10 激突、開催 前編
宇宙埋め尽くす軍勢を背に立つ漆黒。
古今無双の軍勢を背に立つ深紅。
天文学的な距離を挟んで二つの視線が絡む。
ただ真っ直ぐに睨み合う。その口元が、同時に獰猛な笑みを形作った。
それを合図にしたかのように、対峙する軍勢が動き出す。
白亜の巨艦から飛び出す3つの影。それに引き続き無数の機動兵器が次々と出撃していく。
各軍の正式量産機からワンオフの特殊戦闘兵器まで、多種多様の機体が入り交じった混成軍。俗にスーパーロボット軍団と呼ばれる強者達が駆ける。
対するは数多の戦場を駆け抜け銀河に名を馳せた戦場の魔人たち、カダン傭兵団。数で言えばスーパーロボット軍団が優位にあるが、カダン傭兵団は一人一人がそれぞれ最終ボスを張れるほどの戦力を誇る。天秤はどちらに傾くか分からない。
が、それは戦場全体で言えばごく一部。ありったけの戦力をかき集めてきた地球軍だが、あいも変わらず戦力比は絶望的。真正面からの激突は自殺行為に等しい。
そう思われたが。
「――覇道合体!」
深紅の鬼神が黄金の衣を纏う。腕を払えば、その周囲に無数の魔法陣が浮かび上がる。
「同調開始。全艦、足並みは揃っていますわね」
現在コントロールを受け持っているのは蘭。彼女は機体と巨艦から生じる莫大なエネルギーを制御し魔力に変換し、無数の術式を組み上げる。
蘭はぺろりと唇を舐め上げ、その力を解き放つ。
「さあ、ありったけの“補助術式”ですわよ! 受け取りなさいませ!」
完成した術式が、四方の僚艦に向かって跳ぶ。防御力、機動力、火力。各能力を増強し戦力を底上げする加護が与えられていった。
与えられた力はストームバンカイザーと蘭、そしてトゥール・グランノアが存在する限り効力を持続させる。それは一の戦力を数倍にも数十倍にも引き上げる。しかしそれだけではまだ足らない。互角に戦えるまでには到らない。
ここでこの男が動く。
この瞬間まで沈黙を保っていた萬。凶暴なる笑みを浮かべたままのその頬に、術式の輝きが浮かび上がる。
「さあて、出番だ炎の王とその眷属よ! 取り交わせし盟約に従い今ここに姿を現わせ! 約束通り数多の命、喰らわせてやる!」
炎が踊った。
瞬く間に現れる無数の精霊達。そしてその中央に佇むひときわ巨大な炎の塊――精霊王の一柱、イフリート。
宇宙空間で火が燃えるはずがない。そのような常識など本物の精霊の前では無意味だ。召喚されその力を解き放たれた彼らはあらゆる物質どころか真空、空間そのものすら燃焼させ食い尽くす。
己の執念と力、機転を示し彼らと契約を果たした萬だが、彼らを制御するのは相応の負担がかかる。ゆえにこれまではその全力を出す事はなかったのだが――
「天の光は全て敵ってな。……多少の暴走もかまわないだろうさ、徹底的にやってやれ!」
――此度においては遠慮は無用。天を埋め尽くすほどの敵を相手取るために、その力を全て解放した。
科学技術においては地球より高いレベルを未だ維持している侵略勢力だが、魔道や霊的なものにおいては遙かに劣る。それゆえ、精霊なのど能力に対し対処する術がほとんど存在しない。
つまり過激であることにおいて定評のある炎の精霊達にとって、目の前の大軍は格好の“御馳走”でしかなかった。
先鋒艦隊が、食い尽くされる。
それは全体にとって微々たる数でしかないが、侵略勢力の持つあらゆる防御が役に立たなかったと言う事実は見て取れる。放っておけば甚大な被害を被るのは目に見えていた。
そうと知ってなお、この男は揺るがない。
「艦隊の進行を止めて下さい。その代わりに、無人戦闘ユニットをありったけ前に出して“逃げ回らせて”頂きたい。製造能力のある艦艇は全て戦闘ユニットの確保に当たらせ、防壁を構築します。一秒でも長く押さえ込みますよ」
