26.生まれる前から 【美里視点】
今回は美里視点でのお話になります。
カズくんが学校に来ていない……。
妙な胸騒ぎがする。
りっくんがカズくんを拉致した時と同じような感覚。
ついバッグの中を見てしまう。
頼りになるGPSは、りっくんと仲直りした時にカズくんから取り上げられてしまった。
GPSさえあればカズくんがどこにいるか分かるのに……。
あの時から私はカズくんと一緒にいる時間が減ってしまった。
りっくんとの約束もあったのだけれど、カズくんに肉体言語で愛を伝えてもらっていたので、それで満足できていた。
でも、『幼馴染』が傍にいないのは私にとってすごく辛い。
最近ではカズくん成分が足りなくなってくると、発作が起きるぐらいだ。
カズくんは朝、りっくんの家を出た後自分の家に戻った。
私も一度家に戻り、学校に来た。
カズくんと私の家はそう離れてはいないので、私が学校に着く頃には、カズくんも来ているはずなのだ。
カズくんがまた連れ去られた?
でも誰がやったの?
村山さん?
いや、村山さんは教室にいるのを見かけた。
もし村山さんが拉致したとしたら、カズくんを監禁でもしない限り学校に来ることなんてできない。
それにカズくんを監禁して学校に来る理由が分からない。
『幼馴染』中毒の末期症状が出ている村山さんのことだ、カズくんを放っておく訳がない。
教師の目を掻い潜り、電話をかけるが繋がらない。
何度やっても留守番サービスに繋がってしまう。
「ちょっ、ちょっと辻堂さん!」
居ても立っても居られなくなった私は教室を出た。
教室は騒然としたけれど、後で教師に謝ればいいだけの話だ。
教室を出た後も電話をかけたけれど、また繋がらない。
一応、メッセージだけは入れておくことにする。
私には二つの選択肢がある。
一つ目は、カズくんの家に向かうこと。
カズくんが学校に行くのが面倒になってしまった可能性もない訳じゃない。
それにカズくんの体調が急に悪くなって、家で寝込んでいることだってあり得る。
まあ、それだと電話に出れないのはおかしいんだけど……。
もう一つは村山さんを捕まえて問いただすこと。
村山さんは自分のことカズくんの『幼馴染』だと称している。
一万歩譲ってりっくんがそれが言うのなら、それはいい。
村山さんは渋沢に心を許してしまったクソビッチだ。
私のようにカズくんを守るために渋沢と付き合った訳じゃない。
きっと、恋する私は素敵♥️ みたいな、愚かな考えで付き合ったに違いない。
そんな女がは、カズくんに近づいて献身的な自分をアピールしたがる。
カズくんを監禁すればその作業はより捗るだろう。
しかし、どちらも確証がない。
あくまで両者とも私の推測でしかないのだ。
「あれ?」
どちらにするべきか悩みながら廊下を歩いていると、私と同じように授業をサボっている二人の女子の姿が見えた。
一人はりっくん、もう一人は――。
「りっくんと村山さん、こんなとこで何してるの?」
「あ、美里ちゃん」
「あははは、辻堂さん」
村山さんは心ここにあらずといった感じだった。
そわそわしていて落ち着きがない。
スマホの画面を確認してはポケットに仕舞い、仕舞ったと思ったらまたすぐにスマホを取り出す。
そんなことを繰り返している。
「陸ちゃん、さっきも言ったけど私達あんまり遊ぶ機会なかったでしょ? だから今日は遊びにいかない?」
「それはいいんだけど、放課後じゃだめだったの? いきなり『大事な話があるから今すぐ来て!』なんてメッセージが来たからボクびっくりしちゃったよ」
「あ、そうだ。辻堂さんも一緒にどう? 私達オナ中だし、久しぶりにお話ししたいな」
怪しい。
私が言うのもおかしいけれど、今は授業中だ。
遊ぶというのならば、休日だっていい。
わざわざ授業を抜け出す必要がどこにあるのだろう。
「だめだよ、麗佳ちゃん。ボク、和也くんとお昼の約束してるんだ」
それを言うなら私もだけど……。
