14.『幼馴染』する 【美里視点】
今回は美里視点になります。
また、話の時系列と致しましては4話直後になります。
私は歓喜に震えていた。
カズくんが味わった苦しみを分け与えるため、「顔を見たくない」と私を遠ざけようとしていたことを理解できたのだ。
これから私がやらなければならないことは、カズくんが歩んだ道を私も同じように歩むこと。
つまり、私を距離を置こうするカズくんの傍にいてあげること。
自由な時間などない、全ての時間をカズくんに捧げるつもりだ。
しかし、私の身近にはそれを邪魔する存在がいる。
お母さんと渋沢だ。
私がカズくんのおかげで外に出られるようになった頃、お母さんはカズくんとだけじゃなく他の子とも遊ぶように言ってきた。
お母さん曰く、小さい頃の友達は一生ものだそうだ。
正直、訳が分からなかった。
その友達というのは、私が顔を合わせないだけで三日すれば会いに来なくなった。
そんな人間を一生ものだというのがそもそもおかしい。
永遠である『幼馴染』と比べれば、一生など取るに足らない塵芥。
なので私は、お母さんの言葉を無視してカズくんとだけ遊ぶようにしていた。
だけどお母さんは、学校の友達が嫌ならと私を勝手に地元の吹奏楽団に入会させた。
お母さんは地域サークルというものに幻想を抱いていた。
お母さんとお父さんが出会ったのも地域サークルで、運命的な巡り合わせだと当時のお母さんは思ったらしい。
そしてお母さんとお父さんは恋人となり、夫婦となった。
実に愚かだ。
結果どうなったか、お母さんが一番分かっていると思うのだけれど……。
恋人であり夫であるお父さんは、お母さんを裏切った。
裏切らない分、恋人や夫より他人の方がよっぽどマシな関係だと何故気付かないのか。
離婚したお母さんを周りの人たちは腫れ物扱いして、近寄って来なくなったのに。
唯一慰めてくれたのは、幼馴染のカズくんのお母さんだけなのに。
お母さんは自分と同じ過ちを娘の私にまで犯させようとしていた。
事実私はその過ちに片足を突っ込んでしまっていた。
それが渋沢だ。
私が吹奏楽を始めなければ、会話もすることなかった男。
私が渋沢と付き合うと言ったのは、カズくんを暴力から守るためだ。
渋沢は村山さんと恋人になれないとわかった途端、村山さんの友達(確か大宮って言ってたかな?)に狼藉を働いた。
もし私が交際を断ってしまったら、カズくんに何をするかわからなかった。
だから私は渋沢の彼女と呼ばれる存在になってやった。
猿未満の知能である渋沢ならばそれで満足するかと思っていたけど、ここ数日で想像以上に増長してきている。
奴の顔など見たくもないが、次に会った時に釘を刺しておかないといけない。
私に無理やり楽器を始めさせ、カズくんとの時間を奪ったお母さん。
吹奏楽がきっかけで私と恋人となり、カズくんとの関係を壊そうとする渋沢。
どちらも煩わしいが、私は二人の妨害を乗り越えなけばらない。
私と『幼馴染』の永遠のために。
「あ……」
考えを事をしていたら、いつの間にかご飯の時間が迫ってきていた。
私とカズくんの至福の時間が短くなってはいけない。
早くカズくんの家に行かないと――。
★★★★★
家に着くと、スマホ片手にカズくんは出迎えてくれた。
心の底から私を遠ざけたいならば、家に入れたりなどしないはずだ。
やっぱり、カズくんは私を絶対に裏切らない!
