初めて登校したらしい
俺達は今、自転車に乗り、坂道を下っている。
女の子の少し甘い香りと汗の香りを僅かに鼻腔内に感じつつ。
…いい気分だ。
「風が気持ちいいねー、ねっ!早香さん!」
「そそそっ、そうだね!今日は暑いから」
自転車に乗ってはいるが、自転車を漕いでいるのは早香さんだ。
そう、俺は前ではなく、後ろに乗っている。
「俺、重くないかな?」
「だ、大丈夫だよ!私、陸上部だし。修史くん全然軽いし!」
「そ、そうかな?…まあ、ありがと?辛かったら言ってね、変わるから!」
「あ、ありがと。でも本当に余裕だから!」
自転車のスピードがぐんっと上がった。
俺は完全にここでは、いや、もうこの世界と言った方がいいかもしい。
この世界の俺は、前の世界での女の子ポジションになってしまっていた。
…まあ仕方がない。
こんな状況になったのは数分前に遡る。
ーー
早香さんのお母さんに玄関先で見つられた後、固まっていたお母さんだったか、すぐにハッとして動き出した。
お母さんは髪が長い所意外は早香さんに似ていて、20代後半くらいに見えた。若く見えるが奥さんって感じがする。
早香さんのお母さんは、俺に近付き肩を掴むと怒濤の質問責めや注意をしてきた。
質問は早香さんとの関係とかだったが、状況を説明すると「これから早香を頼るように!」とか、「ぜひ、早香をよろしくね!」などと何回も言われた。
…何故かすごく必死だった。
それは良いのだが、少し注意された事があった。
俺の格好についてだ。
「男の子がそんなに無防備に肌を見たらダメよ!はしたないし、襲われちゃうよ!」と言われた。
どういうことか聞いたところ、Yシャツの胸元開きすぎていること、二腕を捲りすぎ過ぎて二の腕が見えているのが、だめと言われてしまった。
(いや、胸元とか二の腕とか誰も気にしない…よな。…いや、そう言えばこの世界は女性が男性に飢えているんだ。いや、関係あるのかなぁ。)
…少し悩んだが、ここでは男性が肌を見せるのは、女性から見てエッチに見えるのかもしれないと結論付けた。
反応が過剰だとは思うのだが。
しかし、それなら先ほどの電車で俺が「きゃあ!」と言われたのにも説明がつくかもしれない。
俺の胸元全開にしていたのは、前の世界で女の子がブラを着けずにYシャツの胸元を全開にしているようなものなのかもしれない。そう考えると…エロい。
確かに、それなら視線を集めるわなぁ。
「早香、修史さんを責任もって学校まで送りなさい。もし、遅刻したら…分かるわね?」
「も、勿論だよっ!」
服装を直している間、早香さんと早香さんのお母さんとのやり取りがあった。
流石に女の子に送って貰うのはと思い、断ろうとはしたのだが…。
「いえいえ、僕は大丈…「気を付けてね!修史くん、学校頑張ってね!さあ、早香の後ろに乗って!」
有無を言わさず、自転車の後ろに乗せられ今に至る。←二人乗りダメ
女の子みたいに横座りは嫌なので、またがって自転車にしっかりと掴まる。
…本当は早香さんに掴まりたいけどね。
腰くらい抱いてもいいかなぁ?
「ごめんね、お母さんが色々と言って」
自転車に乗って少しして、早香さんがそんなことを言ってきた。
「いやいや、そんな事ないよ、むしろお礼をしたいくらいだよ。俺こそごめんね、いきなり会ったばかりなのに迷惑かけて!」
「いやいやいや!そ、そんな、全然!むしろ大歓迎だって!」
(うう~っ!男の子が私の後ろに乗ってる…。し、幸せだけど、もっとおしゃれとかしっかりしておけばよかったよ~!)
