旅
赤いトランクにいっさいがっさいつめこんで、彼女は旅に出た。
小型機に乗ってパリの上空を飛んだり、客船に乗って七つの海を超えたり、自由気まま、あてもなく、旅をした。
風は彼女を彼方へといざなう。
もっともっと遠くへ行こう。
宇宙港に着いた。
「お嬢さん、本気ですか?もう帰ってこれないかもしれませんよ」
「いいの。大好きだった人は、もういないから、ここ(地球)にいる意味はない」
宇宙へ!
あまりにも遠く、気が遠くなりそう。
「私はなんてちっぽけな存在なのかしら?」
それでも、生まれてこれてよかった。
大好きだった人たちに囲まれて幸福だった。
一筋の涙が頬をつたった。
「キャプテン、彼女、泣いてますぜ」
「嘘言うな。d3型ロボットは泣く機能はついてないはずだぞ」
そして、自殺する機能もついてない。
だから、ただ、遠くへと旅をするだけなのだ。