異世界で天気予報!?(1)
地面にザッと茣蓙を敷き、ポンポンポンと傘を並べる。空をぐるりと見回してから、葉月は黒縁眼鏡を押し上げて「よしっ」と気合を入れた。
そして――。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。これから明日の天気を予想して見せましょう」
異世界の空の下、声を張り上げた。
道端で談笑する男たちが、一人また一人と集まってくる。
胡散臭そうな視線や興味本位の視線。そんな不躾な視線を向ける彼らに、葉月はニッコリ笑ってお決まりの文句を言った。
「では、ずばり当てましょう。明日の天気は――」
こんな生活にも慣れてきた。一年前、ここに来た時は散々だったけれど。
――そう。彼女は異世界転移者だった。
*
この世界に来る前、葉月は気象会社で働いていた。
仕事はテレビなんかに出るキャスター用に、天気予報の原稿を作ること。
とはいっても、駆け出しで重要な仕事は任されていない。サポート業務がメインだ。
中には自らテレビに出る社員もいたけれど、そんな華々しい仕事はしない……というか、正直なところ任されたこともない。
だって、自分はリア充からはほど遠い、オタク気質の理系女子。
黒縁眼鏡と長めの前髪のおかげで顔の半分は隠れているから、基本ノーメイク。服だって無頓着で、仕事に行く時は黒のカットソーにデニムジーンズのヘビーローテーション。
一言で言うと女子力ゼロ。テレビに出るなんて考えたこともない。
……でも、空を見ることだけは昔から好きだったんだよね。
時間とともに変わる雲の形。
雨が降る前の空気の匂い。
雨上がりの空に浮かぶ半円の虹。
そんな自然の変化を感じると嬉しくなった。
仕事は不規則で、土日勤務に夜勤もあり。
体力的にはハードだけれど、好きな仕事だからやっていける。なによりも、空を見ると疲れなんて吹き飛んだ。
それに、一年に二回は少し長めの休暇がとれて、これが楽しみのひとつにもなっている。
その二回の休暇には必ず旅行した。ほとんどが国内だけど、たまに海外にも行く。だいたいが気ままな一人旅だ。
今回の行き先はなんとなくで決めた中国。
初めて行く場所だけど、安心安全のパックツアーだから大丈夫と楽観的に考えて飛行機に乗り込んだ……のだが。
着いた先は、見たこともない世界だった――。