全国大会だったらしい
三月にまとまった連休が…。
頑張るぞいっ!
早香の初戦は、見ていて気持ちのよい、圧倒的勝利だった。
早香走るの姿はかっこよくて美しくて、とても素敵だった。
ますます好きになった。
早香は走り終わった後、直ぐに選手控え室へといってしまった。
ゴールしても喜ぶ素振りすら見せず、何かを考えているようだった。
試合を振り返っているのかな?
……声をかけたかったが、仕方ないだろう。
早香のお母さんの声にも反応しなかったからな。
それだけ集中してるのなら、邪魔しないようにしないと。
「修史くん、早香の決勝まで時間あるから、一緒にお昼ご飯でもどうかな?」
「あ、そうなんですか?それならぜひ!……ん?決勝ですか?」
何だか知らない話が出てきて驚いた。
決勝って何だろう?
「あら?知らなかったの?えっとね、今のグループで一位をとったから、次は決勝戦になるのよ。ついでに、もし早香が次の決勝戦で一位になれば、高校生の日本一になるんだから!」
「な、なるほど。……って、ええっ!?日本一ですか!?」
いきなり話が大きくなっててびっくりした。
……あれ?
そういえば俺はこの大会が何の大会かすら知らなかったわ。
まさか、日本一が決まる大会だったとは……。
「そうよ!どう?うちの早香は凄いでしょ!」←ドヤ顔
「……はい、凄すぎてびっくりしました。」←困惑
俺が知らなかっただけで、早香は相当な実力者だったらしい。
まあ、走りを見て速い方なんだろうなとは思ったけど。
それにしてもまさか、決勝だとは……。
どうりで人が大勢いて、テレビカメラも来ていた訳だ。
(決勝かぁ。次の試合、見るの怖いな。頑張ってほしいけれど…)
ここまで来るのにきっと相当な努力を積み重ねたに違いない。
だが、きっと一筋縄では勝てないだろう。
いや、負ける可能性の方が……。
負けるのは仕方ないのだが、負けたときに早香は凄く悲しむ気がする。
そう考えるとあまり見たくないような、見たいような……。
……もう、結果はどうであれ、俺は早香を抱くと決めた。
ーー
決勝までの時間を潰すために、早香のお母さんと近くのレストランに行って、ご飯を食べつつ雑談した。
早香も誘ったのだが、メッセージに既読すらつかなかった。
きっと、決勝に向けて何か準備でもしているのだろう。
「……でね、早香は昔から凄いのよ!」
「そうなんですか!」
食事中、早香のお母さんが早香の昔の話をしてくれた。
早香は小さい頃から元気に走り回る子で、運動会のかけっことかでは、毎回活躍していたらしい。
そんな早香は、中学生で陸上部に入り、負ける悔しさと勝てた嬉しさをバネに、練習に練習を重ねてどんどん成長していったそうだ。
そして、中学三年生で県の大会で一位をとったらしい。
そして初めて全国大会に挑んだらしい。
結果は三位だったそうだ。
「凄いですね!早香は!」と俺は笑ったのだが、早香のお母さんは少し暗い顔をした。
それとなく理由を聞いてみたら、一位の選手と約一秒の差があったらしい。
早香とは身長も歩幅も結構な差があるらしい。
(一秒差……かぁ。百メートル走の一秒って考えてみればかなり大きいよな?それに相手が黒人とは……。黒人のバネや体格に日本人は……勝てないよな)
黒人の速さは誰もが知っている。
俺は勝とうとすら考えない。
「修史くんの考えている事は分かるわ。それでも、早香ったら絶対に諦めなかったのよ!逆に闘争心燃やして練習量を増やしたのよ!凄いでしょ!」
「……そうなんですか。それは……本当に凄いことだと思います」
早香は強いと思った。
俺にはない精神力を持っている。
「今日ね、その早香に勝った女の子二人も決勝戦に出るのよ!だから早香にとってはリベンジマッチってわけ!」
「本当ですかっ!?それは…いい機会ですね。」
「ふふっ、本当にいい機会ね!楽しみだわ!修史くんは早香の頑張りをしっかりと見ていてあげてね!」
早香のお母さんは、そう言って笑った。
その目から娘が勝ってほしいという気持ちが伝わってきた。
近くで早香の頑張りを見てきた分、俺よりもその想いは強いだろう。
しかし、早香のお母さんの気持ちは分かるが、正直な話、俺は早香が勝てるとは思っていない。
最低な発言だが、冷静に分析した結果だ。
勿論、早香には優勝して欲しい。
しかし、いくら早香が練習したところで、相手もそれなりに練習してる訳だし、それに才能の差だってある。
だから、負けるのは仕方が……。
仕方な……。
(いや!待て!俺のバカ野郎!ふざけるな!)
