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8・嵐吹きすさぶ時 後編

 





快進撃。

GOTUIの戦いぶりを一言で言うならばそうなる。

 

最強兵器であるTEIOWを前面に押し立て敵拠点を強襲、転移ユニットを含めた主戦力を粉砕し、その後通常戦力で制圧する。単純ながらその戦術は効果的で、次から次へと敵拠点を陥落させていった。

 

転移ユニットは単純に拠点の中核となり物資、戦力の供給を行うだけではない。それ自体が強力な防壁と過剰なまでの火力を持つ強力な兵器である。それを攻略することは困難で、これまで侵略勢力をのさばらせてきたのはそれが最大の要因と言っても良かった。それを短時間で、しかもほぼ戦力の消耗なしで攻略可能となれば、戦力の天秤は一気に地球側へ傾く。

そうなれば他の組織や機関もやっと重い腰を上げ、GOTUIの動きに同調し残存勢力の掃討にかかる。状況は、坂道を転がるように突き進んでいった。


「これで、12ィ!」

 

神をも砕く力を秘めた裳底が障壁へと叩き込まれる。

一瞬のうちに衝撃は広がり、巨大な構造物が炎を噴いて傾いだ。

 

結果を見届けてから残心を解き離脱。幾度か回数を重ねた結果、その手際はより洗練されたものへと成っていく。

超高速で戦場を離脱する三体のTEIOW。エナジーアーマーを展開しリンゲージドライブを発動させたままであるが、一々解除している暇はない。状況は目まぐるしい速度で侵攻していた。


「まだ思ったより負荷は感じられないけれど……ワイズ、全員のフィジカルパラメーターはどうなっている?」

「軽度の興奮状態、そして疲労が多少見られる以外は異常なしです。怖いくらいに順調ですよ」

 

再設計されたリンゲージドライブシステムは、確かに使用者への負荷を極限まで抑えるようにはなっている。だがそれでも、無制限に戦えるわけではないのだ。

保って3時間、それがゼンの見込みである。作戦開始より1時間半弱。データにははっきりと現れていないが、そろそろ不都合が見えてくる頃だ。手際が良くなってくるにつれ攻略速度も上がっているがまだ半分ほどのユニットが残っている。最後の最後まで油断はできない。

通常戦力を放出し移動を開始するトゥール・グランノア。入れ替わるようにTEIOWは着艦し一時の休息を得る。とはいえリンゲージドライブは解除されていないし、すぐにも次の拠点に移動するため機体を降りる事もできはしない。アイドリングどころかフルスロットルに近い状態で待機している機体の中で、三人は思い思いに過ごしていた。


「これで半分弱、いけそうな感じはするけどねえ」

 

ヘッドギアを外し汗を拭いながら鈴はひとりごちる。

それにゼンが応えた。


「早々上手くいかないのが世の中の常、ってね」

 

喉の渇きを癒す程度にチューブドリンクを口にする。

彼の言葉を弦が次いだ。


「“なんか”やるやろ。でなきゃここまで粘れん」

 

ごきりと首を鳴らす。

順調すぎるときこそ罠を疑え。戦術の常識である。いくら優位にあるとは言えそれを忘れるほど彼らは愚かではない。

それと同時に、大概の罠なら食い破れるという自負もある。


「まあ多分そこらヘンも……」

「……織り込み済み、なんだろうさ」

「あちらさんは、な」

 

三人の視線が一斉にある方向へと向いた。

巨大戦艦とは思えぬ速度――超音速戦闘機をも上回る巡航速度で飛翔するトゥール・グランノアの舳先。そこに立つ腕組みをしたままの紅き鬼神。そしてその背後に控える黄金の鳳凰。

 

作戦開始から彼らは動かない。そして未だに動きを見せない。

ならばまだ窮地ではない、と言うことだ。

 

はっきり言って合体したストームバンカイザーの戦闘能力は、リンゲージドライブを発動したTEIOWを上回る。リンゲージドライブが発動した状態と同等以上の機能を、ストームフェニックスによって補強されるからだ。かてて加えて化け物レベルのパイロットが二人にサポート用の人工知能が二基。実質的には一個小隊分の人員にて運用されているに等しい。数の暴力というわけではないが優位性は否めない。

先の“お披露目”でもその戦闘能力を全て現わしてはいなかった。バーストモードすら使用していなかったのだ。あの様子ならリンゲージドライブを使う事すらないのではなかろうか。そこまで考えて三人は同様の考えを心に浮かべる。

