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私が霊を信じるようになったわけ

作者: 副長

これは私が高校生の頃の話です。


当時、私は関西の南の方の地方に住んでいました。そこはお世辞にも都会とはいえないような所です。地方に住んでいる方ならお分かり頂けるでしょうが、都会と比べて地方は遊ぶ場所が少ないことからマンネリ化するのが早く、いつも友達と集まりはするものの、「なにするー?」と暇をもて余していました。


当時、私達は携帯のカメラで撮った写真をカメラ屋さんで現像して、10代の思い出作りをしていた時期なので、日々刺激を求め続けていました。


そしてある日。


いつもの週末のように近くの公園で友達数人と「なにするー?」状態になっていた時、友人のNが提案をしてきました。


「俺の高校の連れがさ、今日俺らみたいに暇してるからこっち遊びにこーへんか?って誘って来たんやけど…行ってみる?」


それを聞いて暇をもて余していた私達はすぐに合意し、Nの友達の住む地域へと電車に乗り向かいました。


その友達は市内に住んでいるみたいでした。


もちろん私やその場にいたN以外の友人はそのNの友達とは面識はありません。


だけど知らない地域に終電ギリギリで向かうのだからテンションはMAXです。


Nの友人達が待つ駅へと到着する頃にはすでに0時を回っており、駅前のロータリーはほとんど人通りがなく、タクシーの運ちゃんがタバコをふかしながら暇そうに談笑してるのが目に入りました。


そして私が


「おいN、お前の友達ってどこ?」


と私達は回りをキョロキョロ見渡しました。


そしたらロータリーの横にあるコンビニの前に4.5人の同世代ぐらいの人気がありました。


「あ、あいつらや」


Nが駆け寄ります。


私達は初対面なので少したじろぎながらも近づき挨拶をしました。


話してみると、Nの友人達は皆すごくフレンドリーで


その中でもリーダー格のKという友人がひときわ愛想が良く、


「いつも君らの事Nから聞いてるで!」


と気さくに話しかけてくれました。


そして緊張もほぐれた所で私が


「ほんで今晩なにして遊ぶん?」とKに尋ねました。


私達は初めて来た土地なので回りに何があるのかも全く知らないですし、今晩の遊びのメニューはNの友人達に決めてもらおうと思いました。


するとNの高校の友人グループの一人が、「怖場行かへん?」と行ってきました。


一応説明するが怖場とは心霊スポットの事である。


「えーやん!いこいこ!」


当時、怖場が大好きで地元のスポットでは物足りないと感じていた私達は新たな怖場開拓にノリノリで賛成しました。


「ほなこっからそう遠くないからぼちぼち歩いていこかっ!」


とKを先頭にNの高校の友人勢が歩き出しました。


15分ぐらい経ってからだろうか、少し前の方を歩いていたNが私に


「もう着くみたいやわ」


と振り返りながら言ってきた。


私は


「そーか。えらい近いねんなあ」とNに返事をし、


Kに「いま向かってる怖場はどんな所?やばい?」


と尋ねた。


するとKは


「うーん…霊が出るかとかは正直分からん。だって俺ら霊感ないもん」と笑った。


それを聞いて私達も


「そりゃあ間違いないな」と笑いあった。


すると向こうのグループの一人が

「着いたでー!」と私達の方を振り返り、正面の建物を指差した。


私はKの


「やばいかは分からん霊感ないし」と笑っていた姿をみて、内心大したことないんじゃないかとたかをくくっていた。


大通りから道を外れ、車の音も聞こえないような場所にそれはあった。


それは4階建てのビルでもなければマンションでもない、【館】のような変わった作りの建物だった。


私はKに


「まじか。この雰囲気は絶対霊いるやろ。なにこの建物?」


と聞いた。


「今は廃墟になってるけど、もともとは近くの建設会社で働いていた外国人の寮やったって聞いてるで」


とKが教えてくれた。


建物の敷地回りはロープが張り巡らされていたが、私達はロープをまたいで入口に進もうと思った。


しかしその時、今まで感じたことのない悪寒が体にブレーキをかけた。


初めは自分だけかと思ったが他の友人達もロープの前で立ち止まっていた。


「ここ入るのやめとかへん?」


その場にいた一人がボソッと言い放った。


ここまで来てという思いがあっただけに誰もがその一言を言い出せずにいた。


正直ホッとした。


でも私達は悩んだ。


せっかくここまで来たのに?

じゃあこの後はなにして遊ぶの?


