5.謝罪
美里からの返信を待ち続けていたが、一向に来る気配がなかった。
相変わらず既読はつかない。
スマホの画面をずっと見つめていたのものの、流石に腕が疲れてきたのでスマホを枕の横においた。
本当にブロックされているかどうかはわからない。
仮にブロックされていなくても、俺からのメッセージは読む気がおきない可能性だってある。
そうなってしまうと、直接電話するしかない。
美里のスマホには着信拒否されているかもしれないので、かけるとしたら美里の家の電話だ。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまう。
電話をかける勇気が出てこない。
いきなり電話かけたら迷惑だったりしないだろうか?
それに美里が家にいなかったら、電話かけても意味がない。
俺はそんな言い訳を並べたて、ベットに大の字になったまま何もせずにいた。
プルルル♪
唐突にスマホから着信を知らせるベルが鳴る。
飛び起きてスマホを確認すると、全く予想していなかった名前が画面に表示されていた。
――渋沢亮
正直でたくない。
でたくないでたくないでたくない。
亮は校門での喧嘩の続きでもしたいのだろうか。
したところで電話越しの罵り合いにしかならず、生産的とは思えない。
しかも、どっちかが不利になったら電話を切るだけで終了してしまう喧嘩だ。
フラストレーションが解消することはまずないだろう。
しかし明日のことを考えたら、電話にでないよりでた方がいい。
もし電話にでなかった場合、教室に来た途端いきなり殴られるかもしれない。
俺はしぶしぶ指で画面をスライドさせ、電話にでた。
「もしもし」
『もしもし。和也、さっきは本当にすまなかった』
「……え?」
怒りをぶつけてくるのかと思いきや、真逆だったので心底驚いた。
『俺、和也が辻堂さんのことを好きなのは知ってた。和也に前もって言っておけば、こんなことにはならなかったのにな』
亮は外からかけているのか、スピーカーからブーンと車が走る音が聞こえてくる。
『俺気付いたんだよ。俺が和也にやったことって、俺が元カノにされたことと同じだって。いや、手を出した分、元カノよりひどいな』
俺は亮と元カノのカップル成立から、その破局までを見届けていたので、亮が元カノから何をされたかのを知っている。
亮と元カノが付き合って一年くらいたったある日、亮は突然別れを切り出された。
理由は「あなたとは違う高校に行くから」と、それだけだった。
彼女は亮に進路をひた隠しにしており、進路が決まった後にそれを伝えた。
亮は彼女と同じ高校に行くつもりでいたが、進路の提出期限が過ぎてしまっていたため、もうどうにもならなかった。
違う高校でも付き合うことはできると亮は食い下がったが、結局彼女の意思は変わらず、別れることになった。
亮は俺とその時の自分を重ね合わせ、俺に申し訳ないと感じたようだった。
いきなり事実だけを突きつけられ、それを受け入れるというのは中々できるものではない。
俺は錯乱状態に陥り、美里に暴言を吐いてしまった。
事前に亮が美里に告白することがわかってさえいれば、俺もあそこまでひどいことはしなかったのではないかと思う。
亮は俺に黙っていた理由を話してくれた。
亮は高校に入った時、美里からもらったある言葉がきっかけで美里に好意を抱くようになった。
亮は俺が美里のことを好きだとは知っていたが、前もって告白をすることを伝えてしまった場合、俺が先に美里に告白して付き合ってしまうと考えた。
友人である俺に対して申し訳ない気持ちはあったが、亮はダメで元々の精神で美里に告白をした。
亮の予想に反して、美里は交際することを了承した。
しかし、付き合ったはいいものの、この三日間美里とは何もなかったらしい。
一緒に帰ろうとしては断られ、デートに誘っても断られ、昼食に誘っても全て断られた。
昨日に至っては、美里は俺と一緒に昼食を取っている。
亮は俺に激しい嫉妬を覚えた。
亮は美里との関係に思い悩み、昨日はあまり寝れなかったようだ。
そして亮は、俺に美里と距離を取らせるべく俺に交際していることを伝えた。
『それで、直接会って和也に謝りたいんだけど、これから家に行っても大丈夫か?』
今日は家に誰もいない。
亮が来ても何も問題はないが、そこまでしてもらう必要はないのではないだろうか。
亮は亮で苦しんでいたことを俺は理解し、今はむしろ亮に対して罪悪感があった。
「そこまでしなくていいよ。こっちこそごめん」
『いや、実はもう向かってて』
ちゃんとけじめをつけないといけない。
美里への思いは俺の中で燻っている。
簡単に消し去ることなどできない。
しかし、もう亮が美里と付き合っているので今まで通りではダメだ。
俺は亮が到着するまでに、美里との距離感を相談することにした。
家族ぐるみの付き合いである以上、美里との接点を一切持たないのは不可能に近い。
ある程度は亮に許容してもらわないといけない。
まず、美里が家庭の事情で俺の家で夕飯を食べていることを亮に話した。
てっきり美里からこのことは聞いているものだと思っていたが、亮は知らなかったようだ。
そして今日のように父さんと母さんがいない場合は、二人きりになることもあると伝えた。
なるべく美里には一人で食事を取ってもらうようにするが、できない場合はそれは許して欲しいと伝えたところ、亮は了承してくれた。
次に、俺が美里に暴言を吐いてしまった件だ。
俺は美里と現在連絡がとれていないこと、そして全く情けない話しではあるが、電話をする勇気が持てないことを伝えた。
厚かましいとは思ったが、亮に仲介をしてもらい謝る機会を作ってもらえないかとお願いした。
しかし、亮から予想外の返事が来た。
『う~ん、それは難しいなあ……。俺も辻堂さんと今連絡が取れないんだ』
「マジか」
美里のやつ、あの後何かあったのか?
原因を作ったのは俺である以上、流石に心配だ。
今日美里は部活を休んだと亮が言っていたし、何かあるとすれば帰り道だ。
とはいえ、美里の家にはまだ電話をしていない。
そうだ、亮に美里の家の電話番号を教えて亮に電話してもらおう。
ピンポーン!
そんなことを考えていると、家のベルが鳴った。
随分早いな。
「もう来たのか。今開けるからそこで待っててくれ」
『え?』
俺は電話を切らず、ベットから起きてスマホ片手に玄関に向かった。
そして鍵を解除し、玄関のドアを開ける。
美里がいた。




