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面倒な男

作者: 聖なぐむ

気がつくと真っ白な場所にいた。


あれ?今さっきコンビニから出たところだよな?

あぁエコバッグは持ってるわ。やっぱりコンビニから出たところだ。


仕事終わりなので吊しで買ったペラペラの安物スーツ。ネクタイは丸めて背中のリュックサックに詰めた状態。そのリュックサックもある。中には糞重い会社支給のノートパソコン。

いつもの通勤スタイルだ。コンビニで買った晩飯も含めて不足はない。


で、ここはどこだ?




「ようこそ、選ばれし者よ」


は?


いつの間にか、正面に女性が立っていた。

透けるような乳白色の薄いドレスをまとった、白っぽい金髪の美人だ。

……なんだ?痴女か?


「ち、ちじょではありません……わたくしはあなたの住む世界と異なる地を守護する女神です」


美人の顔が歪む。

なんだ?俺の考えが読めるのか?

美人は再びツルンとした無表情に戻った。


「あなたは勇者として選ばれ、異世界の安寧を取り戻すべく旅立つのです」


は?やだよ。



「……」


明日のプレゼン資料仕上げなきゃいけないんだから。俺は帰る。


「……す、すでに、あなたはあなたの世界と切り離されました。もう戻ることはできません」


はぁん??

俺はエコバッグの中から猫缶を取り出して美人に突き付けた。


い い ? う ち に は 可 愛 い 仔 猫 が い る の !

俺 の 帰 り (と飯) を 待っ て る の !


わかる?!身ひとつでホイホイ異世界召還されてお気軽に承れるような天涯孤独な立場じゃないわけ!

ペット飼う責任軽くみてる?まさかあんたもペットを「器物」扱いするクチ??


「そ……それは……」


ペットだけじゃないよ。俺はひとりっ子だからな。将来は両親の介護も視野に入れて人生設計してんだよ。

それに明日のプレゼンは俺だけじゃなく、課全体の威信を掛けた勝負なわけ。俺ひとりの問題じゃないの。チームで仕事してんの。あんた自称女神なくせに、そういう、任された役割に対する責任とか想像できないの?


「……」


……はぁ。まぁ言い方きつくなっちゃったけど、こういう非常識な割り込み案件は困るんだよね。正直。


「…………なんか…………なんか反応がおかしいのでは?!もう少しあるでしょう……こう……困惑とか、衝撃とか!」


お?逆ギレか?


「だって!あなたの反応は変です!」


変なもんかい。スカウトだって名刺だけ渡して一回持ち帰らせるだろうが。なんであんたらは唐突に、かつ強制的に他人の人生どうこうできると思うんだ?


「め、女神だからです!」


知らねぇよ。初対面で実績も知らん自称女神に、説得力も拘束力も強制力もねぇよ!うぬぼれんな!


「そんな言い方しなくても……!」


泣くな!

まったく、あんたらはいつもそうだ。泣きつけばお人好しの異世界人がホイホイ人生投げうって駆けつけてくれると思ってるだろ。思ってるよな?

異世界転移とか輪廻転生とか多神教思想に一定の理解があるからって、気軽に日本人をターゲットにするのもやめろ。説明省きたい魂胆見え見えだからな?


「だって、だって、そもそもわたくしたちが神であることすら認めてくださらなかったり、死後に異世界へ転生する流れの説明を「教義と異なる」とまったく聞いていただけなかったり、いろいろあったので……今の神界では「喚ぶなら地球の日本人」が定番化してて……!

……いえ、いいえ……!あなたは先ほどから何を仰っているのですか?!まるで以前にもわたくしのような、異世界の神と対面しているかのような!」


今までどんだけの異世界召還が行われてると思ってるんだ?あんたら、どうせ統計とか記録とか共有してないだろう!報・連・相は常識だからな??


俺は過去に転生5回、召還転移4回、「異世界の都合」に巻き込まれている。転生担当のリサイクル業者みたいな神とはこの辺のすり合わせを何回もやってて転生後の人生には介入するなと上席含めて確約してるんだが、途中途中にあんたのような地方移住マッチング業者が割り込んでくる。いい加減にしてくれ。


「マッチング業者ではありません!女神です!…………あ、あの……まさかとは思いますが……転生担当というのは……」

『わしじゃ』

「ひぃっ……!!!」


美人の隣に、ぬるっと現れる黒衣の老人。

この人生を始める前にも会った、リサイクル業者の社長だ。


『誰がリサイクル業者の社長じゃ……相変わらずのようじゃな』

「創造主……!!」


美人は透けそうなドレスをヒラヒラさせながら、何もない白い床に踞った。そのドレス背中側も丸見えじゃないか。痴女の着るやつだぞ。


『あまりこの者をいじめないでやってくれ。まだ若いのだ』


いじめてないだろう。


『女神よ。この者の魂は、繰り返しの転生により神界での足留め時間が永かったが故に、通常の魂より力が強く、勇者召還に抽出されやすい。気を付けるように、そなたら異世界の守護神にも勧告が回っていたはず』


おお。きちんと報・連・相対応はしてくれていたのか。


『……この者は異世界に喚び落とすと、その地に新たな信仰を興して、そなたら守護神の力を奪うと』


前回の異世界召還の担当神、俺の話も全く聞かずにさっさと放り出されたのがムカついたので、全力で教祖として神の代替わりを喧伝し、架空の奇跡をばらまき、一神教の立場を奪いとってやった件だな。

あの世界は結局どうなったんだ?


『……いまだにそなたを真なる神と崇めておる……。元の守護神は神としての力を失い、廻る命としてやり直しじゃ』

「ひぃっっ!」


へぇ。


『そなた、近いうちに神としてあの世界を治めてもらうからの』


え、それは嫌だ。


『身から出た錆じゃ。今は守護者が不在でも、熱心な教団が積極的に地を治めておる。しかし、神がおらねばいずれ世界の理が崩壊するからの。次の転生で魂を神仕様に練り直すから覚悟せぇ』


そうなると、人間やるのは最後ってことか?……はぁ。


『ほれ、元の世界と繋ぎ直すぞ。ぷれぜんとやら、頑張るがよい』


サンキュー社長。

コンビニ出たところからだよな?助かるわ。あ、そこの痴女の教育ちゃんとしといてね。


じゃあ……また。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スッキリスカッと心地良い。読みやすく楽しめました。誤字脱字無くおかしな言い回し無くオチ迄スムーズに安心して読み進めます。 「面倒な男」でしたが、「面倒な女」も面白そう。面倒な女を数十人に黒…
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