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7・リベンジャーズハイ 後編


 




GOTUI旗艦トゥール・グランノアを中核として立案された作戦が発動したのは3日後。

作戦名、【オペレーション・リベンジャーズハイ】。地上と地球近海の敵勢力に対し攻勢をかけ一掃する事を目的とした、今までにない大規模の反攻作戦であった。

 

TEIOWの強化、復帰。そして新造艦トゥール・グランノアの存在が、各関係者の決意を促した。これならば、勝てる。そう判断したものが多勢をしめた、そういう事だ。


現在地球上とその近辺に展開している侵略勢力、その中核を担っているのは半年の激戦を生き残った超大型侵略ユニット。その数26基。数多の戦力を吐き出しなおかつ自身も強大な戦力を持つそれは十重二十重の戦力に護られ難攻不落の要塞と化していた。この存在がある以上、地上から侵略勢力を駆逐するのは不可能に近い。しかし逆に言えばこれを攻略すれば地上の戦力は駆逐されたも同然という事である。

無論現時点に到るまでその攻略は最優先とされていた。だがそれを成すには多大なる戦力とその大半の犠牲を必要とし、そのリスクゆえに直接的な手出しは慎重を期する必要があるため攻略は遅々として進まない。最初の交戦で大半を撃破できたものの、残り僅かとなってなおその存在は依然脅威として立ちはだかっていた。

であればまず成すべきはそれを落す事。そう結論付けられたのは至極当然のことであろう。


「前なら手間取ったけどな。……今なら、やれるで」

 

自信満々にそう宣言する弦。その言葉を疑う者は誰一人として存在せず、彼は侵略ユニット攻略を主に請け負う任を割り振られる事となった。

その本命の前に立ち塞がる数多の敵軍を掃討するには……まあ彼なら多少手間取ってでもやり遂げるであろうが、余計な力を使わせる必要もない。であれば露払いを受け持とうと申し出たのはゼン。


「多量の敵を一遍に相手取るんだったら、自分の出番だよ」

 

しかしそれも、他の箇所から増援を寄越されれば補われるだろう。そこを抑える必要が出てくる。


「じゃあ足止めは妾だね。まかせてちょ~」

 

気楽に言い放つ鈴。当然ながら彼女の言葉に疑念を挟む者はいない。今の彼女ならばやってのける。誰もがそう確信していた。


「残る俺たちは遊撃、か」

「ええ、基本的に上空で待機し状況によって動きます」

「豪勢にして堅実、ってところだな」

 

作戦の基本は至極単純。TEIOW4機を用いて一つ一つの侵略ユニットとその周囲の戦力を速攻で駆逐していく。これだけである。

それぞれが単体行動でありながら目標は集約されている。今までの運用法ではなかった。事実上集団行動と変わりはないのだが、相手が相手である。戦域とその規模は広大。役割が完全に別れているため突出した能力が互いの足を引っ張る可能性は低い。


「今回のミッションは確実に成功させねばなりません。運用法に拘っている場合ではありませんから」

 

不本意かと問われた蘭の返答がこれである。陽動や戦力分散のためにチームを分けるより、一つ一つを確実に潰す、消極的とも言えるが堅実である策を取ったのは、多分萬の負担を軽くするためなんだろうなあと本人以外の全員が気付いていた。

今のところ問題はないとは言え、実際彼の身体は綱渡りの上で大道芸を行っているような危ういバランスで成り立っている。一歩間違えれば確実にその命は蝕まれるとなれば、できうる限り負荷を軽くしようと考えるのは当然とも言える。恋する乙女的に考えればなおさらだ。萬が一線から退いてくれれば話は早いのだが、生憎それほど状況は生易しくないし、萬本人も引っ込んでいられるような性格をしていない。

まあどちらにしろチームで行動するとなれば全員の負担も軽くはなる。どのみち連戦は避けられないのだ、ならば消耗は少ない方が良い。戦術的にはそう間違った話ではないと皆一応の納得を見せた。


「話は決まりましたわね。それでは参るといたしましょうか、戦場へ」

 

