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   2.エレンがいるから大丈夫

 第四天聖界の浮世ふせいへんにある、商店街の片隅に、AIカフェ・フレーバーズはある。


 今、エレンがいるこの天聖界には、第六層まで存在し、第一から第三は召喚の間、第四は浮世の変、第五は思兼おもいかねの意、第六は天聖のしょ

 間で異世界転生や転移を行い、変で生活し、意で学び、処は神様達の住居だ。


 とりあえずやる事がなくなったエレンはフレーバーズを出た。

 商店街の陶器屋の主人が店の奥からチョイチョイ、っと手招きしている。

 奥は薄暗く、主人の顔上半分は暗くてよく見えない。

 が、エレンは笑顔で店に入って行く。

 「おじさん、店番珍しいね。カヨさんは麻雀?」

 「ああ。ほれ。」

 「今日も沢山ありがとう。さすがカヨさん。いつもいるぐうたら息子のロンさんは、、あはは、柚子湯目当てに温泉かー。うん。嬉しい、じゃあまた作って持ってくるね。はーい。ばいばーい。」

 ボソボソ喋るおじさんの声は聞こえにくいが、この間エレンが作って持って来たオカラのチーズクッキーが美味しかったらしく、またよろしくと、チョイチョイっと手を振った。

 エレンがお菓子の箱が沢山入った紙袋を持って陶器屋を出ると、今度は団子屋のおばさんが焼きたてのみたらし団子を持たせてくれた。

 肉屋でコロッケ、八百屋でリンゴと白菜、手が塞がってもう持てなくなると、

 「エレンちゃん、今度はウチにも寄って来とくれよ。いいのが入ってるんだ。」

 と声をかけられる。

 「ありがとう。またね。ばいばーい。」

 手が塞がって振れないので言葉だけ。

 まだ見習いのエレンは、商店街の続き向こうの、飲食街へと向かい、借りている定食屋の2階の角部屋に入る。

 女神様になれば、第六層に部屋を与えられるが、今はまだ定食屋で住み込みのアルバイト生活だ。

 大喰らいのエレンには、何かとここでの生活の方が居心地がいいらしいので、女神様になっても居座るような気がしないでもない。


 エプロンを付けて店に出ると、

 「エレンちゃん、待ってたよ! 日替わりひとつね!」

 「こっちも日替わり2つ!」

 「エレンちゃん、こっち4つね!」

 定食屋・玉子貴族の常連客さんは、エレンの作る料理目当てに、エレンが店に入る16時前から並んで待ってくれている。

 「はーい。じゃんじゃん作るよー!」

 元気に腕まくりするエレンだが、少し前まで、全く料理の出来ない子だった。


 少し前、

 「貴族、、貴族の経営するお店かしら。」

 玉子貴族という店の看板を見て、貴族が来る店だと勘違いした、貴族のお嬢様が、働かせて欲しいと履歴書を持ってやって来た。

 「シャルロット・C・シュゼティエル。カルバン公爵の姪ですわ。こちらの店舗の主人はどちらの?」

 獣人族ネコ科ルーベルト・フィッツシュバイン皇帝陛下の宰相、カルバン家、代々皇族の闇の仕事を一手に仕切ってきたと噂があるが、それを表立って口にする者はいない。


 だがそんな事を一般人が知る由もなく、玉子貴族の店長ジャネットおばさんは「は?」という顔で固まった。

 固まってそして叫んだ。

 「ちょいとエレンちゃん! こっち来ておくれ!」

 ひょいっ

 と厨房と客席の間の品出し窓から顔を出したエレンは、焦げないように混ぜていたカレーの寸胴の火を止めて、何ですかーと小走りで近付く。

 「貴族のお嬢様らしいんだけどね、何言ってるかわかんなくてねー、通訳? してくんないかい。」

 「えーっ? わ、私も貴族に知り合いなんて、、あ、いたわ(確かフレーバーズのマスターは貴族だった筈)。」

 「こほん。シャルロット・C・シュゼティエルですわ。カルバン家はご存知かしら。」

 「(あれ?確かマスターの名前って、ジュゼッペリアス・カルバンだったから、その、カルバン?)、、。はい。」

 エレンが少し考えて、はいと答えたことにシャルロットは目を見張った。

 挨拶に、挨拶の返しがないということは、シャルロットよりも高位貴族が身分を隠してここに!? とシャルロットは誤解を深めた。

 「私はカルバン公爵の姪ですの。」

 嘘偽りなくこちらに敵意がない事を示さねば、とシャルロットは笑んだ視線に気持ちを込めた。

