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10 激突、開催 後編

 





一人の少女が居た。

 

少女の住む星は、長い間戦乱に晒されていた。終わらぬ混沌の中、少女は友を失い、家族を失い、住処を、国をも失った。

ただ一人生き延びた少女には、確かな才能があった。戦士として、他者の命を喰らい生き延びる才能が。だがそれゆえに彼女は誰も寄せ付けることができずに、孤独に生きざるをえない。

 

ただ一人、目的もなく生きていく。恐らくそのままであったらば、彼女は荒廃した大地の上で人知れず朽ち果てていただろう。






「ほう……私に傷をつけますか」

 





だが、出会ってしまった。

闇よりも暗い、漆黒を纏う男と。

 

微かに頬についた傷口を拭い、男は反射的に殴り飛ばしたその少女――自身の命を狙った襲撃者に手を差し伸べる。

 

気まぐれに戦場跡に訪れた傭兵と、物取りの少女。

後に銀河最強と呼ばれる傭兵とその片腕、二人の出会いはこのようなものであった。


 









そう、“出会ってしまったことは確かに不幸だったのだろう。”シャラはそう結論付ける。

出会わなければ何も知らずに朽ち果てることができた。“己の同類が他に存在すると知らずにすんだ。”

 

だが出会ってしまった。そしてこの同類達と、とことんまで付き合いたいと思ってしまった。“人生最大の不幸で、最大の間違いで、最高の幸運。”それを掴んでしまった。

ゆえに彼女は失うことを恐れる。絆を、思いを、今の己を成り立たせる全てを。

 

だからこそ――


「――負けるつもりなど、毛頭ないっ!」

 

吠える。駆ける。

 

自分は臆病者だ。シャラは自身をそう判断していた。

それゆえに冷静に物事を見詰め、酔狂な上司と仲間の行動を見極め、ここまでカダン傭兵団という組織を導いてこられた。そういう自負がある。己の心に巣くう獣を押さえつけ俯瞰的に物事を見据えることにかんしては、右に出るものなどあるまいという自信があったのだ。

 

しかしこの目の前の敵には、恐らくこれまでの人生の中ではダンに次ぐ最強の敵に対しては、全ての建前をかなぐり捨てなければなるまい。臆病者の――闇夜の物陰に潜むドブネズミのような本性をさらけ出さなければ、この相手には勝てないだろう。

 

シャラ・シャラットは本当に久々に、“己の全てをさらけ出す覚悟を決めた。”


「シ…………」

 

牙を剥くように表情が変わる。   


「ィイイイイイイイ!」

 

目が充血を始めた。


「ィアアああAAAAA!!」

 

思考が削がれていく。不要なものを切り捨てる。ただ目の前の得物を狩り屠る、そのために。

そこに現れるのは一匹の獣。戦い食らい尽くす事だけに特化した、人の姿をした魔物だ。

 

メルカバーとそれに付き従うアイオーンの動きが変わる。詰め将棋じみた計算高さ、それが失われ代わりに荒々しい、獣の気配を発している。


「!? 思考が?」

 

突如変化した気配に戸惑うゼン。知性的な、刃のような鋭さを持った思考が、全く読めない異質なものへと変化した。しかもその威圧感は以前のものと比べものにならない。

それに。


「速い! だがあれでは機体が持たないぞ!?」

 

まるっきり限界を無視した戦闘機動。TEIOWのように機体を強化しているわけではないそれは、自己崩壊の可能性をも孕んだ危険域に達している。

死ぬ気か。一瞬そう考えたが即座に否定する。そんな生温い相手ではない。であるならば。


「短期決戦! 限界を迎えるまでに自分達を仕留めるつもりか!」

 