蘭が話を締め、全員が席を立つ。

赴くは数多の軍勢が待ち構える鉄火場。

怖じけづくものなど一人としていない。











「それでは蘭様、特務機動旅団、お借りいたします」

「すぐに鍛え直しはせ参じますゆえ、暫しのお待ちを」

「よろしくてよ。吉報を待っていますわ」

 

従者二人が揃って綺麗な敬礼を見せ、蘭は凛とした態度で返礼を返す。

これよりやいばとはずみは戦列を離れ、特務機動旅団の再編成を指揮することとなる。トゥール・グランノアに残されるのはチームインペリアルと通常戦力のみ。ごっそり主力が抜けることとなったが、誰も不安を覚えていなかった。


「そういうわけで、皆も今まで以上に働いて頂きますわよ」

了解イエスマム!』

 

ぱんと手を叩いてブリッジ内を見回した蘭に、きりっとした返事が返ってくる。ブリッジに詰めているのはグランノアからの古株で潜伏期間中も蘭に付き従ったものと、各移動拠点から選抜されたメンバーである。さすがに戦乱を生き抜いてきた者達から選りすぐられただけあって、有能なスタッフが揃っていた。

あまりにも巨大な艦船であるトゥール・グランノアはその運用に関してかなりの自動化が進んでいるが、それでも通常の艦船より多くのスタッフを必要とする。ブリッジに詰める面々もその例外ではなく、以前移動拠点だった頃に比べ倍以上の数に膨れあがっている。中には蘭とほとんど面識のない者もいたりするわけで。


「本当に大丈夫なんすかね、このふね

 

スタッフの一人がこっそりと隣の相方に尋ねた。相方は今更何言っているんだというような表情で応える。


「なにアンタ、上層部批判?」

「いやそう言うつもりじゃないんすけど……こんなでっかい戦艦なんて運用した実例ないっしょ? だから気になって……」

 

言い訳がましくもごもご言うスタッフに、相方は肩を竦めて言う。


「んなの分かるはずないじゃない。カタログスペックだけ見れば単体で軌道艦隊に匹敵する火力と搭載能力があるけれど、それがイコール戦力ってわけじゃないし」

「わあんなんで不安になるような事言うすか」

「嘘苦手なのよ私」

 

ふっと息を吐いて、相方は皮肉げに口を歪めた。


「ま、実際そこまで不安に思う必要もないんじゃない? あのTEIOWを生み出した連中が造ったのよ? 推して知るべしってね」

「そうなんすかねえ……そうだといいんすけどねえ……」

 

それでも不安がるスタッフの態度に、相方は苦笑を浮かべた。百戦錬磨の精鋭とは言え、実際にGOTUIの最前線を、蘭たちを見てこなかったものであればこんなところだろう。

後に彼女たちはいやと言うほどに見せつけられる事になる。


 









現在地球上の最重要防衛拠点は赤道上に集中していると言っても過言ではない。内部勢力がほとんど淘汰された今、各種エネルギー研究機関やその他点在する“訳あり”の施設の重要性は大幅に低下した。宇宙侵略勢力は統合されて以来、軍事施設や中央政府機構、異世界交流ゲートなどに攻勢を集中させている。結果戦線は赤道近辺を中心に展開されていた。

そうなった背景には侵略勢力の都合だけでなく、GOTUIを含めた各組織の思惑が深く絡んでいる。


「GOTUIとしては“本命”の戦力を整えるための時間稼ぎが必要だった。その意志が、他の組織の思惑と噛み合ったって事?」

「ああ、GOTUIだけならこうも上手く敵戦力を集中させるなんて芸当はできなかったろうさ。虎視眈々と機会を伺い反撃の糸口を掴む。どいつもこいつもそれを狙ってた」

 

パイロットスーツ姿で待機している鈴とゼンが言葉を交わす。それに対して然りと蘭は頷いた。


「今回の作戦で我々が中核となるのは、示威という理由だけに留まりません。他の勢力、機関が援護だけに留めているのは、戦力の温存という意味の少なからずあるでしょう」

「あくまで本命は宇宙そら、ちゅう事かい」

 

