8.幼馴染は世界 【???視点】
新キャラの登場です。彼女も結構変わっています。
ボクには友達と呼べる人が殆どいなかった。
理由は至って単純、知り合ってもすぐに別れの時が来てしまうからだ。
父親の仕事の関係上、ボクは引っ越しが多かった。
ボクはそのせいで三年以上同じところに住んだことがない。
知り合いだった子達は、ボクが引っ越すとボクのことなんて忘れてしまったのか、連絡をくれなくなることが多かった。
たまに連絡をくれる子もいたけれど、時間が経つに連れてそれもなくなった。
住む場所が変わると、それに伴い人間関係がリセットされてしまう。
引っ越しの度に人間関係を一から築いていかなければならず、既に出来上がっている友達の輪に入っていくのは、ボクにとって相当な勇気がいることだった。
毎回心をすり減らし、たとえ知り合いになってもすぐにパーになってしまう。
そのこともあって、ボクは引っ越し先で新しく友達を作ろうとするのを止めた。
もう人と関わること自体が面倒になってしまったのだ。
でもボクは寂しかった。寂しくて堪らなかった。
もし、仮にボクが居なくなってしまったとして、家族以外でボクのことを心配してくれる人はいるんだろうか……。
家族がいなくなってしまったらボクはどうなってしまうんだろう?
誰にも気にかけてもらえず、独りのまま人生を終えてしまうのかな?
そのことを考えるとボクは夜も眠れなかった。
そんなボクにも幼稚園の頃は友達がいた。
その友達は北村和也くんと辻堂美里ちゃん。
和也くんは、いつも一人いるボクを遊びに誘ってくれた。
美里ちゃんは和也くんにべったりだったけれど、ボクともよく遊んでくれた。
難しいことは何も考えず、ただ友達と幼稚園で遊ぶ毎日。
人との関わりを捨ててしまったボクにとって、それがボクにとって唯一の友達との思い出だった。
幼稚園を卒園すると、引っ越しもあってボクは二人とは別の小学校に通った。
二人とは連絡先を交換しようとしたけれど、その時初めての引っ越しだったということもあって、バタバタしてしまい結局交換できなかった。
ちなみに、ボクはその小学校からも一年もいないうちに転校した。
ボクは小学校を卒業するまでの間、転校を繰り返した。
中学生になる頃、和也くんと美里ちゃんと一緒に過ごした幼稚園がある町にボクは戻ってきていた。
あまり思い入れのある場所ではなかったけれど、また二人会えるのではないかと思い、ボクはウキウキしていた。
そして中学の入学式の日、ボクは見覚えのある女の子を見かけた。
ボクは急いでその子に駆け寄り、声をかけた。
「美里ちゃん!」
「えっと……」
話かけられた美里ちゃんは困惑しているようだった。
まるで他人からいきなり声をかけられたみたいに、怪訝な顔をしていた。
美里ちゃんがボクのことを覚えていない?
ボクは美里ちゃんのことを覚えているのに?
いや、ボクがセーラー服を着ているから気付いていないだけなんだ。
小さい時に、ボクのことを男の子だと思っていたのかもしれない。
だってボクの名前は女の子っぽくないし、幼稚園児の時なんて髪は今みたいに長くなかった。
勘違いをしてもおかしくない。
美里ちゃんは勘違いをしていたから気付かなかった、きっとそうだ。
「ボクだよ! ボク! 大宮陸だよ! 幼稚園一緒だったでしょ?」
「ごめんなさい、わからない。あなた誰?」
「え?」
美里ちゃんはボクのことを忘れていた。
覚えていてくれなかった。
ボクにとって一番長い時間を過ごした友達の一人だというのに。
美里ちゃんが忘れているということは、それより短い時間しか付き合いがない知り合いは、当然ボクのことなんて忘れているということ。
そして美里ちゃんと同じくらい一緒に過ごした和也くんも忘れている可能性が高いということ。
それはつまり、ボクのことを想ってくれる人間は、家族以外誰もいないということになる。
「悪いけど、私用事あるから。これで」
「……」
美里ちゃんはそう言うと踵を返し、ボクの前から去っていった。
ボクは黙って彼女の背中を見ているしかできなかった。
彼女からしたらボクはどうでもいい存在でしかなかったようだ。
ボクを覚えていない、それが何よりの証拠だ。
ボクにとって、和也くんと美里ちゃんとの思い出は、どこまでも光り輝く宝石のようなものだった。
しかし、その思い出を共有できるはずの美里ちゃんにとっては価値がないとわかった。
いや、わかってしまった。
ボクの大切な思い出は、ただの石ころでしかなかったのだ。
ねえ、美里ちゃんは楽しくなかったの?
