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魔法使いの居る村 その1

 ヒデオの旅が始まります。

 最初はやっぱり仲間集めかな、という感じです。


 ヒーローにはピンチが不可欠だ。


 肉体も精神も極限まで追い詰められ、絶体絶命。

 普通なら諦めてしまうしかない。


 そんな状況を覆すからこそ、ヒーローというのは誰の目にも格好良く映るし、人の心に勇気を与えられるのだろうと俺は思う。


 だから、この窮地も俺が乗り越えるべき試練の一つなのかもしれない。


 本当のヒーローになるために!


 そう思わなければ、やってられなかった。


「……腹が、いてぇ……っ!」


 多分、さっき森の中で食った見たこともない果物のせいだ。


 俺は今、十七年間の人生で味わったことのない壮絶な腹痛と戦っていた。


「うあぁ、くそ、なんでこんなことに……」


 妙な女に渡されたベルトで変身して、怪人と戦い、すごい美人な女の子を救ったのが昨日の晩のこと。


 あの後すぐに、兵士の集団が女の子を探して森にやって来た。


 そこまでは良かったんだけど、兵士達は倒れている仲間の姿やら壊れた馬車やらを見て、俺が犯人だと勘違いしやがったのだ。


 捕まえろ!

 いや、この場で始末してしまえ!

 みたいなことを叫びながら襲い掛かってくる連中を説得するのは難しそうだったので、俺はトンズラをキメることにした。


 変身した時の脚力のおかげで逃げることそのものは難しくなかったが、でたらめに駆け回ったせいですっかり森の中で迷ってしまった。

 元の野原に引き返すことすらできなくなった俺は、とりあえず人が住んでいそうな所まで歩こうと決めたわけだ。


 川沿いに歩いて行けば、いずれ人里に辿り着く。昔、テレビで言ってた話を信じ、歩くこと一日。


 変身は勝手に解けてしまうし、エネルギーをめっちゃ消費したのかとんでもなく腹が減りだすし、我慢できなくてその辺に生えてた木からもぎ取った果物は気が狂いそうになるくらいまずかったし、もう散々だ。


 一応、さっき木陰で用を足したけれど、腹痛は全く収まる気配がない。


「ああもう! いつまで歩けばいいんだよ!」


 右を見ても森、左を見ても森、上は葉っぱ、下はぐちゃぐちゃの土。


 昨日からろくに寝てないせいか、目が霞む。足も棒みたいだ。

 そういえば怪人に吹っ飛ばされた時に怪我もしてたんだった。全身が重い。いよいよ限界だ。


「……っ! しまっ……」


 少し木に寄りかかって休もうとしたのが失敗だった。

 フラついていたせいで、幹につこうと伸ばした手が空を切る。バランスを崩し、大きく傾いた体を咄嗟に支えることもできず。


「おわああああああ!」


 運悪く、目の前は下り坂になっていた。


 緑と茶色がグルグルと回り、俺は草木の生い茂る斜面をなすすべなく転がり落ちていく。


「い、ってえ……」


 木の根っこか、転がっていた石に打ち付けたせいだろう。体のあちこちに鈍い痛みを感じる。

 ヒリつくような感覚は擦り傷か。怪我してそうな場所が多すぎて確かめるのも馬鹿らしい。


 どうにか地面に手をついて、身体を起こした時。


「………………」

「………………」

 

 そいつと、目が合った。

 

 どうやら俺は小高い斜面の上から、辿っていた川の傍まで転がり落ちてきたらしい。

 目の前には少し開けた水場があって、視界の向こうには流れ落ちる滝が見えた。


 そして、その水場に女の子が立っていた。


 水浴びをしていたのだろう。その子は一糸まとわぬ姿をしていた。


 もっとぶっちゃけて言うなら、全裸だった。


「な……なっ……」


 俺を見る女の子の目が見開かれ、唇がわなないている。


 そりゃそうだよな。

 この子からしてみたら、気持ちよく水浴びしてたところに男が突然落ちてきたんだ。

 驚くに決まってる。

 絶句するのも無理はない。


 水に濡れ、しっとりと肌に張り付いた栗色の髪と、日焼けのあとが健康的な肢体。

 多分、身体をよく動かしているんだろう。体つきはほどよく引き締まっている。


 艶めかしいその姿を見て、俺も思わず息を呑んでしまった。


 なにか弁解しなきゃ。そう思って口を開いたが、こっちも極限状態だったのがいけなかった。


「うわ……おっぱい、でっか」


 俺は自分が一番注目してしまった部分の感想を率直に呟き。


「みぎゃああああああ! このっ! 変態!」


 女の子が拾い上げた太い木の棒のようなもので、しこたまに殴られることになった。


 意識を失う直前に見たのは、水飛沫と、憤怒の表情を浮かべた女の子の顔。


 そして、やっぱり大きな二つの乳だった。

 ベタな感じだなあ、とは思います。

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