4.幼馴染は永遠 【美里視点】
今回はヒロインである辻堂美里視点でのお話になります。
「辻堂さん、少し時間いいかな?」
カズくんの友人である渋沢くんから呼びだされた。
部活が終わり、そろそろ帰ろうと片付けをしていた時だった。
「辻堂さん、君のことが好きだ。俺と付き合って欲しい」
渋沢くんはどうやら私を彼女にしたいらしい。
彼女、恋人、ガールフレンド、呼び方は様々あるものの、それらは私にとって全く価値のないものだった。
私にとって、それらは愛称となんら変わらない。
その人との関係の深さを証明するものではないからだ。
恋愛感情や愛情がなくてもそれらは成立してまう。
当人同士がそうだと言えば、そうなってしまう。
そんな無意味なものになりたいのなら好きにすればいい。
私は渋沢くんの告白を受けることにした。
「わかった。いいよ」
「本当か!? 本当にいいのか!? 和也のことはいいのか!?」
くどい。
自分から言ってきたくせに、渋沢くんは私の言葉が信じられないようだった。
それに私とカズくんはそんなゴミにも等しい恋人などという下らない関係ではない。
『幼馴染』という究極の関係なのだ。
恋人が一生恋人のままいられるかというと、そうじゃない。
渋沢くんの元カノがいい例だ。
恋人の先にあると言われる夫婦はどうか。
やっぱりこっちもそうじゃない。
私の両親は愛し合っていたのに、紙切れ一枚を役所に出しただけで夫婦ではなくなった。
じゃあ、幼馴染はどうか。
幼馴染が幼馴染でなくなることはない。
たとえ仲違いをすることがあっても、幼馴染である事実は変えられない。
変えたくても変えられないもの。
つまり永遠の関係。
もし、渋沢くんが恋人になったことでそれを超えられると思っているのなら、烏滸がましいにも程がある。
「だからいいって言ってるでしょ!」
苛立っていたせいなのか、声が少し尖ってしまった。
渋沢くんはカズくんの友達だ。
変に刺激してしまうと角が立ってしまう。
「ありがとう!」
しかし、そんな心配は杞憂だったようだ。
渋沢くんが気にしている様子はなく、単純に私が告白を受けたことに大喜びしているようだった。
馬鹿みたい。
本当に馬鹿みたい。
ねぇ、私とどうなりたいの?
まさか彼女になったら、私があなたのことを好きになるとでも思った?
お父さんが家を出てった時、あなたは傍にいてくれた?
いないよね?
お母さんだって傍にいてくれなかったんだもん。
いてくれたのはカズくんだけ。
『幼馴染』だけなんだよ。
私は知ってるよ。
あなたの元カノの村山さん、あなたと別れるってなった時すごい喜んでたよ。
それにあなたも何で彼女と別れることを選んだの?
それっておかしいよね?
あんなに村山さんに好き好き言ってたのに。
私も村山さんみたいに違う学校に行くって言ったら、あなたは別れるつもりなの?