和也くんと美里ちゃんとボクで遊んだでしょ?
追いかけっことか、積み木遊びとかしてボクは凄く楽しかったよ?
うぅ……。
なんで……なんで……。
覚えててくれないんだよぉ……。
学校というのは勉強だけではなく、人間関係を学ぶ場所だと言う人がいる。
人と関わりのないボクに何を学べというのだろう。
どうせ引っ越しでボクのことなんて忘れられてしまう。
勉強は家でだってできるし、無理に学校に行く必然性が感じられない。
むしろ、中途半端に友達なんて作ったら傷つくだけだ。
そうだ、学校なんて最低限の出席だけしてあとは休んでしまおう。
美里ちゃんから忘却されたことを知った入学式の日から、ボクはあまり学校に行かなくなった。
だからボクは大事なことに気付くことができなかった。
「あれ? 陸? どうしたんだよこんなところで?」
和也くんがボクのことを覚えていたということを。
ボクが彼に声をかけられたのは、昼休みに屋上でご飯を食べようと階段を登っていた時だった。
ボクは中学に入ってから、片手で数えられるくらいの回数しか他人と会話をしていない。
クラスの人たちはそんなボクのことを根暗なやつだと思っており、ボクに話しかけることなんてしなかった。
そんな中で声をかけられたものだから、まさに不意打ちだった。
「うわぁ!」
驚いたボクは階段から足を踏み外してしまった。
「おい、あぶねーぞ」
彼は転げ落ちそうになったボクの腕を掴んで、バランスが取れるよう支えてくれた。
「……」
ボクは最初彼が誰かわからなかった。
「ぷぷぷ、それにしてもなんだよお前その格好。女装の趣味でもあんの?」
セーラー服を着ているボクの姿を見て、彼は笑っていた。
ボクを男の子と勘違いする可能性がある人間は、美里ちゃんを除けばたった一人しかいない。
ボクはそのことに思い当たり、彼が和也くんだと気づいた。
あの時から声は変わっていたし背も伸びていたけれど間違いなかった。
「失礼な! ボクは立派な女の子だぞ!」
「へ?」
ボクはつい声を荒らげてしまったけれど、そんなこと別にどうでもよかった。
声を荒らげたのは照れ隠しに近かった。
和也くんはボクのことを覚えていてくれた。
それが嬉しくて仕方がなかった。
ただの石ころとなっていた幼少期の思い出は輝きを取り戻し始め、またボクにとっての宝石になったのだ。
ボク達はその後、屋上で思い出話に花を咲かせた。
話している時間はあまりにも楽しくて、昼休みが雪のように溶けてなくなってしまった。
ボクは名残惜しかったけれど、和也くんと別れ教室に戻った。
ボクと和也くんの関係を言い表すと、幼い頃の親しい友達、幼馴染となるらしい。
でもボクには違和感がある。
幼馴染という言葉を耳で聞くと、友達以上の関係が思い浮かぶ。
しかし『幼馴染』で辞書を引くと友達となっている。
和也くんがただの友達?
ボクの思い出に光を与えてくれた人が?
いや、『幼馴染』はもっと特別な何かだ。
深い意味がきっとあるはずなんだ。
ボクは美里ちゃんに忘れさられたと知った時、世界が終わったと思った。
ボクが生きている世界には、ボク一人しかいないと感じてしまった。
だけどそうじゃなかった。和也くんがいた。
――わかった。
わかったぞ!
ボクはどうしてこんなこともわからなかったんだ!
ボクは『幼馴染』の意味を完全に理解した。
ボクの世界にいるのはボクと和也くんの二人だけ。
つまり、ボクにとって和也くんは世界そのもの。
『幼馴染』は世界だったんだ!




