お金欲しいのでニコチューをやるらしい
天音とのお家デートから4日ほどが経過した。
その間は早香と映画を見に行ったり、妹の友達が家に来たので一緒に遊んだり、天音と買い物をしたりとなかなかリア充な日々を過ごした。
早香と見た映画は正直、面白くなかった。
早香は感動していたが、前の世界の感性が残っている俺にとってはコメントに困る映画だった。
アニメの劇場版を見たかったのだが、流石にデートでは不適切と思い空気を読んだ。
しかし、どうしても劇場版が生で見たかったので、後日一人で映画館に見に行ったのだが、道中に沢山ナンパされて疲れてしまった。
そのせいか、結局映画の途中で寝てしまった。
アニメ視聴者として大罪を犯した気分になり、少し落ち込んだ。
まあ、それはいいとして…。
相変わらず恋人達と連絡は取り合っているが、四日後に愛奈、六日後に理沙、八日後に雫とのデートの約束をしたくらいで、特に変わったことは無かった。
取り敢えず、これから三日間は急な予定が入らない限り暇になりだ。
なので、今はクーラーをガンガン効かしたリビングで、妹とアイスを食べながらダラダラしている。
暑いのに俺にべったりとくっついている妹を見ると、なんだか微笑ましい。
妹よ、そんなにお兄ちゃんが大好きか?
え?大好き?
はははっ。
俺も。
そんな風に妹と仲良くしている時、携帯に着信が来た。
母さんからだ。
「もしもしー?どうしたの?母さん」
「あっ!修くん!あのね、修くんに頼まれてた機材、準備出来たよ!」
「おっ!マジか!ありがとう、母さん!」
母さんからの連絡を聞いてテンションが上がった。
実は以前からやりたいことがあって頼んでいたのだ。
「うふふ、良いのよ!修くんの為だもん。それじゃ、業者に搬入と説明させるから、空き部屋に案内してあげてね」
業者の手配まで母さんは抜かりが無かった。
「分かった!いつもありがとね!仕事忙しいと思うけど頑張ってね!」
「うふふっ、ありがと!…本当に仕事忙しくて修くんと芽亜にしばらく会えないのが残念だけど、また帰るときは連絡するからね!」
声は元気そうで良かったが、しばらく帰って来れないのは残念だ。
無理だけはしないで欲しいと心から思った。
「了解っ!それじゃ、体に気を付けてね!」
「修くんもね!じゃあねっ!」
母さんとの通話を切り、妹に電話の内容を説明した。
母さんには本当にお世話になりっぱなしなので、妹と母さんへのお礼を考えつつ、業者を待つことにした。
ー
母さんとの通話が切れてから、10分くらいして業者が来た。
空き部屋の場所を教えると、最新鋭のパソコンや機材、ゲーム器等、それから机や椅子まで全て業者の方々は設置してくれた。
それに事細かく説明もしてくれた。
やけに嬉しそうに説明していたので、よっぽど機械が好きなんだなぁと思った。
だけど、誰が説明をするかでかなり揉めていたので、仲良くして欲しいと感じた。
「よし、やるかっ!」
業者を見送った後、ヘッドホンとマイク、カメラ等を確認し作業に取りかかった。
「何をしてるの?お兄ちゃん?」
いつの間にか後ろに立っていた妹に声をかけられてびっくりした。
ふっふっふ、妹よ。
お兄ちゃんが何をするかって?
それは…ね。
バーチャルの世界にデビューするのさ!!
そ、そんなキョトンとした顔しないでよ!
可愛いなぁもう!
……。
分かった、分かったしっかり説明するから!
妹に俺がやりたいことを言える範囲で説明した。
ー
簡単にいうと、動画を投稿して人気者になり、動画に広告を付けて儲けようと言うことだ。
自分で稼いだお金が欲しい。
俺が出来る事としてアルバイトも考えたが、接客業だと人が来すぎて忙しくなりそうだし、製造業だと自分の強みが生かせなくて何だか勿体ない。
せっかく男が貴重なんだがら男性モデルに…と考えもしたのだが、なんだか凄く嫌な予感がしたので止めておいた。
投資やその他様々なビジネスは母さんがもうやってるし、教えて貰う時間を作って貰うのも悪い。
前の世界で働いていた会社もアルバイト募集はしていたが、それは…ね?
仕事は出来るかもしれないが、勿論嫌だ。
うーん、どうしようか?
