17.デスマッチ
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俺は白昼夢でも見ているのだろうか。
美里と陸が包丁で切りつけ合っている。
二人は全力で刃物振り回しており、先端が掠りでもしたら大怪我は免れないだろう。
割って入ることなど到底できない。
本来止めるべきなのだろうが、壮絶なあまり俺の足は床に張り付いていた。
戦いは格闘ゲームの領域にまで達している。
ただし、一撃でも食らえば即KOの1ラウンド制のデスマッチである。
ブンブンと包丁が風を切り、包丁と包丁がぶつかりキンッと甲高い音が響く。
そんな緊張感溢れる場面なのに、両人ともに饒舌だ。
「カズくんを返せ! この人拐い!」
「だまれストーカー! ボクは和也くんと新しい世界を築くんだ。世界を汚すお前は邪魔なんだよ!」
ファンタジーの世界に迷いこんだかのようなセリフ。
ハハッ、さしずめ俺は物語のお姫様ってことになるのかな?
陸は侵入してきた美里を見た途端、どこかから包丁取り出して美里に襲いかかった。
美里はというと、そうなることを予期していたのか、タオルに包まれていた包丁取り出して応戦した。
「『幼馴染』は永遠なの。私は『幼馴染』だからカズくんのずっと傍にいなきゃ行けないの。わかる? 私のカズくんにちょっかい出さないでくれるかな?」
「お前の? お前はほんと救えないね。どうしようもない。和也くんは渋沢の恋人になったお前みたいなビッチじゃなくてボクを選んだんだ。和也くんの身体に聞いてみなよ?」
「カズくんに何したの!」
「さっき和也くんとセックスしたんだよ! お前ができなかったことボクがしてやったんだ! アハハハ! ボクが和也くんの初めての女になったんだ!」
「……!」
美里の動きがピタリと止まる。
美里が俯いたこともあり、表情は伺えない。
陸は優越感に浸りたいのか、停止した美里に斬りかかるようなことはしない。
その代わり言葉での攻撃、口撃を加える。
「悔しいかい? 悔しいよね? これ以上の思い出なんてお前には作れない。これは罰なんだ。和也くんを独り占めしたことのね」
「……」
チャンスだ!
今は斬撃が止んでいる。
美里を連れて逃げよう。
このまま放っておけば美里と陸、どらちかが確実に死ぬ。
下手をすれば二人ともだ。
そう思って、動き出そうとした時――。
「な~んだ、そんなことか。てっきり私、カズくんが傷付けられたのかと思っちゃった。そうじゃないなら、別にエッチでもセックスでも好きにしていいよ」
美里が口を開いた。
「…………は?」
あっけらかんとした美里が予想外だったようで、陸はポカンとしていた。
だらりとぶら下がった陸の腕に、包丁だけがしっかりと握りしめられている。
「むしろありがとう。カズくんを癒そうとしてくれたんだよね? 最近カズ疲れてたみたいだったから丁度よかったよ」
「何を言って……」
「ちょっと嫉妬しちゃったけど、それくらいなら全然構わない。そんなことで『幼馴染』は揺らいだりしないから。カズくんを返してくれればそれでいいよ」
「何なんだ……お前一体何なんだ!」
「ウフフフ、もしかして『幼馴染』の私を超えた思ったの?
カズくんとエッチしたくらいで?
教えてあげよっか?
あなたが私を超えられない理由。
あなたとカズくんがしたのはなんの価値もないただの性交。
欲望を満たしてスッキリするだけの行為。
あなたはカズくんと『幼馴染』した訳じゃない。
でも私はカズくんと『幼馴染』した。
『幼馴染』するって言うのはね、純潔を捧げ合うこと。
永遠に変えることができない初めての人の精をお互い身体に刻みこむことなの。
あなたさっきカズくんとエッチしたって言ったでしょ?
ざ~んねん!
カズくんの初めての女は私!
だって私はあなたより前にカズくんと『幼馴染』してるから。
アハハハハ、滑稽ね!
あなたはカズくんの性処理をしただけ。
よかったね!
カズくんとエッチできて!
セフレになれて本当によかったね!」
「――――」
今度は陸が沈黙した。
陸の顔はみるみる赤く染まっていき、こめかみに太い血管が何本も浮き上がる。
手が痙攣しているのか、包丁の切っ先がメトロノームのように左右に揺れていた。
美里が聞き捨てならないこと言っていたが、そんなことは気にしていられない。
陸は数秒もしない内に暴走する。
そうなってしまえば麻酔銃でも使わない限り、陸は止められないだろう。
「美里、行くぞ!」
「あ、カズくん。遅れてごめんね」
「いいから!」
俺は美里の包丁を握ってない方の腕を掴んで引っ張る。
美里はあの時の俺とは違い、振り払うようなことはしなかった。
とにかくここから立ち去れねばならない。
美里と共に家の中を走り回る。
しかし、出口は見つからない。
美里は窓ガラス割って入ってきたのだから、そこから出た方が早いのかもしれない。
「ぐがああああああああああああ!!」
陸はもはや人間とは思えない叫び声を上げ、俺たちを追いかけてきた。
それなのに陸が狙っているはずの美里には包丁が掠りもしない。
完全に明後日の方向を切り付けてる始末だ。
「あ……ああ……。何で辻堂ばっかり。ボクを忘れた奴が何で……。なんで……なんでなんだよおおおおお!!」
激怒しているのかと思いきや、陸は唐突に号泣し始めた。
堤防が決壊し、陸の瞳は大粒の涙で洪水となっている。
涙腺が刺激されたせいか、鼻水も大量に溢れ出ていた。
怒りと悲しみの感情が入り乱れ、もう自分でも訳がわかっていないのだろう。
「辻堂! 約束したじゃないか! 和也くんを分けてくれるって。独り占めしないって言ったじゃないかぁ~」
「え……?」
美里が急に立ち止まる。
陸の言葉に何か思い当たる節があるらしい。
だが、今はそんな悠長にしている場合ではない。
「美里! 早く!」
俺は美里を促したが、美里には動く気配がない。
「あなたもしかして…………りっくん?」
「bあせd@おgいyふk!!」
陸が固まった。




