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   1.女神様になりたい!

 真っ白な壁に囲まれた馬蹄型の巨大な円卓。

 中央には遥か昔に作られた色鮮やかな魔法陣が常に光り輝いている。

 出入り口はただひとつ。魔法陣から敷かれた赤い絨毯じゅうたんが、馬蹄型の出入り口から壁まで伸びている。

 そこには何も無いように見えるが、生命体に反応して白い壁に魔法陣が現れ、その中に色鮮やかな光で縁取られた扉が床側からスゥーと型を成す。

 生命体に反応してあるべき場所へと送ってくれる。

 この扉を開くことが出来るのは、この空間を魔力で維持し、支配し、統率する者だけ。

 そして今、この円卓に座っているのは2人。

 上座に堂々と威光を放つ金髪翠眼の紳士と、端っこも端っこの席でうーんうーん、、と頭を抱えて俯いている金髪碧眼のちっこい少女。

 「、、今日もまたパスかな? それはそれで構わないのだが、決めてもらわねば私はここから出られないのだが。」

 「(はっ!)すいません! パスでお願いします!」

 「(ほっ)よかった。では、本日の召喚の儀を終える。これにて閉廷。」

 カンカン!

 少女が慌ただしく手元の書類をかき集めている中、紳士の右手から振り下ろされるガベルが高々と音を鳴らす。

 は、早くしなきゃっ。

 ビッターン! バサバサバサッ

 少女は馬蹄型の出入り口で派手に転んでしまう。

 「エレン、、急がなくていい、落ち着きなさい。」

 「はい! すいません!」

 慌ただしく散らばった書類をかき集めるが、慌てているので掴もうとした紙はヒラヒラとまた腕の中から溢れてしまう。

 「あつまれ。」

 紳士が人差し指を動かすと、少女の書類が瞬く間にその腕の中に整理された。

 「いつまでも紙使ってないで、君もちゃんとAIを使役しなさい。」

 真っ赤に頬を染めたエレンは「ありがとうございます!」と早口で礼を述べ、駆け抜けるように光の扉を抜けた。


 今日も召喚出来なかった。

 エレンは行きつけのAIカフェ・フレーバーズのカウンターに顔面を突っ伏した。

 「はい、いつもの。」

 コトン

 エレンの顔の側に皿が置かれる。

 お馴染みになったマスターが作る、一口サイズのホットケーキが山盛りになって半溶けの四角いバターがトロリと皿から溢れそうだ。

 「はい、あーん。」

 「あー、、んぐんぐ。」

 マスターがフォークに刺した一口を、エレンの口の中に放り込まれる。

 美味しい。

 銀髪銀眼のマスターは口髭も似合っているイケメン、ううん、この商店街のアイドルだ。

 第一世代の吸血鬼の血脈をマスターだけが今も受け継いでいるらしい。

 なのでマスターの魅了スキルにあらがえる者はそういない。

 ああ。でもエレンには効かない。


 まず、軽く吸血鬼が吸血鬼たるコトワリを説明しよう。

 マスターの体臭、唾液などの分泌物には毒素が含まれており、その毒素を体内に取り込むと、神経が侵され、マスターに魅了された者は、その支配下にいることに喜びを覚え、中毒になると奴隷化し、次第に体が蝕まれてゾンビ化するらしい。

 しかも、起源種であるマスターは毒素の排出率を自由にコントロールすることが出来る。

 ただし、マスターの血液にはそれらに対する抗体が含まれている。


 何も知らずここで一時アルバイトをしていたエレンは、サンドイッチを作っていたマスターが指先を軽く切ってしまった時、その指を舐めてしまった。

 その時、エレンには口内炎があった。

 吸血鬼の血がエレンの体内に入り込み、エレンの体内には吸血鬼への抗体が作られた。

 なので、エレンはマスターが気軽におしゃべりできる限られた友人の1人なのだ。

 ちなみに、吸血鬼の肉は絶品らしい。最後に食されたのは千年も前らしいので、入手も中々に困難だが、機会があれば是非食べてみて欲しい。

 ああ。エレンは吸血鬼ではない。

 血液には毒素が含まれていないし、吸血鬼の血液や肉を食べても吸血鬼にはならない。内臓はやめとけ。

 

 山盛りのホットケーキを数分で食べ終え、ごちそうさまでした、と満足そうにほっぺをホクホクと膨らませて紅茶を飲むエレン。

 昔、何も知らずにドラゴンの胃袋を料理してつまみ食いしてしまってから、エレンは食べても食べても強力な胃袋で消化してしまって全く太らなくなり、数百年くらいなら何も食べなくても餓死しない仮死状態になれる体を手に入れている。

 ただ寿命は変わらないので仮死状態のまま眠るように老衰してしまうかもしれない。

 機会があれば、ドラゴンの心臓も料理して食べちゃえば、不老不死並みの寿命になって仮死状態を体験できるなーと企むエレンだった。


 「よっし、元気出た。」

 小さくガッツポーズして、書類を手に取る。

 今日中に! 絶対に! 決めてみせる!