 

あの合体機構は、まるでリンゲージドライブを必要としない……“使わせないようにするためのもののようだ”と。

 

ありそうだなあと、三人は揃って思った。

いくら対処法があるとは言え、リンゲージドライブの行使は萬の心身にダメージを与える。今現在の過保護にも見える蘭ならば、それを良しとはしないだろう。となれば対策を練っていてもおかしくはない。


「まあ、いささか“速すぎる”ような気もするけどな」

 

ぼそりと弦が呟き二人が頷く。あの合体機構、たかだか一月程度でできあがるのもではない。しかしやたらと先読みの上手いGOTUIならばやりかねないと言うのも事実だ。特に萬がからんだ蘭は良くも悪くも突っ走る部分があるからやってのけてもおかしくはないように思える。

まあそこら辺は深く考えない事にしよう。ともかく萬に出番は回さない。怖い司令がなにしてくるか分からないし、それに……。


『これ以上差が開いてたまるかっての』

 

……彼らだってちっとはプライドがあるのだ。出番なんて回してやンない、そのくらいの意地はある。


「次の戦闘エリアまで後00:03。各員準備よろしいか?」

 

グランノアのオペレーターが突如告げてきた。どうやら短い休みは終わりのようだ。

ヘッドギアのシールドが降りる。その下にある目は、すでに獲物を狙う狩人のものだ。

フルスロットルで三機は飛び出してゆく。

そして再び戦場で無数の花が散った。


 









戦術モニターを見るダンの表情は、見事なまでに無表情であった。

しかしその背後には、隠しきれない何かが渦巻いている。特殊能力者であるシャラの目にはそれはまざまざと捉えられていた。

 

様々な感情が渦を巻いている。その中でもひときわ目立つのが歓喜。

 

次々と味方が死に絶え、戦力が削られてゆく。その事に欠片も痛痒を覚えず、ただただ強敵の出現に心を躍らせている。彼の狂人としての部分は渇望を満たされる予感に喜び震えていた。

もちろんその他の微かに存在する常識的な部分は、平静を装ってはいる。しかし見るものが見れば感情がだだ漏れだ。復帰して以降、彼はそう言った部分を隠そうともしていない。いや一応取り繕うとはしているようなのだが以前に比べおろそかになったというか、気を回しているようではなさそうだ。


「……使いますかね、彼らは」

 

沈黙に耐えかね、シャラはたまらず口を開く。


「使うさ。敗北を認めるくらいなら死を選ぶ、そう言う人間が一度死に損なった。二度の敗退は自身が許さないだろう。“そう言う面子を中心に選んだ”から当然だが」

 

嗤っている。無表情に嗤っている。ダンの顔は背後からは見えないが、そうだとはっきり分かる。きっと他人の感情も、想いも、ダンにとってはお膳立てを整えるためのファクターにすぎないのだろう。

全身全霊をかけて“遊ぶ。”その舞台を作り上げるため、彼は一切合切容赦をしない。


「さて時間稼ぎになるかどうか。……せめて連中の手の内を一つでも引き出してくれれば御の字かな」

 

くく、と今度こそはっきり笑い声が漏れる。最早邪悪としか言いようのない気配がダンの周囲に渦巻いている。怯える以外にどうしろというのか。シャラは信じてもいない神を恨む。この場に他の人間がいなくて良かった。いたらきっと退いていたに違いない。

背後のおののく気配に気を向けるようなそぶりも見せず、ダンの視線はただモニターの向こうに注がれている。











「もはやこれまで、といったところだな」

 

拠点を預かる前線指揮官の一人がそう呟いたのは、転移ユニットの数が十を割ったあたりであった。

侵略勢力が統一される以前から地球に降り立ち指揮を執っていた人物である。未練を残したまま一度地上を去り、今度こそはと勢い込んで再び蒼き星に降り立ったのだが、多勢を持ってなお攻めきれず、結局反攻を許している。生き恥をさらしその上で自身に泥を塗るような真似をしたようなものだ。誰が許しても自身がそれを許さない。

恐らく自分はここで命を失うだろう。しかしただでは死なない。決意を秘めた目をぎらりと光らせ、指揮官は部下に命じる。


「残った拠点と回線を繋げ。例の手段を使わせて貰うぞ」

「は? し、しかしアレは……」 

 

泡を食う部下だが、血走った目でぎろりと睨まれ押し黙る。


「気にくわない男から伝授された気にくわない手段だが、最早地球側に少しでもダメージを与えようかと思えばこれしかあるまい。言っている間にヤツらがくるぞ。急げ」

 