「北村くん? 北村くんなら今日は来ないから大丈夫だよ」
「うーん……」
村山さんはカズくんに何があったのか、確実に知っている。
同じクラスなのだから、カズくんがいないのは分かって当然。
それだけならいい。
村山さんにはカズくんが来ていないことを知ることが出来ても、来ないことが分かるはずがないのだ。
「行こうよりっくん。カズくんには私が連絡しておくから」
「いいのかなあ……」
私達は三人で校舎を出た。
最初はカラオケに行こうとした。
しかし、この時間に学生服姿の女子が来たことを店員に不審に思われてしまい、入店を断られてしまった。
次に、喫茶店に入ろうとしたのだけれどこれもまた駄目だった。理由は同じ。
私達は歩き回った末、たどり着いた公園で駄弁るというよく分からないことになった。
ただ公園にいるのも物寂しいので、コンビニで飲み物やお菓子を買ってある。
コンビニで買い物している時も、村山さんはスマホの画面を見るのを止めなかった。
ベンチに座った私は、さっそくカズくんのことを村山さんに聞いてみる。
「ねえ、村山さん。カズくんに何したの?」
「何もしてないよ。北村くんにはね」
「嘘つかないで! なんでカズくんが学校に来ないって分かったの?」
「言ってなかったね。北村くんは、薫さんが家に引き留めてくれてるはずだから、今日は来ないの」
「ちょっと! 美里ちゃん、麗佳ちゃん、どうゆうこと?」
りっくんは今日、カズくんのクラスには行ってないから珍紛漢紛なのだろう。
だけど今は黙っていて欲しい。
大事な話の途中だ。
「なんでカズくんを引き留めるの?」
「それはね、私が学校に火をつけたから。北村くんが炎に巻き込まれないようにするためだよ」
「「はぁ!?」」
「
私ね、この間北村くんの『幼馴染』になったの。
でもね、私には北村く……やっくんと一緒にいれる時間がなかった。
実はね、私前の学校でいじめられてたの。
だから学校を変えれば幸せになれると思ってた。
学校を変えるために渋沢も消した。
だけどね、結局授業があるからやっくんと話すこともできないし、触れることもできない。
そんな時だった、薫さんと出会ったのは。
薫さんは教えてくれたの。
やっくんの傍にいることができないのは学校があるからだって。
考えてみればそうだよね。
私をいじめて平気な顔をしている人がいるところがまともな訳がない。
私が学校を辞めて、やっくんに学校を辞めてもらえばそれが一番だとは思う。
けど、やっくんが学校を辞めたくないかもしれない。
それに高校中退するのって結構面倒だよね?
中退したことで将来に影響があっちゃいけないよね?
じゃあ、どうしたらいいか。
学校そのものがなくなればいいんだよ。
そうすれば中退したことにはならない。
授業に使っていた時間は全部やっくんと過ごせる。
だから学校を燃やすの。
燃やしてなくしちゃうの
」
「
アハハハハッ!
この間『幼馴染』になった?
やっくん?
なに言ってるの?
あなた根本的なところが間違ってる。
『幼馴染』は生まれる前から『幼馴染』なの。
カズくんのことやっくんって呼んだみたいだけど、それは私のただ真似をしてるだけ。
あなたが勝手に『幼馴染』だと思う分には、目を瞑ろうと思ってた。
でもあなた、想像以上に調子に乗ってるみたいね?
後から『幼馴染』になんてなれない。
これは決まってることだから。
学校を燃やしてどうするの?
学校がなくなったところで、カズくんと一緒にいられる保証なんてないんだよ?
あなたがやったことは神聖な『幼馴染』を汚す行為。
『幼馴染』を言い訳にして犯罪を正当化してる。
私はあなたを許さない。絶対に
」
「ふーん、命を助けたのにひどい言い草ね。薫さんからやっくんの友達は逃がすように言われたけど、やらない方がよかったかな?」
「あなた、狂ってるわよ?」
「あんたほどじゃないけどね」
ダメだ! こいつをカズくんに近づけちゃいけない!