 書類を睨みつけるエレン。

 召喚候補は3人にまで絞り込んである。

 生きたくても生きられない病死になる12歳の少女。

 人助けをしたら代わりに死んでしまう40歳のおじさん。

 逆恨みのストーカーに刺されて死ぬ女子高生。

 「さあ! 決めるんだ私!」

 トコトコ

 そこへ、マスターが使役する天使型のAIがカウンターを歩いてエレンに近付く。

 背丈は20センチほどだろうか、金髪の赤ちゃんが小さな白い羽を背中でフリフリしながら、エレンの側にしゃがみ、紙を覗き込む。

 「それ全員もう召喚済みだね。」

 「ええええええええっ」

 ガクシッ

 エレンは首を折れてカウンターに頬を乗せる。

 「どうしてエレンはサクサク召喚しない? エレンばか? エレン時間かけるから泥棒に盗られる。」

 「うぅ。わかってるけど、わかってるけど、、」

 「通報しろ。泥棒は犯罪。」

 「くぅ。私が遅いから、皆に迷惑かけてるし、」

 「どんな理由くっつけても泥棒は泥棒。犯罪者。死刑。」

 かわいい顔から抑揚のない冷たい声が恐ろしい言葉を次々に紡ぐ。

 「エレンずっと見習い? 女神様諦める?」

 「やだ!」

 ガッと頭を上げて天井を見上げるエレン。

 「女神様になりたい!」

 「今のままじゃエレン無理。」

 「あぅー。ガブちゃんひどいよ。」

 「俺の名前はガブリエル。短くするな。」

 「見習いの私がガブリエル様と同じ名前を呼び捨てになんて出来ないって、、。」

 「じゃあガブリエル様と呼べ。」

 「ガブちゃん。」

 「エレン死刑。」

 「ひどいっ。」

 「はいはい。ガブ、その辺でおしまい。」

 また違う天使型のAIがパタパタと小さい羽で器用に飛んできてエレンの頭に着地。

 重さがほとんどないAIなので頭に乗っても重くはない。

 重くはないが不快ではある。

 「ミカエル、呼んでない、あっちいけ。」

 「ガブはエレン大好きだよねー。エレンが来たら独り占めしたいんだよねー?」

 「貴様、死にたいか。」

 「えー? だってエレンが大好きだから、ついついいじめたくなっちゃうんでしょー?」

 「俺は誰も好きじゃない。」

 「ミカはー、エレンもガブも大好きだよ!」

 「きゃーっなになになになにったのしそーっ」

 また別のAIが飛んで来た。

 気付けば、エレンの周りにはAIがいっぱい寄ってきて、思い思いにエレンの体にしがみついたり、引っ張ったり、枕にしたりしている。

 「集合ー。」

 マスターが声をかけると、ピタッと動きを止めたAI達がパタパタッとマスターの方へ一斉に飛んで行く。

 「お前ら仕事しろー。分かったやつからかいさーん。」

 「はーい。」×12

 店内はかなり広く、ホテルのシガーラウンジのような内装で、AI達は各々の専属シートへと散っていく。

 専属シートは半個室のようで、足元しか周りから見えないようになっている。

 AI達には名前があるが、この店では統一してフレーバーと呼ばれる。

 客はまずバーでフレーバーを選んで専属シートに座る。

 フレーバーとキスすると契約成立。専属シートにいる間だけフレーバーを自由に出来る。

 携帯電話、パソコン、ARなど多用に機能し、人型にもなれる。価格は億を超える為、レンタルが主流である。

 一泊2日のテイクアウトもあるが、購入予定のお試しに利用するサービスであり、利用者は少ない。

 少ないが需要はある。なぜなら、購入者はこの店を無料で利用出来、飲食も無料。購入者の為にあるサービスショップだからだ。

 まぁ、購入時に生涯メンテナンス料として高額な追加オプション代が必要ではある。強制ではないものの、メンテナンスがされなければすぐ動かなくなるので強制のようなものだろう。


 「ガブリエルは言い過ぎだけれど、エレンはどうして召喚しないの?」

 お皿を片付けるマスターがなんの気無しに聞いてみる。

 「うぅ。、、どうして皆、あんなにサクサク召喚出来るのでしょう。私、召喚した人のその後の人生がどうなるのか、その人を召喚した世界がどうなるのか、、見届けることが出来ないのが怖くて。召喚してはいおわり、はい次、っていうのが、、とても怖いんです、、。」

 「エレンは、自分を召喚してくれた女神様みたいになりたいんだったかな?」

 「はい!」

 元気のなかったエレンがキッラキラの笑顔でマスターを見る。

 「私、4歳の頃に事故死したらしいんであまり前世の記憶はないんです。

 この世界に来て、初めて見たのがエレナリアム様で、とても美しくて、とてもお優しくて、なんていうか、この人が私のママだ! って、勝手に思ってしまって、

 ママになりたい! って、エレナリアム様にお願いしました。

 エレナリアム様は、じゃあ決まりね! って、私にエレンという名前を付けてくださり、そのまま私は神通力養成学校に入りました。

 神様達には六神通ろくじんつうという力があり、入学試験で受けた神通力査定で、私には神足じんそく他心たしん宿命しゅくみょうの力があると判断され、入学が許可されました。

 でも、私が欲しい天耳てんにという、世界全ての声、音を聞ける力は、通学中に得ることは出来ませんでした。

 それでも、卒業試験さえクリアすれば、私は念願の女神様になれる資格試験に合格し、エレナリアム様のように素敵な女神様になれる!

 のですが、私の授かった3つの神通力はどれもまだレベルが低く、天耳が使えない私には、召喚者がその後どうなったのか知るすべがなく、それがとても怖くて、卒業試験である異世界召喚が、まだ1回も、出来ていないのです。」

 「それはそれは。お辛いですね。」

 グラスを綺麗な布巾で磨きながら、マスターは少し肩をすぼませた。


 六神通とは、

・神足通(自由自在に思う場所、思う姿で行き来でき、思い通りに変えることのできる力。飛行や水面歩行、壁歩き、すり抜け等。)

・天耳通(世界全ての声、音を聞き取り、聞き分けることができる力)

・他心通(他人の心を全て読み取る力)

・宿命通(自他の過去の出来事、前世をすべて知る力)

・天眼通(業による生死を遍知する智慧。輪廻転生を見る力)

・漏尽通(煩悩が尽きて、今生を最後に二度と迷いの世界に生まれないことを知る智慧)

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