決意が固いと悟った部下は、姿勢を正し最敬礼を行う。そして自分も共にと申し出るが。


「若い者が死に損ないの年寄りの共をする必要はない。成すべき事を成したら早く脱出したまえ」

 

拒絶し背を向ける指揮官。部下の気配が消えたのを確認し仮設司令部の窓から外を見やる。そこにはそそり立つ転移ユニットの姿。


「さて、最後に派手に一仕事、してもらおうか」


 









異様な反応があったとオペレーターから告げられたのは過半数の敵陣が落ち勝利が見えてきた頃であった。


「残り全ての転移ユニットのエネルギー反応が上がっている?」

「はい、それと同時に敵有人部隊の一部が撤退しています。何らかのアクションがあるものかと」

 

その報告を聞いて渋い顔になったのは萬。


「拙いな。……グランノアコントロール、転移ユニットの反応データをこっちに回してくれ。ジェスター、解析を頼む」

「任された」

 

ややあって、ジェスターから想定したとおりの回答があった。


「ビンゴ、と言うヤツだな。“あの時”と同じ反応だ」

「どういう事ですの?」

 

蘭の問いに、萬は眉を顰めた表情のまま答える。


「ヤツら転移ユニットを自爆させるつもりだぞ。オレ達が異世界に吹っ飛ばされた時と同じ状態になってやがる」

『!!』

 

話を聞いていた全員が目を剥く。楽勝ムードが漂い始めていたのが一気に緊迫した空気へと変わっていった。


「だけど今更自爆させてどうするつもりや? 前ン時は確か三基同時に自爆させてもせいぜい数㎞単位の被害しか出なかったやろ」

「あの時は起爆の直前まで多重障壁が張ってぁったからな。それでも空間に風穴が悪くらいの破壊力はあったんだ。障壁なしで自爆されたらどれくらいの被害が出るか。……ジェスター、試算はできたか?」

「うむ、最低でも九州が半分くらい消し飛ぶほどであろうな。しかも一基で、だ。それに加え爆発が環境にどれだけの影響を与えるか……想像するのも億劫な結果が待っているだろうさ」 


一瞬の沈黙。 それを打ち破るのは不敵な声。


「ふ……だったら一気にぶっ潰すしかないか。全力でいこう」

 

目を伏せ、何でもないことのようにゼンが言う。


「ちょっと無茶しなきゃ、だね。力の温存なんか考えている余裕なんかないか。座標再確認。空間転移で一気に跳ぶよ」

 

目に真剣な色を湛えながらも、唇には笑みを浮かべる鈴。


「時間がないのお。萬、手伝え。全部とはいかんでも一つでも多く潰さないかん」

 

あえて飄々とした態度を装い語り掛けた弦。しかしその言葉は――


「いや、アンタらは一端待機しておいてくれ。オレたちがやる」

『!?』

 

――予想外の形で拒否される。


「萬! まさか“アレ”を使う気ですの!?」

「シミュレーションはやっただろう。できれば使いたくなかったが、四の五の言ってる場合じゃない。一基でも逃せば被害が出て、その分反攻が遅れる」

「許可しかねます! 通常モードでも皆さんと協力すれば……」

「自覚は薄いようだが皆疲弊してる。万が一って事もあるさ。ごたごた言ってる間に時間がなくなるぜ?」

 

ぐっと言葉に詰まる蘭。確かにここで長々と論議している場合ではない。だが……。

蘭の迷いを、萬の言葉が叩き斬る。


「それとも何か? オレの負担くらい背負う自信もないのか?」

「! ナメないでくださいまし! この天地堂 蘭、惚れた男の命の一つや二つ、かっちり背負ってご覧に入れますわ!」

「じゃあ決まりだ」

 

惚れた弱みにつけ込んで下さいましたわね、とかなんとかぐちぐち言う蘭。こんな時までコイツらはと一瞬呆れる三人だったが、即座に真剣な表情に戻る。


「やれるんだね?」

「やってやるとも」

 

ゼンと問いに躊躇なく答える萬。それを確認して、三人はリンゲージドライブを解除した。

萬は大きく頷く。そして紅の鬼神は鳳凰を伴って舳先から飛び立っていく。

 

