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言葉に…出来ない…味だったらしい

雫さんの料理は意外と大丈夫でした。

でも…早香のは…。

突然だが、皆さんは辛いものは好きだろうか?


俺は人並みである。

ごく平均的な人間である。

ん?何が言いたいかって?


…口の中が焼けるように痛いのは、生まれて初めてで味わった事が無いって…言いた…かっ…た。


「修史どう?お、美味しかった…かな?」←可愛く聞いてくる

「…う、うん凄く美味しかったよ。ピリ辛で」

「卵焼きで辛いって…」


止めろ、天音。

それ以上言うな。

キラキラ嬉しそうにしている早香に感づかれる訳にはいかんのだよ。


「何が入ってるのか分からなかったから教えてほしいな。どんな工夫をしたらこうなっ…こんなに美味しくなったの?」


早香は辛いのが好き、または味オンチのようだ。

尋常じゃない辛さのため、一応、原材料を聞いてみる。


「えっとね、雫が好きな物を入れたら美味しくなるって言ってたからね、辛いもの中心に入れたかな?」


…元凶が分かった。

俺は無言で雫さんを見つめる。


…?

雫さんはキョトンとした顔で俺を見た。


可愛い。じゃなくて!

…俺の意思は伝わらなかったようだ。


「その辛いものって言うのは何かな?」


辛いのは感じてるから知りたいのはその内容だ。


「えっ…。ご、ごめんね、忘れちゃった。てへっ!」


頭にコツンと手をやる仕草は百点満点の可愛いさだが、今の俺に対して可愛さ攻撃など無意味なのだよ。

この激痛をポーカーフェイスで抑えてる俺の身になってほしい。


早香は材料を覚えていないっぽいので天音に視線で訴える。


(天音、早香は何を入れた!?)

(ごめん、途中から見てない。…諦めた)

(おおい!止めてくれよ!)

(ごめんね。楽しそうに作る、早香の純粋な笑顔の邪魔が出来なかった)


その時の天音さんの諦めた顔が容易に脳内に浮かんだ。

…犠牲者は俺だけでいいよ、もう。


(それじゃ、途中まで入れてたの教えて!)

(うーん、詳しい名前は分かんないんだけどドクロマークの絵のかいてあった調味料?デス?…キャロライナ?…ザ・ソース?あまり見たことない調味料だったから忘れちゃったかも)

(………はははっ)


だいたい分かったよ。

ネットで検索したら出てくるだろう。

家に帰って危険性無いか調べてやる。


「私、辛いもの好きなんだけど、修史も好きなんだね!良かった!同じだね、えへへっ!」


早香は俺が辛いもの好きだと勘違いして喜んでいた。


そんな喜ぶ早香を見て「よかったですね!」と、手を合わせて自分の事のように嬉しそうに見ている雫さん。

そんな彼女を俺はジト目で見つめた。


「そんなに辛いものは頻繁には食べないけど、一般的・・・な辛さなら好きだからね!」


一般的という言葉を強調しておいた。

俺は鞄からお茶を取り出して浴びるように飲んだ。

そして急いでお弁当の残りを掻き込んで食べた。


「ご馳走さま。凄く美味しかったよ!三人ともありがとね!」


全員お弁当を食べ終えた。

俺は今、全身からあふれでる汗をハンカチで拭いながら、暑さに耐えている。

本当に愛の力で食べきった(地獄の卵焼き)俺を誉めてあげたい。


「よかったぁ!上手く出来て!ご馳走さま!」

「…んっ。ご馳走さま」

「お粗末様でした!」


それぞれ満足そうにしていた。

そんな中、唯一天音だけが若干申し訳なさそうにしていた。


「それじゃあ、お弁当も食べたし片付けてして雑談でも…」

「あ、私デザートも作ってきたんだ!修史食べて!」

「それじゃあ、お弁当も食べたし片付け…」

「デザートあるよ!修史!」

「……」


キキマチガイジャナカッタ。

ああ、すっごくいい笑顔をした早香が俺を見ている。


……。

待て!ポジティブに考えるんだ。

諦めるのはまだ早い。


早香は確か、母親の料理を手伝っていると聞いたことがある。

卵焼きは誰かさんの変な入れ知恵で難易度壊滅級だったが、デザートならせいぜい甘くなりすぎるだけだろう。

それならなんとかいける!

そうだと信じてる。


「そ、そうなんだ!嬉しいよ早香。早速頂こうかな!」

「うん!今開けるね」


早香は真っ白なタッパーを取り出して蓋を開けた。

箱の中身はなんだろな?


「はい、特製ゼリーだよ!」

「……」


なんということでしょう。

そこには、黒より黒く闇より暗き漆黒に染まったゼリーがあるではありませんか!

…信じて何度裏切られたっ!


