甘い、甘い、種明かし
月光の下、箱の中身が威容をあらわにする。
甘やかに、薫り流れる至高の天露。
地の理への反逆を秘め、天を突いて聳えるフォルム。
その各所に幾百と埋め込まれた輝きが、百花絢爛の華やぎを添える。
きらめきとともに現れたのは、あの幻のマシン!
そう、
チョコレートフォンデュマシーンだった!!
「……へ?」
「ハッピーバレンタイーン!
ちょっと予定は狂ったけど、これお前へのプレゼントな!
なかなか帰ってこないから待ちくたびれたぜ。
おばさん早く帰ってこいって言ってたろ? まったくもう!」
いつの間にか、俺をとらえた手は離れていた。
後ろから聞こえてくるのは、聞き覚えのありすぎる声。
まさか。俺は振り返る。
目に入ったのは、懐かしい笑み。そう、あいつだった。
毎年俺に山ほどのバレンタインチョコを譲ってくれてた、反則級の超イケメン。
いかにもヤンエグっぽいスーツは着てたけど、見間違いようもないあいつが、じゃーん! と両手を広げて立っていた。
「え……いやなんでおまえがここに……?!」
「言ったじゃんか、会社が軌道に乗ったら迎えに来るって!
お前いつもいってたろ。チョコレートの海に溺れたい!! って。
だから、チョコレートフォンデュマシンとそこに流すチョコソースをトータルで企画制作する会社を設立したんだ。
どうせつくるなら、カラクリ仕掛けで楽しい奴にしようってしてたら、思ったより時間がかかっちゃって……。
待たせてごめんな。これからは毎日、チョコ食べ放題のセカイだぞ!
ついてきてくれるよな?」
やつはきれいなお目目をキラキラさせて、俺に手を差し出してきた。
「ついてきて……って、俺なんもできないけど?」
「何言ってんだよ!
お前のチョコへのこだわりはよーっく知ってんだぜ?
ついては、わが社のチョコレートのテイスティング係にスカウトさせてもらいたい!
フォンデュマシンとチョコソースはわが社にとっての車の両輪。やりがいのあ」
「やらせてくださいっ!!」
そこまで聞いて俺は、やつの手を取った。
チョコの味にはこだわりがある。ミルク、ビター、ホワイト、フルーツ。
どれも違ってみんないい。
それを見込んでくれたというなら、俺でも役に立てそうだ。
「いやそこ全部言わせような?」
「わり」
すると、周り中から歓声が上がった
「ヘッドハントおめでとー!!」
「みゃーん!!」
見れば、手に手にマグカップやお皿、マシュマロや果物を刺した串を持ったおやじおふくろ兄貴と姉貴。
もちろん近所のみなさんや仕事仲間、学生自体の友人たちも勢ぞろい。
さらにはミーコもほこらしげにピンと、かわゆいしっぽをお立てになっている。
「し、仕組んでやがったなー!!」
「ちなみにウチのチョコはすべて、わんにゃんOKの安全なチョコレートとなっておりまーす!
皆さんご協力ありがとう! 今日は楽しんでってくださーい!!」
やつが陽気に掛け声をかければ、ちょっとしたガーデンパーティーがはじまった。
特製チョコレートフォンデュマシーンはそのまんなかで、ライトのキラキラした輝きと、チョコレートの甘い香りを放っていた。
こうして俺はしがないチョコ好きフリーターから、世界にはばたくフォンデュマシーン&チョコレートソース設計販売企業の役員へと、華麗なる転進を遂げたのであった。
「ちなみに、俺がスカウト断ったらどうしてた?」
「そんときはしかたない。こいつを買い取ってもらっておさらばの予定だったさ。
まあこいつ、めっちゃカスタムいれてるしチョコもお前好みの味を出すため金に糸目つけてないから、トータル数百万じゃきかないけどなー?」
「ひえっ」
「HAHAHAジョーダンジョーダン」
「メガワラッテネーヨ!!」
~おしまい~
今年もしょーもないものを書いてみました!
皆様にハッピーバレンタインです♪