やっと見つけた宝の地図
僕は地図を握りしめ、両親へと告げた。
「旅に出るよ。宝の地図を手に入れたんだ」
すると、両親は顔を見合わせ、こう返した。
「まあ、旅に出るだなんてとんでもない」と母。
「そうだぞ。宝の地図だなんて贋物に決まっている」と父。
お決まりの台詞。
確かに、僕が今まで掴んだお宝の情報は全て間違ったものだった。けれど、今度のは自信がある。
「路地裏にひっそりと佇む怪しげなお店で見つけたんだ。本物の宝の地図に違いないよ」
「怪しげなお店だなんて。そんなところに近づいてはいけません」
「そうだぞ。だいたい、怪しげなお店で売っている商品がまともだとは到底考えられないな」
尤もな意見。怪しげなお店に置いてあるのは、怪しげな商品と相場が決まっているんだ。だからこそ、普通のお店では手に入らないようなモノがそこにある、と僕は考えた。
そして、見つけたんだ。如何にもって感じの地図を。
触れた瞬間、今までにない衝撃を感じた。贋物には無い特殊な力の波動。
これが、本物ってやつなんだ。
その感覚を信じて、地図を買い、脇目も振らず帰って来たというのに。
両親は、地図が本物だと信じようとはしない。
「良いさ。宝を見つけさえすれば、僕が正しかったと証明されるんだ。その時になって謝っても、分け前はあげないからね」
「分け前? 何の話をしているの?」
「そうだぞ。夢とか浪漫を求めて宝探しをしているんじゃないのか?」
「はあ? 違うけど」
なんで一銭の得にもならないことをしなくちゃいけないんだ。
「僕の探すお宝は金銀財宝。一攫千金を得る為だよ。そして、一生遊んで暮らすのさ」
宝探しは浪漫じゃない。豪遊だ。
両親はまた互いに顔を見合わせた。
「私達も一緒に、よね? 家族だもの」
「そうだぞ。家族皆で遊んで暮らすのだろう?」
「お宝は一緒に探した仲間で分け合うものだと僕は考えているよ。けれど、宝の地図を本物だと信じてくれない人を仲間って呼んで良いのかなあ。家族だからこそ余計に、ね」
仲間ではない者に宝の分け前はやれない。後でも揉めない為にもここだけははっきりさせておく。
僕が本気で言っているのだと感じとった両親は頷き合う。そして、
「信じるわ。それは間違いなく宝の地図よ」
「そうだぞ。本物に違いない。だから、好きなだけ探しに行ってこい」
「母さん! 父さん!」
三人で抱きしめ合う。
家族の思いが通じ合った瞬間、宝の地図が光を発した。
本物のお宝の在処を示す合図だと思い、地図を広げるとそこには、
『おめでとうございます。貴方は宝を手に入れました。家族の絆という宝を』
文字が浮かび上がっていた。
沈黙が場を支配する。
僕は両親から離れ、地図を破り捨てた。
そして、こう言った。
「ごめん。やっぱり地図は贋物だったみたいだ」