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 ここはどこだろう。

 辺り一面、上下さえも透き通った青色の空間。まるで雲一つない空の中にいるようだ。

 確か、今日も一日学校に行ってバイトが終わり家に帰ってきたはずだ。そこまでは覚えている。覚えていないのは、そう、玄関の扉を開けたあとだ。目を覆いたくなるような眩い光に包まれたのを薄ぼんやりと覚えている。

 あの光が原因に違いなない。

 となれば、ここが何処か知りたいな。

 とりあえず―――


 「ようこそおいでくださいました。空木蓮夜様」


 不意に意識の外から聞こえてくる美しい声。

 声につられ振り返るとそこには華やかな真白の洋風のドレスに身を包んだ見目麗しい女の人が立っていた。年は俺と同じ十代といったところだろうか。

 さて、他に人は見当たらないようだしこの人が説明をしてくれるのかな。


 「貴方はここが何処かおわかりですか?」


 説明ではなく質問だった。

 この声のトーンと目のせいか探られているような感覚を覚える。

 この質問には答えたほうがいいだろう。現状それしか手段がないわけだし……


 「さあ。とりあえずは地球ではないですよね?」

 「その答えは半分正解です」

 「半分? じゃあもう半分は?」

 「ここは…地球で言うところのあの世です」

 

 まさかのあの世だった。

 そりぁ、この景色を見たら地球でないと思ったりもするけどまさかあの世とは……


 「じゃあ、俺は死んだんですか?」

 「いえ、私が特例でこの場にお呼びしたので生きています」

 「じゃあ、えーと……貴方はどうして俺をここに呼んだんですか?」

 「あ、失礼致しました。自己紹介がまだでしたね。私の名前はトゥイン。女神の階を持つものです」


 まさかの女神様でした。驚くこと多いな。

 この場にいる不自然さや頭の上に輪っかみたいなのが見える辺りちょっと疑っていたが、本人の口から聞くと少し驚いてしまう。


 「それで、女神様が俺になんの用なんですか?」

 「それについては説明致しますが。その前に」


 女神様は一拍置いて


 「貴方は今どうやって浮いているのですか?」


 そんな問いを投げかけてきた。

 おかしな質問をしてくる。ここには足がつく場所がないのだから必然的に宙に浮くしかなくなる。それに―――


 「女神様だって浮いてるじゃないですか。多分それと同じで」

 「私は神の力を行使して浮いています。貴方が使っている魔法とは全く異なる力です。そもそもこの空間では魔法を使うことができません」

 「そーなんですか? 普通に違和感なく使えますけど?」

 「それがおかしいのです。女神である私ですらこの空間で魔法を使うことができません。なのに人間であるあなたにはできる」


 なるほど。ここが特殊な空間で女神様ですら破れないルールがあると。なのに人間である俺はそのルールを破れる……

 確かにそれは問題かもしれない。

 つまり―――


 「俺がイレギュラーな存在だから呼び出したってことですか?」

 「ええ、その通りです」


 なるほど納得した。

 これで、俺が呼ばれた理由は判明した。後は俺がこれからどうなるかだが……

 だけど、その前に気になることがある。


 「女神様は驚かないんですか? 人間が魔法を使えることに」

 「ええ。魔法を使える人間は貴方の他にも存在します。さすがに貴方程の使い手はいませんが……」


 ……驚いた。今日一番の驚きだ。

 まさか俺の他にも魔法を使える人がいたなんて……

 すごい気になる。その人たちはどうやって力と向き合っているんだろうか。聞いてもいいのか……


 「あの、女神様」

 「はい? なんでございますか?」

 「その……力を……魔法の力を持った人たちはどんな風に暮らしているんですか?」

 「気になりますか?」

 「はい。差し支えなければ教えていただいても……」

 「構いませんよ。いきなりこの場に呼び出してしまいましたし、お詫びも兼ねて」


 心の中でガッツポーズをとる。

 他の人はどうやってこの人とは違うの力と向き合っているんだろうか。やっぱり隠しているよな。こんな変な力。


 「現在、魔法の力を持つ者たちの多くはその力を使って暮らしています」

 「……え?」


 思わず声に出てしまった。

 驚いた。もっと隠して暮らしているものだと……


 「よく。画面の向こうなどで見る奇術や気功といった類のものに多いですね。まあ、奇異な力なので偽るのもわかりますが……」

 「え? え、いや、そんなにいるんですか? 魔法を使える人」

 「勿論すべての奇術師たちがそうではありませんが、貴方が思う程よりはいますよ」

 「えぇ……」


 なんだろうこの気持ち。

 今まで隠してきたのに……


 「身近な例でいいますと、貴方の隣の席の田中さんもそうですね」

 「はい?」

 「あとは、八百屋を営んでいるおじさんもですかね」


 え? そんなにいるの?


