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入学試験

スペリオーレ王国 魔法がまだ存在していた世界。不思議なことが生活の中に溢れていた時期。


人の文明が世界の不思議にまだ及ばず、説明がつかない、理由がわからないことが自然なこととして受け入れられ、人々の日常に溶け込んでいた。


そんな時代の中、この国はいち早く魔法の存在に気づき、その不思議さに向き合い、そのまま国力に変換し、そして100年の安泰を得た。


魔法は偉大だ、魔法が全てだ。そんな考えが大半を占め、魔法という形の不明瞭なものに安心する。それが普通だった。


過去の実績にすがり、伝統を守るという大義名分で魔法の開発、不思議の探求にすら手を引き、今まで培った魔法を後世に伝えることこそ至上。


100年の平和、その偉業の代償は、発展の阻害という形で支払われていた。その平和は魔法を開発したことで得られたものであることを忘れて。魔法を使えることに安心して。


平和の礎となった魔法を崇拝し、魔法が使えるか否かで人の価値まで決まってしまう。そんなことはこの国に住むものならば子供だって知っている。それだけこの国において魔法は重要なのだ。


そんな中私、アリア・ミュラーは魔法学校の入学試験を迎えようとしていた。


「今日で私の未来が決まる……」顔を俯けると前髪が視界に入る。いつもなら明るくて気に入っている母譲りの白銀の髪も、今はうっとおしい。このまま眼前の世界と自分とを隔絶する壁となってはくれないだろうか…。

そんな現実逃避をしてみる……。しかし状況は変わらない。最悪の状況は何も変わらない。


この国に住む魔法の素養のあるもの。具体的には、魔法の原動力であるマナを有しているものは、16歳を迎える歳に魔法学校の入学試験を受ける。それは国策であり法律である。拒否権はない。


「まぁ…そんなに落ち込むな我が娘!美人が台無しだぞ!お前にもマナは通っている、しかも普通の魔術師以上にだ!才能で言えば十分だろう。」と私の背中を力強く叩き、半ば無理やり活を入れてくれているのは私の父、スバルト・ミュラー。

励ましてくれるのは有り難いと思う…。けど背中を叩く手が止まらない、背中の痛みがそのまま父の不安だと感じた。いつもよりデカイ声、いつもとは違って励まししてくれるその態度。その違いがそのまま不安になる。私はダメなやつだと再確認させられているみたいで…………。


父の運転する馬車で試験場所である円形闘技場へ向かっている。まるで処刑場へ連行されている気分だ。国中の人間が集まる発表の場に、なんの持ち合わせも準備もなく立たされる。逃げちゃいたい…。


「マナがたくさんあっても使えなきゃ意味ないじゃん!今まで努力はしてきたけどなんの兆候もなく、本当になんの魔術的な力の発現もなく、もぅ試験日だよ!」と言いつつ天を仰ぐ。

今日は晴天、絶好の試験日よりだ。私の心との対比のようで、嫌に明るく眼に映る。それを拒絶したいのか、視界が突然不明瞭なものに。なんのことはない、涙が出てきただけだった。


一般的にマナを有した者は、習うでもなく何とはなしに、魔法の使い方を本能的に解っているもののようだ。

昔仲のよかった幼馴染みの女の子は、成長と共にどんどん魔法を使えるようになっていった。

曰く、ある日閃くんだそうだ。詠唱なんて習っていなくてもただ火を起こしたり、風を吹かせたりするだけならば、集中とイメージだけで大丈夫とか言っていた。


が、私は何時までたっても火が起こるでも、水が湧くでもなく、マナが体の中心に集まるような感覚だけで、何も起きなかったのだ。

それはもう何時までも。自分にできないのが悔しくて、それこそ一日中イメージ、集中を繰り返した。それでもできなかったのだ。

その幼馴染みの女の子は、特別才能があったようで、魔法的な力の発現は、同世代で一番早かった。

が、時が経つにつれ他の子もどんどん魔法が使えるようになっていき、気づけば私一人。


彼女とは幼馴染みでとても仲がよかった。確かめたことはないけれど、私は親友だと思っていた。許されるのなら今でも仲良くしたいと思っている。でも私は魔法を使えない。

この国において魔法はとても重要だ。そんなのこの国に住むものなら子供だって知っている。

マナを持つもので、魔法が使えない者が私一人となった日を境に、私と彼女の仲を悪く言うものも出てきた。

というより、彼女以外みんな私のことを快く思ってはいなかった。


周りの声も聞こえた、無視できるレベルではなくなっていった。

そのなかに『アリアと一緒にいたら魔法が使えくなるかもしれないよ。』という声が一際辛かった。

私のせいで彼女が魔法を使えなくなる。そう思うと恐ろしくなった。


だから私からもう一緒にいるのを止めようと言った。

彼女はとても優しくて、泣きながらそれを拒んだ。『絶対嫌だ!』と叫んでくれた。

そう言ってくれることがたまらなく嬉しく、いとおしく、大切にしたいと心から思った。

私はどうでもいい、彼女だけは守らなければ。本気でそう思った。


だから初めて本気で殴り飛ばしてしまったんだ。


その日以来彼女とは疎遠だ。自分のせいだけど。

心が暗いとき、ひとはなぜ昔の愚かな自分のことや、嫌な思い出を総ざらいにして思い出してしまうんだろう。また現実逃避をしてみる。


そろそろ心を切り替えよう。自分のできることを精一杯頑張ろう。どのみち私にはそれしかないんだし。

そんな当たり前の言葉で前を向いた。


そこにいたのは幼馴染みの彼女だった。幼い日に本気で殴り飛ばして以来疎遠となった幼馴染み。アメリア・ピーチが宙に浮いたままこちらを見ていた。



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