経験を積んだらしい
いよいよ本番です。
ー パーティー当日 ー
午前中にプレゼントの購入を済ませた俺は、今タキシードに着替えて迎えを待っている。
パーティーに出る旨を母さんが天童院さんの母親に伝えたところ、わざわざ迎えをよこしてくれるとの事だ。
わざわざ申し訳ないと感じるのは俺がまだ、庶民の心を忘れていないからだろう。
ちなみにプレゼントには言い方は悪いがお金をかけた。
まあ、働いてないので、申し訳ないが母さんが俺の口座に振り込んでくれていたお金を使わせて貰った。
いつかきっと返すとしよう。
プレゼントを内ポケットかズボンのポケットに潜ませるかなど、そんな事を悩んだりしながらそわそわと待っていた。
(髪型よし、服装よし、プレゼントよし。準備は出来たが…流石に緊張するなぁ。庶民だぞ俺は。上流階級なんてしらねーぞ。本当に大丈夫かな?浮いたりしないかなぁ。)
鏡を見つめながら俺は身支度を完璧にしたが、いざこれからパーティーとなるとなんだか不安で胸がいっぱいだった。
気楽に楽しみたいと思ってはいるのだが、それは難しそうだ。
(大丈夫、なんとかなる!頑張れ修史!)
取り敢えずそう自分に言い聞かせていると、母さんの声が聞こえてきた。
「修くーん!お迎えが来たわよー!」
「…分かったー!今いく!」
母さんに呼ばれたのですぐに玄関まで向かった。
玄関には、母さんと妹がいた。
母さんは綺麗で上品な赤いドレス姿をしてて、化粧もいつもよりしっかりとしていた。
身内だから気付かなかったが、母さんもかなりの美人さんだと思う。
かなりの人の目をひくことになるだろう。
まあ、男はほとんどいないだろうけど…。
母さんはそんな感じだが、妹はそもそもパーティーには行かないので、着替えてはいなかった。
昨日、妹にも「パーティーにいかない?」と誘ってはみたのだが、長時間悩んだ後「ああいうパーティーはちょっと…。」と断られてしまった。
妹は前にも母さんに付いていってパーティーには行った事があるらしいのだが、豪華すぎるパーティーは妹には合わなかったらしい。
少し寂しいが仕方ないだろう。
だが、妹のドレス姿はいつかきっとこの目に焼き付けるとしよう。
余談だが、妹と母さんの久々の再会はとてもあっさりしていた。
妹は久々に帰ってきた母さんよりも、毎日一緒にいる俺に興味があるらしく、俺とばかり話したがっていた。
…お兄ちゃんとしては、もう少し母さんと話の花を咲かせてほしいと思ったが…。
妹も母さんも俺にばかり甘えてきて、何だか二人の間には火花が散っているように見えた気がした。
同性だと甘え辛いとかそういうのが何かあるのだろうか?
「お兄ちゃん…。すっごくかっこいいよ!パーティー楽しんできてね!」
そんな事を思い出していると、妹に声をかけられた。
ふふっ、かっこいいか!そうだろう!
…おっといけない。
ドヤ顔は厳禁だ。
「ありがと!楽しんでくるね。お留守番よろしくね!芽亜。」
そういって俺は笑顔を見せてから、可愛い可愛い妹の頭をなでる。
妹は目をトロンとさせて、なにやらうっとりとしていた。
芽亜に言われた通りしっかり楽しんでくるとしよう。
…ん?どうした母さん。
なんで芽亜をそんな羨ましそうな顔で見つめているんだい?
しばらく妹を撫でた後、母に続いて玄関から外に出る。
…ん?
…見間違えだろうか?