 「何もおかしなことはありませんよ。元々、人類は魔法を使うことができたのですから」

 「え? いや、ちょっと待ってください。驚きすぎて理解が……」

 「文献に載る以前の話です」

 「あ、話続けるんですね……」

 「力の差はあれど、すべての人が魔法を使うことができました。しかし、賢い人類は魔法よりも効率のいい科学を進歩させ、結果、魔法は衰退していったのです」


 なるほど。

 もう聞き役に徹しよう。


 「我々神が管理する世界は無数にあります。それらの世界は文明の発展、生物の進化など上手くバランスのとれるようになっていました。しかし地球時間の十五年前、突如その均衡が破られたのです」


 ふむ。その均衡を破ったというのが俺なのか?

 でも、俺が魔法を使えるようになったのは五年前からだし関係ないのか?


 「地球の裏側にある世界。我々がディスターブと呼ぶ世界に魔王と呼ばれる存在が現れたのです」


 ディスターブか。確か英語で乱れる、とかだったかな。随分と皮肉じみた名前だな。


 「それと、帳尻を合わせるように貴方が力に目覚めたのです。……しかし貴方は神々の予想を上回る力をつけました」


 つまり、俺の力は神が由来だってことか。迷惑なことだ……


 「そして今、貴方の住む地球は危険指数が跳ね上がっているのです」

 「? つまり?」

 「貴方はこの世の均衡を崩す危険人物と言うことです」




 「てことは、女神様は俺を処分したいってことですか?」

 「端的に申し上げればその通りです」

 

 それは困るな。

 別に俺みたいなのがいなくなっても悲しむ人なんていないけど。まだ十五年、やりたいことは山程ある。

 だから、女神様には悪いけど抗わせてもらいたい。

 そんなふうに考えたいた俺の思考を塞ぐように女神様は「ですが」と続けて


 「そうすると、色々な問題が起きてしまい私も困ってしまうのです。」

 「色々な問題、ですか……」

 「ええ。神界法に触れてしまったりと大変なんです。ですので一つ提案があります」

 

 嫌な予感がする。

 こういうときの俺の感はよく当たるんだよな。

 だから、提案ってのは―――



 「貴方に異世界に渡っていただきたいのです」



 まあ、なんとなくわかってた。

 この流れだとこうなるよね。


 「もし、貴方が異世界に行き魔王なる者を倒していただければ神界こちらとしてもありがたいのです。なにせ問題がなかったことになるのです」

 「問題ってのは人間の俺にはわかりかねますけど……。ともかくそのディスターブって世界に行けば俺は処分されないってことですか?」

 「ええ。さらにささやかなお礼としてどんな願いも叶えて差し上げましょう。ちなみにディスターブというのは本来は神の間で呼ばれているだけで妨げているとは逆の意味なのですが」


 逆? なにが逆なんだ?

 あ、俺がいる地球のほうが和を乱してるってことか。神様由来なんだからしょうがないと思うけど。

 まあ、断る理由が見つからないかな。

 地球で両親が遺した借金を返すためだけに生きていかなくてすむと思うと気が楽になる。

 ん? でも一つ気になるな。


 「俺が異世界あっちに行った場合借金とかはどうなるんですか?」

 「上手く調整されますよ。神の力ってやつですね」


 今度こそ憂いがなくなった。

 異世界(あっち)に行っても誰にもしわ寄せがないならいい。

 それに……。いや、今じゃないな。

 ともかく、借金も柵もない自由な世界で第二の人生。 

 それは、とても胸踊る。

 

 「答えは決まったようですね」

 「はい。異世界に行かせてもらいます」

 「では、あちらの世界についていつくか説明させてもらいますね」


 それから十分ほど説明を受けた。これから行く世界のこと。魔法のこと。情勢のこと。など色々聞いた。


 「説明は以上になります。では」


 そう言った瞬間、玄関を開けたときと同じ眩い光に包まれた。

 やっぱりこの光のせいだったのか。


 「では、貴方の―――蓮夜様の人生に幸の多くがありますよう」


 そう言って送り出してくれた女神様の顔が少し陰っているように見えた。


処女作になります。

どうかよろしくお願いします

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