9.不純物 【陸視点】
おや、陸の様子が?
ボクは和也くんに会うために学校に毎日通うようになった。
そのおかげなのかボクにも友達ができた。
ボクと同じ部活の村山麗佳ちゃん。
ボクは元々運動が得意ではなくて、体育の授業も苦手だったけれど、部活は強制ということもあり渋々ながら女子テニス部入ることにした。
幽霊部員と化していたボクであったが、和也くんと再会してからは部活にも参加するようになった。
和也くんのことを想いながら体を動かすと気持ちが高ぶって、とってもいい気分になれることをボクは知った。
麗佳ちゃんはボクと一緒で、親の仕事の関係で引っ越しが多く、ボクと出会うまで友達呼べる人がいなかった。
似たような境遇だったこともあり、ボクは麗佳ちゃんと馬が合った。
和也くんが輝しい思い出を共有できる相手ならば、麗佳ちゃんは悩みを共有できる相手だった。
ある日、ボクは麗佳ちゃんから相談を受けた。
「私、同じクラスの男の子から告白されちゃった」
「そうなの!?」
「うん。それでね、その告白は断ろうと思うんだけど」
「え、なんかもったいない気がするけど……」
ボクは告白なんてされたことがない。
和也くんと邂逅を果たすまで、ボクは他人に慕われることはなかった。
麗佳ちゃんも引っ越しのせいで人から慕われることなどなかっただろう。
せっかく人から恋慕されているのだから、告白を受ければいいのにと思ってしまう。
「もったいないなくなんかないよ。だって、渋沢くん……あ、ええと私に告白してきた人ね、その人ちょっと怖いんだもん」
「怖い?」
「渋沢くん、私の趣味とか好きなものとかしつこく聞いてくるの。それで私が音楽が好きって言ったら、吹奏楽部に入ったんだよ? 小学生の時は野球やってたって言ってたのに」
「確かにそれは……」
聞くところによると、麗佳ちゃんに告白してきたのは渋沢亮という男子。
麗佳ちゃんは渋沢と同じ委員会だから、断った後に気まずくなってしまうのは避けたいらしい。
別に勝手に告白してきたのは渋沢なのだから、麗佳ちゃんが気にする必要はない。
それに人間関係なんて、一度切れてしまえば基本的にそれっきり。
だって、ボクがそうだったんだから。
「断って大丈夫なんじゃないかな? 一回断ればしつこく聞いてくることもなくなると思うよ」
「そうかなあ……。いや、そうだよね。私断るよ」
麗佳ちゃんは一瞬迷ったが、ボクの言葉を聞いて納得したようだった。
これで麗佳ちゃんの悩みはなくなる。
この時ボクはそう思っていた。
けど、そうはならなかった。
「俺、渋沢って言うんだけど。君、村山さんの友達の大宮さんであってる?」
麗佳ちゃんにフラれた渋沢は突然ボクのところに来た。
「いきなりごめん。不躾なのはわかってるけど、村山さんのこと教えてくれないか?」
渋沢がボクのこと誰から聞きつけて、ボクの前にいるのかはわからない。
彼はボクから麗佳ちゃんのことを聞き出し、告白を再チャレンジしたいようだ。
焦燥感があるのか、渋沢の息は少し荒い。
「ごめん、ボク麗佳ちゃんのことあまり知らないんだ。他の人に聞いて」
ボクは嘘をついた。
麗佳ちゃんのこと話したりしたら、ボクが麗佳ちゃんのことを売ったみたいになる。
それに渋沢には麗佳ちゃんのことを教えてはいけない気がしたのだ。
「ごめん、それじゃあ」
ボクは渋沢の前から立ち去ろうとした。
「待て!」
急に腕を掴まれる。
引っ張る力はとても女の子のボクに向けるものではなかった。
ボクはその力に抗うことができず、背中から地面に倒れてしまった。
「うぅ……」
地面は固く、ボクは息ができなくなる。
息ができないボクは仰向けになったまま動けなくなってしまった。
「ご、ごめん!」
渋沢はそんなボクを見ても助けるようなことはしなかった。
それどころか、逃げるようにボクの前からいなくなった。
「大丈夫!?」
ボクたちは教室の前の廊下で話をしていたこともあって、何人かの生徒がその様子を目撃していた。
その内の一人が慌てた様子でボクに駆け寄ってきた。
美里ちゃんだった。
ボクは美里ちゃんに保健室まで連れていってもらい、ベッドに寝かせてもらった。
美里ちゃんはボクのことを忘れていたけれど、ボクのことを介抱してくれた。
この時ボクは愚かな考えをしてしまった。
美里ちゃんはボクのことを思い出してくれるかもしれない。
彼女にとってボクがどうでもいい人間なら、助けてくれることなんてしないはずだ。
彼女とこれから仲良くしていけば、また友達になれるかもしれない。
そんな幻想を抱いてしまった。
「あなたはたしか……村山さんの友達よね?」
「……」
辻堂はボクが入学式の日に声をかけたことも覚えていなかった。
ボクは麗佳ちゃんの友達だ。間違いない。
だけど……だけど……。
お前とも友達だったんだよ!!
ボクは辻堂に抗議の目線を向けるが、意に介していない。
彼女がボクのことを助けたのは、ボクが苦しそうだったから。
困っている人がいたから助けた、ただそれだけ。
他に意味なんてない。
プルルル♪
唐突に電話の音が鳴る。
ボクの携帯ではない、どうやら辻堂の携帯のようだ。
「もしもしカズくん。どうしたの?」
辻堂はボクに断りなく電話にでた。
傍にボクがいるというのに。
そしてボクの和也くんと話しをしている。
「今日の夕飯八時なるの? うん、わかった~」
ボクには一つ疑問があった。
どうして和也くんは保健室に来てくれないのか。
その答えは目の前にあった。
辻堂が和也くんを独り占めしていたのだ。
辻堂は、ボクのことを忘れていたというのに、ボクよりずっと長い間和也くんと一緒にいられたというのに、和也くんと同じクラスだというのに、和也くんといつも一緒にご飯を食べているというのに、ボクは和也くんに会えなくて寂しかったというのに、やっと和也くんとボクが再会できたというのに、和也くんはボクに気付いてくれたというのに、ボクには和也くんしかいないというのに、和也くんはボクのものだというのに、和也くんはボクの幼馴染だというのに、和也くんはボクの世界だというのに、ボクから『幼馴染』を奪おうとしていた。
許せない許せない許せない許せない許せない!
辻堂は、ボクと和也くんの世界を構成するのに最も重要な思い出という宝石に混じった不純物。
不純物は取り除かなければならない。
ボクは辻堂を排除することを決意した。
和也くん、待っててね。
辻堂美里を取り除いてボクと君の世界を完璧にするから。