「味見する時間が無かったから美味しいか分からないけど、頑張って作ったんだ!」


だからそんな無垢で純粋な笑顔を向けられましても(涙)。

俺は天音に助けを求める。

(/ω・\)チラッ (¬¬;)スッ  


…ダメだった。

完全に目をそらした。


「い、頂きます!」


俺は男だ!

彼女の料理なんて美味しいに決まってる!

そう思って掻き込んだ。

……………。


「ご、ご馳走さま。美味しかったよ…」

「や、やったー!良かった!」


俺は本当に耐えた。

俺は今日のこの味を忘れることは出来ないだろう。

脳が胃が味覚がショートしそうになるくらいに美味しく無かったこの味を。

吐き出そうにも生きているかのように勝手に喉の奥に入っていくようなこの感触を。


(早香には徹底的に料理を教えてやる!絶対にだ!)


目から血の涙が出そうなくらい強い思いで決心した。


余談ではあるが、歯を磨いても消えなかったこの全身の不快感を消すために、お礼と称して早香と天音とこの後メチャクチャキスをした。

二人とも照れていたので可愛かったし、不快感など一瞬で消し飛んだ。



ー 放課後 ー


「ありがとね!修史くん!」


やると決めていた女子の手触り放題の握手会。

その最後尾に並んでいた、雫さんの対応を終えた後、家に帰る事にした。

手って一人一人感触結構違うんだね。ぐへへっ。


早香は部活で天音さんはバイトある。

天音さんの家に行って楓ちゃんたちと遊ぶのもいいのだが。


さて、どうしよう?

ちょうどそう考えている時、携帯が鳴った。


『ー 赤く燃える その眼差しに 熱く響く 命の鼓動』


おっと。

元の世界で俺の嫁だったアニメキャラのティナちゃんを思い出しながら、携帯の画面をスライドさせて電話に出る。

電話をかけてきたのは母さんだった。


「もしもしー。母さん?どうしたの?」

「あっ、もしもし、修ちゃん?ど、どう?元気!?高校は楽しい?困ったことない?大丈夫!?」

「あ、うん特に無いけどどうしたの?」

「あ、実はね!こないだ修ちゃんが言ってくれたお願い事、こっちで全部終わったのよ!」


おっと、嬉しい知らせが来た。

母さんには天音の過去を調べて欲しい、一軒家(賃貸)と割りのいいバイト先(天音の)を用意して欲しいと頼んでおいたのだ!


「長くなるけど…今は大丈夫?」

「うーん、まだ学校だから取り敢えず家に帰ってからにするよ。また、かけ直すね」

「分かったわ、修ちゃん。着いたら電話お願いね!」

「了解っ!ありがとね母さん。大好き!じゃあね」

「アッ!」


俺は電話を切ってそそくさと家に帰った。

電話を切る瞬間に聞こえた変な声についてはノーコメントだ。


電車を乗り降りして歩いて少しして家に着いた。


「ただいまー!」

「お帰りなさいお兄ちゃん!」


家に入るやいなや、パタパタと走って玄関に芽亜てんしが来て出迎えてくれた。

エプロン姿の天使めあは超可愛い。


「お兄ちゃん、お風呂にする?ご飯にする?それとも…芽…亜?」

「芽亜にするー!」


即決で芽亜をお姫様抱っこでソファーまで運び、膝の上に乗せてイチャイチャした。

うりうり〜!学校楽しかったか?芽亜〜!うりうり〜!


数分後、蕩けきった顔をした芽亜をそっとソファーに横にして、母親に電話をかけた。


「もしもし母さん?家ついたよー。それじゃ、まずは家のお話からお願い!」

「分かったわ、修ちゃん!まずね…。」


家とバイト先の話はすんなり終わった。


天音を住まわせる予定の家は、駅の近くにあり、家賃は光熱費もろとも込みで二万円でいいよ!というふざけた価格設定の家だ。

もちろん、曰く付きなどでは無い。


バイトはパン屋さんのレジ打ちで時給五千円プラスボーナス毎月ありという、またまた破格のバイトだ。

更に余ったパンの持ち帰りオッケーだそうだ。

更に更に!なんと!男性の従業員もいないなしい。


…べ、別にそこは気になってなんかないんだからね!←実は心配だった


さて、母さんは何をしたらそこまで出来るのだろう?

まあ、深くは聞かないけどね。


「ありがとう、最高だよ!母さん。さて、それじゃあ天音の過去の事を教えてくれないかな!」

「…うふふっ、分かったわ。…それじゃあ修ちゃん。ちょっと辛い話になっちゃうけど説明するわね」

「うん、頼むよ」


俺はいよいよ、天音の過去を知ることになった。

次話は少し暗い内容です。

その分、幸せを…。


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