そのために自己の思考すら変質させ、最大の力を最後の一片まで振り絞るつもりだ。現にそのスピードは時空間制御の効果もあって完全にゼンカイザーを上回りつつある。

ランダムに攻めかかるファントムスクワイヤも追い付けない。いや、ファントムスクワイヤは半ば無視され、その攻撃も致命傷以外は当たるに任せている。確かにファントムスクワイヤの通常火力ではメルカバー自身に大したダメージを与えることはできない。それでも数か重なればダメージは蓄積していくと言うのにそれもお構いなしだ。この事からも損傷を気にせず敵を葬ることのみに集中しているのが窺われる。

このままでは埒が開かない。ならば。


「懐に潜り込み、カウンターでバニシングバンカーを叩き込む!」

 

最大速度と反応は相手が上回っているが小回りではまだこちらが有利だ。動きの隙をついて接近戦を挑むのは不可能ではない。

新たに発生させたファントムスクワイヤを思考制御を介さず自動追尾するようプログラミング。接近したおりにオートでバニシングバンカーを発動させるようセットし加速。メルカバーを直接討てなくとも周囲のアイオーンに対して十分な牽制になる。数を減らしてくれれば御の字だがそこまで期待はしていない。その前に、カタを付ける。

 

消失と出没を繰り返し不規則な動きで幻惑する巨体。それを追う稲妻。常人では目で追うことも叶わない壮絶な追跡撃チェイスが繰り広げられる。

互いに絶え間なくトリガーを引き絞り、無数の弾雨が空間を引き裂いた。ファントムスクワイヤが次々と砕かれ、アイオーンが纏めて貫かれる。未だ互いに致命打はない。亜光速域での機動が攻撃の速度とタイミングを上回りつつあるのだ。

勝負は、互角。しかし。


「何を考えている、このままなら“そっちは一方的に消耗していくだけ”だぞ?」

 

ほぼ無制限に召喚可能なファントムスクワイヤと違い、メルカバーの子機であるアイオーンの数には制限がある。このまま消耗戦が続けば先に力尽きるのはメルカバーのほうだ。短期決戦とはいえ、あまりにも迂闊に過ぎる。


「周りが見えないほど目の前の敵に集中している? そんなタマじゃない」

 

そう、理性を失ったような行動を取ってはいるが、だからといって考えなしに動くわけじゃない。“本能に忠実な野生動物の方が、小賢しい人間より狡猾なのだ。”であるならば、この一見遠慮なしの攻勢は。


「前振りか。だが何のつもりだ?」

 

罠がある。だがそれが見えない。とは言え早々簡単に尻尾を掴ませてくれるような相手でない事も確かだ。

ならば。


「仕掛けるっ!」

 

ゼンの咆吼とともに、ゼンカイザーの姿がかき消える。

短距離空間転移。切り札ではないが今まで温存していたそれを使って、メルカバーの機動を一瞬だけ上回る。

 

僅かに生じた隙。それに乗じてありったけの銃器を叩き込む。

果たして放たれた攻撃は、抵抗なくメルカバーの巨体に命中する。大したダメージは生じていない。しかし、本体に直接有効打を叩き込めたという意味は大きい。


「回避しない。意に介さないか、それともこれも仕掛けか」

 

正直、怖い。相手の意図が読めないと言うことがこれ程堪えるとは思わなかった。今まで自身の能力に頼りすぎていたという事なのだろう。自分の打とうとしている手が有効なのか無効なのか予測がつかない。長い間戦ってきたゼンにとってこれは初めての経験だった。

シャラのほうが能力的に優れているというわけではない。単純に性質の違い、相性というものだ。普段の彼女ならゼンと同じく詰め将棋のような理詰めで敵を追い込む。しかし今の彼女は異質な、人間とは別の生き物のようなものだ。だからゼンにはその意図を見抜く事が困難となっている。

いわば八戸出 萬が特殊能力者であったらば。そう言った状況に近い。そうであったらばゼンの勝率は驚くほどに下がるだろう。


「だからといって諦めるつもりは毛頭ないが、ねっ!」

 

