討伐
「エイジ?起きてください。」頬を軽くつねられる。我に帰ると俺は馬車に乗っていた。
「また寝てたのか!」と屈強な黒髪の男が笑う。俺も苦笑する。
「そろそろ険しくなってきたから歩くことになる。顔洗っとけよ。」赤髪の青年が隣の馬車から俺に叫ぶ。
「いや、その必要はない。」俺はそう言うと馬車を止めさせ一人で降りた。わざわざ歩くのも面倒くさい。俺は屈んで地面に膝をつき、地面に手を当てて魔力を込める。
するとたちまち地面が揺れ動き隆起し道ができる。その道が迫り上がって行き山頂まで続く緩やかな道路が出来上がった。
「これを登ればいい。体力は温存するべきだ。」そう言ってさっきまでなかった道を指差す。
「馬の体力が持たないよ。」馬を操っていた褐色黒髪の女が言う。
「なら、体力をつけてもらおう。」俺はそう言って馬に触れる。疲れの色が見えていた馬はたちまち元気を取り戻し脚も前より太くたくましくなった。
「道と馬を作り変えた。これで楽に進めるだろう。」そう。これが昔俺がノーラに貰った力。触れたものを任意で作り変えられる能力だ。
「そろそろ着くよ。」馬を操る女が全員に呼びかける。それを聞いたメンバーたちは思い思いに肩を動かしたり深呼吸をしたりする。
「気配を感じる。近いぞ。」犬のような頭の男が叫ぶとメンバー全員に緊張が走る。
「馬を破壊されないように降りて接近する。計画通りこのまま散開して数の利で囲んで叩くぞ。このパーティーのリーダー格の赤髪の男に四人が付いて行き、俺が二人を連れて後方に回り込む。
俺の班は俺と、青髪の少女、褐色の女の二人だ。それぞれ魔術師と魔物使いであり、撹乱には最適だ。位置に着く。作戦開始は後方の準備が整ったタイミングだ。上手く魔竜の注意を惹き、そのタイミングで腕っぷしの強い四人が奇襲する。上手く背後を取ることができれば犠牲もなく討伐が可能だ。二人が位置についたのを確認する。例の魔竜は大体体長10m前後といったところでそれほど大きくない。よし、作戦開始だ。褐色の女が角笛を吹く。すると森からたくさんの魔物が俺たちをすり抜けて魔竜に殺到する。魔竜は驚きこちらに視線を向ける。今だ。青髪の魔術師が閃光弾のようなものを三発打ち上げる。「目を閉じて!」
キィィンという爆音とともに打ち上げられた光が眩しく光。俺たちは計画通り目を閉じていたが、魔竜や呼び出された魔物はまともに閃光を喰らってしまい、小さな魔物は失神し、魔竜も狼狽えている。その後ろから四人の同時攻撃が開始される。
「ダメだな。」俺は呟く。四人の攻撃は魔竜に傷を負わせたように見えたが、実際は浅い。
魔竜は一度咆哮を放つと首を後ろに向ける。後ろで次の攻撃を繰り出そうとしていた金髪の女剣士と目が合う。「ひっ」女剣士が悲鳴を上げる前に魔竜の口から放たれた火炎放射にも光線にも見える攻撃が彼女に直撃する。鏡のように磨かれた鎧も美しい髪も絹のような白い肌も全てが焼け落ちた炭人形が力無く落下していく。「よくもアリスを!」そう言って屈強な黒髪の男は大剣を大きく振りかぶり飛びかかる。しかし、魔竜は尾を一振りする。男はそのまま上半身と下半身を切り分けられ地面に落ちていった。
「一旦退がるぞ!」赤髪の青年は叫ぶ。獣頭の男はすんでのところで尾をかわすと後方に飛び退いた。そのまま二人は俺たちがいる方に駆け寄ってきた。
「あいつ強すぎるぞ!」赤髪の男は今にも泣き出しそうな声で叫ぶ。
「あの二人、かすかに息がある。今助ければ間に合うかもしれない。」獣頭が冷静に呟く。
状況を見て俺は静かに呟く。
「これはお前たちと、あの魔竜の正確な力を測定できなかった俺の責任だ。俺がカタをつける。」
そう言って一人で魔竜の前に踏み出す。
「彼らほどの戦士たちをここまで打ちのめすとは。どうやら予想以上だったようだ。」
魔竜は怒り狂うように先ほどの女剣士に放った攻撃を俺にぶつける。
高熱と酸か。だが問題ない。俺は今さっきお前の攻撃が通じないように自分の身体を作り変えた。そして、魔竜の後ろに聳え立つ岩山が大きく脈動する。
「俺は既にこの岩山を作り変えている。」岩山から大きな手が出現して魔竜を掴む。掴まれた魔竜は苦しそうにもがく。
「この岩山はもう俺の手だ。」魔竜の体がどんどん砂になって消えて行く。魔竜は最期の断末魔を残して砂山に作り変えられた。
「うわぁ、すっごい。」青髪の魔術師は半分引いたような顔で俺を見る。
「早く二人を助けよう!」赤髪のリーダーが言ったので俺も同意する。治療自体は難しいものではない。男の場合は切断面を作り変えてくっ付ければ下に戻るし、焼け焦げた女剣士は焼け落ちた組織と同量の砂をまぶして健康な組織に作り変える。失った血液も砂で代用すればいい。
おっと、服を忘れるところだった。




