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0・それでも世界は回っていた

この話は拙作「鬼装天鎧バンカイザー」の続編です。

前の話を読んでいないとさっぱり分かりません。ですので準備OKという方とだがそれがいいという方のみ先へお進み下さい。


では、どうぞ。



 




静かな夜。

 

毎日のように行われる戦闘行動に、兵士たちは疲れている。久しぶりに何事も起こらない夜は彼らに僅かな安らぎを与えていた。

 

警備の者達も、油断こそしていないまでも気がゆるみがちになるのは仕方のない事だと言えた。自分達が構築した防衛網を信頼しているという事もある。警備の者達が察知する前に警戒システムが敵を見つけるだろう。それこそ蟻の入る隙間もないと、彼らは確信していた。

 

だが。


「ん? 地震?」

 

僅かな振動が走ったのを、警備兵の一人が察知した。この辺りでは珍しいなと訝しむ。そもそもこの前線基地は地震などが少ない地域だから構築されたのだ。前触れもなく突然地震が起こるなど考えにくい。

しかし事実揺れは収まらない。それどころか徐々に強さを増していく。

おかしいと確信したときには遅かった。立っていられないほどの振動がひときわ大きく響く。そして。

 

大地が割れた。

 

基地の中央付近、その地面が広範囲に渡って“爆発”した。間欠泉のように吹き上がる土煙。一体何が、そう考える間もなく、土煙の中から飛び出してきた何かに警備兵たちは吹き飛ばされた。

 

それは巨大な鉄塊。あまりにも大きく、無骨な、人型機動兵器用の大剣。

 

どう考えても大きすぎる、全長20メートル以上はありそうなそれを振るうのは、ツートンカラーに染められたブロウニング・ハイパワー。 真っ先に飛び出したその機体に次いで、次々と強襲装備のブロウニングが地面から飛び出てくる。その周囲には軽装機動鎧ライトプロテクトギアの上に防御衣プロテクトローブを纏った強襲魔道士アサルトウィザードの姿が。どうやらわざわざ異相差空間を作り、地下に潜って奇襲をかけてきたらしい。

全ての機体の左肩に描かれている雷雲を纏った鳳の紋章。吹き飛ばされながらそれを見た警備兵は、悲鳴のような声を上げた。


「す、嵐の旅団(ストームブリケイド)だとお!?」










「ブレード1より各機、これより第二段階に移る。存分に蹂躙しろ」

 

大剣を持つブロウニングハイパワーのコクピット。その中で淡々と命令を下す人物。一型を纏い惜しげもなくその魅力的な肢体を晒すその女性は、ヘッドギアの下で鋭く視線を巡らせる。

 

ヘッドギアの上で、ふわりとヘッドドレスが揺れた。


 









高速移動用のホイールが唸りを上げ火花が散る。

併用するスラスターを振り回しながら、2体のブロウニングが駆けていく。

その行方を遮るように、押っ取り刀で飛び出してきた人型機動兵器が立ち塞がるが。


「邪魔だよっ!」

 

迷う事なく懐に飛び込んだ格闘戦仕様の機体に殴り飛ばされる。ナックルショットから排出された空薬莢が宙を舞い、零距離で散弾を喰らった機体はたたらを踏んで後退する。が、致命傷ではない。


「ライオット3!」

「応」

 

間髪入れず身を沈めた格闘戦仕様――ライオット2の背後から、中距離戦仕様の機体、ライオット3が銃撃を放つ。

アサルトライフルとスラッグガンから、それぞれ高速貫通弾と大口径スラッグ弾が次々と放たれる。機体各所に弾丸が叩き込まれ、人型は完全に体勢を崩す。

そこに地を這うような低姿勢でライオット2が突っ込む。下から掬い上げるような拳は、機体の胴体に吸い込まれ、弾頭を炸裂させた。

空中に跳ね上がった機体が糸が切れた人形のように吹っ飛び、爆散する。それを尻目に2機は基地内を駆け抜けた。


「まず一つ! 次はどなたかな? 」

「調子に乗るな。そういう事を言っていると……」

 

ホイールとスラスターを駆使して高速でスライドしながら角を曲がる。

 

そこにはひしめく数多の機動兵器の姿が。

 

ヴウン、と一斉にカメラアイを光らせるその姿を見て、ライオット2が引きつった声を上げた。


「……これ、僕のせいかな?」

「……言わんこっちゃない」

 

盛大な溜息。そして。


『逃げろおおおおおお!』

 

2体は転進し、全速力で駆け出した。











「光学迷彩解除。各機、支援砲撃開始」

 

前線基地を見下ろす丘陵地帯の中腹。そこでゆらりと大気が蠢く。

次の瞬間には、カーテンを剥ぐかのように緑が消え、変わりに鋼鉄の巨人が次々と姿を現す。槍のように長大な砲を構えた機体が、一斉に狙いを付けた。


「ははっ、カモ撃ちだぜ! ライオット1、支援砲撃を開始する!」

了解アイコピー。ライオット4、追従します」


 









砲弾が、雨霰のように降り注ぐ。ライオット小隊の二機を追っていた人型の集団は、突然の攻撃に対処が遅れ次々と餌食となっていく。


「いい仕事だ! 張り切ってるねえ!」

「でなきゃ困るだろうよ」

 

スケート選手を思わせる滑走で敵を翻弄しつつ反転。浮き足だった敵陣に襲撃をかける。 獲物と狩人の立場は逆転し、数に勝るはずの敵が一方的に蹂躙されていった。


 