などなど


歩みを止めるわけにはいかない理由ばかりが頭の中を駆け巡る。


するとKが


「Tを呼ぼっか」


と言い出した。


「T?誰それ?」とNが言った。


KをはじめNの高校の友人達と私達はこの日が初対面である。


しかしTの存在はNですら知らなかった。


そこで私は「なんでTって人を呼ぶん?」とKに聞いた。


するとKが


「Tはな、ごっつ霊感あるねん。この怖場の寮は俺らも前からよく来てはいるもののお前らと一緒であのロープをまたいで中に入ることができひん。結局いつも霊感無い者同士でキャッキャ騒いでお開きになる。でも霊感あるTに見てもらったら何か変わるかも知れへんやん。実は雰囲気だけでまったく霊がおらんくてただの廃墟かもしれん。もしそうなら俺らの基地にしよう!」と。


いま思えばここで止めておきべきだった…


でも私達はこの真相を突き止めたいという好奇心にかられ、Tを呼ぶことに賛成し、一度大通りに戻りTの到着を待った。


30分ほど経ってからTは俺らのもとに歩いてやってきた。


てっきり俺は自分達と同じような人種?だと思っていたが、


実際のTはロン毛で華奢の、良くいえば女の子みたい。悪くいえば典型的な引きこもりのような容姿だった。


「こんばんわー!こんな時間にKから電話あってびっくりしたわ!みんなも久しぶり!ほんで面白いことってなに?どうしたん?」


恐らくKはTにことの詳細を伝えていなかったのだろう。


そしてKがTに言った。


「なぁT。たしかお前霊感あったよな?」


「霊感?あるよ?てかKは俺に霊感あること知らなかったっけ?」


「いや、知ってるけど確認しただけ。霊感ありすぎて人と霊を間違えるからってバイクの免許取らないって聞いたけどマジなん?」とKは笑っていた。


それを聞いたTも


「そやねん。バイクやったらスピード出てるやろ?俺あのスピード感で霊と人の区別つける自信なかってん」とケタケタ笑っていた。


それを聞いた私は単純にすげーっと感心した。


そして


「T…くんはさ、そんなはっきりと霊が見えるの?」と聞いてみた。


するとTは


「見えるよ。Rくん(私)やっけ?自分シックスセンスって映画見たことある?」


私「あー、あのホラーのやつ?一回見たなあ。なんで?」


T「簡単にいえばあんな感じ。あんな風に見えてる。事故で亡くなった人とかは怪我してるで。あの作品は霊感ある人が作ってる気するわぁ」


とTは一人でウンウンと納得していた。


そこでKが


「まぁ話の流れのまんまやねんけどさ、今日はTに霊がいるかどうかの調査手伝ってほしいねん!」


とTに言った。


私はてっきり、遊び半分でなんたらと断られると思っていたが


Tは「えーで!おもしろそうやな!ほんでどこいくん?」と案外乗り気であった。


Kが「今日調査するのはなぁー…」


と答えようとした時、急にTが


「ちょい待ち、一つ条件がある。どこ調査するか知らんけど、そこの寮だけはあかんで」


と言った。


私は背筋に寒気がした。


K「え?なんでなん?」


T「いやいや、お前ら霊感無くてもあそこはやばいって雰囲気で感じひん?」


それを言われ俺達は全員「感じる」と答えた。


するとTが


「せやろ?俺も何回か前を通りかかった事あるけど、あそこは数が凄まじいねん。しかもただいるだけの霊やったらまだええわ。でもな、あそこの霊はあわよくば取り憑こうと機会をうかがっとる。言うならば悪い霊の巣窟や」


と真顔で言った。


今まで陽気に話していたTが急に真剣に話し出したので、私達はビビり倒した。


心の中で警告音が鳴り響いている。


するとKがTに


「Tは除霊とかできひんの?」と聞いた。


Tは


「できひんこともないけど…でも多分お前らが期待してるような除霊はできひん。悪意がない霊を塩と酒を使って祓える程度やわ。さっきも言うたけど、あの寮の霊は悪意を持ってるからあれは祓えへんで」