自宅の前にリムジンが停まっているという普通ではありえない光景がそこにはあった。
そして車の横には理沙さんのメイドの水無月さんがいた。
「こんばんわ。お迎えに上がりました松本様。」
「水無月さん!?」
「…っ!これはこれは!ご無沙汰しております、修史様。」
どうやら水無月さんが迎えに来てくれたみたいだ。
知っている人で少し気持ちが楽になった。
リムジンに乗るのは気が引けるが…。
あ、そういえば俺の家は普通では無いので、リムジンで迎えが来るのも珍しくないのかもしれない。
水無月さんは俺を見て少し驚いた後、母さんと俺に頭を下げた。
「お二方、どうぞお乗りになって下さい。30分ほどで到着する見込みです。」
「あら、ありがとう。修くん忘れ物はない?早く行きましょ。」
「あ…はい。」
水無月さんが車のドアを開けてエスコートしてくれたので、平然としている母さんに続いて車に乗り込んだ。
車の中は勿論広かった。
なんだか自分が庶民ではないような変な感覚がした。
「お兄ちゃんお母さんいってらっしゃい!お土産宜しくねー!」
窓の外では天使もとい、妹が手を振って見送ってくれた。
妹に手を振り返していると、すぐに車は動き出した。
出発してからしばらくして、母さんと水無月さんが話をはじめた。
俺は窓の外をボーッと眺めながらその会話を軽く聞いていた。
「松本様、本日はパーティーへの参加を考慮していただきありがとうございます。」
「ふふっ、そんなに畏まらなくていいのよ、水無月さん。今回は修くんが行きたいって言ったから私も付いていくのよ。」
「修史様が…ですか?」
「そーなのよ!修くんったら理沙ちゃんの事が好きみたいで…。」
「ちょっと待ったぁ!!か、母さん!?」
いきなりそんな恥ずかしいことを暴露されて驚いた。
珍しく取り乱した。
な、何普通に言っちゃってんのだろう!?
「あら?どうしたの?修くん。違った?」
「いや、違ってはないけど!ちょっと恥ずかしいというか…。」
「ふふっ、もう!修くんは初々しくて可愛いんだから。」
そう言うと母さんは俺に抱きついてきた。
母さんの胸に圧迫されて息が苦しかった。
胸の開いたドレスを母さんは着ているので、生乳の感触が…。
…いや、息苦しいので普通にやめてほしかった。
「修史様が理沙様の事を好いていてくださるなんて!!っ…!理沙様のメイドとしてとても喜ばしく思いますわ。ああっ、涙で前が…。」
「水無月さん!?あなた運転手だから!前見て前!」
そんなやり取りがありつつ、数分後には無事に天童院家の屋敷に到着した。
その時には緊張は大分薄れていた。
後になって気付いたのだが、俺を動揺させた母さんの行動は俺の緊張をほぐす為のものだったのかもしれない。
…す、少しくらいは感謝してあげてもいいんだからね!
車を降り、水無月さんの後に続いて屋敷へと足を踏み入れた。
(緊張はほぐれた。後は失礼のないようにして頑張ろう。そして理沙を…!!)
改めて気合いを入れなおした。
さあ、いざ、決戦の地へ!
ー
屋敷の中に入ると大勢のメイドさんがずらっと並んで頭を下げていた。
その姿に圧倒されつつ、水無月さんと母さんの後を離れないようについていく。
チラッとしか見ていないがメイドさんは皆可愛くて、思わず照れてしまった。
…一人くらいお持ち帰りしても良いんじゃないか?と思ったのは内緒だ。
広い通路を進んだ先にあった扉を開くと、優雅な音楽の鳴り響く広い空間があった。
庶民の俺では表現出来ないくらい豪華なパーティー会場だった。
沢山の人がいて、グラスを片手に談笑している人や優雅に踊っている人などそれぞれで楽しんでいた。
男女で踊っている人もそこそこ見えたが、圧倒的に女性同士で踊っている姿の方が多かった。
男が少ない世界ならではの光景だろうか?
女性×女性の姿は、それはそれで綺麗だと思ったし、見てて目の保養になった。
しばらくキョロキョロと辺りを見渡していたが、まだ理沙さんの姿はなかった。
取り敢えず何をすればいいのか分からないので、母さんの側を離れずに大人しくしていた。
「ふふっ、修くん。遠慮せずに自由にしていいのよ!」
俺を見て母さんは微笑みながらそう言ってきた。
…いやいや母さん。
自由にしてと言われても出来ないのだが…。
「あっ!修くん、お母さんは友人とお話してくるから、自由に楽しんでいてね!」
「あっ、母さん!?」
この場における自由について考えていたら、母さんは友人を見つけたらしく俺の側から離れてしまった。
一人になった途端に寂しくなった。
周りには知り合いも俺のような庶民はいないので、非常に困った。
(母さんめ。パーティーはじめての俺を一人にするなんて。しばらく無視してやる!…さて、それはいいとして軽く何か食べて時間でも潰すかな?)