見送る三体。その機体の各所から蒸気のようなものが吹き出て来た。強制冷却機構が働いたのだ。同時にパイロットの三人は、ぐったりとシートに身を預ける。

萬の言ったとおり疲労が溜まっていたのだろう。であると同時に緊張から解放されて気が抜けたという事情もある。すぐに回復するであろうがそれを待っている間にも自爆のタイムリミットは刻一刻と近付いてきていた。

だがきっと、回復する前に事態は終結するであろう。確証はないが、そう確信する三人であった。











「コード……覇道合体!」

 

蘭が叫び、魔力が渦を巻いて嵐となる。その中央から現れるのは朱金の戦神。


「全システム正常。フィジカルパラメーターにも問題はないが、どこまで負荷を抑えられるか分からん。ウォーロック、そちらはどうか」

「All the preparations for the backup are complete. However, it seems that the ability is insufficient only by me」

 

ジェスターの問いに、不安を現わすウォーロック。しかし萬は、不敵にそれを否定した。


「おいおい忘れたか? “もう一人”重要なヤツがいるだろうよ。……ベル!」

「やっと出番ですか。忘れ去られてるかと思いました」

 

鈴を鳴らすような声が響き、萬の目の前に立体映像が現れる。まあそれはいいのだが。


「……なんでバニーガールか」

「あら、殿方はお好きでしょう、こういうの」

 

小首を傾げてしなを作るのは、ノルンの外部インターフェイスを勤める人工精霊プログラム、ベルザンディ。久々の出番に張り切っているのか、サービスが旺盛である。


「まあいい、バックアップと天地堂の限定解放、任せる。ぬかるなよ」

「いけずですね。……ちゃんと任されますから、存分に」

 

ふ、と柔らかく微笑んでベルザンディは姿を消す。全ての用意は整った。それを確認した萬はサブモニターの蘭へと視線を向ける。彼女はなぜかジト目で萬を見ていた。


「モテモテですわね、正直ムカツキますわよ?」

「妬くな。……そろそろシリアスにいく。コントロール渡すぞ、きっちり決めてやれ」

 

二人の目が揃って鋭さを増す。メインコントロールを渡された蘭は一つ深呼吸をして、呟くように言い放つ。


「バーストモード」

 

機体各部の装甲が解放され、青白き焔が吹き出す。機体本体が発するエネルギーとトゥール・グランノアから送られるエネルギーが互いに増幅しあい、事実上リンゲージドライブを発動したのと同様に無制限の出力をバンカイザーは得る。

莫大なエネルギーの奔流に晒される中、コンソールに指を奔らせながら、萬は己の力を解放していく。


「制御術式35%励起。ノルンと同調、天地堂との接続正常――」

 

一度目を伏せ、そして再び見開くと同時に吠える。


「――“魔眼”、覚醒っ!」

 

萬の左半身を術式回路の輝きが埋め尽くす。そして燐光を放つ左目の瞳孔が縦長に変化、獣のそれを思わせる形態へと移行した。

萬の左目。異世界の戦いにおいて一度失われたそれは、現地の技術により新たな力を秘めたものへと取り替えられた。ただ光景を移すものではなく、見えざるモノまで見通せる眼。光ではなく目に映る全ての情報を捉える最高ランクの生体情報分析(アナライズ)センサー、魔眼【ツクヨミ】。一見地味だが、その能力は制御術式がなければ所有者の脳を焼き切ってしまいかねないほどに危険なものだ。

 

その能力と、天地堂から与えられる限定的な“世界全ての情報”、それらを駆使して萬は見出す。“勝利への道筋を”。

 

示される道筋。それは“今現在バンカイザーが取れる、全ての有効な行動チャート。”自分達の持つ全ての能力、敵陣全体の防衛能力、現在の全ての状況。それらを全て読みとり可能な行動を全て選択。空間転移、結界発生、最短で転移ユニットを破壊可能な攻撃手段。ありとあらゆる戦闘行動を算出する。

しかしいくら行動を上げてもその全てを同時に行うのは不可能である。無制限のエネルギーを持ってしてもバンカイザーは一体。どれほど速く行動しようが限界があるのだ。

 

そう、“たった一機であるのならば。”


「ar……」

 

蘭が咆吼する。それは歌うがごとく、しかし言葉を成さず。


「ararararararaararararararararar!!!」

 

高速圧縮詠唱。複数の、いや数えるのも馬鹿らしいほどの術式を励起し組み上げる。詠唱だけではない。彼女の全身には無数の術式回路が浮かび上がり、その両手は高速でコンソールを奔り機体を触媒にして次々と魔法陣を組み上げていく。

無限のエネルギーがあろうとも出口は一つしかない。であるならば、“出口を増やせばいい。”さあ虚像を産みだし幻像を組み上げよう。次元を反転させ分離させ多重に屈折させてみせよう。ただ一つの無双を、数多の夢想に転じて魅せよう!