と制止した。


でもKはTの話を聞こうとはしない。


「まぁ今日は人数もたくさんいるし大丈夫やろ。Tがやばいって言うたらすぐ退散するから!お願いっ!」


と食い下がった。


Tも初めは断り続けていたが、あまりにもKがしつこいので最終的には渋々OKした。


T「ほんまにあかんて言うたらすぐ退散するんやで?ついてきたらえらい目にあうし」


とTに念を押されつつ、俺達は例の寮へと引き返した。


…相変わらず凄まじい雰囲気の建物である。


Tはと言うと上の方を、ボーッと眺めていた。


「なんかいる?」と私が聞くと


「うん。あの3階の窓の所に数体いる。こっち見てるよ」とTが答えた。


もちろん霊感の無い私達にはその数体の霊は見えていない。


そしてしばらくの間


「あ、あそこにもいる」

「こっちにもいるなあ」


などとTが四方八方に指を指して説明してくれた。


はじめのうちはTの発言にいちいちビビっていたが、人間とは不思議なものでそんな状況にも自然と慣れてくる。


そしたらなぜか、Tが胡散臭くおもえてきた。


本当にこいつは霊感なんてあるのか?と。


そして私はTに


「Tくんちょっと中入ってみてーさ」


と言ってみた。


Tは一瞬驚いた顔をしたが


「うん、入ってみるわ。でも自分らはここに残りや」


とロープをまたぎ、スタスタと入り口へと向かった。


私達は呆気にとられていたが、Tは歩みを止めることなく、


ガチャッ…と正面玄関の扉を開き、中に入っていってしまった。


私はすかさずKに


「おいおい大丈夫なんか?」と言ったが


Kは「大丈夫やろ!悪霊退散してくれるって」と笑っていた。


初対面ということもあって私達はTを知らない分、Kほど呑気にはいられなかった。


Tが建物の中へと姿を消して2.3分経っただろうか。


私達はTが入っていった入り口を凝視したままTの帰りを待った。


すると小走りでTが出てきた。


「あかんあかん。霊が出てきた」とTは少し取り乱し気味に私達に伝えた。


そのTの様子にとっさにやばさを感じた私達はTの後を追いかけて、一旦大通りまで避難した。


「はぁ…はぁっ…」


いきなりの出来事にみんな息を切らしている。


Tも私達と同じように呼吸が乱れている。


そして私はTに


「出てきたってどんな霊?」と聞いた。


Tは


「6体ぐらい来た。数自体は普段なら何とも思わん数なんやけど、その中の1体にものすごい悪意を感じたからこれ以上はやばいって判断した」


と取り乱しながら答えた。


私「まじ?ちなみにどんな容姿やったん?」


T「その霊は女やった。どんな容姿か?うーん…分かりやすく言うと貞子やな」


「それ一番やばいやつ!」と私がツッコミを入れると、回りの友人達に少し笑顔が戻り、小さな笑いが沸き起こった。


でもNだけは笑っていなかった。


するとNが


「なぁ?T。初対面でこんな事言うのもあれやけど、お前ほんまに霊感あんの?」


と言い出した。



Nも私と同様にTの事を胡散臭く思っていたのだろう。


Tは


「それよく言われるけどほんまにあるよ。でもまぁ霊感ない人からしたらちょっと胡散臭く感じるかもなぁ」と笑っていた。


そしたらNは


「いやちょっとどころやないよ。かなり胡散臭く感じてる。そもそも俺は見えへんもんは信じひんタイプやし。さっきも流れでここまでついて逃げてきたけど、俺はTの手のひらで踊らされてるようでなんか嫌やわぁ」


と突っ返した。


私は内心


(おいおいそんなストレートに言うか?)


