愛奈を手放さなかったらしい
「修史、寝たか?」
愛奈はベットに上がり四つん這いになって、修史の顔の前で手を降った。
薄目が開いているように見えたが、修史はしっかり寝ていた。
気持ち良さそうな寝息が聞こえる。
「…さて、帰るからな。」
役目を終えたので愛奈は帰ろうとベットから降りようとした。
その時だった。
ガシッ
「ん?」
いきなり腕を捕まれたので確認すると、修史の手だった。
(まったく、ビックリしたじゃねーか。…起きないようにそっと外そう。)
グイッ
(えっ?)
修史の手を外そうとした時、急にその手に力が入り愛奈は修史の横に引き寄せられた。
そしてそのまま修史の横に倒れ込んだ。
「ちょっ!修史!」
「うーんムニャムニャ。ダメだよ、隣で寝てないと…。」
「お、おい、起きてんだろ!」
修史はいつも妹である芽亜を抱き締めて寝ていた。
それが日課だったのだ。
なので、体が誰かを抱き締めていないことに違和感を感じ温もりを求めたのだ。
グルンッ
「えっ!?」
修史は寝相で、隣に倒れ込んだ愛奈を抱きしめた。
抱き締めたというよりは巻き付いた。
キチンと布団の中に愛奈を入れながら引き寄せ、愛奈に腕枕をさせる形で巻き付くその技は、修史にしか出来ないであろう早技だった。
「ちょっ!寝惚けてんのか!は、放せ~!」
「うーん…。」 スリスリ
「スリスリするな~!」
修史は愛奈の頬っぺたに自分の頬っぺを当ててスリスリしていた。
何とも幸せそうなその顔を見て、愛奈は止めろと言いながらも照れていた。
少し抵抗しようとしたが、がっちり巻き付いて離れないので愛奈は諦めた。
(まったく、しょうがないやつだな。離れるまで大人しくしてやるか。…まったく、幸せそうな顔しやがって。)
自然と全然嫌な気持ちはせず、むしろ嬉しく感じた愛奈はそのまま大人しくすることにした。
しばらく時間が経過して修史の手が緩み抜け出せるようになった。
しかし、愛奈は抜け出そうとしなかった。
(…なんだろ?修史といると安心するというか、嬉しいというか。…なんなんだ?…いや、も、もう少しだけ側にいてやってもいいぞ。…決して離れたくないわけじゃねーからな!)
修史の匂い、修史の感触、修史の温もりがあまりにも心地よすぎて愛奈は離れたくなくなっていた。
側にいてやるよという修史を気づかっていた感情が、修史の側にいたいという願望に変わっていた。
(もう少しだけ…もう少しだけだ!…後少しだけ…。)
そう思いながら修史に寄り添い横になっていると、いつの間にか愛奈も眠りについていた。
ー 少し時間を遡り、高校では…。
「修史のお見舞いに行こう!」
「「おー!」」
放課後になり早香は天音と雫に呼び掛けた。
二人とも賛同し、修史のお見舞いに行くことに決めた。
「わ、わたくしもご一緒してもよろしいですか!?」
早香の声を聞いていた理沙は、慌てて三人の元にかけより自分も行きたい旨を伝えた。
「勿論いいよ!それじゃ四人でレッツゴー!」
「「「おー!(ですわ)」」」
四人は一致団結して修史の様子を見に向かうことにした。
しかし、修史の家の住所は四人とも知らなかったので、佐藤先生から聞き出すことにした。
「ダメです!修史くんの住所だけは教えられません!」
「私は修史の恋人です!だから大丈夫です!」
「私も修史の恋人。何の問題もない!」
「えっ!?そ、そうだったんですか。驚きです。もしかしてと思ってはいましたが…。良いでしょう!それなら教えても大丈夫ですね。」
「「やったー!」」
「教えますけど、絶対に広めてはいけませんからね!」
口外しないことを約束に佐藤先生に住所を教えて貰った四人は、急いで向かった。
約一名、「修史様に恋人がいたなんて…。しかもふたりも。知りませんでしたわ!…でも二人いるなら一人増えても…。」と、なりやら考えを巡らせていたが。
ー しばらくして四人は修史の家の前に着いた。
「大きなお家ですわー。」
「ああ。これが修史様のお家ですか!」
「す、すごいな修史。お金持ちだったんだね。」
「…!驚いた。」
四人は修史の家に驚いたが、それ以上にこれから修史の部屋に入るかもと考えるだけでドキドキしていた。
「そ、それじゃあ、インターホン押すね!」
早香が緊張しつつインターホンを押した。
ピンポーンと音が鳴り響いたのは分かったが、待っても誰かが出てくる様子は無かった。
「どうしよう、反応なんにもないけど。」
「寝てるのかも。」
「メッセージ送りましたけど、既読すらつきませんわ。」
「困りましたね。勝手に入るわけにも…。」
四人は困っていた。
しかし、その時一人の少女が四人に声をかけた。
「あの~。なにか家にご用でしょうか?」
そう、修史の妹、芽亜だ。
「えっ!?あっ、修史のお見舞いに来たんだけど…。妹さん?」
「はい、妹の芽亜です。」
「あ、修史の友達の早香と天音と雫と理沙です。」
「ご丁寧にどうも。」
(芽亜ちゃんすっごく可愛い!やっぱり修史に似てる!)
(…可愛い。修史がベタ惚れしてるわけだ。)
(まあ!修史さんの妹さんに会えるなんて嬉しいわ。)
(修史様の妹さん!?これは是非とも仲良くなりたいですわ!)
四人は修史に妹がいることは知っていたが、会うのは初めてだったので多少緊張していた。
「「「「よろしくね、芽亜ちゃん。」」」」
「はい、皆さんよろしくです。せっかく来ていただいたんですし、どうぞお上がりください。」
「「「「お邪魔します!」」」」
(ぐぬぬ!お兄ちゃんったらこんな美人さん達を毎日相手に…。まあ、お兄ちゃんかっこいいから当たり前か…。お、お兄ちゃんの一番は芽亜なんだからね!)
芽亜は四人に対して若干嫉妬していた。
そして対抗心を燃やしていた。
だが、せっかく兄のお見舞いに来てくれたので、修史の部屋へと案内した。
「お兄ちゃん、ただいまー。」
「「「「お邪魔します(わ)!」」」」
芽亜がただいまと言っても返事がなかった。
「あれ?知らない靴がある。…誰のだろ?」
「…この靴って…。愛奈さんのかも。あっ、愛奈さんっていうのは修史さんと私といつも登校してるお友達の方です。」
芽亜が知らない靴に気づいた。
雫が見事に持ち主を当てた。
「ということはお兄ちゃんは今、その愛奈って人と二人きり?…お兄ちゃんまさか!?」
芽亜は愛奈とは修史がいけない行為をしているのではないかと心配になり、慌てて修史の部屋へと向かった。
「「「「芽亜ちゃん!?」」」」
修史の家をキョロキョロと見渡していた四人も、慌てて芽亜に着いていった。
「お兄ちゃん!?」
バンッ!とドアを開けて修史の部屋に入ると、そこには愛奈を抱き締めて気持ち良さそうに寝ている修史の姿があった。
芽亜は呆然と立ち尽くした。
「あ、修史…ってええっ!?」
「…修史…どういうこと?」
「修史さん、何してるんですか!?」
「修史様!?」
四人もその光景を見て驚きに目を見開いた。
「うーんムニャムニャ…。スゥスゥ。」
そんな状況にも関わらず、修史と愛奈はぐっすりと眠っていた。