俺は何をネガティブに考えているのだ!
大好きな早香が勝ってほしい!
優勝して欲しい!
そう願うだけで勝機が舞い込んで来るかもしれない。
当事者の早香が諦めて無いのに、俺が勝手に諦めてどうする?
負けるって決めつけてどうするんだ!
……早香は強い!
誰よりも強い!
俺は早香のお母さんの言葉にしっかりと笑顔で答えた。
「勿論です!早香の勇姿、きっちりと目に焼き付けておきます!」
俺の言葉に、早香のお母さんは満足げな表情を見せた。
ーー
食事も終わり、競技場に戻ってきた。
奢ってもらって感謝だ。
決勝だからか人も増え、前の席に空きはなかった。
なので少し後ろの席の端に座った。
早香のお母さんと一緒に応援する。
しばらくして、早香が控え室から出てきた。
先ほどと違って表情は柔らかくなっていた。
緊張をほぐして、リラックスしているのだろうか?
「早香!頑張ってねー!」
早香のお母さんがそう声をかけると、早香が気付いてこちらを向いた。
早香はお母さんに向かって軽く笑みを浮かべた。
……可愛かった。
なので俺も一応、手を降って早香にアピールした。
それに気付いた早香と目が合った。
(察するかなぁ?)
俺だと気付いたらいいなぁと思った。
少しの間、時が止まったかのように見つめ合い、早香の表情が驚きでいっぱいになった。
そんな早香に向かって口パクで「頑張って!応援してるよ!」と言っておいた。
早香にその思いが伝わったようで、満面の笑みを浮かべてくれた。
そして早香は、「ありがとう!」と言って、アップをしに向かっていった。
感覚的な問題なのだが、何となく早香に何か力が宿ったように感じた。
まあ、そんな事より、早香の笑顔が可愛すぎるのが問題だったのだが。
心の中で暴走する「抱き締めたい」という欲求を押さえつけるのが大変だった。
ーー
少しして、いよいよ決勝戦が始まった。
八人による決勝だ。
今年は一年生三人が決勝に並ぶという、異例の大会らしい。
一年生は中学生全国大会の上位三人、黒人の女の子二人と我が恋人の早香。
その他は他校の精鋭達だ。
予想通り、厳しい試合になりそうだ。
八人が並び、各自調整をする。
早香を見てみたが、とても落ち着いた表情をしていた。
何故か少し楽しそうに見えた。
会場にアナウンスがかかる。
そろそろ時間だ。
再び会場が静かになる。
そして……
パンッ!
いよいよ、勝負が始まった。
全員が揃ってスタートする。
遠くから見ていても、かなりの迫力だ。
そしてスタート直後、早香が一歩先頭に出た。
(早香いいぞ!完璧なスタートだ!)
早香は上体を起こしつつ、加速を重ねる。
その加速力でこのまま皆を引き離して欲しいと思った。
だが、流石は決勝戦。
誰一人引き離される事ない。
……いや、それどころか黒人の女の子二人はあり得ないくらいの加速をして、早香との差を縮めていく。
うん、このままだとまずい。
本当にまずい。
えっ、ヤバいよ!
冷静に見てる場合ではないよ!
抜かれちゃうよ!
俺は焦った。
だが、直ぐに焦ったところで無意味という事に気付き、魂を込めて応援した。
(早香、逃げ切ってくれぇ!)
早香が更に加速し、他の女の子と差を開く。
しかし、黒人の女の子二人は、また加速して早香と並んだ。
そしてそのまま早香は抜かれ……なかった!
俺の祈りが少し届いたのか、早香がスピードに乗ったのかは分からないが、横並びになったまま差が開かない。
先頭に早香と黒人の女の子二人、少し離れてその後ろに他の子が並んで走っている。
三人による、優勝争いが確定した。
ゴールまで残り二十メートル程しかない。
俺は祈るように早香を見つめた。
果たして早香は優勝できるのか!?
それは置いといて、この小説でR18行為をしても運営さんは見ていないから大丈夫なのではないか?
…大丈夫!多分大丈夫だ!