とヒヤヒヤしたが、Nの言い分も分からなくはないので、黙ってTを見ていた。


するとTが


「ずっと黙ってたけどさ、さっき1体だけやばい霊がいたって言うたやろ?そいつだけ俺らに追いついて、ずっとこっち見てるで」


と言った。



まだ続けるか?と思った時、とうとうNがしびれを切らしたのか


「だからお前がそう言っても俺らには見えてへんねん!!ええかげんせぇよ!どこにおんねん!」


と少し怒鳴った。


するとTがゆっくりを大通りの反対側にある茂みを指差した。


「あそこ。携帯のカメラで写真撮ってみ」


と冷静にNに言った。


Nは


「ちっ。なんやねんこいつ」


と文句を言いながらもポケットから携帯を取り出し、Tの指差す先に携帯を構え、パシャッと写真を撮った。


Nは撮り終わった写真を凝視している。


無表情だ。


私達はNの反応をうかがった。


するとNが一言


「まじかこれ…」と言った。


「どうした?」と私達はNに駆け寄り、全員で携帯の画面を覗き込んだ。


2秒ほどで確認できるほど鮮明にくっきりとそれは写っていた。


「うわ…ほんまに貞子やこれ」


と一人が呟いた。


どっきりでも仕掛けられているのか?と疑いたくなるほどのルックスの霊が写り込んでいた。


貞子らしき女は真顔で口をぱっくり開けながら写っている。


冷や汗が止まらない。


私もNと同様に霊を信じてはいないタイプの人間だったので、ここまで鮮明に心霊写真が撮れてしまうとさすがに焦る。


私「なぁTくん!これどうにかできひんの?」


とTに言ったがTは


「だからやめとこうって言うたんやん。悪いけど俺にはどうにもできひん。でもまぁ気休め程度やけどお祓いしとこか!」


と、まずはNにその写真を消去するよう指示し、近くのコンビニで酒と塩を買い除霊を始めた。


やはりここでも胡散臭さを感じたが今はそれどころではない。


もしかして祓えるかも?という少しの希望が俺達の精神を安定させていた。


一連の儀式的なものが終わりTが


「はい、終わり。とりあえずやれるだけのことはやったから。まだあの霊はこっち見続けてるけど気にしないように」


と私達に言った。


(気にしないようにって…)


と少し無理を感じたが、ここはTの言う通りなるべく気にしないように、霊がいた茂みを見ないように努力した。


結局その後は朝方まで営業しているボーリング場へと向かい、始発まで何ゲームも繰り返し、有り余った若きエネルギーを使い果たした。


冒頭でも書いたが私達は当時、思い出を残す為にアルバム作りしていたので、アルバム用の写真もたくさん撮った。


そして帰り際にK達と連絡先を交換して、その日撮った写真もメールで送っといてあげた。



もうあの夜から今年で10年が経つ。


Tとはあの夜以来会ってないが、Kや数名とは今でも連絡を取り合っていて、たまに食事に行ったりする仲になっている。


そこでは昔話もよくするのだが、もちろんあの夜の話も話題に上がる。


私の嫁や子供は


「ほんまかいなそれ」


と笑っていたが、俺とKは


「いやいや!まじやから!」


とツッコミを入れまくった。


Kいわく、TはK達の地元の同窓会に顔を出したりはしてるみたいで元気にしてると聞いた。


ホラー的な作品ならここでTに何か起こっているのが安定のオチなので、KからTは元気にしてると聞いて安心した。



だがしばらくしてからNが亡くなったと連絡が来た。


死因は腎臓ガンだったらしい。


Kと同様にNとも現在も親交が続いてたので、突然の訃報に頭が真っ白になった。


(なんで?最後に会ったのは1ヶ月前なのに…)


とまだ20代であるNの早すぎる死を受け入れらずにいた時、葬儀でNの奥さんと話す時間があった。


私はNの奥さんにNはいつからガンを患っていたのかを聞いた。


奥さんいわく、会社で行った健康診断の結果が2ヶ月ほど前に届いて、Nはあまり良くない状態だったようで再検査をしに行ったとか。


そこで腎臓ガンが判明して、医者からいきなりレベル4を宣告されたとか。


それまでNは自覚症状など一切なかったので診断結果にかなりへこんでいたらしい。


へこんでいる間にもガンは徐々に進行し、昨日とうとうNは息を引きとった。


幸いというのも失礼だが、N夫妻にまだ子供はいなかった。


しかし、残された奥さんはとても見れたものではなかった。


なので私はせめてNの遺品整理など手伝えることは何でもしようと思った。


そしてある日、Nの家へと向かい遺品整理を手伝っていたら奥さんから一冊のアルバムを渡された。


「これ…旦那が大事にしていたものです。ぜひ見てやってください」


アルバムを手に取り、開けてみると中学の頃からの写真がびっしり貼り付けてあった。


私はNの死後、まだ実感がわいていなかったが、それを見てようやくもうこの世にNはいないと実感がわき、涙が止まらなくなった。


そしてあの日の写真が貼り付けてあるページへと進んだ。


(懐かしいなあ…たしかこの日がK達と初めて会った日やったな)


と懐かしみながら見ていると、1枚だけ目を疑う写真が貼り付けてあった。


「おいN…お前まじか」


私はとっさに声が漏れた。


そこにはTに指示されて撮ったあの心霊写真があった。


恐らくNはTに写真は消せと言われたが、消さなかったのだろう。


あの貞子はまだそこに写っていた。


そして私は異変に気付いた。


貞子が笑っていたのだ。

しかも目尻にたくさんしわが寄るほどに。


たしか写り込んだあの日はただ無表情で口を開けていただけだったはず…


(もしかしてこいつがNを?)


