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5・復活のTEIOW 後編


 




襲撃者達は決してGOTUIを甘く見ていたつもりはない。

生半可な火力、防御力ではTEIOWはおろか特務機動旅団の精鋭には通用しないと分かっている。ゆえにどこの組織も大型で強固なバリアフィールドを持つ要塞のごとき重機動兵器を前面に押し立て、有無を言わさぬ圧倒的な火力で対抗しようと目論んでいた。

 

しかしやはりというか、所詮は“つもり”であったようだ。

 

四方に駆けたTEIOWに対する飽和攻撃。だがそれは一切合切が通用しない。全て回避され、容易に接近を許す。


真っ先に敵陣に食い付いたのはゼンカイザー。両手の武器をそれぞれ別方向に構え、狙いをつける。


「さあ吠えろ、【グリフォン】、【キマイラ】」

 

各種砲とバリアシールドユニット、接近戦武装をも組み合わせた複合兵装、グリフォンとキマイラ。その砲口が吠える。

レールガン、ビーム、レーザー、そして魔力弾。吐き出されたそれらは大々的に展開されたバリアフィールドの合間を縫って奔り、後方に展開していた部隊に襲い掛かる。前面に展開していた重機動兵器の防御力を過信していた彼らは、至極あっさりと餌食になっていく。 そして、その過信していた防御力もゼンカイザーの前では紙屑も同然であった。

 

両肩のシールドユニットが稼働する。中央から割れるように展開すれば、そこに現れるのは二つのバニシングバンカーシステム。両肩の延長フレームが稼働、まるでもう一対の腕になったかのように、シールドユニットが振り回される。


「ダブルバニシングバンカー!」

 

対消滅の閃光が、バリアフィールドを打ち砕く。

砕けたのは一瞬。間髪おかずにフィールドは再形成される。しかしゼンにとってはその一瞬で十分。

両腕の武装はすでに反転している。右のグリフォンからはジャックナイフのように飛び出した実体ブレードが。左のキマイラからは大出力のビームソードが。

 

二刃一閃。

 

フィールドジェネレーターごと正面装甲を深く叩き斬られ、のけぞったそこに銃口が突き込まれる。

 

容赦なき征射。

 

中枢部動力を打ち抜かれ、ターゲットとなった重機動兵器は一瞬身震いした後爆発、四散する。爆炎舞い踊る中、意にも介さず佇むゼンカイザーの姿は恐ろしくそれでいて映えていた。

が、それに見惚れるようなものはいない。すかさず十重二十重と展開される包囲網。相手も必死だ、油断をしている余裕などどこにもあろうはずがなかった。周囲の重機動兵器は押し潰さんとばかりに迫り、間隙を縫ってお返しとばかりにあらゆる攻撃が叩き込まれていく。

そんな哀れな抵抗を、ゼン・セットは鼻で嗤う。


「バーストモード」

 

獣の笑みから放たれる処刑宣言。同時にゼンカイザーの姿がその場からかき消えた。

打撃が虚しく宙を貫き、それが不発に終わったと悟ったものが周囲を警戒するがすでに遅い。

 

閃光一陣。

 

指令中枢が打ち据えられる。

正確無比にして無慈悲な射撃が放たれたのは遙か上空。太陽を背にしているのは、全身から極彩色の炎を吹き出している三色の機体。


「空間転移も使わないでこの機動か。伊達じゃないね」

「基本は同じでも別物って考えていたほうがいいですよ。フルモデルチェンジってやつですね」

「ふん、上等」

 

鬼神の腹の中で、主従が不敵に笑う。最早この場に敵はないと、迫り来る数多の軍勢相手に余裕の態度を崩さない。


「では、ちょっとだけ見せようか。地獄というやつを」

 

ぽつりと宣言。そして銃口が大きくあらぬ方向へと向けられる。

咆吼。無数の打撃、その連打。それらは、銃口の先に開いた“空間の穴”に全て飲み込まれていく。

何をと訝しむ暇はなかった。ゼンカイザーの周囲を囲む軍勢の上に、下に、背後に。あらゆる死角に。

空間の穴が開き、そこから飛び出した弾丸が、閃光が、全ての打撃が襲い来る。

 

