本当の話
投稿遅れてすみません
頑張って書きますのでよろしくお願いします
「今回は私の勝ちだな」
目を開けると、リリーさんは倒れている俺を覗き込むよう見下ろしている。
顔が逆さに映っても美人だなぁ、なんて思ったりする。
よっ、と地面に手をつき、とんぼ返りの要領で起き上がり服を叩く。ここは芝生の上だから土はつかないけど、つい癖で叩いてしまう。
「しかし、あれですね。相変わらず人間離れしてるっていうか…」
服を叩きながらそんな軽口をたたく。聞いてるリリーさんの表情がにんまりしてるあたり、相当嬉しかったのだろう。最近は俺の勝ちが続いてたからスッキリしたって感じかな。
最後のあの瞬間、俺が蹴りを決めたと同時にリリーさんも俺を蹴り飛ばしたのを意識の片隅で覚えている。飛ばした先に偶然に木があったらしいが、リリーさんのことだ。そうなるように誘導された可能性もある。
ちなみに俺の蹴りを受けたリリーさんは大したダメージもなく着地したそうだ。化け物め…。
「いやー、にしても負けちゃいました。勝てると思ったんですけど」
「ま、はじめの頃に比べたらすごい進歩だよ」
たしかに初めての頃はこちらからは触れもしなかったわけだし。そこから考えたらすごい進歩なのは明らかだろう。それでも悔しいものは悔しかったりする。
やっぱり駆け引きなんかはまだまだリリーさんの方が上手だ。
いつか、今日のリベンジをしてやる。
「それじゃ、戻りますか」
月が明るいからあまり感じないが夜も深くなってきたと思う。明日、朝早くにこの街を発つんだ。そろそろ寝たほうがいいだろう。
一応、同意なり返事なりを求めたつもりだったのだがリリーさんの反応がない。
気になって振り返るとリリーさんは俯いていた。表情をうかがい知ることできないが両手を握りしめている。
ここで声をかけるのは藪蛇だと直感し、でかけた言葉を呑み込む。
どれくらい経っただろう。しばらくするとリリーさんは顔を上げ真っ直ぐに俺を見てきた。それこそ決意のこもったような目で。
「レンヤ、もう一戦いいか?」
「え?なんでですか?リリーさんが勝ったじゃないですか。なにか納得いかないことでも?」
「……次はルールを変えてやりたい」
「別に構わないですけど」
「大丈夫だ。時間はかからない」
どういうことだ?すぐ終わるってことか?
たしかに多少の疲れはあるが、回復魔法をかけたのでお互い身体的ダメージはゼロのはずだ。まあダメージをくらってたのは主に俺なんだが。
それなのにすぐ終わるっていうのは……。
「で、変更するルールっていうのは?」
「ああ。次は身体強化ありで戦ってほしい」
「……………え?」
「……その表情。やっぱり思った通りなのか」
……いつだ?いつ気づかれた?細心の注意を払っていたはずなのに……。
「さあ、時間もないし早くやろうか」
「え」
直後、リリーさんは淡い光を纏い俺に向かってきた。常人では認識すらできないような速さで。普通なら詠唱が必要な身体強化もリリーさんや俺なら無詠唱で発動できる。
俺も瞬時に身体強化を発動する。身体強化は身体能力の向上以外にも思考、五感の感覚も向上する。おかげてリリーさんの動きがよく見える。あくまで見えるだけで先読みをしているわけではないがリリーさんの動きに対応できる。
上段から下段まで隙間のない攻撃たが、難なく避けることができてしまう―――
「……やっぱりな」
―――だから微かに漏れた呟きの意味も理解してしまって……。
動きを止め、身体強化もお互いに解除する。纏っていた淡い光も消え夜らしい暗さが二人を包む。
暫く訪れる沈黙。気まずい時間だが悪いのは隠していた俺だ。俺から声をかけるべきだろう。
慎重に言葉を選んで―――
「いつから気づいてたんですか?」
違う、そうじゃない。まずは謝罪からだろ。
なぜバレてしまったんだという焦りにも似た疑問が先走ってしまった。
言葉選びを間違えてしまったと後悔するが、一度発した言葉は戻せない。状況がただでさて良くないのにこの悪手はまずかった。
俺は情けなさから視線を地面に落とす。
そんな風に目に見えて落ち込んでしまった俺にリリーさんは優しげに声をかけてくれた。
「……初めての会った時から疑問には思っていたよ。レンヤの身体は私の動きにはついてこれないのに目だけはしっかりと私の動きを捉えてたからな。これは身体強化に慣れている証拠さ」
何事もない、いつものような会話の流れで返事をしてくれたことに驚いてしまって、つい紡ぐ言葉が喉から出てこなくなってしまった。
「気にするな。これだけの力、言いづらいのもわかる」