直感でそう感じた。


怒りを覚えた私はその写真を手に取ると、ビリビリに破いてから持っていたライターで火をつけベランダで燃やした。


お祓いに行った方が良かったのは分かっていたが、Nの無念を晴らすため私が直接手を下してった。



それ以降、特に怪奇現象など起こることなく現在に至ります。


Nが天国から守ってくれたのかな?と思ったりもします。


ですが皆さんは絶対に真似をしないでください。


ー 完 ー


これは私が高校生の頃の話です。


当時、私は関西の南の方の地方に住んでいました。そこはお世辞にも都会とはいえないような所です。地方に住んでいる方ならお分かり頂けるでしょうが、都会と比べて地方は遊ぶ場所が少ないことからマンネリ化するのが早く、いつも友達と集まりはするものの、「なにするー?」と暇をもて余していました。


当時、私達は携帯のカメラで撮った写真をカメラ屋さんで現像して、10代の思い出作りをしていた時期なので、日々刺激を求め続けていました。


そしてある日。


いつもの週末のように近くの公園で友達数人と「なにするー?」状態になっていた時、友人のNが提案をしてきました。


「俺の高校の連れがさ、今日俺らみたいに暇してるからこっち遊びにこーへんか?って誘って来たんやけど…行ってみる?」


それを聞いて暇をもて余していた私達はすぐに合意し、Nの友達の住む地域へと電車に乗り向かいました。


その友達は市内に住んでいるみたいでした。


もちろん私やその場にいたN以外の友人はそのNの友達とは面識はありません。


だけど知らない地域に終電ギリギリで向かうのだからテンションはMAXです。


Nの友人達が待つ駅へと到着する頃にはすでに0時を回っており、駅前のロータリーはほとんど人通りがなく、タクシーの運ちゃんがタバコをふかしながら暇そうに談笑してるのが目に入りました。


そして私が


「おいN、お前の友達ってどこ?」


と私達は回りをキョロキョロ見渡しました。


そしたらロータリーの横にあるコンビニの前に4.5人の同世代ぐらいの人気がありました。


「あ、あいつらや」


Nが駆け寄ります。


私達は初対面なので少したじろぎながらも近づき挨拶をしました。


話してみると、Nの友人達は皆すごくフレンドリーで


その中でもリーダー格のKという友人がひときわ愛想が良く、


「いつも君らの事Nから聞いてるで!」


と気さくに話しかけてくれました。


そして緊張もほぐれた所で私が


「ほんで今晩なにして遊ぶん?」とKに尋ねました。


私達は初めて来た土地なので回りに何があるのかも全く知らないですし、今晩の遊びのメニューはNの友人達に決めてもらおうと思いました。


するとNの高校の友人グループの一人が、「怖場行かへん?」と行ってきました。


一応説明するが怖場とは心霊スポットの事である。


「えーやん!いこいこ!」


当時、怖場が大好きで地元のスポットでは物足りないと感じていた私達は新たな怖場開拓にノリノリで賛成しました。


「ほなこっからそう遠くないからぼちぼち歩いていこかっ!」


とKを先頭にNの高校の友人勢が歩き出しました。


15分ぐらい経ってからだろうか、少し前の方を歩いていたNが私に


「もう着くみたいやわ」


と振り返りながら言ってきた。


私は


「そーか。えらい近いねんなあ」とNに返事をし、


Kに「いま向かってる怖場はどんな所?やばい?」


と尋ねた。


するとKは


「うーん…霊が出るかとかは正直分からん。だって俺ら霊感ないもん」と笑った。


それを聞いて私達も


「そりゃあ間違いないな」と笑いあった。


すると向こうのグループの一人が

「着いたでー!」と私達の方を振り返り、正面の建物を指差した。


私はKの


「やばいかは分からん霊感ないし」と笑っていた姿をみて、内心大したことないんじゃないかとたかをくくっていた。


大通りから道を外れ、車の音も聞こえないような場所にそれはあった。


それは4階建てのビルでもなければマンションでもない、【館】のような変わった作りの建物だった。


私はKに


「まじか。この雰囲気は絶対霊いるやろ。なにこの建物?」


と聞いた。


「今は廃墟になってるけど、もともとは近くの建設会社で働いていた外国人の寮やったって聞いてるで」


とKが教えてくれた。


建物の敷地回りはロープが張り巡らされていたが、私達はロープをまたいで入口に進もうと思った。


しかしその時、今まで感じたことのない悪寒が体にブレーキをかけた。


初めは自分だけかと思ったが他の友人達もロープの前で立ち止まっていた。


「ここ入るのやめとかへん?」


その場にいた一人がボソッと言い放った。


ここまで来てという思いがあっただけに誰もがその一言を言い出せずにいた。


正直ホッとした。


でも私達は悩んだ。


せっかくここまで来たのに?

じゃあこの後はなにして遊ぶの?