出し惜しみしている場合かいなといささか呆れたように呟く弦。しかし実際そう簡単にはいかないのだろうなあという理解の思いもある。

GOTUIは現在地球上の全ての防衛組織と協力関係にあるが、全ての組織から信頼されているわけではない。その強引な手段により未だ疑念を持って接している者達だっているのだ。いざというときには背中から斬りつけると考える組織も少なからず存在するだろう。その疑念を払拭するためにも、本気で地球を取り返す意志があるという姿勢を見せつけておかなければならない。全てはそのためだったと申し開きできるように。


「意外と後ろ向きなことを考えているんじゃないの?」

「後ろ暗い事なら山ほどありますもの。楽観視はできませんわ」

 

ゼンの台詞に澄まして応える蘭。

ある程度の勢力を誇れば清濁併せ呑む事はやってのけている。世の中は綺麗事だけでは動かないのだ。だからといって暗部をさらけ出すわけにはいかないのも世の常。強大な勢力を誇るGOTUIはそれに見合う闇の部分を押し隠している。(蘭の存在そのものがそうだとも言えた)このターニングポイントとも言えるタイミングで弱みを見せるわけにはいかなかったのだろう。

 

……とまあ、そんな屁理屈をならべて自身の心を誤魔化すのにも限界が来たようだ。

 

頭痛を堪え一斉に溜息を吐く萬以外のTEIOW乗り。それを代表してゼンが、こめかみを人差し指で揉みほぐしながら言った。


「え~、司令。気持ちは分からないでもないつーかぶっちゃけ分からないけど、そろそろ“離れたら”?」

「嫌ですわ」

 

どきっぱりと言い放つ蘭。その身は椅子に座る萬の膝の上にあり、半ば抱きつくように彼に身を預けていた。

知らないものが見ればもの凄く羨ましい光景だった。

 

復帰以来蘭はこのような感じで、事あるごとに萬と過剰なまでのスキンシップを図ろうとする傾向にある。大概は今回のようにTEIOWパイロットを集めてミーティングの名目を装って接触を行うのだが……いいかげん過剰に過ぎると皆感じてきている。


「つーかさ、仕事放棄(ぶっち)して好きなだけいちゃいちゃすればいいんじゃないの?」

 

至極もっともな意見を鈴が口にする。チーム間での意見交換の機会が増えるのは歓迎するが、それをダシに個人的な欲望を果たそうとするのは……悪くはないけれど余所でやってくんないかなあ、というのが鈴の本音だ。


「そうしたいのは山々ですけれど、ここで仕事から抜け出すわけには参りませんもの。仕事はする、欲望は果たす。両方やらなければならないのが辛いところですわ」

 

覚悟はできていましてよと胸を張る蘭の態度に、どーしたもんだかこの人と頭を悩ませる三人。

で、肝心の萬はというと。


「いやそろそろ……勘弁して頂きたいんですけれどいかがなもんでしょーか」

「ダメですわ」

 

グロッキーだった。目が死んでいた。なんか襲われた後みたいだった。

いくら彼が朴念仁でも、いい加減蘭の気持ちに気付いているし、留之姉妹の言動が本気であるという事も理解している。萬としては、ともかく面倒を片付けてからそう言う話はゆっくりしたいと考えているのだが、生憎相手は至高の遙か斜め上を行く行動を取って来てくれた。折を見ては積極的……というか少々過剰なスキンシップの攻勢に、萬は精神的に参ってきている。

いやうん、嫌いではない。嫌いではないのだそういうの。正直そう言った部分では当たり前の青年を逸脱していない萬である。今だって太股の上に感じる素敵な重みのぷんにゃり感とか胸に寄り掛かる柔らかな感触とか髪の毛から漂う良い匂いとかが、がしがし理性を削っていた。


普段なら女性が纏う一型やTEIOWパイロットスーツなどをガン見したところで割りと平気なのだが、この状態になるとまともに蘭の方へと視線を向けられない。日に日に何か大事なものを失っていく萬。近いうちにコイツ堕ちるなというのが、チームインペリアルの共通認識である。


