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2 土地や区画の境界(ゲスト:塀紅猫

麗央那(以下、麗)

「全国56億7千万人の結界、緊縛術ファンのみなさま、ながらくお待たせいたしました。今日のゲストはなんとこの方、翼州よくしゅう公爵家の子女にして朱蜂宮しゅほうきゅう南苑の統括を務める、へい紅猫こうみょう貴妃殿下にお越しいただいております! わ~ドンドンパフパフ」


紅猫(以下、紅)

「なにがどうしてここに呼ばれたのかもわからないし、呼ぶにしてももっと華やかな方が他にいたのではないかとさっきからずっと考えている、塀です。麗、本当に人選の間違いではないのですか?」


「なに言ってるんですか。塀貴妃もその縛術も、なにげにファンが多いんですよ」


「ファンというのがよくわかりませんけれど……」


「SNSの感想で『もしこの人がいたら覇聖鳳討伐編とか一気に難易度下がるよね』って言われて作者は若干凹んだらしいです。まあ覇聖鳳は結界破りの異能を持っているので殿下の術は効かないでしょうけど、覇聖鳳の仲間をまとめて拘束できるのは素晴らしいですね」


「対象だけでなく周囲も含めて緊縛するのは、塀家の秘伝の中でも最奥たる技ですね。麗にはなぜか効きませんでしたけど」


「でもあれはマジでヤバかったです。けれど今日、お聞きしたいのは緊縛の方ではなくて、結界の方なんですよ。塀貴妃に緊縛術の講釈をいただいてしまうと、うちの軽螢けいけいが話すことがなくなっちゃうので」


「いろいろと事情があるのですね……わかりました、そちらのお話を頑張ってみましょう」


「まずは私が神台邑じんだいむらを最初に訪れたときに見た、邑の周囲をめぐる水濠みずほりと、その記念碑についてお伺いします。塀殿下のご先祖さまが濠を構えて区画を整備した、という認識でよろしいですか?」


「それで間違いないと思います。何代か前の州公が翼州を開拓した際に、築いた邑の一つが神台邑だったのでしょう」


「昂国になってからということは、そんなに古くはない?」


「そう思います。ですが、もともと小さな集落があった場所を再整備した記念に邑の名前を変更したのでしょうね。なにもないところにわざわざ水濠を作って結界を結ぶ意味はないので」


「昔から怪魔の出没と侵入で住民が困っていて、その声に当時の州公が答える形で結界が作られた可能性が高いのでは、ということですか」


「その考えが妥当かと思います。詳しいことは州庁の記録を照会すればもっとわかるでしょう」


「翼州公さまは代々お優しいのですね。民の声を丁寧に聞いて拾い上げている印象が塀貴妃の印象と強く繋がります。ありがたいことです」


「それほどでも……誰しも至らないところはあるはずですし、わたくしも人の上に立つものとしての自信には大きく欠けるところがあります。もっと堂々と毅然としなければいけないとは、頭では思っているのですけれど」


「塀殿下はそのままでいてください、マジで。押しの強い厄介さんはもう十分に足りています」


「はあ……麗なりに励ましてくれていると思っていいのかしら」


「もう一つお聞きしたいのは、後宮の建物や区画にも塀貴妃の防護術、結界術が強く掛けられているということでしたね。そのあたりのことを少し詳しくお教えいただいてもよろしいでしょうか」


「そうですね。朱蜂宮を守る外塀には、防火の術や禁足の術を要所要所に施しています。完璧なものではありませんけど、なにもしないよりは随分と災禍に対する守りの力が増す、というものですね」


「それがあったから覇聖鳳はせおの後宮攻めも思うように上手く行かなかった、ということなのでしょうか」


「わたくしは詳しく現場を見ていないのでハッキリとしたことは言えませんけど、多少の役には立ったのかなと思っています。ですけれど先に麗が話していた通りに、かの戌族の頭目は結界破りの異能を持っていたようなので、わたくしの術だけではいずれ朱蜂宮は侵されていたでしょう」


「みんなの力を合わせたからこそ後宮を守れた、ということですね!」


「ふふ、そうですね。消火や避難誘導に頑張ってくれた宦官たち、みんなの無事を祈っていたれん、そしてなにより、麗や神台邑の少年少女たちの勇気があったからこそ、夷狄の侵犯を撃退できたのは間違いありません」