などなど


歩みを止めるわけにはいかない理由ばかりが頭の中を駆け巡る。


するとKが


「Tを呼ぼっか」


と言い出した。


「T?誰それ?」とNが言った。


KをはじめNの高校の友人達と私達はこの日が初対面である。


しかしTの存在はNですら知らなかった。


そこで私は「なんでTって人を呼ぶん?」とKに聞いた。


するとKが


「Tはな、ごっつ霊感あるねん。この怖場の寮は俺らも前からよく来てはいるもののお前らと一緒であのロープをまたいで中に入ることができひん。結局いつも霊感無い者同士でキャッキャ騒いでお開きになる。でも霊感あるTに見てもらったら何か変わるかも知れへんやん。実は雰囲気だけでまったく霊がおらんくてただの廃墟かもしれん。もしそうなら俺らの基地にしよう!」と。


いま思えばここで止めておきべきだった…


でも私達はこの真相を突き止めたいという好奇心にかられ、Tを呼ぶことに賛成し、一度大通りに戻りTの到着を待った。


30分ほど経ってからTは俺らのもとに歩いてやってきた。


てっきり俺は自分達と同じような人種?だと思っていたが、


実際のTはロン毛で華奢の、良くいえば女の子みたい。悪くいえば典型的な引きこもりのような容姿だった。


「こんばんわー!こんな時間にKから電話あってびっくりしたわ!みんなも久しぶり!ほんで面白いことってなに?どうしたん?」


恐らくKはTにことの詳細を伝えていなかったのだろう。


そしてKがTに言った。


「なぁT。たしかお前霊感あったよな?」


「霊感?あるよ?てかKは俺に霊感あること知らなかったっけ?」


「いや、知ってるけど確認しただけ。霊感ありすぎて人と霊を間違えるからってバイクの免許取らないって聞いたけどマジなん?」とKは笑っていた。


それを聞いたTも


「そやねん。バイクやったらスピード出てるやろ?俺あのスピード感で霊と人の区別つける自信なかってん」とケタケタ笑っていた。


それを聞いた私は単純にすげーっと感心した。


そして


「T…くんはさ、そんなはっきりと霊が見えるの?」と聞いてみた。


するとTは


「見えるよ。Rくん(私)やっけ?自分シックスセンスって映画見たことある?」


私「あー、あのホラーのやつ?一回見たなあ。なんで?」


T「簡単にいえばあんな感じ。あんな風に見えてる。事故で亡くなった人とかは怪我してるで。あの作品は霊感ある人が作ってる気するわぁ」


とTは一人でウンウンと納得していた。


そこでKが


「まぁ話の流れのまんまやねんけどさ、今日はTに霊がいるかどうかの調査手伝ってほしいねん!」


とTに言った。


私はてっきり、遊び半分でなんたらと断られると思っていたが


Tは「えーで!おもしろそうやな!ほんでどこいくん?」と案外乗り気であった。


Kが「今日調査するのはなぁー…」


と答えようとした時、急にTが


「ちょい待ち、一つ条件がある。どこ調査するか知らんけど、そこの寮だけはあかんで」


と言った。


私は背筋に寒気がした。


K「え?なんでなん?」


T「いやいや、お前ら霊感無くてもあそこはやばいって雰囲気で感じひん?」


それを言われ俺達は全員「感じる」と答えた。


するとTが


「せやろ?俺も何回か前を通りかかった事あるけど、あそこは数が凄まじいねん。しかもただいるだけの霊やったらまだええわ。でもな、あそこの霊はあわよくば取り憑こうと機会をうかがっとる。言うならば悪い霊の巣窟や」


と真顔で言った。


今まで陽気に話していたTが急に真剣に話し出したので、私達はビビり倒した。


心の中で警告音が鳴り響いている。


するとKがTに


「Tは除霊とかできひんの?」と聞いた。


Tは


「できひんこともないけど…でも多分お前らが期待してるような除霊はできひん。悪意がない霊を塩と酒を使って祓える程度やわ。さっきも言うたけど、あの寮の霊は悪意を持ってるからあれは祓えへんで」