 しかしそんなことがエレンにわかる筈もなく。

 「はぁ。(あれ? てことは、この人も吸血鬼?)、、。」

 「一般社会(庶民呼びは失礼にあたると聞いたわ)を実地で学びたいのです。」

 「(貴族のお嬢様が定食屋でアルバイト!?)、、。」

 エレンがポカンと口を開けて黙っていると、シャルロットはエレンに耳打ちする。

 「家からの紹介だとこういう本当の庶民の生活が体験出来ませんものね。」

 貴方もそうなのでしょう? とシャルロットは視線を送る。

 「(しょ、、庶民! おぉ、貴族っぽいーっ)、、。」

 庶民も庶民のエレン。

 「じゃあ決まりだね。エレン、よろしく。」

 ポンポン

 ジャネットおばさんがエレンの肩を叩く。

 まるっと面倒みてやるんだよ、とエレンに丸投げ。

 「ええええええええっ!」

 「私の事はシャティと呼んでくださると嬉しいですわ。」

 「(え、もう決定な感じなの?)、、エレンです、よろしくお願いします。」


 「まあ。」

 ポン

 と胸のあたりで手を叩くシャティ。

 「では、エレンはジュリー叔父様とお知り合いなのですね。」

 客席の一角にパーテーションを立て、お茶の時間だからと紅茶で喉を潤すシャティ。

 甲斐甲斐しく世話を焼く侍女が1人シャティの斜め後ろについている。

 もちろん、営業時間中なので満席である。

 エレンは料理を運び、片付け、客の要望を聞いたりと大忙しであるが、優雅に紅茶のカップを持つシャティの相手もしながらである。

 「(ジュリーって、、マスターのことなのか)、、ハハハ。」

 「でも意外ですわ、あのジュリー叔父様と仲良くなさっている方がいらっしゃるなんて。」

 そう言ってシャティはエレンにウィンクした。

 はっ! じゃあやっぱりシャティも吸血鬼!? とシャティを二度見するエレン。

 エレンの様子を見て、シャティはエレンに耳打ちする。

 正確には私は姪ではなく、子孫になりますから、その血はかなり薄く、興奮した時に瞳の色が赤く変わるくらいで恥ずかしいですわ。


 「ではレアナ、私、働きますわ。」

 「はい。お嬢様。」

 侍女のレアナにそう告げて、シャティは立ち上がった。

 どちらも給仕服なので、はたから見れば侍女が2人だ。

 「、、。」

 そして、シャティは立ち上がったものの、する事がなく立ち尽くしている。

 その後ろで後片付けをするレアナの方が働いている。

 「、、エレン。」

 シャティは忙しく走るエレンに微笑みかけた。

 エレンは少し考えて、片付けた後のテーブルセッティングを任せる事にした。

 「シャティ、こっち来てテーブル拭いてくれない?」

 「レアナ。」

 「はい。お嬢様。」

 レアナがテーブルセッティングをしに行く。

 「(シャティ?)、、。」

 エレンがシャティに微笑みかけると、シャティもエレンに微笑み返す。

 「(そうじゃなくて)、、シャティ、レアナには帰ってもらおうか?」

 「給仕をする者がいなくなってしまいますわ?」

 「うん。シャティがいるから大丈夫。働きに来てるんだよね?」

 「、、そうですわね。」

 ポン

 と胸のあたりで手を叩くシャティ。

 「私がいますから大丈夫ですわ。レアナ、下がってよろしくてよ。」

 「はい。お嬢様。」

 意外と素直なシャティと、帰って行く侍女。

 もう少しゴネられるかと思ったけれどと苦笑するエレン。

 帰り際、侍女がエレンに差し出す分厚い本。

 紺色の背表紙に、金で縁取られ、魔法陣が描かれた高価そうな、、魔法書?

 「どうぞお受け取りください。」

 「、、?」

 エレンが受け取ると、侍女は静かに店を出て行く。

 本を開いてみるエレン。

 ふわぁーっ

 と開かれた本から光が巻き上がり、キラキラとエレンを包んで、光と本が霧散して消える。

 「、、!?」

 「上級給仕魔法の書ですわ。私にはエレンがいますから大丈夫ですわね。ホホホホ。」

 「、、!」

 エレンの頭の中には、完璧な上級給仕学が焼き付けられたのだった。


 シャティは玉子貴族に約一年勤めた?

 もちろん、実際に動くのはシャティの代わりにエレンだった。

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