為す術もなく撃ち貫かれていく軍勢。“任意の箇所に射撃そのものを空間転移させる”。それが新たな、ゼンカイザーの能力の一つ。それを四方に展開させれば。

目に届く全ての領域が有効射程。いかなる位置にいかなる方向からでも銃撃をたたき込める、逃れたくても逃れられない蜘蛛の巣のごとき狩猟場。それは見えざる迷宮のごとく。


「【ライトニングラビリンス】。追い込むつもりだったようだけど、生憎相手が悪かったね」

 

混乱が生じ完全に出鼻をくじかれた軍勢を眼下に納め、ゼンカイザーは両の武器を交差させ構える。すう、とゼンの目が細まり、その口からは冷酷な言葉が零れた。


「ようこそ地獄へ。最早逃れる術はなく、後はことごとくを刈り尽くす。……覚悟があるのならばそれに殉じて死ね。なくばせいぜい足掻いてのたれ死ね」

 

怨念を飲み込み、迷いを振り切った今のゼンに容赦はない。生き延び明日を掴むため、立ち塞がる全てを打ち倒す、悪を超える悪鬼羅刹。

死神の生み出す閃光の迷宮が、また一つ、一つと確実に命を食いつぶしていく。

 

復活劇の幕は、一方的な蹂躙という形で切って落された。


 









叩き込む叩き込む叩き込む。

ありとあらゆる攻撃を叩き込む。

 

海水は蒸発し水蒸気の雲となり、またそれを爆風が吹き飛ばす。

大型艦船でも数分と持たないであろう飽和攻撃。しかしそれを、その猛攻をものともせずに悠々と海上を歩む影がある。


威風堂々。全身から気を放出し、重力を制御して海上を進むは白き機体、ゲンカイザー。


最早その防御は硬気功というレベルではなかった。全身を覆う気の流れは、迫る打撃を全て受け流しそらし、機体に掠りもしない。周囲の空間にすら干渉する膨大な気を完全に制御しているのは機体の性能だけではない。とうの昔に人外のレベルを超えた弦だからこそできる芸当だ。

その人外レベルの化け物は、機体の中で従者と共にほくそ笑む。


「いい加減、無駄だと理解しそうなモンっすけどねえ」

「理解はしとるやろ。多分気を逸らしてるつもりなんやでアレでも。……ほらおいでなすった」

 

弦が言うと同時に、ゲンカイザーの足下を割って海中から何かが飛び出してくる。

カニのような姿をした、非人型の重機動兵器。水中戦闘を可能としたそれは、海中へと迂回して弦の隙を伺っていたようだ。

不意打ちのつもりであろう。カニのイメージを裏切らない、巨大なクローアームを展開し掴みかかる。左右から迫り来るそれを、ゲンカイザーはあっさりと受け止めた。動きが止まる。それを好機と取った機動兵器は、正面の装甲を展開させる。現れたのは巨大な砲口。

零距離射撃。砲身が焼き付いてもかまわないとばかりの連射がゲンカイザーを襲う。しかし。

 

べぎりと音を立てて、クローアームがねじ切られる。爆煙の中から現れるのは、もちろん無傷のゲンカイザー。この程度の攻撃など、蚊に刺されたほども効いていない。


「まあ最初からそれは百も承知やったんやろうが」

 

モニター越しに空を見上げる弦の目に映るのは、天を覆うほどの集中攻撃。カニ型機動兵器は足止め、本命はこちらだったようだ。

怒濤の打撃が、一斉に一点目掛けて叩き込まれる。これでもかと襲い来るそれに耐えられる機動兵器など普通は考えられない。

 

だが生憎、ここにあるのは普通の機動兵器などではなかった。


「バーストモード」

 

熱風が吹き荒れ、爆煙が消し飛ばされた。

 

白と黒。相反する二つの色を纏った王虎。プラーナゲイザーと重力場を天をも突かんとばかりに放出し、ゲンカイザーはゆっくりと一歩を踏み出す。


「やっぱり根本的なところを理解してないっすよ連中」

「そう言うたるなや。常識外なんはこっちなんやし。それに……」

 

相棒を宥めるように言った弦の表情が、凶暴な、野獣のごとき笑みに変貌する。


「これからいやでも分かるやろ。……お代は連中の命やけどな!」

 

フルスロットル。弾かれたように飛び出した機体は、空中に足場を作りながら電光の速度で駆け抜けた。

慌ててそれを迎撃しようとする敵陣だが、あまりの速度に照準が追い付かない。軌道予測すらできない。弾雨が虚しく宙を裂き、そして。

 

