ノーラ
俺は草原に倒れていた。真夏だというのに心地よい気温で半袖半ズボンの俺には少々肌寒く感じた。
「おい、大丈夫かい?」若い女性の声がする。ゆっくり声のする方を見る。女性が立っている。外国人みたいな顔だ。
「そんなところで寝ていたら魔物に食べられてしまうよ?」銀髪の女性は優しく微笑んだ。
彼女は自身をノーラと名乗った。彼女は俺についてこないかときいてきた。知らない人にはついていくな。鍵をしっかりかけておけ。と教えられていたが、休日の寂しさに負け俺はノーラについていった。しばらく彼女と一緒に歩いたがまるで夢とかゲームのような世界だった。少し山の中にある小屋に入った。ノーラは家がどこか尋ねられてもわからない俺に、何か思い出すまでここにいたらいいと言ってくれた。はっきり言ってこの世界は怖かった。見たこともない植物や見たこともない文字に溢れていたからだ。俺は今までこういう場所にいて俺はこういう人間で…ということをノーラに必死に説明した。結局彼女は俺が何を言いたいのかわからなかったようだが、興味深そうに俺の話を聴いてくれた。それから四日俺はノーラの家で過ごした。そこで食べたお粥のような料理はちょっと味が薄かったが甘味があり不思議な味で新鮮だった。ノーラは俺に色々な話をしてくれた。きいたことのない昔話や、どこかできいたことがあるような勧善懲悪の物語。俺も桃太郎、浦島太郎、カチカチ山みたいな知っている童話を彼女に教えた。彼女は興味深そうにその話をきいていた。俺はその時気付いた。俺は母を失って埋めることのできなくなった心の空白を今ここで埋めている。夢だろうがなんだろうがこれでよかった。夢だったとしても、目覚めたら忘れてしまうにしても。突然視界が揺れ始めた。地震みたいだ。意識が薄れて行く。「エイジくん?」ノーラの言葉が最後に聴こえる。俺はもう夢から覚める。さようならノーラ。