被害に対して一顧だにせず、冷静に淡々と指示を下し対処を行う。その表情は禍々しくも実に楽しそうだ。
「あれほどの力、惜しげもなく使う。……その上にまだ、例の大技を温存している、と。なるほど、単なる奇襲ではなくこの場で確実に決着をつけるつもりですか」
全身全霊の、後先考えていない乾坤一擲の一撃だと、地球側の策をそう判断するダン。そうだとするならば、目の前に立ち塞がるこの敵陣は死力を尽くさねば対処できない。しかし……逆に言えば、これを凌ぎさえすれば勝利は確たるものだと言って過言ではない。おそらく彼らはいまだ温存している切り札を効果的な場面で切ってくるはずだ。だがその前に――
「――切り札の数、減じて貰いましょうか。……皆、任せるよ」
彼は未だ動かない。目の前の切り札、その全てを見切りその上で叩き潰す。その時が訪れるのを待つがゆえに。
無数の閃光が奔り空間を灼く。その合間を縫ってぼろぼろの機体が逃げまどっていた。
部下が次々と落される中、隊長機は奇跡的に生き延びてはいるがほとんど死に体。このままでは遠からずジャンクの仲間入りだ。
見れば相手は確実にとどめを刺してこない。これは人道的などと言う甘い考えではなく、生存者をこちらの“枷”にできるという判断からのことだろう。生存者が存在する以上、味方はその救出に手間をかけねばならない。僅かながらでもこちらの攻勢を弛める。抜け目のない相手だと歯噛みするが、打てる手はない。
「データは全て送ったが……こんな相手に対応できるのは……」
言い終わる前にロックオンの警報。迫る弾幕を曲芸のような機動で回避する隊長機だったが。
「くっ、メインスラスターが!」
ダメージを喰らい、その上で無理をさせてきたスラスターの一つが火を噴き機能を停止する。機動性が失われ、速度ががくりと落ちる。
当然敵はそれを見逃してくれはしない。雪崩のような攻撃を、隊長機は何とか身をよじって回避しようとするが、それが長々と続くはずもなかった。
ついに一条の閃光が片足を打ち貫く。次いで二発、三発。抵抗虚しく、翼を折られ肉を削がれていく。くそったれ。最早これまでと思いつつも、未だ光を失わない瞳を敵へと向ける。その姿を魂に焼き付けるかのごとく。
そして最後の一撃が、真正面から機体を貫かんと迫った。
スローモーションのように、ゆっくりと視界が流れる。覚悟を決めた隊長であったが――
「っ!!」
――その覚悟は迫る攻撃と共に打ち砕かれた。
援護射撃。いや、“射撃に対する狙撃”。光速に近い速度で迫るビームの類を撃ち落とす。そんなまねができる存在を、隊長は一人しか知らない。
「……っは、早速のお出ましか」
虹色の鴉。
天眼の狙撃主。
最初のTEIOW乗り。
完全超悪体現する、三色の騎士を駆る男。
「ゼン……セット!」
声に応えるかのように、太陽を背にした機体が翼を広げる。
ゆっくりと面を上げる機体の中、伊達眼鏡を外しつつゼンは言う。
「やれやれ……これは最初から全力だね」
声は何とも面倒くさそうな調子だったが、その表情は当然のごとく笑み。
見据える先は彼方。整然と構えを取る無数の天使と、その中央に座する天の車。真正面からそれを見据え、眼鏡をサイドポーチに押し込みつつヘッドギアを操作。ヘッドギアは一瞬にしてヘルメットへと変形しシールドが降りた。
「ワイズ、覚悟を決めろよ? さすがに今回は五体満足ですませる自信がない」
「分かってるです。魂の一片が砕け散るまでお付き合いするですよ」
迷いなき応えを得て、すう、と息を飲む。吐き出す呼気は、無闇に熱い。
「オールセーフティカット。オールシステムオーバードライブ。十二分を超えて無制限、全ては我が主の御心のままに!」
