで殴ってもいいよね戦友的に」
「奢りだな、飲むぞ。一軒二軒営業停止にするくらいは覚悟しておけ」
髪をぐしゃぐしゃかき回したりこづいたり、好き放題もみくちゃにする三人。皆笑っていた。笑いながら泣いていた。
ごりごりやられながら萬も笑っていた。涙はない。待たせてしまった事が分かっているのだろう、どこか苦みのある表情であった。
停滞していた空気が、彼らの行動で緩む。どう反応して良いものだか分からなかった者達も、笑みを浮かべたり肩を竦めたりといつも通りの反応を取りつつある。八戸出 萬の帰還。それがやっと浸透したのだろう。
しかしただ一人、皆と違った反応を見せる者がいる。
少し離れた場所で、軽く手を伸ばそうとしたまま戸惑った表情を見せる女性。
仲間とともに駆け出そうとして駆け出せなかった。
時間の経過か、それとも彼の変わりようか。あるいは己の中に巣くう何かか。全てに躊躇し、一歩が踏み出せず――
「……っ!」
――ターナ・トゥースは何もかもを飲み込んで、ゆっくりと己を抱きしめるように俯くだけだった。
その様子を端から見掛けた者もいる。
「……色々と、複雑なようだね」
空気を読むことを覚えたか、出しゃばる事を控えたカンパリスンだ。
彼自身そうのんびりしている場合でもない。今回の明確な命令違反で後ろ盾からは切り捨てられ、実家あたりからは縁を切られるだろう。それはもうすでに覚悟の上だから構わない。そんな事などと棚に上げるほどに、かの“少女”の有り様は目を惹いた。
どうかしてるなと思うが今さらだ。自分が手出しなぞしていいものではないだろうなあと再び視線を萬の方へと向ける。
「このっ! 俺たちのっ! 愛と怒りと八つ当たりをっ!」
「最近秘奥を覚えたんだ。打つよ、答えは聞いてない」
「田舎ヤクザの流儀だ。なにちょっと放心してレイプ目になる程度の事」
「ちょ、まて、あた、あたたたた! お前らいい加減シャレになってないぞ!?」
……自分が手出しなぞしていい事ではないのだなあと目を背ける。あんなもの誰だって巻き込まれたくない。少女よ、君の判断は正しい。
なんてあほな事をカンパリスンが考えている間にも、事態は予想外の方向へと展開していった。
「気持ちは分かるがあまり遊んでくれるな。壊れると我が困る」
凛とした、少しハスキーな声が響く。聞き覚えがあるようなないようなその声に対して、へ、と疑問符を浮かべながら皆が視線を向ける。
萬とそれをいぢくっている三人の傍らに、新たな人影が現れていた。
一型に似たはっきりと体格が分かるスーツに包まれた、いわゆるけしからんスタイルの身体。
緩やかに風に舞う、腰のあたりまで伸びた艶やかな紅い髪。
鶏冠のように逆立った前髪を揺らし不敵な笑みを浮かべる、それはもう絶世の美女と言うしかない女性がそこにいた。
しん、と場が静まる。
皆の目が点になり、視線が女性に集中する。そしてぎぎいっと軋むような音を立てながら視線は萬の方へと向けられた。
「OK萬何も言うな死にくされ」
「思い残す事はないね? ないね?」
「……ドラム缶とコンクリ、だな」
「待ちなさいアンタらそいつにとどめを刺すのはアタシよ」
一気に殺気立ち締め上げたりこづきあげたり詰め寄ったりするライオット小隊の面々。いつの間にか怒りに我を忘れたターナが躊躇を忘れて拳を構えてたりしている。
「いやこら待てまず話を聞けお前ら」
「むむう、これは順番を考えなければなりませんね」
「なかなかの強者。やはり二人一遍の方が優位に立てるか」
「そっちはそっちで何の話をしているか!?」
『萬様ハーレム計画ですがなにか?』
「空気読めや!」
喧々囂々。謎の美女を巡って萬は責め立てられる(一部ちょっと違う)形となっている。当の本人は傍らで「ふ、相変わらずよな」と呑気なものだが。
ぎしぎしと身体のあちこちから歪み軋むような音を立て始めた萬は、悲鳴のような声で叫ぶように言う。
「何を勘違いしてやがるお前ら! そいつはジェスターだジェスター!」
『へ?』
再び停止する場。
ぎい、と視線が女性へ向く。不敵に笑みを浮かべたままのその女は、大きく頷いて宣った。
「左様。我もまた比翼である萬と同様、経験を糧に成長した。今ではこの通り精霊体だけを抽出し実体化する程度の芸は覚えたわ」
どういう成長の仕方だ。つーか人工精霊って成長すんのか。ツッコミどころは山ほどあるが実際目の前に現れている以上それは事実なのだろう。どう反応したらいいものなのか分からない人々は、あ、そうなんですかと力無く言うしかなかった。
もっとも例外というものはどこにでもあるわけで。