「えっと、でも……隠していたのはすみません」
「本当はレンヤの口から聞きたかったがしょうがないさ」
そうだよな。本当なら俺の口から言うのが当たり前で普通なんだ。
それを後出しのように話すのは本当に心苦しい。まして、この世界に来て優しくしてくれた人への態度じゃなかったと自分を責める。
「……今後は気をつけます」
「ん。そうしてくれるならいいさ」
本当に優しい。こんな優しさに触れたのは生まれて初めてかもしれない。
「でも、そうかー。実戦ならても足も出ないなー」
「いや、リリーさんの方が十分―――」
「実戦っていのは試合のことじゃないよ。本当の敵が身体強化を使わないでってお願いを聞かないだろ?」
たしかにそうだな。今まで命を削り合うような戦いをしたことがないから、どうもその辺りの感覚は今ひとつだ。
「レンヤが苦戦するほどの相手に出会うかどうか楽しみだな」
「いや、楽しみって…」
「不安になるだろ? ならもっと強くなることだな」
なんとも脳筋な考えだろう。負けないように、不安にならないように強くなるって………いや、結局はそこにたどり着くのか。
「そうですね。リリーさんの言う通りです」
「そうだろう?で、私はレンヤの壁になろうってわけだ!」
「いや胸張って言われても…」
「すでに大きな壁ですよ、あなたは」、なんて言葉を繫げようと思ったが口に出す前に飲み込んだ。
そうだ。本人が言ったんだ。実戦なら俺に敵わないって。その決意に、この言葉をかけるのは違うな。
「じゃあ俺はもっと頑張りますよ」
「お!言うじゃないか〜」
「はは、でしょ?」
嬉しそうに俺の脇を肘で小突くリリーさん。少しくすぐったいが悪い気はしなかった。それよりも心地いい。
「しかし、レンヤの身体強化は並じゃないな。魔力の量が多いのか?それとも操作がうまいのか?」
「その辺はよくわからないんですよ」
無自覚とか無意識と言うのか、その辺のことは本当にさっぱりだ。まるで自分の知らない力が
「身体強化は内にある魔力を身体に纏う魔法で、上限は魔力の量、質は魔力の操作で決まるらしい。レンヤの熟練度はかなりのものだ。」
「あー師匠も言ってましたね」
「まあお父さん、格闘術はからっきしだけど」
それは初耳だ。いつも実演してと言っても断られていたけど、それが理由だったのか。
師匠としての威厳があるんだろうな。黙っとこ。
「でもまあ、それだけの力があるなら旅に出ても安心だな」
「はい。ご心配はかけません」
手合わせしたのも俺を心配してのことなんだろう。不器用な人だからこういう形になったわけか。でも、優しさをすごく感じられた。
「ウツギ君は英雄になれるかもしれないなあ」
「し、師匠!?」
「お父さん!? どうしてここに」
「あれだけ派手な音を立ててたら流石に気付くよ」
「そ、そうですよね」
そうだよな本気でやりあって木にもぶつかってたもんな。そりぁ気づくか。
もしかしたら近所の迷惑にもなっていたかもしれないが、師匠は嗜めるようなことは言わず、むしろ喜んでいるように見えた。
「さっき言ってた英雄っていうのはなんですか?」
師匠の言葉の疑問にリリーさんが答えてくれた。
「魔王を倒した者をそう呼ぶんだ。百年以上前にも魔王という存在はあったらしい。魔王を倒した者は生涯、英雄と讃えられたそうだ」
生涯、か。なんか肩凝りそうだな。
「レンヤなら無くはない話だけどな」
「そ、そんなことないですよ…、俺なんかよりお二人のほうが……」
実際、最終的な目標は魔王討伐なわけだからなくはない話だ。
ただ目立つみたいな注目を浴びるのはあまり好きじゃないな。なんとかうまくかわせればいいが。それに魔王を倒したら俺はどうなるんだろう。この世界にいれるのか。
「ウツギ君が魔王を倒したら僕たちも鼻が高いよ」
「父さん! なに危険なこと言ってんの!」
「はは、冗談だよ。僕も魔王と関わるのはあまり賛成できないしね」
「そうだよ。アレは人間が勝てる存在じゃないんだから」
ん? なんか二人の話に実感がこもってるな。まるで昔の話をしているみたいな。でも懐かしむってよりは思い出したくない記憶って感じだ。無闇に詮索するのは良くないよな。
「さて、そろそろ夜も深まってきたところだね」
「すっかり話し込んじゃったな」
体感的には深夜二時ってところかな。出発が六時だからあんまり寝れないな。それに転がったせいで汚れたから風呂にも入りたいな。まあ、旅に出たらそんな贅沢はできないんだけど。しょうがない風呂に入るのは諦めるか。
この時、俺は魔王についてもっと聞いておくべきだったと後になって後悔した。