早香さんはとても優しい人のようだ。
朝から見ている感じだと、活発のスポーツ女子で、ずぼらなところもあるけど、女の子らしい一面を兼ね備えた子に見える。←俺の観察眼はすごい
…現に顔を赤らめて、可愛らしく悶えているところが女の子らしい。
「…あ、あのさ、修史くん。け、今朝の私とお母さんの会話、聞こえちゃったよね?」
風を感じながら坂道を下っているとき、早香さんがそんな事を言って来たので、思いだし笑いをしてしまった。
「はははっ!ごめんごめん。わざとじゃないから許してよ」
「や、やっぱり聞こえてたんだ。ううっ~恥ずかしい」
(うう~、ずぼらな一面は知られたく無かったよぉ~!…でも、寝坊したおかげで修史くんに出会えて良かったぁ!)
早香さんとは出会ったばかりだったが、思いの外会話が弾み、学校に着く頃にはそこそこ仲が深まった気がしていた。
この世界での初めての友達だ!しかも女の子!
やったね!!
二人乗りは見つかったらまずいので、校門に着く前に自転車から下ろして貰い、二人並んで歩いた。
スマホのナビが終了したと同時に見えた学校は、かなり綺麗で大きく、高校というよりは大学のような規模に思えた。
「あ、案内するね!修史くん!」
「ありがと!早香さん!」
取り敢えず、下駄箱と職員室を教えてもらい早香さんにお礼を言って別れた。
学校に着いた瞬間から、他の女の子たちにガン見されてヒソヒソ話をされて少し恐縮してしまった。
黄色い歓声もあったのでそれには少しニヤけてしまった。
一 コンコンコンッ ー
「失礼します!編入してきた松本ですが…」
「あ!待ってましたよ、松本君ですね!ここまで来て下さい!」
電話で聞いたのと同じ声がする。
俺を呼んだのは、腰まで伸びた黒髪がきれいで、タレ目で泣きホクロのある胸の大きいセクシーな女性だった。
落ち着いた美人という印象だ。
大人の女性という雰囲気もあるが、接しやすそうな人だ。
三組の担任で、佐藤恭子という先生らしい。
「修史くんは気を付けないといけない事が多いので、しっかりと聞いてくださいね!」
「…?は、はい。分かりました」
必要な書類の確認だったり、注意事項や大まかな説明など、沢山の情報を短時間でテキパキと先生は伝えてくれた。
「松本君は男の子なんですから、女の子には特に注意してくださいね!…何かあったらすぐに先生に相談してくださいね」
「は、はい…?」
特に女の子に注意してとは言われたものの…正直よく意味が分からなかった。
何に注意するんだろう?
セクハラとかなら大歓迎なのだが…。
ー キーンコーンカーンコーン ー
「あ、チャイムがなりましたね。それでは、いよいよですね、松本君。緊張してもいいからしっかりと自己紹介をお願いね!」
「はい、分かりました。頑張ります!」
先生に付いていき階段を上り、三階にある一年生の教室へと向かう。
階段を登ってすぐにある一組と二組の教室前を通りすぎ、三組の教室の扉の前で待機する。
扉に付いているガラスからチラッと中の様子を見てみる。
「皆さんおはようございます。号令係、挨拶をお願いします」
「起立!礼!」
「「おはようございます!」」
おおー!懐かしい、高校生っぽい。
まあ、今は高校生なんだけどね。
心が大人ではあるが、大勢の前で自己紹介することを考えると緊張する。
まあ、会社でのプレゼンの重圧に比べたら対したことないけどね。
「はーい、皆さん聞いて下さい。なんとですね!今日はいきなりですが、転校生を紹介します。…皆さん、仲良く出来ますね」
「「はいっ!もちろんです!」」
「「どんな子かなぁ!楽しみだね!」」
「「ヒューヒュー!」」
思いの外、教室内が騒がしくなって、なにやら歓迎ムードだ。
どのタイミングで入るのかな?