「問題はそこではありませんね。重要なのはお二人の関係です」
「然り。手を出しているのかいないのかはっきりして貰わねば」
「我としては手を出してくれても一向に構わぬのだが……この男、これでなかなか堅くてな」
『やっぱ死んどけ』
「鎮火しかけた火事にガソリンぶちこむような真似すんじゃねえええ!!」
はっちゃけ従者とマイペースな相棒のおかげで、ぎゃーぎゃーと騒ぎが再燃する。もう最初の戸惑いとかわだかまりとかすっかり忘れ去られたいつも通りの光景であった。いや、なんか以前に比べても騒がしい。もちろん悪い意味で。
ただでさえしっちゃかめっちゃかになりつつある再会の光景。そこに更なる爆弾が投下される。
「貴方がTEIOWのパイロットですか!? プレスのエリー・ケントと言います少し宜しいでしょうか宜しいですね!? 匿名で構いませんから是非ともお話を聞かせて頂けませんでしょうか! 聞かせて頂けるのでしたら私なんでもやります脱げと言ったら脱ぎます朝までしっぽりとカラダ張ってみせます! さあ! この結構脱いだら凄いけど最近彼氏いなくて持て余し気味の肉体を存分に!」
「またなんかヘンなの来たあああ!?」
「はい死んだ。お前今死んだ」
「もいどこう。そうしよう」
「サメか。トラでもいいが」
「せめて、せめてアタシの手で葬り去ってやるのが慈悲よね」
「その前に子種の一つも残しておいて貰わねばならんのだが」
「このやいばめが二番で」
「それでははずみは三番で」
「味方はいないのかああああ!!」
加速する騒動はいつ終わるともつかない。周囲はみんなあきれ顔だ。
こんな感じで。
皇の帰還はもうなんてーか、ぐだぐだだった。
グランノアの消息を聞いた萬の第一声は、「そうか」の一言であった。
そっけない言葉。しかしそれに続く台詞が、萬の感情をありありと表していた。
「また、死ねない理由ができたな」
表情には怒りも悲しみもない。ただその瞳には、なんらかの強い意志が見て取れる。その光を見た者は、彼の心に揺るぎがない事を理解するだろう。
「……精神的には問題なし、ね。精神的には」
含むような口調で金髪の女医が言う。GOTUI総本部へ連絡を取った後、帰還の前に一通りのメディカルチェックを受けていたのだ。輸送機の中とは言え、GOTUIのそれはかなり本格的な走査を可能とする。その結果を見た女医は皮肉めいた言葉の一つも出さずにはおられなかった。
「本格的に呆れたわ。あなた一体幾つの術式回路を“その身体に刻んだ”の?」
「18万と3千」
にい、と笑う萬の左頬に、細かく複雑な文様が浮かび上がる。疑似リンゲージドライブの構成による過剰な機体とのリンク。やもすれば命をも奪いかねないそれを緩和、制御するために萬が取った手段は、自らの身体に術式回路を刻み込み己が身体を制御システムとして作り替えるという正気の沙汰ではない手段だった。
これにより機体とのリンクによる負荷は解消されリンクそのものも強固なものとなり、また機体から直接魔力を供給される事によって様々な恩恵を受ける事も可能となった。
しかし。
「各種魔道行使、及び身体関係の増強。さらには自然精霊との契約なんて代物もあるけれど……半分以上が“治療用”よね」
「さすがプロ。一発でばれたか」
「医者舐めんな。貴方の身体もうぼろぼろじゃない」
萬の身体は外観も、そして中身も傷だらけだった。限界を超え足掻き続けたツケ。倒れないのは機体とのリンクから魔力を供給され続けているからだ。
「奇跡とか綱渡りとかそんなちゃちなものじゃないわね。もし万が一機体とのリンクが切れたりしたら――」
続く言葉は冷酷で。だが紛れもない真実で。
「――あなた、死ぬわよ」
次回予告っ!
帰還した萬は嵐の命により暫定指揮官として二つの遊撃中隊プラスおまけを預かる事になる
休む間もなく下された新たなる指令、それはかつての仲間たちを集め、チームインペリアルを再編成する事だった。
彼がまず向かうのは……。
次回希想天鎧Sバンカイザー第二話『宇宙の亡念』に、フルコンタクトっ!
驚愕の展開が盛り沢山!? ……の第一話にしてみたつもりですがいかがだったでしょうか。
さあこの後一体どうするんだ緋松 節!
実は勢いだけで書いてしまって今更どうしようと考え込んでるなんてとても言えないぞ緋松 節!
……呆れないで下さい帰ってしまわないで下さい。
もーしばらくおつきあい下されば面白くなる、かも知れません。
そういったわけですんで次回もよろしゅうに。
今回推奨戦闘BGM、Real‐Action。