「ふ、身持ちの堅さには定評がある萬をここまで追い詰めるとはな。……やはり最後の好敵手は司令殿か」

「it's excellent. Master」

 

傍らでうんうん頷いているのは、ちゃっかり居座っている人型モードのジェスター(なぜかチャイナ服姿。異様に似合っている)と、蘭をちっちゃくして無表情にしたような姿をもつ、セミロングの金髪少女――ウォーロック。(こっちはメイド服姿。分からないでもない)


「いや助けてやれやお前ら」

「なにゆえ?」

「Is it necessary?」

「素でそう返してきやがりますか」

 

目の前の光景を当然のこととして受け止めている従者達。そうだったこいつらそもそも常識がねえ。今更ではあるが軽く絶望を覚える。

結局ゼンたちは――


「うんまあ……いいかもう」

「そだね。困ってるのは萬だけだし」

「じゃ、お邪魔虫は退散することにするわ」

 

――匙を投げた。


「ちょ、助け……」

 

伸ばされた手に振り返る事なく、三人はブリーフィングルームを後にする。


「気が利きますわね。……それでは萬、コンビネーションを完璧にするため相互理解を深めようではありませんか。もうぐっちょりねっとりと」

「おっと司令、我らのことを忘れてくれるなよ。……ふふふ数年間我慢したのだ、いい加減腹を括って頂かれてしまうがよい」

「think that it is a crime that I joins……」

 

もの凄いピンチのようだがもう知らん。こういう事ができるのも今のうちだから好きにしてくれ。そう言いたげに背中で扉が閉まるのを確認し……。

 

三人は真剣な表情になる。


「精神的な依存、ちゅうわけやなさそうやけど……正直不安定なんちゃう、司令」

 

弦の言葉に頷く二人。


「経験者として言わせて貰うのなら、身体強化ブーストってのは必ず何らかの不利益があるさ。そのせいかどうかは……分からないね」

 

著しく成長を促すほどの身体強化。それが精神にどれほどの影響を与えるか。蘭の極端とも言える変貌はそのせいではないのだろうか。三人の頭に真っ先に浮かんだのはそう言う推測であったが。


「逆に言えばそれほど乱れていないって事なの? いやまあ前からはっちゃけてる子だったけど」

「フラット、とまでは言わないけどね。とんちきな行動を取っているように見えて彼女は意外と冷静だよ。自分の見た限り」

 

狂気も極めると冷静に見えるものらしいが、蘭はそこまで到っていないとゼンは感じていた。むしろ酔狂という皮を被りながら、確実に何かを成し遂げようとする意志が僅かながらも感じ取れる。

萬に対して冗談のような色仕掛けを放ちながらも彼女は“真剣”なのだ。何かを訴えようとしているのか知らしめようとしているのか、表面上はともかく至極真面目に蘭は萬に相対していた。それがゼンには見えてしまう。


「萬に負けず劣らず強固な精神防壁があるから本心は感じ取れないけれど……逆に言えばそんな状況でも自分に見えてしまうほど“漏れてる”ものがある」

「焦り、か?」

「さてね。でも必死なのは間違いない」

 

ともかく何を隠しているのかは分からないが、蘭が萬に拘っているのは分かる。その拘りが悪い方向にでなければいいがと三人は同時に思った。


「あのはっちゃけ双子がいれば……あかんか、むしろ事態を悪化させるな。萬だけやけど」

「あの子の親……総司令とか一族の人とかほったらかしにしてるのかな?」

「期待しない方が良いな。あの司令の家族だよ?」

『……うわダメな結果しか予測できない』

 

結局、萬の手助けになるような妙案はなにも浮かばない。そもそも手助けする気はあまりないのだが。

三人とも蘭の言動が作戦行動に影響を与えるとは思っていない。あれでもミッション時と平時の区切りはちゃんとつける人間だ。ただもしも萬に何かあれば……彼女は均衡を崩す。そうなれば士気の低下は否めないだろう。