ともかくこの状況では探りを入れ続けるしかない。メルカバーの時空間制御と違いこちらの空間転移は連続で使用できない。萬のように限定的でも時空間制御が使えればやりようがあるのだが、相性が悪いのかゼン以下他のTEIOW乗りには時空間制御は使いこなせなかった。この辺りの問題をクリアするレベルに、地球の技術は至っていないのだ。

切れるカードはそれほど残っていないが、あるもので勝負を挑むしかなかった。罠を覚悟でバニシングバンカーを叩き込むか、それとも。

ゼンカイザーの動きが僅かに鈍る。それは思案がためか、それとも無自覚に畏怖しているためか。どちらにしろ――

 

それを見逃すシャラではなかった。

にいと、口元が三日月の弧を描く。

 

未だ生き残っているアイオーンが。そして“撃墜されたはずの残骸が反応を起こす。”

確かにアイオーンの群れは完膚無きまでに破壊され続けていた。だが、“所持している武器はまだ生き残っている。”

がきり、と長大な槍状の武器が変形する。音叉を思わせるその武器は、空間振動波を発生させ真空中であっても装甲越しに浸透する特殊な波長を放つ。それはパイロットの心身に直接影響を及ぼす特殊兵装、【バンシーボイス】。

初見であれば、さしもののゼンも直撃を喰らったであろうが。


「二度ネタは通じないさ!」

 

すでにその対策はできている。ゼンカイザーの身を纏う虹色の増加装甲、そしてその両手に持つ複合武装のシールドは、バンシーボイスを相殺する特殊振動波を放つことが可能である。例え全方位から照射を受けても十二分に防御可能だ。が、それでも何かの仕掛けが施されている可能性を見越して、ゼンは有効範囲から離脱しようと――


「っ!」

 

――したが、それは叶わなかった。

なぜならば、バンシーボイスが目標としているのはゼンカイザーではなく、“遙か後方で激戦を繰り広げている地球側艦隊のど真ん中だった”からだ。

 

咄嗟に割り込む。怒濤のような空間振動波を、シールドを掲げて真っ向から受け止めた。 無制限に近い出力に支えられ放出される特殊振動波は幽鬼の絶叫をかき消す。放たれるバンシーボイスの出力はともかく、効果範囲が並大抵ではない。これを行うため――アイオーンの、特殊兵装の配置を広範囲に散らすため、わざと機体を“落させた”のか。恐らくはあの兵装はガンスクワイヤと同様に、主機であるメルカバーから直接エネルギーを得ているのだろう。基本的に使用限界はないと思っていい。

さらに拙いことに、どうやらバンシーボイスは憑依型のファントムスクワイヤにもある程度の効果があるようだ。目に見えて動きが悪くなっている。影響がなければ自発的に特殊兵装を破壊するはずだったが、それも期待できそうにない。


狙いは自分を、ゼンカイザーをこの場に釘付けにすることか。空間が軋む手応えに顔を顰めながら、ゼンはそう判断した。

だが、それでは終わらない。終わるはずがない。そう分かっていながら、ゼンはあえてその場に留まり続ける。

そしてその判断は、間違いではなかった。


「をおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

シャラが再びの咆吼を上げる。それに従うかのように、バンシーボイスがその目標を変えた。拡散するように放たれていたそれが、ゼンカイザーに向かって集中していく。それと同時に中央に位置するメルカバーから、増幅した精神波が放たれ始める。

バンシーボイスの性質が変化する。精神に影響を及ぼす波長から、物理的破壊力を伴うものへと。それは高密度の反物質体であるファントムスクワイヤに亀裂を入れた。つまり――

 

リンゲージドライブによって展開されるエナジーアーマーにも影響を与えるという事だ。

 

狂気を伴う精神波のプレッシャーと、エナジーアーマーをも破壊する衝撃波。

味方艦隊を背にしている以上、ゼンに回避するという選択肢はない。


 









均衡状態。

その戦力差からは信じられないような結果が生じている。

 

圧倒的な優位さをものともしない地球側の抵抗に皆が唸り声を上げる中、やはりこの男は違った。


「ふん、思ったより“手ぬるい”じゃねえかよゥ」

 