その日、渋沢くんは一緒に帰ろうと言ってきたが私は断った。
急に馴れ馴れしくなった渋沢くんが正直うっとおしかった。
それに比べて、その日カズくんの家で食べるご飯は相変わらず最高だった。
一人で見るとラジオの代わりにしかならないTVも、面白くて仕方がなかった。
★★★★★
それから三日経った日の放課後、私はカズくんから渋沢くんのことを聞かれた。
私は聞かれたことに対して包み隠さず話した。
別に隠すようなこともないのだけれど。
しかし、私が答えた同時にカズくんの顔はみるみる青くなっていった。
そして極寒の地に裸で立たされたみたいに、ブルブルと震え始めた。
私はカズくんを休める場所に連れていこうとしたけど、拒絶されてしまった。
それどころかカズくんは怒り出した。
あんなに怒っているカズくんを私は見たことがなかった。
私の知らないカズくんがそこにはいた。
カズくんから投げ掛けられた言葉は、蜂の巣になるんじゃないかと思うくらい、私の心に突き刺さる。
思わず涙が零れてしまい、私はカズくんから逃げてしまった。
私はカズくんから逃げた後、流石に部活をする気にはなれなかった。
泣き腫らした顔で部室に行くのは気が引けたけど、休むことはちゃんと伝えないといけない。
一度、カズくんに部活は休みだと嘘をついて一緒に遊びにいったら、お母さんに連絡が行き大変なことになった。
カズくんが一緒に謝ってくれたけどお母さんはカンカンだった。
私が部室に入ると、部員達から視線が集まった。
真っ赤な目の私を見て、部員達はヒソヒソ話を始めた。
「辻堂さん、何かあったのかな?」
「彼氏にフラレちゃったとか?」
「え? でも渋沢くん部室にいるよ?」
そんなどうでもいいことを話す部員達の声が聞こえてくる。
顧問の先生は私の状態を察してくれたのか、特になにも言わず休ませてくれた。
そしてそのまま家に帰ろうとしたその時だった。
「辻堂さん、大丈夫?」
渋沢に肩を掴まれた。
こいつは彼氏になったということで、私と仲が良くなったと思っているらしい。
カズくんの怒りの原因になるのなら、もう縁を切っても問題ないのかもしれない。
そもそも、カズくんの友人であるから彼女になってあげたにすぎない。
「……」
いつまで経っても渋沢は肩から手を離してくれない。
「和也に何かされた? 俺達が付き合ってること気にしてるみたいだったし」
あぁ~もう、ウザい!
私とカズくんの関係に首を突っ込まないで欲しい。
「私とカズくんの問題だから、渋沢くんには関係ないよ」
「関係なくなんかない!」
私の肩を掴む渋沢の手にさらに力が込められたのがわかった。
「離してよ! 邪魔!」
私は思い切り渋沢の手を振り払う。
それが想定外だったのか、目を見開いていた。
「和也のやつ……」
渋沢が小声で何か言っていたが、私はそれを無視して家に帰ることにした。
★★★★★
私は家に帰ってからずっと、自分の部屋でカズくんから言われたことを思い返していた。
ピロ~ン♪
必死に頭を働かせているというのに、携帯から通知音が鳴り止まない。
渋沢から何度もメッセージが来ているのだ。
「うるさい!」
私はついカッとなってしまい、スマホを思い切り投げてしまった。
そのせいで画面は割れてしまい、タップしても何も反応しなくなった。
幸いにも家には固定電話があるので、なにか連絡が必要になった時に困ることはないだろう。
そんなことより今はカズくんのことだ。
カズくんは私が渋沢の彼女になったことを怒っていた。
私が渋沢と別れればいいのだろうか。
そうすればカズくんは機嫌を直してくれるだろうか。
いや、何か違う気がする。
そもそも、私のことをよく知っているはずのカズくんが恋人などという関係を気にするだろうか。
そんなことを考えていた中、カズくんのある言葉が頭をよぎった。
『お前の顔なんて見たくない!』
何故だろう、既視感のある言葉だった。
私は以前……どこかで……。
『今はカズくんの顔も見たくないよ!』
思い出した。
あれはお父さんが家を出ていってすぐの頃に、私はカズくんにそんなことを言ってしまったことがある。
不倫をしたお父さんが私とお母さんを捨てたのだと知った当時の私は、極度の男性不信になっていた。
どんなに親しい男性でも裏切ることにショックを受けてしまい、裏切られるくらいならとカズくんを遠ざけた。
それでもカズくんは私のことを見捨てなかった。
苦しみを分かちあってくれた。
あの時と今、多少の違いはあるけれど状況は同じだ。
あの時の私が、今のカズくんと似ているのだ。
……あ。
そうか、そうだったんだねカズくん!
私とっても嬉しいよ!
あの時のカズくんの苦しみを今の私に与えてくれてるんだね!
『幼馴染』に知らないことなんてあっちゃいけないもんね!
だって『幼馴染』は永遠なんだから。




