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田中は起きる

ひさびさの更新です。信頼の無い語り手ものっていいですよね

あとステータス制度なくしました。伏線張ってたんですけど分かりにくかったので






今日はとてもいい朝だ。


鼻腔をくすぐる空気は余りに冷たく、尚且つ寝違えたのか首がとても痛い。それに今体に被さっているこのツギハギの布団も少々埃臭い。それだけにとどまらず日本のベッドとは比較できないほどに固く寝心地が悪い。


しかし今日はとてもいい朝だ。なんせ今日、前世の日本人としての記憶が覚醒したからだ。記憶が覚醒すると同時に、前世の記憶が覚醒する以前の記憶は自分の名前や両親の名前など全て消えてしまったが、本来の記憶が戻ってきたことがなにより嬉しい。


身体の感覚からして既に第二次性徴を真っ只中のようだ。声は既に粗方変わったといえるが腋毛などが生えていないあたり中坊ぐらいなのだろう。しかし13~15歳にして何も記憶がないなんて正直困った。


ベッドに勉強机それとタンスと如何にも子供部屋といった様相のこの部屋だが、えにもいえない優しい温もりがある。


「朝ごはん出来たわよー!!もう起きなさい!!」


母親の声だろうか。しかし今の俺は学校に通っていたらしい。異世界の学校というのもワクワクする。しかしこう悠長にしていたら母親に抓られるかもしれない。機嫌を損なわせないようさっさと母親のもとに行こう。


「はーい、いま行くよ。」


部屋の窓の隙間から風が漏れている。外を覗くと淀んだこの世界の上澄みのような生命の立ち入れない美しい雪景色が広がっていた。すこし歪んだガラスを通してみる雪景色も風情がある。しかし、淀んだこの世界って言葉はどこから出てきた?まあいい。


リビングに当たる場所がどこか分からないが取り合えず部屋のドアを開ける。目の前には廊下。母親の声の方向から考えてリビングは左かな?


廊下の床は老朽化しているのかギシギシと音が鳴る。床のひんやりとした感触が今この世界を生きていると実感させてくれる。


ドアを開ける。母親と父親であろう人物が食卓に座り、俺が来るのを待っていた。やはりここがリビングで間違いないようだ。


「ほらほら今日から寮で暮らすんでだから、シャキッとして遅れないようにしなさいよ?」


ローズマリーらしき香草を詰め込まれた七面鳥らしきものに、赤い色をしたスープ。ミネストローネだろうか。それにパンと随分と贅沢な朝食だ。今日がこの家で暮らす最後の日のようだし、少々無理しているのかもしれない。


「しかし、ビゼも魔術師になりたいなんてな。辛いことがあっても投げ出すんじゃないよ?ま、俺は君が魔術師になれると信じているからな。」


そういうとさっさと自分だけで朝ごはんを食べだしてしまう。俺はビゼというらしい。それに自分は魔術師になりたかったのか。というか魔術があるのか。すごい楽しみだ。


「ビゼのためにこんな料理を作ったのよ?もうマイペースなんだから!」


そんな面白味のないちょっとした夫婦喧嘩にすこし涙が出てきそうになる。なんでもない日常は異世界でも素晴らしい。


しかし父親も母親もブロンズの髪をしている。それに母親は耳が長く尖っている。エルフだ。やはりここは異世界。それもヨーロッパのようなところなのだろう。


「それじゃあ頂きます。」


スープを啜る。やはりミネストローネ的なトマトスープだった。パンは固くなかなか噛み千切れないのでスープに浸してみる。柔らかくなったパンを食べる。美味しい。するとお母さんが俺の木皿にメインの鶏肉を切り分け入れてくれた。


「ありがとうお母さん。」


お母さんは顔を少し俯かせると俺に微笑みかけてくれる。


「......愛してる。」


鶏肉を口に入れるとともに一粒の涙が落ちた。七面鳥の味など感じなかった。ただその言葉が嬉しかった。俺は目を擦り泣いたことを隠そうとする。俺は愛に飢えていたのかもしれない。一生この生活が続けばいいのに。名前も知らないお母さんの一言でなにか救われた気がした。


「それとそうとこれは俺からのプレゼントだ。」


いち早く朝食を終えた父親は細長い木箱を俺に渡す。開けてみると一本の棒きれが大切そうに仕舞われている。俺は魔導士になりたかったようだし、もしかしてそれは


「杖だ。前、欲しがってただろ?俺が冒険者を引退する前の最後のクエストで倒したバイコーンの角を芯材使ってるんだ。あまりいい質じゃないが世界で一本だけだ。」


持ったときも手にフィットしないし歪だ。しかしどのような杖より強く輝いて見える。俺は木箱に戻し、大切に膝の上に置く。


しかしチキンが美味しい。なかにローズマリーらしき香草といっしょに詰まっていた、パプリカ的な野菜も肉のうまみを吸って余すところなく口が蕩けそうだ。しかしこの香草は匂いからしてはローズマリーと見て間違いなかったようだ。


フォークとナイフが止まることを知らない。


「ごちそうさまでした」


朝食は終わった。美味しさのあまり一瞬で全て食べ終わってしまった。もう服を着替えて学校に向かうだけだ。


制服はローブらしい。魔導士になりたいのかというお父さんの発言からも今から行くのは魔法学校なのかもしれない。魔法学校など楽しみで仕方がない。


タンスから出したローブを着てみたのち窓に反射する自分を見てみる。微妙。顔自体良さそうだが、絶妙に芋臭いせいで茶髪が合ってない。芋臭さが抜ければ超絶イケメンになると思うのだが。それにグレーのローブが合わないことといったらお笑いものである。


まあいい。モテることを目的に異世界転生したわけではないのだから。


「はいお弁当。」


革製のトラベルバッグに洋服類など必要なものを詰め込み終わり、さあ家を出ようと玄関で靴を履いているとお母さんにそう声かけられた。


渡されたお弁当はまだ暖かかった。カバンの中にお弁当をいれる。


「じゃあ行ってきます。」


地図を頼りに馬車亭の場所まで向かおう。土地勘がなくとも地図があれば多分迷子などはならないはずだ。


お見送りに家から出た両親は俺が両親を見えなくなっても手を振り続けていた。異世界に来てから初めての外出は、名も知らぬ親との長い別れとなった。


それでも雪景色は綺麗だった。

いろいろ変えます


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