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春夏秋冬の公式企画集

お散歩大好き、柴犬ハナちゃんの夢

作者: 大野 錦

 どうしても童話だと、動物を出してしまう筆者。

 ご一読よろしくお願いします。

お散歩大好き、柴犬ハナちゃんの夢



「う、う~ん。まだ眠いよぉ。さっきまでガタゴト揺れていたけど、今は揺れていないよね」


「ガサゴソ。パカッ!」


「うわっ、なに? 上が開いた!」


「ハナちゃん。ここがあなたの新しい家だよ」


「あたちは、箱の中から、抱きかかえられ、女の人に持ち上げられた」


「ハナ。よろしくね!」


「男の人から、あたちを抱えている女の人が渡して、言われた」


「あたちは『ハナ』という名前らしい。この女の人と男の人は、あたちのママとパパのようだ」


「まだ生後3カ月だから、散歩はむりだな」


「半年になったら大丈夫?」


 ママとパパがそんな話をしています。

 ハナちゃんは生後3か月の柴犬の女の子です。



「よし、ハナ! 散歩に行くぞ!」


 朝はパパがハナちゃんの散歩の担当です。ハナちゃんは生後半年。パパといっしょにちょこちょことお散歩をします。

 動物を飼ってもいいマンションに戻ると、ママとパパは大忙し。

 ハナちゃんのごはんを用意し、ハナちゃんが食べ終わったら、それを片付け、ふたりとも朝の8時には、スーツに着替えてマンションを出て仕事に行きます。


「ハナ。いい子でね」


 ママとパパはそろって、居間にあるケージの中のハナちゃんに言いますが、これからはハナちゃんの退屈な時間。

 何もすることがないので、ハナちゃんは寝てしまいます。


「あたち、もっとお散歩がしたいな~」


 誰かに連れられ散歩をする夢を見るハナちゃん。

 いっしょにいるのはママでもなく、パパでもなく、小さい子供のようでした。


 だいたい午後の6時前にママは帰って来ます。

 ママの職場はマンションから近いからです。

 なので、夕方のハナちゃんの散歩はママの担当。


 でもママとパパのお仕事がおやすみの日には、ペットがいっしょに入れるレストランで犬用のごちそうを食べたり、ドッグランに行っていっぱい走ったり、もちろん一日中家族3人で、家の中ですごすこともあります。

 このママとパパがおやすみの日が、ハナちゃんにはもっとも楽しい日なのでした。



 ハナちゃんがこの家の家族になって、1年以上が経ちました。

 何とママのお腹は何カ月も前から大きく、ママは2カ月ほど前から、仕事に行かず、ずっとマンションにいます。


「わーい。ママがずっと家にいる! でもママのお腹だいじょうぶかなぁ?」


 ハナちゃんは心配します。


 このころから朝と夕のハナちゃんの散歩はママが担当していますが、ママの歩きはおそいので、ハナちゃんは不安になります。


「ママ、病気なの? 歩くのおそいんだけど…」


 それからほどなく、ママはいなくなりました。病院に行ってしまったようです。

 ハナちゃんの面倒はパパがします。

 パパはお仕事の特別な休暇をもらっているそうです。


「ハナ。お前の妹か弟が来るぞ。どっちがいい?」


 パパにそう言われますが、ハナちゃんはさっぱり。


 ママが病院に行ってから数日後、パパも病院に行き、帰って来たパパはハナちゃんにこう言います。


「ハナ。妹だ。お前の妹がこれから来るからな!」


「…いもうと? なにそれ? あたちわからない」



 ママがパパと一緒に帰ってきました。

 ママは小さな人間を抱いています。

 ハナちゃんはびっくり!