余計な負荷はかけられない。ならば。


「頼れないとなれば、妾たちで片付けるしかないよね~」

「せやな。ここは真面目にキバっとくとしようかい」

「でっかい貸しになりそうだ。後で纏めて返して貰おう」

 

肩を竦めて笑い合う。

友情とかなんとか、そういったこっ恥ずかしい事を言い出すつもりはないが、こう言うのも悪くはないと三人は思った。

 

ただ……。


「独り身としては、ちょっとムカつくけどな」

「や、まあ確かに特定の彼女とかはいないけど……」

「あ~あ、どっかにロマンスグレーのおぢさまが落っこちてないかなあ」

 

自分達にはどうして色気のある話がないのかと、少しだけ嘆いてたりする。


 









空を灼くような朝焼け。日の出と共に、作戦行動は開始された。

最初の目標は、異世界交流ゲートに最も近い陣地。最大級の戦力を維持しているそこに向かって、TEIOWを中核とするGOTUI戦力が一斉に襲い掛かる。

 

奇襲にはならない。どう足掻いても隠しようのない巨大戦艦を前面に押し立て行動しているGOTUIは、その動きを宣伝しながら回っているようなものだ。当然ながら事前にその行動は察知されていた。

来るのが分かっていれば恐るるに足らず。その強大な戦力を知りながらなお、前線の指揮官達はそう言って配下の戦士達を鼓舞する。ある程度のハッタリや見栄などもあっただろう。しかし今日まで戦線を維持してきたのは伊達ではないと、彼らにもそのような自負がある。実際地球側の進化に対応し戦い抜いてきた彼らは十分に古強者と言えた。

 

ただ惜しむらくは、本日のTEIOWはすでに昨日のTEIOWではなかったという点だ。

 

弾道軌道を描く長距離砲撃。水平線上に微かに姿を現したトゥール・グランノアから放たれたそれは、当然ながらそのように判断される。

電磁レールガンによって放たれた反応弾の類か。開戦の砲火にしてはいささか地味に過ぎる。第一十重二十重に展開された障壁を打ち貫けるものか。撃ち貫いたところで有効打になるか。そう侮ってしまうほどに、空間転移ユニットを護る防御は堅く鉄壁に見えた。

 

もちろん叩き込まれたのは砲撃などではない。

 

ごが、と大気を揺るがす衝突音。それに続くのは削岩機のようにあっさりと障壁をぶち抜いてゆく連続した破砕音。

衝突した勢いを殺さぬままあっさりと全ての障壁を貫き、轟音と共に大地を穿つ何か。土煙が舞いその姿は覆い隠されるが、放たれる気配がその存在をあからさまに示していた。

轟、と風が舞い土煙が吹き飛ばされる。大地に穿たれたクレーターその中央にあるのは莫大な気を可視レベルの密度で放出する白き戦鬼、ゲンカイザー。

 

空間転移による奇襲でなく電磁カタパルトと加速術式による強襲を選んだのは、一気に防御システムに過負荷をかけ粉砕するという目論見があったからだ。その程度の無茶を選択せざるを得ないくらいには、この場に集った戦力は厚い。

 

ゆっくりと身を起こし面を上げるゲンカイザー、その両眼が力強く輝いた。咄嗟に反応し襲撃者を討とうとしていた者達は、射すくめられたように一瞬動きを止める。


それは致命的な隙となる。

 

突如天から閃光が降り注いだ。ビーム、レーザー、レールガン、魔法弾。小規模に見えるが高密度かつ大出力の狙撃は、足を止めてしまったものから確実に餌食にしていく。

 

上空、レーダーも届かない超高度。そこにあるのは両手に長大な獲物を構えたゼンカイザーの姿。

 

ゼンにとっては朝飯前の芸当である。“たかだか高々度から地表を狙い撃つだけ”なのだ。欠伸がでるとまではいかないが、容易い仕事には違いなかった。


次々と落される機体。その合間を縫って駆け抜けるゲンカイザー。指揮を執る者達は泡を食い、外部に展開していた戦力を呼び戻そうとする。

 