厳かにも聞こえる宣言を受け入れて、ゼンは全ての力を解き放った。
「コードファイナライズ。リンゲージドライブ…………フルコンタクト!」
こうっ、と花咲くようにエネルギーが放出され舞い踊る。
放出されたエネルギーは虹色の水晶体となって機体に貼り付き、新たな装甲を形成していく。幻想的にも思えるその光景を、彼方から見据えるのはシャラ・シャラット。
「そちらから来て頂けるとは、まことに重畳」
半分は嘘だ。
当初の策では、彼と相対するのは少なくとも混戦極まってからのことだと想定していた。
彼はさほどに“人道的ではない”。ある程度までは味方の損失を無視できる人間だ。であればこちらの損耗を待ち、優位な頃合いを見て介入してくるだろう。それがシャラの目論見であったのだ。
早すぎる。こちらはせいぜい馴らしを終わらせた程度。損耗らしい損耗もなく、むしろ絶好調といえるコンディション。だというのに真っ向から勝負を仕掛けようと言うのか。
心の半分はそのように驚愕を覚える。だがしかし、残りの半分は真逆。
“早々に決着をつけられるのであれば僥倖と言うしかないと、歓喜すら覚えている”。
策も仕掛けも、用いるのであれば用いればいい。真っ向から噛み砕いて見せよう。そう疼く戦人としての心がざわめいている。
内心の不安を押し込めろ。この敵は強力なれど所詮は氷山の一角、倒しきる。倒しきらねば……己の大切なものに顔向けすらできない。改めて誓うまでもなく、シャラの覚悟は決まっていた。
強い。空間を満たす闘志を感じてゼンは思う。
相対する彼女が持つのは己にはない強さだ。己以外の唯一大切にするもののためだけに振るわれる、命の刃だ。ただ生き延び、倒れるまで未来を見据えようとするゼンとは、ある意味相容れぬ生き様だった。
だがその違いが劣っているとは思わない。思わせない。自己満足に過ぎなくとも、自分には背負っているものがある。それを軽いものだとは言わせない。それを貫かんだため、ここで倒れるつもりはなかった。
「じゃあ早速……いってみようか!」
いきなりの最大加速、最速機動。星の狭間を縫うように駆けるゼンカイザーはメルカバーに襲い掛かり……はしない。
「まずは……とっとと安全圏に脱出してくれい!」
駆け回りながら、まだ息のある機体を蹴り付け放り投げ、安全圏へと放り出す。
『ちょ……おまっ……!!』
何やら一斉に声が上がるが気にしない。気にしている間などない。
邪魔なものは問答無用に除けるにかぎる。
「……へえ、随分とお優しい事で」
皮肉めいた口調で、シャラは呟く。当然ながらお互いに通信が繋がっているわけではない。しかし特殊能力者同士の感覚は、言葉よりも遙かに正確に、互いの思いを伝える。
「この場で新たに余分な怨念を生むわけにはいかないだろう?」
「私としては一向に構わないのですがね」
「生憎こっちがかまうのさ。……ワイズ、ファントムスクワイヤ最大召喚!」
虹色の装甲が無数に分裂し、宇宙を埋め尽くすほどのファントムスクワイヤが顕現する。間髪入れずシャラは思念波を妨害せんとするが。
「!? 誘導兵器の動きが止まらない! 思念波で制御していないとでも!?」
驚愕を見て取ったゼンは、妨害による威圧感を感じながらもほくそ笑む。
「残念。このファントムスクワイヤは“自分がコントロールしているわけじゃない”のさ!」
そう、ゼンのみが可能な、残留思念を取り付かせた自己判断するファントムスクワイヤの召喚。それは思念波に頼らずとも無人誘導兵器を運用する事を可能とする。
触媒となるゼン本人の精神に過大な負荷がかかるという欠点はあるが、思念波のジャミングという状況の中でもスクワイヤを活用できるという長所はそれを補ってなお余る。その上基本的にはゼンの意志に従うとは言え、それぞれが自身の判断で動くユニット群だ。その動きを予想するのは困難に等しい。
