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三森家の過去の話らしい

三森家の過去のお話です

「お父さん大好き!」

「はははっ!天音ありがとな。でも、将来はいい旦那さん見つけるんだぞ!」

「嫌だ!お父さんと結婚するもん!」

「そ、そうかそうか。よし、ならば嫁には絶対に出さん!」

「ちょっと、あなた何言ってるの!天音、将来はお父さんのような素敵な人を見つけるのよ!」

「…やだ!」


そこには、ごく普通の…いや、この世界では珍しい男性の伴侶が一人と言う家庭があった。

家族の中はとても良く幸せな日々を送っていた。


「おぎゃー、おぎゃー!」

「元気な女の子ですよ!」

「おっ…おお!良く頑張ったな。…ありがとう」

「…はぁはぁっ。あなたが…側に居てくれたから、頑張れ…はぁはぁ…たのよ」


そんな一家にまた一人子どもが増えた。


「おねーたん、遊んでー!」

「んっ!いいよ!何して遊ぶ楓?」

「んーとね、わかんない!」

「ははっ!楓、それじゃあお姉ちゃんが困ってしまうぞ!おままごととか…ほら…うーんと…他に何かあったっけ?」

「あなた、他にも沢山あるでしょ!」


天音と楓も仲が良く、頼れるお姉ちゃんに育ってくれた天音を二人は微笑ましく見守っていた。


「この分ならもう一人増えても大丈夫そうだな!よし、今夜はうなぎでも食べようかな!」

「も、もう、貴方ったら!」

「私もうなぎ食べたーい!」

「楓もー!」

「よし!父さんに任せとけ!」

「「わーい!」」


この日をきっかけにまた新しい命ができた。


「日和、積み木を噛んじゃだめ!」

「…やっ!」

「楓も走り回らないで!積み木が散らかってるから!」

「え~!」

「ははっ!天音はいいお姉ちゃんに育ってくれたみたいだな。…こうしてみると子供の成長は早いなぁ。…ぐすん」

「あ、あなた、何で泣いてるのよ!そんなんじゃ、三人がお嫁に行った時に困るわよ!」

「嫁になど出さん!俺と結婚させる!」

「…もう、あなたったら。あなたのお嫁さんは私一人で充分よ!」

「はははっ!それもそうだな!」


家族五人がみんな笑顔で過ごす、最高に幸せな日々を送っていた。


「…んっ…ゲホッゲホッ!…んー」

「あら?あなた大丈夫?」

「お、おう!多分大丈夫だ!ちょっとむせただけだよ」

「そ、そう?それならいいけど…」


(あれ?何だか肺が痛いような?咳も出るし。風邪でもひいてるのかな?…まあ、そのうち治るだろう)


この時から少しずつ天音の父親は異変を感じでいたが、特に気には止めなかった。

実際、異変を感じたのはさっきのあの瞬間だけで、その後しばらくは咳をすることは無かったのだ。

その為、一瞬の異変など…すぐに忘れてしまった。


…これが彼の人生最大の取り返しのつかない失敗になることなど、このときの彼は全く考えてはいなかった。



月日が流れ、天音も中学生になっていた。

この頃、天音は父親がよく咳をする事に気付き、声をかけていたのだが、市販の薬を飲むと咳が収まっていたので、「風邪かな?」くらいにしか思っていなかった。


しかし、そんなある日。

天音の父親は胸に突然耐えきれないような痛みを感じたのか、胸を押さえ「ううっ」と呻き声を上げながら膝をつき、前のめりに倒れこんだ。

…病気は着々と侵攻していたのだ。


「ゴホッ、ゲホッ。うっ…痛い…」

「あ、あなた大丈夫!?しっかりして!天音、二人を見てて!お母さん病院に行ってくるから!」

「えっ!?う、うん分かった」


旦那の異変に危機感を感じた天音の母親は、直ぐに車で病院へと向かった。

倒れる父親を見てどうしたらいいのか分からなかった天音は、母親に言われた通りに二人の面倒を見ることにした。


(お父さん、大丈夫かな?…すごく心配だよ…)