容易く中央に鬼神の侵攻を許す。

 

衝撃波を撒き散らし一瞬静止するゲンカイザー。その両眼が、ぎんと輝いた。


「派手にいったれや。ランドリーテリトリー、展開!」

「了解っす!」

 

重力制御装置とプラーナコンバーターが唸りを上げる。

世界が歪む。攪拌される。周囲の空間をかき回すフィールドコントロール、ランドリーテリトリーが容赦なく周りの敵を飲み込んでいった。

為す術もなく吹き飛ばされる無数の敵機。しかしそれだけでは終わらない。ゲンカイザーは終わらせない。


「おおっ!」

 

両腕が、オーケストラの指揮を執るかのような動きで振り回される。それに応えるかのように、展開されたランドリーテリトリーがうねる。

攪拌された世界が振り回される。己が手足のごとく。世界で払い、世界で投げ飛ばし、世界を叩き付ける。“ランドリーテリトリーそのものを技として運用しているのだ”。

 

重機動兵器はおろか、艦艇すらも放り上げられ叩き付けられていく。振り回された数は6。ただその6度だけで生み出される無数の破砕、粉砕、爆砕。嵐が消えたそこには海の藻屑しか存在しなかった。

 

爆散し海中に没する残骸の群れを見据え、弦はぬたりと嗤う。


「新技、【六孔颪】。デモンストレーションにしちゃあ、派手やったかのお」

 

あっと言う間に大多数を食われた敵陣の兵は尻込みをしているようだ。当然だろう、話に聞いていた以上の化け物ぶり。TEIOWがここまでの存在だったとは思ってもみなかったのだ。直接対峙した事のない者が多数を占めていたとは言え、話半分だと油断していたのか、それともこの兵力差なら何とかなると思っていたのか。どちらにしろあまりにも舐めすぎていたと言うしかない。

海面を波立たせながらゲンカイザーが一歩踏み出し、敵陣の兵は揃って一歩後退する。たった一機の機動兵器に対して、完全にすくみ上がっているのだ。


「なんや、来ィへんのかい。せやったら……」

 

一瞬機体を沈み込ませた後、再びのフルスロットル。


「遠慮なく喰わせてもらうで!」

 

咆吼とともに、王虎は叢雲のごとき敵陣に食らいつく。


 









ゆらりと優雅に舞う。

 

その動きは華麗。しかし剣呑。迫り来る無数の打撃をひらりとかわし、そしていつの間にか間合いを詰めてすらりと刃が一閃される。

 

鎧袖一触。


抜刀も納刀も認識できないほどの速度。それは確実に、一つ一つの命を葬っていった。

 

動き自体は決して速くない。いや、むしろゆらりと舞うようなその動きは他のTEIOWと比べると目に見えて“遅い”。

だが当たらない。捉えられない。手が届きそうなのにどうしても追い付けない。捉えようとした直前でするりと手の内から逃れる蝶を思わせる動きであった。

だがそれを生み出している当の本人は、どこか不服そうな様子を見せている。


「う~ん、やっぱり母様みたくいってないような気がするなあ」

「……やはり相性が」

「動きのランダムさが足らないんだよね~。どうしても前のクセが抜けないよ」

 

ここまで完璧なまでの回避を見せておいて、それでも不満だと言い放つ。鈴にとって数多の敵陣は敵ではない。巻藁と同じ、試し斬りの相手でしかなかった。

自身の母親が見せた歩法。その再現を試みていた鈴であったが、思い通りの動きが取れないようであった。相手をしている者からすればどちらにしろ悪夢のような状況に変わりはない。もともと数で押し迫ってどうにかなる相手ではないのだ。生じた差は、天と地ほどにも遠い。

それでも、乾坤一擲と信じ多勢を率いてきた者達に退くという選択肢はない。通常型の機動兵器を下げ、強力なバリアフィールドをもつ重機動兵器を前面に押し立てて包囲を試みる。

 

無論それは新たな犠牲者を増やすだけの愚策でしかなかった。


「斬空刀、二連」

 

ぽつりと宣言。リンカイザーの両手が左右の腰に伸びた。

 

斬。

 