肘掛けに体重を預け、余裕の表情を崩さないのは侵略勢力総大将とも言える人物。ドコド・ン。誰もが信じられない顔で戦況を見守る中、この男だけが涼しい顔をしている。


「何を驚いていやがる。やつらは“地球人”だぞ? この程度の逆襲逆転、いままでどれだけやってのけたと思ってやがんだ?」

 

それは違うだろう。今までとは規模が違うと誰もが思う。そんな空気を意に返すドコドではないが。


「どれだけ規模がデカかろうが、絶望的であろうが、ヤツらにとってやることは同じだって事よゥ。希望が見えぬ闇の中で足掻く事かけてなら、ヤツらは超一流だぜェ」

 

むしろ数の優位でヤツらの心をへし折ろうなどという考えが間違っている。状況が不利であればあるほどしぶとくなる連中だ。この程度の抵抗ならまだ緩い領域だろう。

 

そう、“まだ緩い”のだ。

だからドコドはこう言い放つ。


「気ィ引き締めろや、そろそろ“次の手”が来るぜェ。戦況を五分に持ち込んだこの機会を逃さずになあ」

 

ばかなとほとんどの人間が思う。ここまで保たせたのも奇跡に近いというのに、まだ奥の手があるというのか。

しかしそれは勘の良いものなら予測済みであり――

 

間違いではなかった。


 









トゥール・グランノアの艦首に近いカタパルトデッキが開放されていく。

奥の暗闇には、力強く輝くモニターアイの輝き。

 

舳先に立つストームバンカイザー。その中で優雅に威風堂々と構えた蘭が、歌うように言葉を紡いだ。


「さてさて皆々様。宴もたけなわ、盛り上がっていらっしゃるでしょうか?」

 

一見すればふざけた物言い。しかし込められた覇気は、瞳に込められた力は、一切の油断も容赦も込められていない。

ゆっくりと蘭の両手が広げられる。朗々と歌うオペラ歌手のように。オーケストラを前に采配を振るう指揮者のように。


「上手い具合に天秤は均衡を保っている様子。ですがいつまでもそうしているわけにもまいりますまい。……そろそろ流れを変える事にいたしましょう」

 

ぎらりと歯をむき出す。


「我らが新たな力をもちて、この戦場に楔を打ち込む! やいば!」

「ここに」

 

闇の中でヘッドドレスが揺れる。


「はずみ!」

「承知」

 

計器の光を反射して、単眼鏡が輝く。

 

すう、と一息。そして蘭は、声高らかに命を下した。


「“新生特務機動旅団”、出陣なさい!」

『了解っ!』

 

左右のカタパルトから次々と飛び出していく影。大型の戦闘機のように見えるそれは、戦闘領域に入ると同時にその姿を30メートル級の人型機動兵器へと変える。

カラーリングや装備にそれぞれ多少の差異はある。だがそのシルエットは共通。多少デザインが大人しめになり派手さは抑えられているものの、その姿は間違いなく――

 

TEIOWそのもの。

 

萬達が駆る原型機から得られたデータを元に開発された量産機。トゥール・グランノアやストームバンカイザーを含めたプロトタイプTEIOWに敵の眼を引きつけているうちに大量生産された、GOTUIの新たなる主力にして切り札が一つ。

 

RPT-001【アルカイザー】。

 

二個大隊、120機を超えるその先端を走るのは二つの影。

 

星間を裂く白銀。

得物は双剣、その他にも全身に予備の刃を装備し、高速機動での剣戟にのみ機能を特化した、右翼大隊隊長留之 やいば専用機。

 

RPT-001RB【ブレードカイザー】。

 

星を抱く黒鉄。

得物は長大な銃。さらに機体各部にこれでもかと銃器を装備し、高機動かつ火力制圧に重点を置いた、左翼大隊長留之 はずみ専用機。

 

RPT-001LB【ブリッドカイザー】。

 

二つの鏃に率いられ、停滞した戦況を傾けるべく新たなる力が駆ける。


 