「……?」
カズくんを顔を見ると、頬が少し赤い。
照れているだけかなとも考えたけれど、カズくんの唇が切れて血が出ていた。
嫌な予感がした。
こんなことをする人間は、私には一人しか思い浮かばない。
案の定、渋沢からやられたものだった。
カズくんが渋沢から殴られたとわかった時、私は血が上って頭が爆発するんじゃないかと思うくらい怒りが沸き上がった。
渋沢に勘違いするなと念押ししたものの、腹の虫がおさまらない。
正直あのクソゴミに地獄を見せてやりたいけれど、カズくんとの時間がなくなるのはおしい。
カズくんが私に怒りを顕にしたのは、苦しみを分かち合うためだけじゃない。
私がカズくんから目を離せば、私が恋人になってあげても渋沢がカズくんに怪我をさせる可能性があることを危惧していたのだ。
私は間違っていたんだ――。
そのせいでカズくんが傷付いた。
ごめんね……カズくん……。
私……馬鹿だよね……。
でも、私気付いたから。
もうカズくんと離れないから。
二度と傷付けられないように私が守るからね。
★★★★★
私はカズくんのお母さんに自分の家に送ってもらった後、シャワーを浴びてまたすぐに家を出た。
もちろん向かうのはカズくんの家。
勝手知ったる『幼馴染』の家、忍び込むのは簡単だった。
いつも夜は玄関の鍵が閉まっているが、お風呂の窓は換気のために開いている。
人が通れる隙間はないが、隙間から手を入れて上下に窓を揺らすと窓自体が外れるのだ。
家に入った後、外れた窓を付け直せば侵入は完了する。
カズくんの部屋に入り、私は布団の中に潜り込む。
カズくんは疲労のためか、ぐっすり眠っている。
目の前にはカズくんがいて、布団にはカズくんのかぐわしい香りがたっぷりと染み込んでいる。
カズくんの寝息が鼓膜を刺激してきて、そのまま天国に連れていかれそうになってしまう。
いや、ここが極楽浄土そのものなのかもしれない。
ああ……幸せ……。
五感の内に視覚、聴覚、嗅覚がカズくんによって幸福に満ちている。
もし、触覚、味覚もカズくんを感じることができたら一体どうなってしまうのだろう。
「!!」
そうだ、今カズくんは深い眠りに落ちている。
ちょっとやそっとで目が覚めたりしない。
体を触ったりしても問題ない。
私はカズくんのパジャマのボタン外し、カズくんに開けてもらった。
カズくんの胸板を手や顔でスリスリして、スベスベの肌の感触を噛み締める。最高だ。
残るは味覚。
味わう場所は決まっている……。
私はカズくんの唇に自分の唇をくっつけ、カズくんの口の中へ自分の舌を侵入させた――。
あ……!
あああ……!
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
すごい!
すごいすごいすごいすごいすごいすごいすごい!
すごすぎる!!
言葉では言い表せない究極の多幸感と極上の快楽が全身を駆け巡っていた。
凄まじい快感にクラクラしてしまい、自分の身体が本当に自分のものなのかすら疑いたくなる。
私のファーストキスはカズくんに捧げられた。
私はこの時、カズくんなしでは生きられない女であることを自覚したのだった。
次の日、カズくんの家で夕飯を終え、家に帰ると珍しくお母さんがいた。
普段であれば私が寝ている時間にひっそりと帰ってきて、私が起きる前に仕事に行ってしまう。
せっかくなので、お母さんに部活を辞めたこと、カズくんとずっと一緒にいることが私の使命であること、そしてカズくんなしでは生きられないことを伝えた。
それなのにお母さんは、泣きながら壊れたオルゴールみたいに「ごめんね」と繰り返すばかりだった。
娘が幸せになる道を歩んでいることを祝福してくれなかった。
私はそんなお母さんを無視してカズくんの家に向かった。
お風呂の窓は開いていたので、またそこから中に入った。
昨日と同じようにカズくんは熟睡していた。
あの渋沢が学校を休んだといっても気苦労が絶えないだろう。
私が癒してあげる必要がある。
カズくんが私を癒してくれたように。
カズくんの意識がない以上、精神的に何かしてあげられることはない。
そうなると肉体的なものしかない。
マッサージでもしてあげるべきなのか……。
顎に手を当てて考えて見たものの、妙案は思い付かない。
……!!
あった。ひとつだけ。
私が女であること、『幼馴染』であることを最大限に活かしたカズくんを癒す方法。
何より私自身にも大きなメリットがある。
私はカズくんに純潔を捧げることを決意した。
「カズくん愛してる」
その夜、私とカズくんは『幼馴染』した。
そしてカズくんから受け取った永遠の証を私は体内に取り込んだ。