「びえ~~~~ん、ありがどうございまずぅ、思い出したら泣いちゃった。私も頑張ったんです」


「わかっていますよ。はい、手拭」


「ぶちーん、ぐしゅぐしゅ。鼻水でガビガビになっちゃったので、洗ってお返ししますね」


「いえ、あげますので、返さなくていいです……」


「ところで塀殿下のような防護術の力は、塀氏に生まれた方ならみんな持っているものなんですか?」


「個人差はありますよ。わたくしはありがたいことに、一族の中でも力は強い方だと言われています。母方の遠祖に主上と同じ『涼氏』の血があるので、その影響だろうと」


「塀氏も涼氏も、八畜の中では『ひつじ』の氏族でしたね」


「ええ。未の末裔は結界を作る力と、その中で協調する力に長けている、と昔から言われています。実際に主上も……と、これはあまり他言しない方がいい話でした。聡い麗ならなんとなく察してくれるでしょう」


「主上の人となりや能力資質について、私たちがあれこれ言うのは不敬でありましたね。以後、話題の選び方には気を付けます」


「わかってくれてなによりです。主上は人の世における、たった一人の天子であられますから」


「あと私から聞きたいことと言えば、うちの軽螢も努力したり修業すれば、術の力が強くなるものなのでしょうか? 今は縛術しか使えないけど、そのうち結界術も使えるようになったり」


「期待させすぎるのも申し訳ないので曖昧な言い方になりますが、芽が出ないと決まったわけではない、としか」


「できるかもしれないし、できないかもしれない、ということですね」


「そうですね。誰でも得手不得手や向き不向きがありますし、突然、閃いたり気付いたりすることがあります。それがまったくないまま年月ばかり過ぎることも、あります。自分がどれだけ八畜の祖霊と繋がることができるかは、言葉にして他人に伝えにくい部分が多いのです」


「確かにいくら頑張って鍛えても、巌力がんりきさんや翔霏しょうひみたいに誰もがなれるわけではないですからね。個人的な現実パーソナル・リアリティみたいなものなのかな」


「ぱそなんとかというのはわかりませんけれど、その人にだけ見える世界と言うのが、誰にでもあります。わたくしにとってはそれが結界で、おう少年にとってはそれが緊縛の鎖術なのです。麗にだって、麗だけが見えている世界があるはずですから」


「思いのほか、深い話になってまいりました。私はたまに、いかついお兄さんと掴みどころのないお兄さんがバチクソに濃ゆいクソデカ感情をぶつけ合う幻覚が見えますね」


「なんの話ですか」


「おや、塀殿下はそちらの方面には疎いご様子で」


「どの方面なのでしょう。厳格な男性と言えば司午家しごけ玄霧げんむさま、とか?」


「そうです。相方はきょうさん、尾州の除葛じょかつ軍師とかですね」


「その二人になにか確執が? 主上の覚えもおめでたい有望な方たちですので、あまり仲たがいのようなことは起きて欲しくありませんね」


「それが、内心では色々とあるんですよ。語り始めるとざっくり十万文字くらいになっちゃうのでここでは端折りますけど、ぐつぐつと煮えたぎって己の身を焦がし尽くすような感情の熱量が」


「麗の見ている幻覚の話なのですよね?」


「そのはずなんですけど、あまり強く願いすぎてるせいで現実になっちゃうかもです」


「ごめんなさい、あなたがなにを言っているのか、途中からまったく分からなくなっています」


「ですよね。塀殿下はそもそも百合畑の人だし」


「別に、百合は育ててませんけれど……実家の庭ならあるかもしれません」


「私の個人的幻想の力が足りず、今回は塀殿下の百合の花が作る防壁を突破することはできませんでした。またいつか、深く語り合いましょう。いずれ沼に引きずり込んでみせます」


「沼に咲くのは百合ではなく蓮では?」


「うーん、この無垢なままの塀殿下でいて欲しい気持ちが半分、けれど腐った沼に引きずり込んで仲間になって欲しい気持ちも半分。素養はあると思うんですよね。同志を嗅ぎ分ける嗅覚は鋭いつもりです」


「ますます意味がわからなくなりました。そろそろ漣の部屋にお茶をしに行く時間なのでわたくしはこのあたりで」


「本日はありがとうございました。今はせいぜい麗しい百合畑をせっせと育ててくださいませ。いずれこちらの世界に。腐腐、腐腐腐」


「この子をどうにかして欲しいと前から思っているけれど、ハッキリと司午貴妃にそう言えない自分の気弱さが哀しい塀でした。それではみなさま、ごきげんよう」


「私は百合もイケるクチなので、翠さま×塀貴妃、もしくは左右逆も全然アリです。それではまた次の回まで、ご機嫌よう~」


「漣……よくこの子とひと月も一緒に寝起きしてましたね……」


                               (つづけ

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