諸手に一刀ずつ、一斉に抜刀。一刀でバリアフィールドを裂き、二刀で機体を両断する。

TEIOWを上回る巨体が瞬時に切り捨てられ、敵陣の思考が一瞬空白となる。その隙に返す刀で二機、三機。両手の斬空刀が閃くたび、TEIOWにも匹敵すると思われていた切り札が容易く葬り去られていく。


「う~ん、これじゃあパワーアップした意味がないねえ」

「……全く」

 

完全に余裕の表情で愚痴る主従。強くなった己と機体の相手をするにはあまりにも脆すぎる。弱すぎる。本当に地球の覇権を争う気があったのかこいつらと、彼女らは半ば呆れ顔だ。もっともレベル99の勇者が最高レベルの武器防具を纏った状態で序盤の中ボスの群れを相手にするようなものなのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。

むうと唸って考える鈴。これ以上コイツらを相手に試し斬りをしたところで無意味だ。だったらもう、片端からとっとと片付けてしまうべきだろう。身も蓋も容赦もなくそう結論付け、彼女は手加減を止めることにした。


「バーストモード」

 

がうおっ、と機体が吠え、解放された装甲各部から蒼銀の炎が吹き上がる。ゆっくりと面を上げる機体の両眼が強く輝き、ゆるりと両手抜刀の構えを取る。その様子を見、慌てて距離を取り、回避行動に移る獲物達。斬空刀のリーチは聞き及んでいる。通常の抜刀よりはるかに広い間合いなれど、その間合いさえ外れていれば助かる。その判断は以前ならば間違っていなかった。

 

そう、“以前ならば”。


「【飛燕斬空刀、散・儀典】」

 

ぞ、と空間が震えた。

 

抜き放たれる二刀。しかし刃は決して届かぬ位置だったはず。なんの真似だと訝しむ間もなく。

 

陣の後方で、複数の艦艇が真っ二つに断たれた。

 

何事が起こったのか理解できないまま、次々と落される獲物達。その全てが間合いの外にあるというのに。

 

実際にはそう大した秘密があるわけではない。斬空刀の斬撃――“空間の歪みによって生じる断絶現象そのものを、目標位置に空間転移させた”だけだ。

それだけなら一度に放たれる斬撃は二つだけのはずだが、今放たれているのは最低でも一度に八つ。だが鈴は空間転移以外の術を使ってはいない。その種は、リンカイザーの機体そのものにある。


機体各所のブレードパーツ、その全てが斬空刀と同じように空間を歪める独特の音を発していた。そう、このブレード状のパーツは全て、“斬空刀と同じもの”なのである。各部から発せられる空間の歪みそのものを全て跳躍させる。本命の一撃以外の全てを魔道によって再現する散とは違い、広範囲に渡って任意の場所を斬りつける事が可能な攻撃。儀典と名付けられているが、最早別の技と言っても過言ではない。

結局先の二機と同じ、完全なワンサイドゲーム。蒼き鬼神は悠々と獲物達を狩っていく。


「別に逃げてくれてもかまわないよ? 逃げる場所があればだけど」

 

まあ無理だろうねと思いながら、鈴は投げやりに勧告してみた。とうの昔に彼らは敗軍だ。勢力争いで負け、政治で負け、あからさまな罠に引っ掛かり全てを失おうとしている。ここで逃げたところで最早頼る相手もなく、行く先もない。のたれ死にをするか、地下に潜るか。せいぜい山賊もどきにでも落ちぶれるのが関の山だろう。それでもここで命を散らすよりはましだと思うのだが。

やはりというかなんというか、聞き届けるものはない。完全にヤケになってるんだろうなあと軽く溜息。ならばせめて華々しく葬ってやるかと、鈴はスロットルに手をかける。


「見よう見まね影雷、冥土の土産にもっていきなよ」

 

大気が爆発するような音を立てて、リンカイザーが宙を蹴った。

認識がほぼ不可能に近い軌道をもって、蒼い雷が敵陣を駆け抜け当たる端から切り伏せていく。


 









ブレイブの周囲で警戒に当たっている仮設大隊の連中は、緊張を保ちつつも暇を持て余しているという、微妙にストレスのたまる状況にあった。

見得切りエフェクトの効果によって、敵陣はTEIOWの方へと集中している。つまりブレイブと海上移動拠点群は半ば無視される形で放置されている状態だ。確かに敵はよっては来ない。が、目と鼻の先で戦闘が展開されているというのに呑気に構えていられるほど図太い人間がそうそういるはずもなく――