 でも、散歩のときにこんな小さな人間を抱いていた人をたまに見ていたな、と思います。


「ハナ。お前の妹だよ。名前は『さくら』に決めたんだ」


 パパがハナちゃんを抱きかかえ、「さくら」を抱いているママに近づけます。


「この子が、あたちのいもうと…?」


 初めはふしぎでしたが、しだいにハナちゃんはさくらちゃんを大好きになっていきます。

 ママが洗濯物の取り込みや、台所で洗い物をしているときは、赤ちゃん用ベッドにいるさくらちゃんを見守るのが、ハナちゃんが自分で決めたお仕事です。

 だって、あたちはお姉ちゃんだから!


「なにか、さくらちゃんにおかしなことがあったら、ママに知らせないと!」


 ハナちゃんの大好きな散歩は、あいかわらずゆっくりです。

 ママがさくらちゃんをベビーカーにのせ、押しながらの散歩なので、ゆっくりなのです。

 本当はおもいっきり小走りで散歩したい、ハナちゃん。

 でも我慢します。

 だって、あたちはお姉ちゃんだから!



 さくらちゃんが産まれて1年が経ちました。

 ママは職場復帰するので、さくらちゃんを保育園にあずけてから、出勤をします。

 もちろん、パパは朝のハナちゃんの散歩のあとに、すでに出勤をしています。


「あ~あ。またあたちだけだ。しょぼん…」


 居間のケージの中で、することがないハナちゃんは、みんなが帰ってくるまで、ずっと寝てすごすのでした。


「ハナちゃん! はやいよ~! もっとゆっくり!」


「もうおそいんだから~」


 夢の中。ハナちゃんがこの家に来たときに、よく見ていた夢です。

 小さい子供といっしょにお散歩をする夢。

 でも、この子供。うっすらとしか顔はわからないのですが、ハナちゃんにはとても大切な子のような気がします。


「ハナちゃ~ん。うわぁ~い」


 ある土曜日。おやすみなので、朝から家族はそろって居間でくつろいでいます。

 2歳になったさくらちゃんが、ハナちゃんにむかってテクテク歩いて、抱きしめます。


「さくらは、ハナのことが好きなんだな~」


 パパがハナちゃんの耳をひっぱったりするさくらちゃんを見て笑っています。


「あのねパパ。笑ってないで助けて。妹ちゃんの愛がきつすぎる…」


 パパが何か思いついたように、ママに言います。


「そろそろ、さくらとハナをいっしょに散歩させるか」


「えっ、この辺りで? 人通りや、自転車が多いけど?」


「ほら、あのハナをよく連れていたドッグランの施設。あそこは子供専用のコースもあるから、そこでさくらとハナを遊ばせよう。明日行こう!」


 パパとママがなにやら決めたようです。



 翌日の日曜日。一家は車でドッグランの施設へ。

 パパが運転して、助手席はチャイルドシートのさくらちゃん。

 後ろの座席にはママとキャリーケースに入ったハナちゃんです。


「あっ! ここいっぱい走れるところだ!」


 駐車場で車を降り、ケースから出されたハナちゃんは思い出します。

 一家は施設に入ると、いくつかあるコースの中のひとつに入ります。

 そこは一番小さい広さのコースで、小型犬や中型犬に対して、リードを持つ子供たちがゆっくりと歩いています。


 さくらちゃんはハナちゃんのリードをパパから渡されました。


「さくら、みんながやっているみたいに、ハナといっしょに歩いてみな」


「えぇ~、パパ。大丈夫? さくらちゃんができるわけないでしょ」


 さくらちゃんは周りの犬や子供たちに注意が向かい、リードをポトッと落としてしまいます。


「ほらっ! まだまだ妹ちゃんにはムリなのっ! あたちは広いほうでいっぱい走りたいんだから!」


 さくらちゃんに声をかける女の子がいました。


「大丈夫? 両手でしっかり持ったほうがいいのかも?」


 その女の子は小学校3年生くらい。女の子が持つリードには黒柴さんがいます。

 黒柴さんは、顔の下部分や、お腹や、前や後ろの脚の内側は、明るい茶色と白です。

 ハナちゃんは、頭から背としっぽが明るい茶色。顔の下部分や、お腹や、前と後ろの脚の内側は、ほとんど白です。


 きりりとしたお顔の黒柴さんが、ハナちゃんに声をかけます。

 男の子でハナちゃんと同じ齢くらいのようです。


「ボクはこのお姉ちゃんからお散歩を教わったんだ。だからキミは妹ちゃんにお散歩を教えないとダメだよ」


