3.既読がつかない
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亮が鋭い目付きでこちらを睨んでいた。
今にも感情が爆発しそうなのか、額には青筋が浮かんでいる。
亮の怒りの原因に、俺は思い当たる節があった。
むしろありすぎて困った。
十中八九、美里のことだろう。
「待てって言ったよな? 何で無視した?」
「部活はサボりか?」
亮の問いかけに、俺はまともに答えなかった。
そもそもこいつが美里に告白しなければ、こんなことにはならなかったのだ。
俺は美里を傷つけ、そして遠ざけた。
顔を見たくないと言ってしまった。
そんな美里には罪悪感を感じるが、こいつには微塵もない。
「いいから答えろよ!」
亮は声を荒げる。
中学時代からの友人である俺に対して、敵意を剥き出しにしてきた。
「別に、お前と話をしたくなかっただけだよ。前の彼女みたく、美里にお前が付きまとってるんじゃないかって思ったから、それを美里に確認しにいきたかった」
亮、お前は好きな子と付き合えて満足だろうな。
俺はお前なんかよりずっと昔から美里のことが好きだったんだぞ?
優越感に浸れて、さぞかし気持ちが良かっただろ?
「おまえぇぇぇっ!!」
亮に胸ぐらを掴まれる。
固く握られた拳がグリグリと胸の辺りに押し付けられてジワリと痛む。
「いいか、辻堂さんは部室に来た時、目を真っ赤にして泣いてたんだぞ! お前が何を言ったのか知らない。だけどお前は彼女を傷つけた!」
知ってるよ、そんなこと。
それにしても美里のやつ、あんなことがあった後だというのに律儀に部室に行ったらしい。
今、亮が俺の前にいるということはそんな美里を放っておいたということ。
なんだよ亮、彼氏失格だな。
「それが? ならなんでお前はここにいるわけ? 泣いてる美里の傍にいてやらないんだよ?」
「辻堂さんは部活を休むと言ってすぐに出ていった! お前の……お前のせいで!」
亮を見ていると無性にイライラした。
俺はもう美里の傍にはいてやれない。いる資格がない。
その資格を亮だけが持っている。
それなのに亮は美里の傍にはいてやらず、俺に怒りをぶつけてきた。
「だったらすぐに追いかけろよ! 彼氏のくせしてそんなこともできないのか?」
「黙れ!」
亮の力が込められた拳が俺の頬にぶち当たる。
そのまま倒れるようなことはなかったが、勢いもあったせいでよろけてしまった。
こいつ、手を出しやがった。
俺から美里を奪ったくせに、まだ足りないってのかよ!
俺も亮に殴り返そうとした。
しかし、仕事帰りに大酒を飲んだおっさんのような足取りになってしまい、上手く力が入らない。
さらに腕は振り子のようにブラブラと揺れ、神経が通っているのか疑わしくなるほど持ち上げることがてきない。
そうこうしている内に、ふと周りが騒がしいことに気付いた。
まだ学校にいた生徒が、ただ事でないと集まって来たのだ。
亮もそのことに気付き、人が見ている以上俺に追撃を加えるようなことはできなかったようだ。
周りの生徒達はそんな俺達の一挙手一投足に目を輝かせていた。
自分が喧嘩をするのは嫌だが、他人がしているのを野次馬する分には面白い、そんな感じなのだろう。
俺はそんな奴らの期待に応えるつもりはない。
というより、できなかった。
「先生、こっちです!」
校門いた生徒の一人が、筋骨隆々の体育教師を連れてこちらに向かってきたからだ。
教師に捕まると後々面倒なことなる。
職員室に連れていかれ、長時間の説教をくらうだろう。
下手したら停学になるかもしれない。
そうなると進路にも影響してくる。
幸い、教師から顔は見られてはいないし、周囲の生徒にも俺や亮のことを知っているやつはいなさそうだった。
誰が喧嘩をしていたのかバレることはまずないだろう。
俺は教師に顔を見られる前にトンズラすることにした。
さっきまで動かすのも大変だったのに、いざ逃げようとすると嘘のように足が動いた。
校舎に背を向け、俺は全力で走った。
チラっと亮がいた方へ目を向けたが、既に姿はなく俺と同じように逃げだしたようだった。
★★★★★
亮とは別々の方向に走って逃げた俺だったが、教師は足の遅い俺の方へ向かってきた。
息切れして途中何度も立ち止まることがあった。
それでも物陰などに隠れて、なんとか撒くことできた。
こうして家にたどり着いたのはいいが、もう精神的にも肉体的も限界がきていた。
亮から美里のことを聞いた時からずっと張り詰めっぱなしだ。
ベッドに横になって早く楽になりたかった。
俺はその願望を叶えるべく、玄関のドアに手をかけた。
ガチャ!
ドアノブを回して開こうとしたのだが、鍵は閉まっていた。
この時間はいつも母さんが家にいて、ちょうど俺も学校が終わって帰ってくる時間のため鍵は開いているはず。
開いていないということは、今母さんは家にいないということ。
俺は母さんがいないことに安堵した。
あんなことがあった後なので、今日美里は家には来ないだろう。
夕飯の時間になっても来ない美里のことを母さんは心配して、俺に何かあったのか聞いてくるはずだ。
そうなってくると、今日あったことを母さんに話さなければならなくなる。
頭の整理が追い付いていない状況で、それはなるべく避けたかった。
玄関の鍵を開け、リビングに入ると案の定机に書き置きがしてあった。
『和也へ
今日はお父さんが出張でいません。
お母さんも今日は美里ちゃんのお母さんと久しぶりに会うので出かけます。
夕飯は冷蔵庫の二段目と三段目に入っています。
肉じゃがは電子レンジでチンしてください。
味噌汁は弱火で温めて下さい。
ご飯は美里ちゃんの分も合わせて一合炊いてます。
もし足りなかったら、パックのご飯もあるのでそっち食べてください。
母より』
今時書き置きかよ、なんてことを思ったがそんなことより二人分の食事をどうするかだ。
正直今は食欲がない。
多分時間が経ってもそれは変わらないだろう。
とりえあずベッドに横になってその問題を考えることにした。
今日はイベントが盛りだくさんだった。
盛りだくさんすぎて頭がパンクしてしまいそうだ。
これから美里にどう謝るべきなのか、そしてどう接していくべきなのか、考えなければならないことはたくさんある。
それに亮とは喧嘩をしてしまったが、同じクラスなので明日も顔を合わせないといけない。
ただ距離を取るだけではすまないだろう。
とはいえ、優先すべきはまず美里だ。
このままだと日常生活に影響してくる。
美里の母親と俺の母さんのこともある、最低限話が出来るまでは関係を修復しておきたい。
俺はスマホを手に取り、メッセージを美里を送った。
美里のアイコンが、誕生日の時にプレゼントしたぬいぐるみの写真になっているのを見て、胸か締め付けられそうだった。
『さっきは本当にごめん。もし可能なら直接会って謝りたい』
送ってから数分、既読はつかなかった。
待てども待てども、既読はつかなかった。
アプリの仕様上、メッセージが来たら通知音が鳴る。
通知音に気づかなくても、スマホの画面にも通知されるのでメッセージに気づかないことはない。
そもそも美里は俺からのメッセージにはすぐに返事をくれた。
俺は美里からブロックされたのかもしれなかった。