…そんな時に目をつけたのが、この世界での誰もが簡単に動画を投稿できるサイトの「ニコチューブ」だ。
正式名称はもっと長いので、省略したのが「ニコチューブ」だ。
ちなみにこれ以上略してはいけないと、運営が口をすっぱくして言っている。
決して「ニコチュー」と呼んではいけない。
ニコチン中毒みたいなニュアンスになってしまうからね。
俺もこの動画サイトでこの世界の様々な事を学んで来たものだ。
まだサイトが出来て数年らしいが、かなり沢山のユーザーが利用している。
しかし、良いのか悪いのか整備がまだ行き届いておらず、女の子の見えてはいけない部分が写ってしまっている動画もある。
思わず一時停止して……なんでもない。
まあ、それはいいとして…。
本当は顔を出して配信をして人気を得ようとかを考えていたが、この前男性の配信者がストーカーとボディーガードに襲われたと言うニュースを見て、怖くなってしまった。
ストーカーがボディーガードをタブらかして結託してしまったらしい。
…おい!ボディーガード!なにやってんの!
ちなみにニュースで見た加害者の女性はかなり美人だった。
…ビックリするくらい美人さんだった。
…あれ?美人に襲われるってむしろご褒美…?
一瞬そんな事を思ってしまったが、そんな考えを持てるのは俺くらいみたいで、配信者に同情する声や加害者女性を罵る声しかネットに上がっていなかった。
男側には快楽しか無いと思うのだが、前の世界と比べて性欲の低く持続力回復力ともに乏しいこの世界の男性にとっては、一回戦以降は苦痛でしかないらしい。
推測だが、快楽後の痛みや抵抗できない恐怖などがあったのだろう。
好きでも無い人と無理矢理って考えると、確かに可哀想に思えてくる。
結局、この配信者は事件のせいで女性不振になり、うつ状態に陥り配信を引退してしまったらしい。
そんな事件などもあって、とにかく顔出しは危険性があると俺は考えた。
ストーカーに何かされても怖いしね。
では…どうするか?
その解決策として思い付いたのが、自分の代わりを作る事だった。
具体的には、自分に似たキャラクターを作り、自分の動作や表情に合わせてそのキャラクターが動くようにした。
いわば、前の世界で沢山いたVチュー○ーのようなものだ。
声はそのままだが、顔を出さなくていいので安心だろう。
声やリアクション、トーク力を武器に出来るようにこれから頑張りたい。
ー
説明が長くなったが、妹は真剣に俺の説明を聞いてくれていた。
「だいたい今話した感じなんだけど…分かったかな?」
目をキラキラさせて俺を見ている妹に聞いた。
「うんっ!だいたい分かったよ!このキャラがお兄ちゃんってことでしょ?確かに似てるね!」
「そうだろ~!」
妹はパソコンの画面に写っている俺のキャラクターを指差しながら答えた。
「こんな事思い付くなんてお兄ちゃん流石だね!凄いねっ!」
「はっはっは。ありがとな」
素直に誉められたので嬉しかった。
まあ、凄いのはキャラや機材を準備してくれた母さん達であって、俺は何もしていないのだが。
前の世界のパクりだし。
「これからお兄ちゃんはゲームの実況とか生配信とかやってくから、気が向いたら芽亜も見てな」
「うんっ!ちゃんと見るね!すっごく楽しみ!」
妹はかなりウキウキしていた。
真っ直ぐな視線が眩しい。
本当に楽しみに思ってくれているようだが、そんなに期待されると少し荷が重くなるぜ…。
「ま、まあ、はじめての事だから手探りで頑張るよ」
「うんっ!頑張ってね!お兄ちゃんの事、芽亜は応援してるからねっ!」
健気な妹が可愛すぎて辛かった。
「おう!サンキューな!それじゃ、色々まだ確認することあるから作業に戻るね!」
「うん!分かった!」
まだ目を輝かせながら近くで俺を見守る芽亜を気にしつつも、俺は再び確認作業に戻った。
(さて、初めての事で色々と分からねぇけど、取り敢えずチャレンジだな。まずは何やったらいいかな。…うーん)
どんなゲームをやろうか、何かエピソードでも話そうか。
それらを考えながら、画面の中にいる自分にそっくりなイケメンキャラを見る。
ニコニコと笑っているそのキャラと目が合った。
……。
「今日からよろしくな」
俺はボソッと呟いた。
なんとなく「任せろ!」と言われた気がした。




