不審な男とねこちゃん
ギリギリギリ、カチン。
ギリギリギリ、カチン。
すっかり暮れた玄関先に、異質な音が響いていた。
ギリギリギリ、カチン。
ギリギリギリ、カチン。
その源は、目の前の白い、巨大な箱だ。
人の背丈ほどもあるそれには、まるでブラックジョークのように、極太の赤いリボンがでかでかと結ばれている。
俺をとらえた誰かの声が、耳元で命じる。
「黙って、その箱を開けろ」
ギリギリギリ、カチン。
ギリギリギリ、カチン。
この音はアレに似ていた。
子供の頃分解して、うまく元に戻せなかった、目覚まし時計の音に。
時計の音のする得体のしれない箱。それを開けて手に入れる結末なんか、一つしかないだろう。
だめだ。これを開けたら、このへん一帯が。
このうちが、おやじおふくろと兄貴と姉貴。
そして俺の最愛の存在――可愛い可愛いねこのミーコ(三毛♀一歳)が!!
そんなことだけにはさせられないっ!!
この命に代えてでもっ!!
みなぎる愛のパワーで俺が覚醒しようとした、その時だった!!
「みゃーん?」
かわいらしさMAXのお声とともに、トコトコとかわいらしくミーコがやってきた。
そして、いとけないピンクのおはなで、すんすんといとけなく箱のにおいをかぎ始めた!
あああ、今日もなんてプリティーなんだ。プリティープリティー、マイミーコ!
そんな愛らしいミーコは、愛らしくもとっとと箱本体には興味を失い、ひらひらと垂れ下がった赤いリボンに愛らしく目を向けた。
猫ちゃんがヒラヒラに目を向ければ、やることは一つ!
ミーコは愛くるしくも、真っ赤なリボンにじゃれつきはじめた!
はああ! なんとすばらしい!! 素晴らしいですよミーコさん!!
ひとつひとつのしぐさが感動的! そしてどこか官能的!!
撮らねば! 俺はこの世紀の一瞬を、何としてでもカメラに収めねば!!
だが、俺が再び愛のパワーで動き出そうとしたその時、それは起きてしまった。
キュートにジャンプしたミーコの、ちっちゃくキュートなお爪が、赤いリボンをひっかける。
猫ちゃんがジャンプをきめれば、おきることは一つ!
そう、華麗なる着地である!
しかしその動きにより、リボンは大きく引っ張られ、そのまま……
あらかじめそのように設計してあったのだろう。
箱の四辺がバラバラに、ゆっくりと、芝生の上に倒れていった。