「えっ、お姉ちゃんから教わったの? いいな~。あたちもお姉ちゃんが欲しかった」


 コラコラ、ハナちゃん。そんなこと言ったらダメでしょ。


 さくらちゃんは女の子からしっかりとリードを持たされて、ちゃんと準備ができているようです。


「ハナちゃん。ゆっくり歩くんだよ」


 黒柴くんから注意を受けたハナちゃんは、ゆっくりと前に進み、女の子がさくらちゃんを助けるように、後からついて行くことを教えます。


 テクテクテクテク。


 それは、とてもゆっくりとしたものでしたが、たしかにハナちゃんとさくらちゃんの散歩ができていました!


 パパはその様子をスマホで撮り、ママは手伝ってくれた女の子にお礼を言っています。

 女の子のお母さんも現れ、ママさん同士で会話がはずんでいるようです。



 ハナちゃんと黒柴くんは、一番広いコースへと入り、リードを解かれめいっぱい走りまわりました。


「ハナちゃん、はやい!」


 パパに抱っこされ、走りまわるハナちゃんを見て、さくらちゃんはそんけいのまなざしを向けます。

 黒柴くんのママとお姉ちゃんの女の子もいっしょに見ています。


 そして、たくさん遊んだ、ハナちゃんたちは帰ることに。


「あたち、お姉ちゃんだから、妹ちゃんにこれからお散歩いっぱい教えるね」


「うん、がんばってね。ハナちゃん」


 黒柴くんたちも帰るので、駐車場でお約束をしました。


 家に着いたのは、午後3時過ぎ。

 ママは夕食の準備。

 パパはお風呂の準備をして、さくらちゃんとハナちゃんと居間で遊ぼうとしますが、どちらも疲れからかうとうと。

 居間に置いてある大きなクッションの中で、こてんと一緒に寝てしまいました。


「ほら、見てみな。どっちも楽しそうな顔で寝てるぞ」


「本当。同じ夢でも見てるのかな?」


 どちらの夢の中でしょう。あるいはママが言ったように、同じ夢なのかもしれません。


 ハナちゃんが小走りにさきに歩き、リードを持つさくらちゃんがついて行きます。


「ハナちゃ~ん、もっとゆっくり~」


「さくらちゃん、ちゃんとリードを落とさず、周りに注意してついてきてね! だって、あたちはお姉ちゃんだから!」


 夢の中で、早くもお散歩の練習をする姉妹なのでした。



お散歩大好き、柴犬ハナちゃんの夢 おしまい

 今年(2023年)は「秋の歴史2023を全部読んでみる」なる無謀なチャレンジをしました。

 来年、というか、もうこんなことはやりません。


 基本読み専とはいえ、一年間の投稿が、春推理・夏ホラー・秋歴史・冬童話の4作だけだと、ちょっとさびしいので、

 私のPC内で長年エタっている作品群のいくつかを完成させて、この春夏秋冬にプラス最低でも1作のアップを来年(2024年)の目標とします。


 では、みなさま、よいお年を。



【読んで下さった方へ】

・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。

・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。

・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。

・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。

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【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
思春期の物語を書くときに「わたし」と「あたし」を、童心、幼さ、無邪気さ、素直さを表現するため使い分けることを、考えたことがあったのですが、「あたち」は、思いつきませんでした。 黒柴は、小さい豆柴を思…
[一言] ハナちゃん、すっごく可愛らしい! 家族皆仲良しさんでほのぼのしました。
2023/12/31 08:10 退会済み
管理
[一言] これまで拝見した作品とはガラリと変わった愛らしい作風、その振り幅に脱帽です 愛らしい姉妹を微笑ましく描いたお話を有難う御座います
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