ありきたりすぎて陳腐な罠。しかしそうと分かっていても回避不能な罠。それでも遙か以前の――GOTUIに受け入れられる前の、心を押し隠していたゼンであったらば回避していたであろう。


「丸くなったもんだね、自分もっ!」

 

ぶれる機体を押さえ込み、押し寄せるプレッシャーを受け流しながらゼンは苦笑を浮かべる。

さすがと言わざるを得ない。よく敵を研究している。空間制御技術はGOTUIの特技の一つと言っていい。それを踏まえた上でほぼ完全にこちらを押さえ込むような空間振動攻撃を仕掛けてくるか。常識外の能力を持つリンゲージドライブが発動したTEIOWを押さえ込む。それがどれだけとんでもないことかゼンは骨身に染みて理解しているし、それを成し遂げた敵に対して内心舌を巻いている。


この状況を成す要因となったのは、侵略勢力に組みするツツ・ラ・ツラヤというイカれた技術者の尽力によるものだ。もし彼が存在しなかったら状況は大きく変わっていたのだろうがそのような事をゼンが知るよりはない。第一知ったとしても何の役にも立つはずがなかった。

 

ともかく今浴びせられている空間を揺るがす奔流を受け止め続けるしかない。威力は凄まじいが逃れようと思えばいつでも逃れられる。だが背後で戦いを続けている味方の存在がそれを許さなかった。


「本気で自分の味方をも巻き込む事に躊躇しないとはな!」

 

策として考慮に入れながらもゼンがそれはやらないだろうと意識から除外した手段。相手はそれを躊躇なく使ってきた。ただ勝つためだけに、自分の味方を平気で巻き込むような手段を。いや、正確には彼女にとって、“前線で健闘している有象無象など味方とは言えない”のだろう。

彼女にとっての味方、護りたい相手はただ一人。ただそれだけのために彼女は全てを切り捨てた。異質に変化した感情を読むのは困難であったが、やっとの事でそれを理解するゼン。まったくもって健気と言うしかない。それが分かったところでこの状況を打破する役には立たないのだが。

 

ともあれこのまま一方的に嬲られるのも問題だ。もう少し時間を稼ぐ必要はあるが、ダメージを喰らいすぎては元も子もない。


「ワイズ、あとどれくらい保たせられる?」

「グリフォンとキマイラで180秒、エナジーアーマーが240秒。再形成に回せるエネルギーが不足していますから、それ以上は抑えられないです!」

「これ以上ファントムスクワイヤも召喚できないか。……仕方がない、まだ不完全だがやるぞ!」

「了解です! システムIBモードへ。散開したファントムスクワイヤのステルスモード解除、結界とバレルを同時形成。コンデンサへの充填を開始、IBモードの実行を最優先に!」

 

機体各部を覆うエナジーアーマーが、徐々にその輝きを増していく。その一方で、戦場の外縁、空間振動波が放たれているその外側に、空間を揺らめかせてファントムスクワイヤが次々と姿を現わす。

最初に全力召喚した憑依型に次いで追加召喚したプログラム式の自律可動型。今の今まで己の存在を隠し待っていたそれらが、命を受け本来の役目を果たすために動く。

まずは広大な結界を形成。本来であれば外部からの干渉を遮るはずのそれは、結界内部――メルカバーとアイオーンの群れに対し、魔道的な拘束をかけ始める。


「!?」

 

攻撃ではなく動きを阻害するそれに対し、シャラは反応しようとして……止めた。

小細工ではあるまい。闘争本能に忠実となった彼女ではあるが、理性的な思考が完全に失われたわけではなかった。むしろ余計なことを考えなくなった分研ぎ澄まされているかも知れない。その思考は冷静にゼンの行動を見ている。

恐らくはこの状況をひっくり返す強力な一手、それを放つ気なのだろう。直撃を喰らえばこのメルカバーと言えどただではすむまい。

 

しかし“それがどうした。”

 

