25.企み
「カズっち~、今から学校? そんなんサボってオレと遊びに行こうぜ?」
「無理だ」
「そう言うなよぉ~。オレとカズっちの仲じゃないか」
今、俺の目の前にいる柚木薫はかなりの危険人物だ。
薫の過去ははっきり言ってとんでもない。
暴行、喫煙、飲酒、そして窃盗までしたことがある。
ちなみこの窃盗というのは、スーパーの商品を懐に入れてトンズラしたとかそんなちゃちな話ではない。
他人の家に侵入して、金目の物を根こそぎ盗むという悪質極まりないものである。
薫は俺のことを幼馴染と言っているが、美里や陸と比べると薫と一緒に過ごした時間は非常に短い。
しかし、出会った時期だけで言えば二人と同じぐらい昔になる。
俺達家族は、お盆になると父さんの実家のある田舎に毎年帰省していた。
田舎ということもあって、近場に娯楽になるようなものはない。
そのため、俺は祖父母の家で持ち込んだ携帯ゲーム機で帰省期間中は遊んでいた。
寝そべってゲームに夢中になっている俺の姿を見て、父さんは俺に激怒した。
ゲーム機を取り上げられ、「外で遊んでこい!」と言われたので仕方なく虫籠と網を持って俺は外に遊びに行った。
虫籠は持ったはいいが、別に昆虫がいるような林が近くにある訳ではなかった。
ただ、なんとなくだ。
田んぼの近くにバッタがいたので、それを適当に捕まえる。
正直、網はいらなかった。
手で捕まえた方が明らかに効率がよいので、途中から網を脇に置いて、バッタを追いかける。
そんな時だった。
薫から声をかけられたのは。
「よぉ~。このへんじゃみねーかおだな。とりあえずけんかしようぜ」
「?」
会って早々いきなり意味不明なことを言ってきたので、キョトンとしていると――。
「うぐっ!」
脇腹を思い切り蹴られた。
あまりの激痛に俺はその場に蹲ってしまう。
「ハハッ! くそさこだなおまえ。これでれんしょうきろくこうしんっと!」
薫はポケットからメモ帳を取り出し、ペンで一の字を書いた。
ちらっと見えた頁には、無数の正の字が記載されている。
「んじゃな、くそざこくん」
俺をノックアウトしたことに満足したのか、薫は俺の前から立ち去ろうとした。
「まって」
だが、俺は薫を呼び止めてしまった。
「あ? リベンジでもすんの? やめとけ、おまえじゃオレにかなわねーから」
全くその通りだ。
でも、俺には別の目的がある。
「ぼくと……ともだちになってくれないかな?」
「なにいってんの? おめー」
「だから、ともだちになってよ!」
当時の俺はおかしかった。
ゲーム機を取られてしまった以上、外で遊ぶしかない。
外で遊ぶにしても、虫取りだけだと飽きてくる。
だから、外に友達がいれば楽しく過ごせると思っていたのだ。
それに、俺には同世代の友達が田舎にはいなかったこともあって、寂しさを感じていた。
「まぁ、いいけどよ……。おまえかわってんな」
後にわかったことだが、薫には友達が一人もいなかったらしい。
暴力マシーンの薫と仲良くしようとする奇特な人間は俺ぐらいだったそうだ。
そういう理由もあって、俺は薫からいたく気に入られてしまった。
「ぼく、かずやっていうんだ!」
「オレはかおる」
「「よろしく!」」
★★★★★
「なぁ~、カズっちぃ~。今から学校に行ってもしょうがねぇべ?」
「……」
俺は薫を無視して学校へと向かう。
母さんにも言われた通り、こいつと関わるとろくなことがない。
過去に何度も喧嘩に巻き込まれた。
「げっ!」
ふとスマホで時間を確認すると、美里から鬼電が来ていた。
着信件数は三十件以上、留守録も何件もある。
これは直接顔を見せないとだめだろう。
とりあえず俺は『今から学校に向かう』だけメッセージを送っておいた。
というか、美里は授業中にどうやってこんなに電話してきたんだ……。
「あ、カズっちの女から連絡来てんの? オレ知ってるぜ。村山ってやつだろ?」
「え?」
予想外の人物の名前が出たことで、思わず立ち止まってしまう。
「なかなかの別嬪さんだったよなぁ~。さすがオレの『幼馴染』だけあるぜ。なぁ、どうやってあんな美人落としたんだ?」
「落としてないって。それに彼女でもないよ。てか、薫知り合いなの?」
「まあな。この間、カズっちの家の前で会ったんだよ。でもおかしいなぁ~。あん時は彼女だって言ってたのに」
村山さんめ……。
薫に何か吹き込んだりしてはいないだろうか?
そうでなくても、薫から何か吹き込まれた可能性だってある。
今の村山さんと薫がタッグを組むようなことがあれば、とんでもないことが起きるのは間違いない。
被害は俺だけに留まらず、美里や陸にまで及ぶだろう。
薫が急に会いに来たということは、既に何か始まっているのかもしれない。
仕方ないか……。
「薫、昼休みが終わるまでだったら、遊んでやってもいいぞ」
「お、カズっち、いいねぇ~。その気なってくれたか!」
午前の授業は終盤に差し掛かってる頃であり、学校に行ったところで中途半端にしか授業は受けられない。
それならば、薫から何かしていないか聞き出して、安全を確保した方がいい。
そう思っていたのだが……。
何か聞き出すどころか、俺の交友関係を洗いざらい話す羽目になった。
薫の話術は意外に巧妙で、こちらが質問しても上手くはぐらかして逆に質問してくる。
俺は質問に対して無警戒に答えてしまい、結果、薫と村山さんには関して何も分からず、美里と陸との関係を全て薫に知られてしまった。
「あっちゃ~。カズっちの女って村山以外にもいたのね。失敗だったわ」
ばつの悪そうな顔で、人差し指で頬をかいている。
「なんの話だ?」
「ううん、何でもない」
俺達がいるのは家の近所にあるファミレス。
薫は村山さんとここに来たことがあるらしい。
入店した時に薫からそれを聞いたので、薫と村山さんが何か企んでないか簡単に問いただせるかと思ったが、この様だ。
このファミレスは非常にコストパフォーマンスがいい。
値段は割高だが、セットを頼むとドリンクバーだけでなく、ライスがお代わり無料なのである。
なんと、席にはスマホ充電用のコンセントまである。
それだけじゃない、注文用のタブレット端末にはワンセグが付いており、TVも見ることができるのだ。
そして何気なくタブレットの画面を見ていたら、自分の目を疑いたくなるような文字が飛び込んできた――。
『✕✕高校にて火災発生』
――!!
✕✕高校とは俺や美里が通う学校の名前だった。
美里から電話があったのは朝の九時頃、それ以降はない。
『本日午前10時頃、公立✕✕高校にて火災が発生いたしました。現在、多数の負傷者が出ている模様です。また、建物には多くの人が取り残されており、消防による消火活動が継続中です。なお、出火原因は分かっておりません』
頭が真っ白になった。
大変申し訳ございません。
27話を書いていて気分が悪くなったため、ニュースの内容を「死傷者」から「負傷者」に変更させていただきました。