と制止した。


でもKはTの話を聞こうとはしない。


「まぁ今日は人数もたくさんいるし大丈夫やろ。Tがやばいって言うたらすぐ退散するから!お願いっ!」


と食い下がった。


Tも初めは断り続けていたが、あまりにもKがしつこいので最終的には渋々OKした。


T「ほんまにあかんて言うたらすぐ退散するんやで?ついてきたらえらい目にあうし」


とTに念を押されつつ、俺達は例の寮へと引き返した。


…相変わらず凄まじい雰囲気の建物である。


Tはと言うと上の方を、ボーッと眺めていた。


「なんかいる?」と私が聞くと


「うん。あの3階の窓の所に数体いる。こっち見てるよ」とTが答えた。


もちろん霊感の無い私達にはその数体の霊は見えていない。


そしてしばらくの間


「あ、あそこにもいる」

「こっちにもいるなあ」


などとTが四方八方に指を指して説明してくれた。


はじめのうちはTの発言にいちいちビビっていたが、人間とは不思議なものでそんな状況にも自然と慣れてくる。


そしたらなぜか、Tが胡散臭くおもえてきた。


本当にこいつは霊感なんてあるのか?と。


そして私はTに


「Tくんちょっと中入ってみてーさ」


と言ってみた。


Tは一瞬驚いた顔をしたが


「うん、入ってみるわ。でも自分らはここに残りや」


とロープをまたぎ、スタスタと入り口へと向かった。


私達は呆気にとられていたが、Tは歩みを止めることなく、


ガチャッ…と正面玄関の扉を開き、中に入っていってしまった。


私はすかさずKに


「おいおい大丈夫なんか?」と言ったが


Kは「大丈夫やろ!悪霊退散してくれるって」と笑っていた。


初対面ということもあって私達はTを知らない分、Kほど呑気にはいられなかった。


Tが建物の中へと姿を消して2.3分経っただろうか。


私達はTが入っていった入り口を凝視したままTの帰りを待った。


すると小走りでTが出てきた。


「あかんあかん。霊が出てきた」とTは少し取り乱し気味に私達に伝えた。


そのTの様子にとっさにやばさを感じた私達はTの後を追いかけて、一旦大通りまで避難した。


「はぁ…はぁっ…」


いきなりの出来事にみんな息を切らしている。


Tも私達と同じように呼吸が乱れている。


そして私はTに


「出てきたってどんな霊?」と聞いた。


Tは


「6体ぐらい来た。数自体は普段なら何とも思わん数なんやけど、その中の1体にものすごい悪意を感じたからこれ以上はやばいって判断した」


と取り乱しながら答えた。


私「まじ?ちなみにどんな容姿やったん?」


T「その霊は女やった。どんな容姿か?うーん…分かりやすく言うと貞子やな」


「それ一番やばいやつ!」と私がツッコミを入れると、回りの友人達に少し笑顔が戻り、小さな笑いが沸き起こった。


でもNだけは笑っていなかった。


するとNが


「なぁ?T。初対面でこんな事言うのもあれやけど、お前ほんまに霊感あんの?」


と言い出した。



Nも私と同様にTの事を胡散臭く思っていたのだろう。


Tは


「それよく言われるけどほんまにあるよ。でもまぁ霊感ない人からしたらちょっと胡散臭く感じるかもなぁ」と笑っていた。


そしたらNは


「いやちょっとどころやないよ。かなり胡散臭く感じてる。そもそも俺は見えへんもんは信じひんタイプやし。さっきも流れでここまでついて逃げてきたけど、俺はTの手のひらで踊らされてるようでなんか嫌やわぁ」


と突っ返した。


私は内心


(おいおいそんなストレートに言うか?)