しかしそうは問屋が卸さない。

 

後退せんと振り返った者達が、一斉に分かたれた。

一刀戦塵。電光のごとき一閃で瞬時に敵機を葬り去っていく疾風。

 

言うまでもない。いつの間にやら戦闘エリアに入り込んでいたリンカイザーの仕業だ。

 

速い。そしてうまい。気取る間がない、察知したとしてもすでに遅すぎる。ただ一つの得物のみで、リンカイザーは数多の獲物を確実に屠っていく。

 

三体が三体ともいきなりのバーストモード。最初から手加減や手抜きをするつもりなど毛頭ないようだ。

正しく無双。あまりにも強力な戦鬼の猛攻に、敵陣は為す術もない。

 

かに見えた。


「……厚いな。さすがに安い腕は揃えていないか」

 

悠々と海上に浮かぶトゥール・グランノア。その舳先で腕を組み雄々しく立つのはバンカイザー。戦況を窺っていた萬は、鋭い視線で冷静に状況を把握していた。

現段階では無数の敵を一方的にチームインペリアルが押しているように見える。それだけならば今までと何ら変わりはない。だが萬の目はこれまでとは違う敵の動きを捉えている。


「僅かだが、手間取ってる。このままなら近いうちに足が止まるな」

「それで袋だたきに合うような連中ではあるまいが……」

「ああ、だが余計な消耗を強いられる事になる。一つ一つは小さいことにしろ蓄積すれば」

「ふうむ」

 

ジェスターとの間で交わされる会話。それに蘭とウォーロックが割り込む。


「では我々も往きましょうか。術式を中心に火力で征すれば」

「All the preparations are complete」

 

今にも飛び出そうとするストームフェニックス。しかしそれは微動だにしない萬に止められた。


「まだオレたちの出番じゃない。見てろよ」

 

にい、と萬の唇が歪む。


「あいつら、早速やる気だぜ?」


 








的確に敵機を撃ち貫きながらも、ゼンは不服げな声を出す。


「想像以上にやる。このままなら予定時間は超えるな」

 

叢雲のごとく湧く敵機に足を止められた弦が愚痴る。


「ちっ、向こうも必死ちゅうわけか」

 

電光の速度で刃を奔らせ続けている鈴が呟く。


「バーストモードのTEIOWをここまで抑えられるとはねえ」

 

地球側だけではない。比べれば遅々としているとは言え侵略勢力も学習し成長を続けているのだ。ただ一方的にやられるだけでは澄まさないと、死に物狂いで襲い掛かってくる。

この場を凌ぐだけならばまだいい。だが全ての拠点を巡らんとするならば消耗するのは拙い。逆襲するつもりが余計なところで足下を掬われる羽目になっては本末転倒だ。

 

だから。


「早々だがカードを切らせて貰う! ワイズ!」

「待ってたです!」

「トバしてくで! ハーミット!」

「おっけーっす!」

「張り切ってるねえ……ウィズダム!」

「……出番、あってよかった」

 

それぞれがそれぞれの相棒を呼び、“機体のタガ”を外す。

 

改装されたTEIOWは以前のTEIOWではない。乗り手の成長を見込み、本来搭載されるべきであったものを改めて組み込まれた、計画当初の“真なるTEIOW”に近い存在へと生まれ変わっている。

 

それはつまり――











『コードファイナライズ! “リンゲージドライブ”、フルコンタクトっ!』


 









――人間の限界を超える、戦神の誕生を意味していた。











次回予告っ!






その真なる力を現したTEIOW。

一方的な蹂躙。しかしその勢いは侵略勢力に非情の手段を決意させる。

絶対的な危機に際し、萬もまた、危険を押して新たなる切り札を切った。

次回希想天鎧Sバンカイザー第八話『嵐吹きすさぶ時』に、フルコンタクトっ!





 


微妙に地味な回。

さてどことどこが伏線でしょうか。






回収するとは限らないけどなー。



今回地味なので推奨BGMなし。



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