さらに。
「くっ、これは……無数の残留思念、怨念!? ばかな、これ程のものを取り込んだと!?」
常識では考えられない、狂気の沙汰とでも言うゼンのありようにシャラは度肝を抜かれた。 まさしく亡霊。ゼンが召喚した誘導兵器を制御しているのはそう言った存在だ。それを支配下におくためには己が身に心に取り込み征さねばならない。一つや二つならまだしもこれ程の数を取り込んだりすれば、発狂ではすまない。まともな人間であれば即座に心が砕かれる。
だが彼は、目の前の男はこの怨念の大軍を飲み込み、征し、己の支配下においている。ただ者ではないと理解はしていた。しかしここまでの化け物であったのか。シャラは戦きを隠すことができなかった。
だが。
「……それでも、私は――」
震える手が、力強く握りしめられた。
「――負けられない!」
メルカバーのスラスターが咆吼する。同時に居並ぶアイオーンの群れが一斉に飛び出す。
単純な数なら互角。端末の個体戦力ではアイオーンが勝り、速度と機動力においてはファントムスクワイヤが上回る。あとは単一の思考によって制御されるアイオーンとそれぞれが“意志”をもつファントムスクワイヤの特性。そして。
「おおっ!」
「はああっ!」
交錯する二体の戦闘兵器。そのどちらが強いかによって決まる。
アイオーンではどうチューニングしてもTEIOWには勝てないと悟ったシャラが、老技師ツツに突貫工事で用意させたのがメルカバーだ。この兵器は人型であることを捨て汎用性を犠牲にした変わりに、アイオーンが持つ特殊能力全てを極限まで強化しシャラ用に調整してある。その能力は、機動性一つを取ってみてもアイオーンを上回る。
「あの巨体を大出力のスラスターで強引に振り回すとは! さらには時空間制御による超高速移動、独活の大木とは言えないね!」
ゼンは驚嘆を覚えるが、相対するシャラもそれほど余裕があるわけでもない。
「見かけ倒しではない! 通常空間でこのメルカバーを上回るか!」
瞬間最大速度が亜光速に達している。以前のTEIOWであればそこまでの機動は行えなかった。第一何の用意もなくそんな速度を出したりすれば機体もパイロットも持たない。それが可能というのであれば、なるほど時空間制御を利用した機動にも追い付けるだろう。その上で小回りは当然ながらメルカバーの比ではない。
がばりとメルカバーの各部装甲が展開した。覗くのは無数の砲口。
元々艦艇であるメルカバーは、ペイロードにかなりの余裕がある。さらに単座兵器とするために居住区画等余分な設備を廃していた。結果、アイオーンを運搬するカーゴ区画や大型スラスター群を増設してもまだ余裕を残している。そこには限界ぎりぎりまでの火器が所狭しと収納されていた。
つまり、単純な火力ではゲンカイザーなど足元にも及ばない。
その上でさらに。
「! まずいっ!」
ゼンの直感が危機を察知し、全速力で機体を後退させる。
宙を裂く閃光の雨。その先には、シールドを構えたアイオーンの群れ。
ビームが、レーザーが、あらゆる光学兵器が反射され、ゼンカイザーの予想軌道上に殺到する。この戦法をゼンは誰よりもよく知っていた。
「ライトニングプリズン! 人の戦術を!」
そう、それはゼンカイザーが用いる広域攻撃の一つ。以前シャラと対峙したおり、その“さわり”を使って見せた事はあったが。
「ものにしてみせたと! さすがと言ったところだね!」
「感心している場合じゃないです! この物真似、“当たるですよ!”」