ストームバンカイザーの周囲に、無数の魔法陣が展開する。ひときわ光り輝くそれらから出現するのは。

 

無数のストームバンカイザー。

 

その全てが虚像にして実像。萬が見出し想定した全ての可能性の具現。


『here we go!!』

 

全ての萬が同時に叫び、全ての蘭がスロットルを開ける。一つ一つのバンカイザーはそれぞれ一つの行動しか取らない。転移ゲートを開き、広範囲の結界を展開し、中の転移ユニットにありったけの攻撃を叩き込む。一つ一つの行動は大したものではない。だがそれが無数に、しかも同時に行われれば。

 

一軍の一斉攻撃に等しい。

 

これぞ、ストームバンカイザーの最大の技。天地堂と萬が持つ魔眼の能力にて可能な行動を全て算出し、バンカイザーのもつエネルギーを蘭の技術によって全て術式と成して、数多の可能性を一気に具現化し広範囲を蹂躙する、因果重複同時攻撃。






「天 地――」






「――動 乱 撃」

 





静かな言葉。それで全てが終結。

 

ただ一度にて無数の行動を終えた虚像が全て消える。ただそれだけで、それまでの苦闘が嘘だったかのように全ての転移ユニットが粉砕された。

 

静寂、そして。

 

怒号のごとき歓喜の声が、空を埋め尽くした。


「まだですわよ皆様、残存勢力を掃討なさい。最後まで油断なさらないでくださいまし」

 

その蘭の言葉に全ての人間が従うが、浮かれる心は抑えられない。飛び出してゆく機体の軌道にもそれがよく現れていた。

数多の戦力が飛び出してゆく中、バーストモードを解除したバンカイザーがゆっくりと甲板に降り立つ。そして盛大に蒸気を吐き出し、ゆっくりと跪いた。


「ちょ、ちょっと。だいじょーぶ?」

 

モニター越しに萬の姿を確認した鈴が眉を顰める。ぐったりとシートに身を預ける彼の左半身は焼けただれ、閉じられた左目からは止めどなく血涙が流れ落ちていた。


「ちょいと張り切りすぎたわ。機体にも結構ダメージ来てるな」

「ちょいとではありませんわ! もう、後でお説教ですわよ!」

 

あえて軽く言う萬にかなりおかんむりの様子で言う蘭。その目は不安で揺れていたが、それに触れようとする者は誰もいない。


「つーわけで、悪いけど後頼むわ」

「OK任された」

「じゃ、ちょっと後片付けしてくるね」

「ゆっくり休んどき」

 

短く言葉を交わし、入れ替わりにTEIOW三機が飛び立ってゆく。それを見送って萬はゆっくりと目を閉じた。

そして蘭は、密かにジェスターと回線を繋ぎ言葉を交わす。


「で、萬のダメージはどうですの?」

「見た目ほどではないがな、アレが何回も続けば危険だ。……しかしかく言う司令も相当に参っているだろうに」

 

言われて蘭も火傷気味に紅く腫れた首筋を押さえる。


「萬ほどではありませんが……やはりこれは禁じ手に近いものですわね。できうる限り使用を控えなければ」

 

叶うならばと声を出さずに呟く。その胸の中に一抹の不安がよぎるのを、蘭は止めることができなかった。


 




ほどなくしてオペレーションリベンジャーズハイの第一段階――地球奪還は成される事となる。しかしそれは、侵略勢力側の思惑に近い結果でもあった。

 

戦いは激しさを増していく。

未だに終わりは、見えない。











次回予告っ!






無事地球を取り戻したGOTUIを筆頭とする人類戦力。

しかし彼方の宇宙そらでは、刃を研ぎ上げた強者達がその牙を剥く。

萬たちと同様に新たな力を振るうカダン傭兵団。その力とは。

次回希想天鎧Sバンカイザー第九話『獣たちの宴』に、フルコンタクトっ!






 


超必殺技お披露目の回。そして萬の伏線が一つ解消。

地味だけど見えないモノはない目。多分死の線とか見えます。

あとバンカイザーの必殺技はどう見ても多重影分身ですありがとうございました。






今回推奨戦闘BGM、Crest of "Z`s"。



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