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空読み師  作者: こでまり
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(13)

 明るい光が高窓から差し込んで、目を開ける。


「まぶしっ。って、……あれ? 寝てた?」


 どうやら、いつの間にか寝ていたらしい。この世界に来て、食うのにも困る生活をしているうちに、どこでも寝られるようになった。これもひとつの特技かもしれない。


「ところで今何時?」


 太陽の光は窓からほぼ真下に差し込んでいる。


「ということは、お昼か……。それよりも、お腹すいたぁ」


 冷たい床に頭をつけたまま、再び目を閉じる。空腹を感じないためには寝るのが一番だ。そう思いながら体を横に向けたところで、扉を開けるガチャリという音が聞こえた。


 ……えっ、今の音、なに?


 とっさに体を起こして、音のするほうに視線をやる。暗闇の中、かつかつと聞こえるのは靴の音。どうやら、誰かがこちらに近づいてきている。


「……誰ですか?」


 ……無言で入ってくるなんて怖すぎる。お願いだから、なにか言って!

 慌てて牢の隅に逃げ、目を閉じる。恐怖と緊張で固まる葉月とは対照的に、靴音はゆっくりと規則的で、緊張なんて微塵も感じさせない。


 牢の中を平然と歩いてくるのだから、たぶんこういう場所に慣れている人なんだろう。牢を管理する女官か誰かだろうか。そう思って耳を澄ましていると、葉月の牢の前で靴音がピタリと止まった。


 薄目を開ける。

 暗闇の中、高窓から差し込む一筋の光の先に浮かんだのは、闇に同化するような黒衣の裾。それを見た瞬間、なぜかホッとしてしまった。


「何をしているんですか?」


 低く通る声に視線を上げると、無表情で見下ろす瑚珀と目が合った。

 冷たい視線を向けられても怖さを感じないのは、昨日の笑顔を見たからだろうか。なんだか調子が狂う。


「ちょっと監禁されたみたいで……」

「誰にですか?」

「わかりません。会ったこともない人でしたから……」


 正確にいえば、陽明ファンクラブの女官たちだけど、それを言ってしまえば事がややこしくなる気がした。


「では、あなたは見ず知らずの人に監禁されたと?」

「……はい」

「誰がそんな話を信じると。監禁されるには、それなりの理由があるはずです」


 だから、それは陽明ファンクラブの人に近づくなって言われて……。と真っ正直に言って、間違って彼の耳に入ってファンに忠告、なんてことになったら大変だ。今度は監禁ではすまないかもしれない。


「たぶん私が官吏でもないのに、内城で空読みの仕事をやっているのが、気に障ったんだと思います」


 そこで、思い出す。


「あっ、それよりも、祈雨祭! 今日中にやらないといけないんだった。シニガ……あっ、瑚珀長官、話は後でいくらでもしますから、今はとにかく出してください!」


 鉄格子を掴んで言い募れば、瑚珀はこめかみを指でぐりっと押して、鉄格子の鍵に手をかけた。長い指がゆっくりと鍵を回す。


 ……ああ、時間がない。早く!

 もどかしい時間が過ぎ、鍵がガチャンと音を立てて外れる。と同時に、葉月は勢いよく外に出た。

 今は正午ごろだ。これから準備をすれば、ギリギリ今日中に祈雨祭ができるかもしれない。


「というか、今日中にやらないとまずいって。雨降っちゃうって。首飛んじゃうって」


 最悪の想像をして猛ダッシュした葉月の腕は、背後から伸びた手にグイッと掴まれた。体が振り子のように大きく引っ張られる。と同時に、目の前に秀麗な顔が現れた。


「事情は、後でしっかりと伺いますよ」

「……わかりました」


 と、とりあえず言っておく。ここで何か言うと、長くなりそうなので。


「助けていただいて、ありがとうございました」


 とお礼も言っておく。礼は大事なので。


「では、失礼します」


 それだけ言って、葉月はわき目もふらず駆けだした。石造りの階段を二段飛ばしで上がり、勢いよく太陽の下に躍り出る。

 ずっと暗い所にいたからだろう。まぶしさに慣れなくて一瞬その場で立ち止まる。

 そして、少しずつ周りの景色が見え始めたところで、葉月は呟いた。


「……ここ、どこ?」


 勢いで飛び出てしまったけれど、朱色の壁に囲まれたその場所はまったく見覚えがなかった。




 どうやら監禁されていたのは後宮の牢だったらしい。

 後宮とは、皇帝とその妃が住む場所。基本的には、皇帝と妃と女官しか入ることはできない。官吏などが入る場合は、腰牌こしはいという入宮許可証が必要になる。女官服も官吏服も着ていない葉月のような者がフラフラしていたら、即行不審者扱いだ。


 結局、葉月は瑚珀の助けを借りて、後宮を出ることになった。


「ありがとうございました」


 中央広場でもう一度頭を下げていると、後ろから「葉月!」という切羽詰まった声が聞こえた。


「いなくなったから探していたら、銀ちゃんが壊れていてびっくりしたよ。どうしたの?」


 額に汗を浮かべながら駆けてきたのは陽明だった。その顔はいつもより険しい。どうやら心配してくれていたらしい。


「なんでもありません。あれは手が滑って落としただけです」

「手が滑って落とした?」

「昨日の夜、暗い中で使っていたら、不注意で壊してしまいました。自分でやったことなので諦めています」


 本当は陽明ファンクラブ会員一号が壊したんだけど、話がややこしくなるので自分で壊したということを強調しておく。


「気にしないでください」


 穏便にすませようと笑ったら、近づいてきた陽明にガバリと抱きつかれた。


「とりあえず無事でよかったよ、葉月!」


 ……ああ、だから、そのスキンシップが誤解の元。


 葉月は思わず天を仰いだ。そして、体を離そうとしたその時――。

 背後から伸びた手に、ベリッと勢いよく体を引きはがされた。


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