長大なライフルを背中に戻したブロウニング・ハイパワーが二丁のアサルトライフルを手に取る。


「ブリッド1より各機、突撃装備に換装! ブレード中隊と合流し敵勢力を制圧する!」

 

配下の返事を待たずに、ブロウニング・ハイパワーは先陣を切って駆け出す。

 

コクピットの計器類の光を反射し、単眼鏡がぎらりと瞬く。


 









月が沈む前に、“外宇宙侵略勢力の前線基地”が一つ、消滅した。


 









朝日の光を反射しながら、複数の大型輸送機がゆっくりと降下してくる。

瓦礫の山と化した前線基地の前で、GOTUI特務機動旅団遊撃第一中隊、及び第二中隊の機体が集結していた。

いくつかが周囲を警戒する中、第一中隊所属であるライオット小隊の全機が、片膝をつく形で待機している。その一番機のハッチが上がり、大きく背骨を伸ばしながらはい出る影があった。


「つあ~~、今日も無事に生き残りました、と」

 

ハッチ横の簡易昇降装置を使って降り立つのは、ライオット小隊の隊長を務めるライアン・チェント。本人は隊長職を嫌がっていたが上からの命令では仕方がない、渋々とその席に収まっていた。

肩をごきごきと鳴らしている彼の周囲に、ライオット小隊の面々が集まってくる。かつて1444小隊と呼ばれた面子。それがそのままシフトしてこの小隊は形成されている。集まったメンバー―フェイ・パイロン、ユージン・アダムス、ターナ・トゥースの三人は、それぞれの調子で語り合う。


「魔道兵様々、だね。余所じゃああいう奇襲戦法はとれないからなあ」

「我々も練度が上がっている……と思いたいな。とりあえず生き残っているだけだろうと言われたらそれまでだが」

「……まあ、頭が優秀だからってのもあるわよ。きっと」

 

何やら含むような口調で視線を余所に向けるターナ。野郎三人も釣られてそちらの方へと視線を向ければ、そこには追い付いてきた支援部隊の長と会話している女性が二人。

一型に身を包んだ肢体を惜しげもなく晒した、髪型以外はそっくりな容貌を持つ双子。

 

遊撃第一中隊長ブレード1、留之やいば。

 

遊撃第二中隊長ブリッド1、留之はずみ。

 

かつて従者の職に専念していた二人は、その面影をほとんど残さず戦士として戦場に立っていた。ただアクセサリーのように付けられたヘッドドレスと単眼鏡がその名残を見せているだけだ。


「有り難いと言っていいのか、微妙だがな。……ともかく無難に乗り切ったんだ、今夜辺りぱーっと……」

「今日の“貸し”を返してくれるのよね? ライアン」

 

雰囲気を変えようと殊更明るく振る舞うライアンの台詞に重ねて、背後から声がかかる。ぎょっとしてライアンが振り返れば、そこには防御衣を翻してふふんと胸を張る一人の女性の姿が。

パトリシア・レイリーズ。今回の作戦で重要な役割を負った、強襲魔道士部隊に所属する新米魔女である。彼女の発言に、ライアンは慌てた様子で反論した。


「おいちょっと待て、アレは確かに直撃だったが防御術式で防ぐまでもなかったぞ!?」

「なーに言ってんの、カメラ直撃したら一瞬でも視界が塞がれてたところよ? その一瞬の隙をつかれたらどうなってたのかな~」

「回避行動は取ってたつーの! 大体メインカメラに直撃喰らうようなドジ踏むかってんだ!」

「そう言う人間に限ってちょっとしたことで脚踏み外すんじゃない。むしろ感謝して欲しいくらいだわ」

 

ぎゃいぎゃい騒ぐ二人を見て、フェイは肩を竦め、ユージンは頭を振る。


「犬も食わないねえ、相変わらず」

「正直飽きたな」

 

ま、自分達にもそれなりに役得はあるかと、パトリシアの後を追ってきた女性魔道士たちの姿を見て二人は思う。僅かなりとも顔がだらけているように見えるのは、決して気のせいではない。

 

そんな感じで浮かれている三人を尻目に、ターナは鋭い視線を上司たちに向けていた。

強固な意志で、真っ先に戦場に飛び込み配下を鼓舞し、次々と戦果を上げる二人。彼女等ならば不思議ではない。以前からそのような雰囲気があったし、実際有能なのだから。しかし何だろう、違和感というか何か足りないような、そういう引っかかりがある。

喉に刺さった小骨を取り除くように記憶を漁っていたターナは不意に気付いた。

 

そうか、いつも見せていたあの柔らかい笑顔が消えたんだ、“あの時から。”

 

己の情の無さを感じたような気がして苦笑するターナ。忘れていたわけじゃない、けれど心を殺すほどに動揺しなかったのは確かだ。

 

空を仰ぐ。“もう”と言うべきか“まだ”と言うべきか、判断に苦しむ時間が過ぎてしまった。


 



















グランノアが、沈んでから。





















いきなりこんな展開になりましたが、皆さんついてきてますかー?

悪党に御仏の慈悲は不要。緋松 節です。


前回も悪のりしてましたが今回も悪のりします。その勢いが面白い方向へ行くように頑張りたいと思いますので、皆様宜しくお願いします。


果たして度肝が抜けるのか、無理か!?




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