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いつでもどこでも短編小説『衒気な桃太郎 -上-』

作者: 日生慎一郎

 その昔、或処に翁と嫗が棲んでいた。或日、翁は山へ柴刈りに、嫗は川へ彼等の麁服(そふく)を濯ぎに出掛けた。ふと嫗が川上のほうへ目を遣ると、潺湲(せんえん)たる流れの中に一玉の大きな桃の浮漂するのが見止められた。嫗は其の桃を拾い上げると、抱きかかえて彼女らの居宅へ運んで行った。


 翁は山から家に戻ると、厨に置きたる巨桃を見ると驚嘆の声を上げずにはいられなかった。嫗が翁に事情を告げると、翁は納得して桃を割らんとした。出刃庖丁で桃に切り込みを入れようとするや否や、桃は独りでに裂け、中からは元気に満ち溢れた赤子が出てきた。二人は其の赤子を桃から生まれたので「桃太郎」と命名することにした。


 桃太郎は間もなく丈夫な青年に育ち、翁と嫗の仕事を手伝うようになった。或日桃太郎は街の男から、鬼が町を荒らしていて、市井の人は大いに困弊していると耳にした。其の事を知った桃太郎は手を拱いている場合ではないと、鬼を成敗せんことを志し、翁と嫗にその旨を伝えた。二人は桃太郎の提案に対しはじめは難色を示していたが、桃太郎の熱い気持ちが肺腑に沁みたのか、畢竟鬼退治の許可を出した。町の男たちすら且つ鬼を恐れ、逃げ惑う。(いわん)や桃太郎をや。町の人々はそう忌憚なく言ったが、嫗は桃太郎が旅立つ朝には吉備団子を拵えて桃太郎に持たせ、翁と二人で「日本一!」と精一杯鼓舞した。


 桃太郎が鬼の棲む鬼ヶ島へ向かう道中、一匹の犬が桃太郎に声を掛けた。

「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけた吉備団子、一つ私に下さいな。」

「遣りましょう、遣りましょう。これから鬼の征伐に付いて行くなら遣りましょう。」

「行きましょう、行きましょう。貴方に付いて何処までも。家来になって、行きましょう。」

といった具合で、桃太郎は忽ち犬を、続いて猿、雉を家来として随えて鬼ヶ島へ向かった。

動物と会話を能うのは桃から生まれた性であろうか。種属は異なれど桃太郎と三匹の獣との絆は磐石なものであった。



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