相棒に言われるまでもない。今晒されているこの攻撃は、見事にこちらを誘導している。通常であるならばゼンにこのような真似は通用しない。憑依型のファントムスクワイヤを召喚する触媒として力の一部を振るい、さらに思念波のプレッシャーを受け続け、そのうえリンゲージドライブの負荷もかかっている今現在、彼の能力は僅かだが減じている。この機会ならば、シャラの戦況予測は紙一重の差でゼンを上回るのだ。
ゆえに。
最終的には、詰まれる。
四方から迫る閃光。それは絶対に回避できないタイミングで襲い来る。
ゼンの唇が、にい、と歪んだ。
「“返す”よ」
直撃する寸前、ゼンカイザーの周囲の空間が歪み、全ての攻撃が吸い込まれる。
空間跳躍を応用し全ての攻撃を“跳ばした”のだ。当然ながら跳ばされたものは全く別の所から現れるわけで。
「やはりそう来るか!」
死角に現れた空間の歪みから襲い来る自分の打撃を、フルスラストで回避するシャラ。
現在敵の能力が僅かながらも低下している事は分かっていた。しかしその程度でこの目の前の化け物に対して有利になるかと言えば、否である。この程度で優位を保てるのであれば誰が苦労するものか。
息を飲む攻防。それを経て二体は再び対峙する。それぞれの従者を従えつつ。
「さて、“ウォーミングアップ”はこの程度かな?」
不敵な笑みを浮かべたまま、ゼンは言う。
そう、彼らにとってはこの程度の攻防、準備運動でしかない。
まだカードは伏せられており、前回にはほど遠い。コンディションはほぼ完調、ゼンに多少の負荷がかかっているようだが、彼はこの程度ハンデにもならないと笑い飛ばす。
おあつらえ向きなことに、この戦場に近付いてくるものはない。誰もが己のするべき事に集中し余所に振り分ける余力などなかった。
なれば存分に、互いの力を振るえるというもの。
緩やかにゼンカイザーが右のグリフォンを構える。それは真っ直ぐにメルカバーへと向けられた。
「では……踊りの相手、勤めていただきましょうか、お嬢さん?」
言葉は返されない。
シャラはただ、機体のスロットルを上げることで応えとした。
「つれない……ねっ!」
マズルフラッシュ。無数の銃弾が容赦なく吐き出され、ゲートに飲み込まれる。同時に機体の周囲を周回していたファントムスクワイヤが飛び出す。さらに新たなファントムスクワイヤを再召喚。空間にばらまくように放出する。
「さあ大盤振る舞いだ! 派手にいこうか!」
亜光速に達する最大の機動をもって駆ける。対するメルカバーはその巨体からは想像もつかない速度と時空間制御によってゼンカイザーに引けを取らない機動力を見せつける。付き従う無数のアイオーンもまた、空間を跳びながら駆け抜けていく。
正面からのたたき合い。
漆黒の宇宙に、無数の閃光が咲き乱れた。
五分にまで持ち込まれた戦況を、余裕を保った表情で嵐は見守っている。
予想通り真っ先に飛び出したバンカイザー以外のTEIOWは、それぞれ敵の幹部格と交戦を開始。スーパーロボット達も敵主力と互角に渡り合っているようだ。
敵艦隊は炎の精霊達に出鼻をくじかれその進行を弛めている。そして術式によって強化されたこちらの艦隊がここぞとばかりに攻勢を強め、数の差を埋めていた。
今のところは計画通り。しかしここから先はどう転ぶか誰にも分からない。
「いや……ヤツなら読んでそうだな」
モニターの一つ。遙か彼方の敵艦隊のど真ん中。
悠然と佇む漆黒は、未だに動きを見せようとしない。
ヤツが動くとき。それは最終的な決着をつけるその時だ。それは単なる勘ではなく、確信に近い。恐らくはこの艦の舳先で踏ん張っている娘とその相方もそう考えているはずだ。
その時が来るまでどれだけ相手の戦力を削れるか。嵐の役目はそこにつきる。
さて、切り札の出し時はいつかな? 嵐は牙を剥くように笑みを深める。
闇の中で、数多のモニターアイが火を灯した。