「お姉ちゃん、おとーさんどうかしたの?」

「ううん、何でもないよ。咳が酷いから病院行っただけだって!お母さん達帰ってくるまで、遊んで待ってようか!」

「うん!分かった!」

「ひよりも遊ぶ~!」


父親が倒れるところを見ていなかった楓と日和の二人は、両親が慌ただしく車に乗る姿を見て、不思議そうな顔をしていた。

涙目になりそうなのを耐えつつ、そんな二人に優しく天音は「大丈夫」と声をかけていた。


父親の心配をしながらも、天音は母親に言われた通りに妹と遊んで帰りを待っていた。

…何もなければいいなと思っていた天音だったが、運命か必然か、現実は残酷だと後で知ることとなる。



夜遅くなり、天音は母親に電話を入れたが繋がらず、心配になりながらも二人の妹を早めに寝させることにした。


(大丈夫かな?…帰ってこないってことは何かあったんだよね?…こんなことはじめてだから心配だよ)


天音は可愛い妹二人の寝顔を見ながら、不安を胸にしていた。

深夜に両親が帰ってくる可能性もあると思い、眠気と戦いながら夜を過ごしていた。



結局、夜が開けても両親は帰ってこなかった。

天音は母親の変わりに朝食を作り、洗濯をしたり日和を保育園へと送ったりした。

そして父親が心配ながらもいつも通りに学校へと行った。



「ただいまー。お母さーん!お父さーん!帰って来てる?」

「「ただいまー」」


帰り道に日和と楓を迎えに行き、家に帰って来た天音だったが家にはまだ両親二人の姿は無かった。

心配になりいつも行く病院に電話をかけたところ、両親がいると分かり看護師に病院に来るように言われた。

看護師さんの声が焦っているように聞こえ、天音は不安を感じた。


「楓、日和、お姉ちゃんご飯作ったらお父さん達の様子を見に行ってくるから、お留守番してて。…出来るよね!」

「うん、分かった!」

「ひよりもできるもん!」

「よしっ!偉い偉い!頼んだよ!」


夕食を作り、妹二人を留守番させることに不安を抱きつつも、天音は病院へと向かった。


病院に着くと直ぐに、看護師さんが両親のいる病室まで案内してくれた。


「お父さん、お母さん、いる?」


病室を開けて天音は目を疑った。

いつも元気で笑顔の格好いいお父さんは、色々な管が体についていてベットにぐったりと横になっていたのだ。


「あなた、しっかりしてよ…。あなたがいないと私は…」


その傍らで父親に語りかけるように泣きながら話している母親の姿はあった。


「お母さん!?お父さんどうしたの?」


天音が大きな声を出すと母親は天音の存在に気がついた。


「…天音…。…お父さん…は…もう…。…いや、大丈夫よ。私が付きっきりでお父さんを看病するから天音は二人の面倒見てて。…当分帰らない…かも。…今日は夜遅いから帰りなさい!」

「えっ!?う、うん、分かった…よ」


母親に帰るように言われたので、天音は色々思うことがありながらも大人しく帰る事にした。

この時は何が何だか分からなかった天音だが、帰り際にすれ違った看護師に質問したところ、現状を知る事が出来た。


しかしそれは、中学生一年生が受け入れられるような現実では無かった。



「おねーちゃん、今日もおとーさん達帰ってこないの?」

「うん、忙しいみたい。でも、お姉ちゃんがいるからね!」

「…おとーさんに会いたい…」

「…もうすぐだから大丈夫だよ!…ほら、お姉ちゃんと遊ぼっか!」


天音が病院で現状を知ってから月日はどんどん流れていった。

気持ちの整理などつくはずも無かったが、両親の変わりに妹二人を支えるために毎日努力した。

妹達が不安にならないように、妹第一で頑張って過ごしていた。


しかし、そんなある日の休日、病院から電話がかかってきた。

急いで着てほしいとの事だったので、嫌な予感を感じつつも、天音は妹をつれて病院へと急いだ。


病院に到着し、急いで病室に向かい中に入った。

そこには数名の医師と泣き崩れる母親の姿があった。


天音達に気付いた医者が、静かな声で話しかける。


「…お父さんは頑張ったんだよ。…みんなごめん、愛してるって言ってたよ。…本当にいいお父さんなんだね」


医師はそう言うと、病室を去っていった。

天音の父親は天へと旅立ったのだ。


天音は父親が亡くなった事が分かったが、受け止め切れず、起きることのない父親の手を握りながらひたすら「お父さん!」と呼び続けた。

しかし、返事など来るはずもなく、その現実に天音は声を荒げて泣いた。


楓、日和は何が起こっているのか分からず、不安そうな顔でキョロキョロとしていた。

二人が現実を知り、受け止めるにはまだ幼すぎたのだ。


次話はけっこう鬱な話です。

その分、後では楽しい展開になるはず!

次に投稿するときは2話投稿するので、続けて読んでほしいです。


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