21.過去を作る 【麗佳視点】
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「はぁ……」
明日学校に行きたくない。
いや、できれば明日以降も。
行けばまたクラスメイト達に苛めの標的にされてしまうだろう。
転校したい。北村くんの学校に行きたい。
行けば夢のような毎日がきっと待っているはずなのに、渋沢がいるせいでそれが出来ない。
「北村くぅ~ん」
中学の時に北村くんのバッグから拝借した体育着を顔面に押し付けて、ベッドに横になる。
「えへへへ、北村くんの愛が染み込んでる」
これが最近の唯一の癒し。
体育着の匂いを嗅いで北村くんのことを思い浮かべ、妄想に耽る。
実物北村くんできたら、どれだけいいことかと切に思う。
あ……我慢できなくなってきた……。
「んふぅ……」
★★★★★
虚しい……。
虚しい、寂しい、悲しい、苦しい。
北村くんを想って自分を慰めても、幸せになれるのは一瞬だけ。
やっぱり北村くんがいないと駄目だ。
母を失って心にぽっかり空いた穴を、埋めてくれるのは彼しかいない。
中学時代、私は大きな過ちを犯した。
もし、お母さんが生きていたなら私を叱りつけていたことだろう。
私の過ち――渋沢と付き合ってしまったこと。
友達の陸ちゃんには、陸ちゃんに迷惑がかかるから渋沢と交際とする言ったけど本当はそれだけが理由じゃない。
――北村くんの気を引きたかった。
北村くんは他の男子と違って私に近寄ってこなかった。
そこで私は、友達の彼女であれば私に興味を持つだろうと思い、渋沢と付き合った。
でも、そんなことはなかった。
むしろ距離を取られてしまった。
当たり前だ。
北村くんから愛されたいのに、私自身が他人を愛しているように見せてしまっては元も子もない。
異性と付き合うというのはそう言うこと。
私は一年かかってようやくそのことに気付いた。
貴重な北村くんとの中学時代を、私は渋沢と過ごす羽目になってしまったのだ。
私はどうすればよかったのだろう?
北村くんにとっての辻堂さん――『幼馴染』になるにはどうすればよかったのだろうと考えない日はない。
辻堂さんにあって、私にはないもの。
それは北村くんとの過去。
いくら頑張ってところで過去は変えることはできない。
辻堂さんが羨ましくて堪らない。
羨ましい、妬ましい、憎たらしい。
私が手に入れらないものを辻堂さんは持っている。
北村くんの『幼馴染』になるために必要なものを……。
――――――。
ふと、母の歌のあるフレーズが浮かんだ。
『過去は変えられない。でも、あなたとの過去はこれから作れるよ。だから、いつもあなた傍にいるからね』
……あ。
何て間抜けなのだろう。
母からヒントをもらっていたというのに。
過去は変えることはできなくても、作ることはできる。
理想の過去を作れば、北村くんの『幼馴染』になれるのだ。
「アハハハッ!」
嬉しさのあまり、不意に笑い出してしまった。
声が妹に聞こえたら病気になったと勘違いされてしまうので、慌てて口にチャックをする。
とにかく今は過去を作ろう。
私と北村くんの素敵な『過去』を。
私は一晩かけて北村くんとの『過去』を作った。
そのおかげで素晴らしい『過去』ができた。
作った『過去』はこうだ。
――私は保育園に入園した時、北村くんと出会う。
私は幼いながらに彼に一目惚れをする。
北村くんも私を見て同じように私に一目惚れをする。
ただ、北村くんは照れ屋さんなので私に意地悪をしてしまう。
でも、私にはそれが嫌じゃない。
いつも私と遊んでくれる北村くんのことをますます好きになってしまう。
同じ保育園に通う辻堂さんは、楽しそうにしている私と北村くんを、陰で親指を咥え悔しそうな目で見ている。
嫉妬に狂った辻堂さんは、私と北村くんを引き裂こうとする。
「カズくんを返せ!」と私を叩いたり、蹴ったりしてくる。
けど、北村くんが辻堂さんの前に立ち塞がって、辻堂さんを止めてくれる。
そして、北村くんは「俺が麗佳のことを守るから」と言って私を抱きしめてくれる。
正に白馬の王子様!
そんなある日、母が交通事故で亡くなってしまう。
悲しみに暮れる私を北村くんは傍で慰めてくれる。
私は北村くんの絆がより深くなっていくのを感じる。
しかし、小学校の時のあることがきっかけで、私は北村くんと疎遠になってしまう。
学校の屋上で北村くんが「好きだ」と告白してくれるのだけれど、私は母を失ってしまった喪失感からそんな気になれず、それを断ってしまう。
私は北村くんは好きなのにも関わらず、気持ちを伝えないままそのまま中学に入学する。
そこで私は陸ちゃんと友達になり、楽しい中学時代を送る。
北村くんも同じ中学だけど、お互いあまり話すことなく、疎遠なまま私は彼と違う高校に入学する。
そして私は気付く。
中学が楽しかったのは北村くんがいてくれたからだと。
私のことを見守ってくれていたからだと。
ずっと彼のことが好きだったのだと。
私は北村くんとやり直すため、彼のいる高校に転入することを決意する――。
完璧だ。
これが私と北村くんの物語。
私と北村くんの『過去』。
あとは転校すれば私は北村くんの『幼馴染』になれるはず。
…………?
なのに違和感がある。
渋沢だ。
この『過去』には渋沢のしの字も出てこない。
正直この『過去』に渋沢はいらない。
それに転校先には渋沢がいる。
渋沢がいる限りこの『過去』は完成しない。
私は北村くんの『幼馴染』になれない。
消さなきゃ、渋沢を。
★★★★★
私はまず、仕事で忙しい父を何とか捕まえ、北村くんのいる学校に行きたい旨を伝えた。
しかし、せっかく受験して入ったのだから勿体ないと父は反対した。
それでも、私が学校でいじめられていることを話したら「そんなクズ達のいる学校に無理に通わなくていい」とむしろ賛成してくれるようになった。
渋沢を始末するのは転校した後だ。
携帯本体からも、クラウドからも連絡先を消去していたため、あいつが普段どこにいるのか全く見当がつかない。
転入した後に、住所などを調べる必要があるだろう。
そう思っていたのだけれど――。
駅に渋沢がいた。
転校の手続きを終え、家に帰ろうと電車を待っていた時だった。
私は運命を感じた
きっと神様も、母も、北村くんの『幼馴染』になれるよう応援してくれているのだと。
今なら渋沢を線路に突き落とすことをできる。
急いで走り去ってしまえば、事件ではなく事故として扱われるだろう。
そして監視カメラにも偶然ぶつかったようにしか見えないはず。
私は全力で走って渋沢に体当たりした。
渋沢がこちらを振り返ったような気がしたが、そんなのどうだっていい。
私は振り返らずそのままホームから出た。
――プゥウウウウウウウウウウ!!
電車の警笛が鳴る。
それと同時に人の悲鳴も聞こえてくる。
やった。
やったやったやったやったやった!
『過去』が完成した!
私は北村くんの『幼馴染』になれたんだ!
フフフ、北村くん待っててね。
ごめんね、あの時告白してくれたのに断ってしまって。
私も好きだっんだよ、北村くんのこと。
だから今度は私から告白するね。