「暇だ」

「暇だね」

「暇だな」

 

いたよここに。

 

周囲を警戒しつつぼへらっと言葉を零したのは、いつものごとく下っ端三人。戦闘の様子を横目に適当にくっちゃべっていた。


「こうなるとあれだな、掃除でしかないな」

「全くだ。我々は何をしに来たんだか」

「いいんじゃないの? 楽して給料もらえるんだから」

 

まったり。そうとしか表現できない空気を発してだらけているように見える三人。そんな様子を見咎める人間も当然ながらいる。


「アンタら、いい加減にしときなさいよ」

 

ぷんすかといった感じで通信に割り込んできたのはパトリシア。彼女らも甲板に居並び警戒に当たっているが……こっそり人の通信に耳を傾けている時点で人のことは言えないと思う。

見て見ぬふりをしている周囲の同僚を差し置いて、彼女はひそひそ声でライアン達をたしなめた。


「いくらこっちに飛び火する可能性が低いからって、油断してんじゃないわよ。戦場では予測も付かない事が……」

 

その台詞は最後まで続かなかった。なぜならば。

 

突如彼女の目の前、ごく至近距離の海面から一体のカニ型機動兵器が前触れもなく現れたからだ。

咄嗟のことに反応が遅れる。それは致命的な隙。杖を構える前にビームの砲口が開いて――

 

220ミリの砲弾が叩き込まれた。

 

一発で中枢を撃ち抜かれ、海中に没する機動兵器。恐る恐るパトリシアが振り返ってみれば、そこには電磁レールキャノンを構えたブロウニングの姿。


「呑気に構えていても、油断はしちゃいねえさ。……これでいつぞやの貸しは返したぜ」

 

口をぱくぱくと動かして目を丸くしているパトリシア。やがてその顔が真っ赤に染まって……。

次いで飛び出すのは耳を追いたくなるような罵詈雑言。どうやら照れ隠しらしい。

 

あっけなくいつもの空気を取り戻す愉快な仲間達。その騒ぎを余所に、ターナはモニターの端に映る望遠カメラが捉えた光景から目を離さない。

 

そこに映るのは、新たなる装甲を纏った、紅き鬼神。


 









腕を組み、叢雲のごとき軍勢を睥睨する。

ゆっくりと面を上げた萬の目が、鋭く敵を射抜く。

 

両太股の得物を引き抜き、空を駆け出す。瞬く間に接敵、右手の得物はガンモードのまま、左手のものは大振りの鉈を思わせるブレードモード。

 

雲霞のごとく迫る敵の群れに飛び込む。刃が閃き、ごく至近距離で熱線が放たれる。容赦も戸惑いもいらない。周りは全て敵なのだ、そのようなものは最初から必要ない。

回避と攻撃が同時。回転の動きを中心に、舞い踊るような攻防一体となった戦技。以前より遙かに取り回ししやすくなったブラスターエッジⅡ、それが最大限に生かされる。銃と刃の二つの姿が絶え間なく入れ替わり、間合いと戦術が読み切れない。圧倒的な数を誇る敵陣が、次々と手玉に取られていく。


「はは、なるほど……こいつは確かに、“オレ向き”だ!」

 

ぎらりと萬は歯をむき出して笑う。











「あれは……」

「あの技は!?」

 

注視していたターナと、密かに窺っていたカンパリスンは気付いた。

 

萬が今振るっているのは間違いなく、名もなきストリート戦闘技術――ターナの兄が振るっていたそれと同じものだと。

 

萬は数え切れないほどの死地を潜り、生き延びてきた。その道筋の中で、もっと肌にあった戦闘術もあったはずだ。それだというのに――


「――忘れて、なかったんだ……」

 

ぽつりと、ターナの言葉が響く。

その言葉の内に様々な感情が見えたような気がして――

 

カンパリスンの心が、微かにきしりと痛んだ。


 









小気味よく風切り音を立てて旋回していた銃剣が手に収まる。

 

一瞬の静止。そして爆散。

 

腕を交差させた形で静止したバンカイザーの背後で無数の命が散る。返り血のように全身を染め上げるどす黒いオイル。僅かに顔を上げ、モニターアイを光らせるその姿は正しく戦鬼。