とヒヤヒヤしたが、Nの言い分も分からなくはないので、黙ってTを見ていた。


するとTが


「ずっと黙ってたけどさ、さっき1体だけやばい霊がいたって言うたやろ?そいつだけ俺らに追いついて、ずっとこっち見てるで」


と言った。



まだ続けるか?と思った時、とうとうNがしびれを切らしたのか


「だからお前がそう言っても俺らには見えてへんねん!!ええかげんせぇよ!どこにおんねん!」


と少し怒鳴った。


するとTがゆっくりを大通りの反対側にある茂みを指差した。


「あそこ。携帯のカメラで写真撮ってみ」


と冷静にNに言った。


Nは


「ちっ。なんやねんこいつ」


と文句を言いながらもポケットから携帯を取り出し、Tの指差す先に携帯を構え、パシャッと写真を撮った。


Nは撮り終わった写真を凝視している。


無表情だ。


私達はNの反応をうかがった。


するとNが一言


「まじかこれ…」と言った。


「どうした?」と私達はNに駆け寄り、全員で携帯の画面を覗き込んだ。


2秒ほどで確認できるほど鮮明にくっきりとそれは写っていた。


「うわ…ほんまに貞子やこれ」


と一人が呟いた。


どっきりでも仕掛けられているのか?と疑いたくなるほどのルックスの霊が写り込んでいた。


貞子らしき女は真顔で口をぱっくり開けながら写っている。


冷や汗が止まらない。


私もNと同様に霊を信じてはいないタイプの人間だったので、ここまで鮮明に心霊写真が撮れてしまうとさすがに焦る。


私「なぁTくん!これどうにかできひんの?」


とTに言ったがTは


「だからやめとこうって言うたんやん。悪いけど俺にはどうにもできひん。でもまぁ気休め程度やけどお祓いしとこか!」


と、まずはNにその写真を消去するよう指示し、近くのコンビニで酒と塩を買い除霊を始めた。


やはりここでも胡散臭さを感じたが今はそれどころではない。


もしかして祓えるかも?という少しの希望が俺達の精神を安定させていた。


一連の儀式的なものが終わりTが


「はい、終わり。とりあえずやれるだけのことはやったから。まだあの霊はこっち見続けてるけど気にしないように」


と私達に言った。


(気にしないようにって…)


と少し無理を感じたが、ここはTの言う通りなるべく気にしないように、霊がいた茂みを見ないように努力した。


結局その後は朝方まで営業しているボーリング場へと向かい、始発まで何ゲームも繰り返し、有り余った若きエネルギーを使い果たした。


冒頭でも書いたが私達は当時、思い出を残す為にアルバム作りしていたので、アルバム用の写真もたくさん撮った。


そして帰り際にK達と連絡先を交換して、その日撮った写真もメールで送っといてあげた。



もうあの夜から今年で10年が経つ。


Tとはあの夜以来会ってないが、Kや数名とは今でも連絡を取り合っていて、たまに食事に行ったりする仲になっている。


そこでは昔話もよくするのだが、もちろんあの夜の話も話題に上がる。


私の嫁や子供は


「ほんまかいなそれ」


と笑っていたが、俺とKは


「いやいや!まじやから!」


とツッコミを入れまくった。


Kいわく、TはK達の地元の同窓会に顔を出したりはしてるみたいで元気にしてると聞いた。


ホラー的な作品ならここでTに何か起こっているのが安定のオチなので、KからTは元気にしてると聞いて安心した。



だがしばらくしてからNが亡くなったと連絡が来た。


死因は腎臓ガンだったらしい。


Kと同様にNとも現在も親交が続いてたので、突然の訃報に頭が真っ白になった。


(なんで?最後に会ったのは1ヶ月前なのに…)


とまだ20代であるNの早すぎる死を受け入れらずにいた時、葬儀でNの奥さんと話す時間があった。


私はNの奥さんにNはいつからガンを患っていたのかを聞いた。


奥さんいわく、会社で行った健康診断の結果が2ヶ月ほど前に届いて、Nはあまり良くない状態だったようで再検査をしに行ったとか。


そこで腎臓ガンが判明して、医者からいきなりレベル4を宣告されたとか。


それまでNは自覚症状など一切なかったので診断結果にかなりへこんでいたらしい。


へこんでいる間にもガンは徐々に進行し、昨日とうとうNは息を引きとった。


幸いというのも失礼だが、N夫妻にまだ子供はいなかった。


しかし、残された奥さんはとても見れたものではなかった。


なので私はせめてNの遺品整理など手伝えることは何でもしようと思った。


そしてある日、Nの家へと向かい遺品整理を手伝っていたら奥さんから一冊のアルバムを渡された。


「これ…旦那が大事にしていたものです。ぜひ見てやってください」


アルバムを手に取り、開けてみると中学の頃からの写真がびっしり貼り付けてあった。


私はNの死後、まだ実感がわいていなかったが、それを見てようやくもうこの世にNはいないと実感がわき、涙が止まらなくなった。


そしてあの日の写真が貼り付けてあるページへと進んだ。


(懐かしいなあ…たしかこの日がK達と初めて会った日やったな)


と懐かしみながら見ていると、1枚だけ目を疑う写真が貼り付けてあった。


「おいN…お前まじか」


私はとっさに声が漏れた。


そこにはTに指示されて撮ったあの心霊写真があった。


恐らくNはTに写真は消せと言われたが、消さなかったのだろう。


あの貞子はまだそこに写っていた。


そして私は異変に気付いた。


貞子が笑っていたのだ。

しかも目尻にたくさんしわが寄るほどに。


たしか写り込んだあの日はただ無表情で口を開けていただけだったはず…


(もしかしてこいつがNを?)


直感でそう感じた。


怒りを覚えた私はその写真を手に取ると、ビリビリに破いてから持っていたライターで火をつけベランダで燃やした。


お祓いに行った方が良かったのは分かっていたが、Nの無念を晴らすため私が直接手を下してった。



それ以降、特に怪奇現象など起こることなく現在に至ります。


Nが天国から守ってくれたのかな?と思ったりもします。


ですが皆さんは絶対に真似をしないでください。


ー 完 ー



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