必要なのは目の前の敵――“ダン・ダ・カダンにとって障害となりうる敵”を葬ること。それが叶わなくとも手傷の一つも追わせれば十分だ。毛ほどにも傷ができれば、そこをついて彼は必ず勝利する。己の命などそれを成しうるまで保てばいい。

自分自身すらも道具とみなす狂った思考。それが全てを失った後唯一を手に入れたシャラ・シャラットという女の本質だった。

これ以上の機会は二度とあるまい。ならばこのまま、押し切る。己が心身ほ一個の弾丸に変え、彼女は全力を注ぎ込む。


そんな彼女を嘲笑うかのように、ファントムスクワイヤの群れがフォーメーションを組み上げフィールドを展開。それは長大というのもおこがましい、巨大な円筒形――砲身バレルを形成していく。

 

びしり、と亀裂が走る音。交差するように構えている二つの複合兵装が、ついに限界を迎えつつあるのだ。

しかしゼンカイザーは動かない。揺るがない。ただひたすらに耐え時を待つ。そして――

 

シールドが砕け散った。

 

スパークが走った後、爆発四散する二つの得物。これでゼンカイザーは主兵装を失った。 だが。


「チャンバー形成、射撃用意ハンマーコック!」

 

爆煙が晴れた後、ゼンカイザーはその姿を変えていた。

エナジーアーマーの一部、四肢や胴体を覆っていたそれが、全て前方に突き出されるように位置を変えている。その中央、人間で言えば鳩尾のあたりで多重のフィールドに包まれたエネルギーの塊が脈動している。それは大きさと輝きを増していき、ついにはゼンカイザーの全高を超え恒星のような輝きを放ち始める。

 

莫大なエネルギーを持つゼンカイザーそのものを発振器とし、ファントムスクワイヤによって形成した巨大な砲身によりエネルギーを増幅、加速して打ち出す非実体式レールガン。

円筒型スペースコロニーをそのまま砲身としたコロニーレーザーをも上回る破壊力を持つそれは、本来であれば超長距離を――それこそ惑星間のような常識外れな距離を狙撃するために用意されたもの。しかしいくら大型とは言え、メルカバーのような高機動兵器を狙い撃つには不向きに過ぎる。


「けど……“砲身の中で押さえ込めば、外しようもないだろう”!?」

 

確かに動きを押さえ込まれてしまったら回避の使用もない。時空間制御ですら機動ができなければ無意味と化すのだ。第一精神波と空間振動波を最大出力で放っているこの状況では動きようもない。

しかし、動けないのはゼンカイザーも同じだ。最初から回避することはできないのだし、今砲撃を放とうとするこの状態ではそもそも動けない。


「あああああああああああ!」

 

シャラが猛り狂い、精神波と振動波の出力が限界を超える。この場で全ての力を出し尽くし、目の前の敵を殲滅せんと。

ゼンカイザーのエナジーアーマーにも亀裂が入り始める。シャラの執念が、無双の防御を侵食し始めた。

だが、魂の咆吼に砕かれるまえに、虹色の戦神はその力を解き放つ!


「【イレーザーブラスト】! いっけええええええええ!!」

 

光の奔流が、メルカバーとアイオーンの群れを丸ごと飲み込んだ。











次回予告っ! 






男はただ待っていた。

己と同格の敵を。

荒涼たる火星の大地の上で、いま鋼と鋼がぶつかり合う。

重力の嵐を乗り切り最後に立っているのは果たして。

次回希想天鎧Sバンカイザー第十一話『乱舞、激震』に、フルコンタクトっ!







にうたいぷ同士の屁理屈の言い合いを書くのがめんどくさくてこのような形に。

元々コイツら三角関係に近い形になっていくはずだったんだけどなあ……。


さて伏線は全部回収できるのだろうか?






今回推奨戦闘BGM、ゲームMURAKUMOオープニングテーマ。

決着時、ガンダムXのサテライトキャノンのアレ。

(どっちも名前知らなかったり)



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