少し母さんを恨みつつも、会場の端に美味しそうな料理が並んでいるのが見えたので、そこに移動しようと考えた。
しかし、歩き出そうとした途端。
急に俺は沢山の女性に取り囲まれた。
「わ、私と踊っていただけませんか?」
「いやいや、私と踊って…」×4人くらい
「ぜひ、私と踊って…」×6人くらい
皆、俺に手を差し出してきた。
俺がカッコいいからか、それとも何らかの利益の為か、はたまた両方か。
理由はともあれ、モテモテだった。
…ふぅ、モテる男は辛いぜ。←冗談
「と、取り敢えず順番でお願います。まずは君で!」
そう言って俺は最初に声をかけてくれた、同い年くらいの髪の短い女の子の手を握った。
他の子よりドレスがシンプルだがら、踊るのが楽そうだしね。
「あわわわっ…あ、ありがとうございます!」
その女の子はテンパっていたが、嬉しそうにしていた。
取り敢えず、彼女をエスコートして試しに踊ってみた。
彼女には失礼だが、理沙の時のための練習だと思って頑張った。
彼女の腰に手を回し、音楽に合わせてステップを踏む。
「俺、上手く踊れてるかな?」
「も、勿論です!それはもう完璧です!」
どうやら俺には才能があるらしい。
初めて会った人でも上手く踊れたみたいだ。
素直そうな子なので、お世辞ではなくきっと本心で褒めてくれたと信じたい。
「ふふっ、ありがとう!それなら良かったよ。実は不安だったからね。」
「そ、そうなんですか!?こんなに完璧なのにですか!?」
「いやいや、君が踊りやすくしてくれてるんだよ、きっと。君のおかげだよ。」
「っ…!そ、その…ありがとう…ございます!」
あ、照れた。
踊るのもなかなか楽しいかもしれない。
褒めてくれたしいい子そうなので、記念に名前を聞いておいた。
理沙さんに会いに来ているのに、他の女の子に名前を聞くのは大丈夫かは知らんが。
「な、名前ですか!わ、私は早乙女未来って言います!」
「未来ちゃん…ね!君みたいな可愛い子と踊れてもっても楽しいよ!」←さわやか笑顔
「…はぅぅ。そ、そんな私の方こそ…こんなに素敵な方と踊れて夢みたい…です。」
「おっと!?」
未来ちゃんは、そう言うと急に足取りがおぼつかなくなった。
フラフラする体を支えてあげて踊るのを止めた。
目がトロンとして顔を赤くしてとろけている。
…疲れたのだろうか?
なかなかいい経験になったし、きりもいいので次の女の子と交代した。
未来ちゃんのおかげで大分自信がついたので張り切った。
それからはしばらく沢山の女の子と踊って時間を潰した。
年上から中学生くらいの子まで、エスコートしたいタイプから完全にエスコートされたいタイプまで相手にして経験できた。
皆、疲れて体の力が抜けるまで俺の相手になってくれたので、本当にいい練習になった。
「ふぅ、少し休むかな。」
そう言って辺りを見渡した時に気付いたのだが、俺はかなり目立っていたのか、大勢の人の視線を集めていた。
…下手な躍りではなかったと自信を持ちたい。
その後、休憩していると司会の方がマイクを持って話始めた。
前置きが終わり、いよいよ主役の理沙が登場するらしい。
俺は近くにあったグラスの液体で喉を潤してから、気を引き締めて理沙の入ってくるであろう、扉を見つめた。
投稿の間隔空きすぎました、待っていて下さった方には申し訳ないです。
活動報告でちょくちょく進行状況伝えるので、良かったら確認してください!
さて、次話はいよいよ理沙の登場です!