 

襲撃者の群れは、我知らず怯え一歩下がる。退くわけにはいかない、退けるものか。そう思っていても本能のレベルではとうの昔に理解している。

 

“目の前のこの生き物にはどう足掻いても勝てない”と。

 

怯え始めた敵を目の前に、ぬたりと嗤う萬は無慈悲に告げる。


「バーストモード」

 

大気が震えた。

 

青白い焔を纏う鬼神が、交差させた腕をゆっくりと解放する。そして、二丁の銃剣を組み合わせて連結した。二丁一対の武装ブラスターエッジⅡ。それは以前と比べて小型化されているだけでなく、新たな機能が追加されている。空間破砕剣デュランダルに次ぐ新たなる姿は無骨な長銃。それは単なる銃ではなく、魔道技能の増幅器――“杖”としての能力を付加した魔道銃。その名は――


「モード“グングニル”。仮想砲身、展開」

 

以前であれば一から構築していた重複術式が、基本設定として組み込まれていた。無論基本的な火力も桁が違う。連結した一対の銃は互いを増幅器とし、その威力を相乗させる。結果放たれる法撃は、以前とは比べものにならない速度で、以前とは比べものにならない威力で放たれる。


「ボルケーノスマッシャー!」

 

吼っ!

 

熱き閃光が大気を灼いた。

 

一薙ぎ。火炎放射器を蚊の群れの放ったらこうなるのではなかろうか。全ての防御を無意味なものと化し、放たれた熱線は射線上の全てを消し飛ばす。

 

桁違いの、威力。地球上の兵器でこれに耐えられるものは、TEIOWを除けばごく僅か。敵陣の多くが閃光に飲まれ消し炭と化す中、少数ながらも残ったボルケーノスマッシャーに耐えうる防御フィールドを持った機体が果敢に攻め込んできた。


「出番だぜ、レーヴァンテイン!」

 

萬の声に応え、跳ね上がるように腰部フレームが稼働。空間爆砕剣レーヴァンテインが抜刀位置へと移動する。

 

すかさず一閃。どっかで見覚えがあるような、羽の生えたシラスウナギを思わせる機動兵器は展開したフィールドごと真っ二つに叩き斬られて炎上。焼き尽くされながら海面へと落ちていく。

 

続けて二撃、三撃。無造作にも思えるその打ち込みは、一つ一つ確実に獲物を仕留めていった。

全てにおいて圧倒的。姿形こそ以前と大差ないが、バンカイザーは確実に別物の存在と化している。

 

ひゅひゅんと小気味よく剣が振るわれ、納刀される。最早積極的に攻め入るものはなく、敵は全て遠巻きに玉砕だか逃亡だかの機を窺っていた。その様子を見回して、萬は頃合いだなと頷いた。


「さて、イイ感じで場も盛り上がってきたぜ。“そろそろ”――」

 

獣のような笑みが、深まる。


「――“出番じゃないかい”?」


 









風が、止まった。

 

いや、一帯の空気が変質したように思える。

 

心当たりのあるものは、一斉に疑問の声を上げた。


『……結界?』

 

見れば、移動拠点群の集結地帯を核に、一帯の海上がまるで鏡のごとく平面となって動きを止める。何事かと慌てて周囲を探索していた一人が、“それ”に気付いた。

 

移動拠点群の中央。“不自然に開けられた海域”のさらにど真ん中。そこに、一つの小さな影がある。

 

GOTUIの女性士官装甲服コマンドドレス。肩に羽織ったケープと共にたなびくのは豪奢な金髪。

 

優雅に、そして威風堂々と海面に佇む人影。

その口元が、不敵に歪んだ。











次回予告っ!



あの女が帰ってきた!

派手な手みやげひっさげて!

見よ、GOTUIの新たなる力、そして、バンカイザーの更なる進化を!

次回希想天鎧Sバンカイザー第六話『嵐呼ぶ炎帝、爆誕』に、フルコンタクトっ!









Gジェネで、レベル99の機体にレベル99のパイロットを乗せて敵陣に放り込むと、TEIOW乗りの気持ちが分かります。



で、今回最後に出てきたのは一体誰でしょう?(だからバレバレだつーの)






今回推奨戦闘BGM、DIVE into YOURSELF。



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