「なお、皆さんには内緒にしていましたが、転校生は…実は…なんと!!…男の子です!!」
「「……っ!!?」」
先生の言葉に息を飲む生徒達。
「なので、皆さんは絶っっ対に!迷惑はかけないようにしてくださいね。」
急に静かになる教室の様子に俺が不安になる中、一人の女生徒が発言が聞こえてきた。
「またまた先生!嘘でしょ、男の子なんて。そんなおいしい展開、アニメじゃないんだから!」
「「そーだそーだ、私は騙されないぞ!」」
「もー、先生ったら冗談言ってビックリさせないでよー!」
冗談だと思った子が多いらしく、ホッとしたような雰囲気が教室に流れているのが分かる。
そんな中、先生は俺を呼んだ。
「そうね、見てもらわないと分かりませんよね。それでは、松本君入って来て下さい」
先生の声に反応して俺は覚悟を決める。
俺は深呼吸をして扉をあけてゆっくり歩き、教壇の真ん中にいる先生の隣へ移動する。
「……はっ!!?」
皆、俺を見た瞬間の驚いた顔をしたまま固まっている。
リアクションが面白くてちょっと笑ってしまった。
この世界は男性が少ないから、転校生が男の子の確率は勿論低い。
だからクラスメートは先生の言葉を信じていなくて、意表を突かれたんだね。
教室を見渡しひとりひとり見ていく。
うーむ、レベルが高すぎる。美少女揃いだ。
男子がいてもいいと思ったが、見渡す限りこのクラスには一人もいないみたいだ。…ふふっ、ハーレムだな!
それぞれタイプの違う可愛い子が勢揃いだし。
俺が分身出来たら全員に告白していただろう。
「松本君、自己紹介をお願いね」
「はい、先生」
可愛い女の子達のクラスメイトになれることに喜びを感じつつ、黒板に松本修史と名前を書き、自己紹介をする。
「皆さん、初めまして!松本修史と言います。転校してきたばかりで分からないことが沢山あるので、教えていただけると嬉しいです。皆さん、よろしくお願いします!」
一礼して前を向く。
「「…はっ!よ、よろしくねっ!!」」
「「…よ、よろしくね!松本君!」」
((ほ、本当に男の子だぁ!しかも超かっこいいし、優しそう!はぅぅっ!))
クラスメイトが笑顔で迎えてくれたので嬉しかった。
いいクラスみたいだ。
((私が最初にお友達に!他の女子は引っ込んでなさい!))
一 バチバチッ!
…うん?一瞬、女の子の間で火花を散らしている姿が見えた気がした。
「それじゃあ、席はー。あっ!ごめんね、松本君。先生うっかりしてて机を用意するの忘れていたわ。今持ってくるから、その間に席は何処がいいか決めといてね!」
そう言って先生は、教室から出ていった。
ちょっ!待って先生、一人にしないで!
この状況で先生いなくなるのは心細いって!
いくら心が大人でもハードル高いってぇ!
「はははっ。えっと…どうしよう?」
…取り敢えず、クラスの皆を困った顔で見渡した。
「私の隣に「いやいや!私の隣に「ぜひ、私の」」」
((何がなんでも松本君と隣同士に!他の女子に負けない為に!))
困っていたら、皆が隣へどうぞと誘ってくれたので、嬉しかった。
「あなたどきなさいよ!」と隣の人をどかそうとするのはやめてほしい。
ちょっと、揉めてるから申し訳なかった。
…うーん、どうしよう?
こんなに言われると座りづらい…。
取り敢えず辺りを見渡す。
……ん?…ああっ!き、君は!
そんな中、後ろの席で突っ伏していた女の子が顔を上げた。
アホ毛も揃ってピョコピョコ立つ。
「んぅぅー!?…何?…この騒ぎはー?」
俺はその子と目が会った。
彼女は、そう。
今朝、色々とお世話になった早香さんだった。
月島早香「つきしま はるか」
活発な陸上部の女子
恋愛に関してはかなり乙女
実はムッツリスケベ




