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天音さんの表情に何か感じたらしい

ー ガタンゴトン


楽しかった休みが終わり、いつも通り電車で登校している。


ん?あれは……。

ふと、座ってる愛奈を発見したので、混む電車の中移動して愛奈の方へと向かう。

愛奈はすぐに俺に気付くと、腕をピンと伸ばして手を振ってきた。

無邪気な感じがとても可愛らしい。


「おはよっ!修史!」

「おはよう、愛奈。今日も元気そうだね!」

「おう!なんだか最近、休日になると元気になれないけど、今日は元気だぜ!」


にししっと笑う愛奈を見ながら、他愛もない会話をする。

愛奈は休日よりも登校日の方が好きなのだろうか?

俺は前の世界で休日なんてほぼなかったから、今は休日のありがたみが強くて、休日の方が断然好きだけどね。

まあ、可愛い女の子達に会えないのは辛いけど。


「おはよう、修史くんと愛奈さん」

「おはよう、雫さん」

「おは!」


愛奈と話していると雫さんが話しかけてきた。

今日も混んでる電車で雫さんも俺を発見して、何とか来てくれたみたいだ。

そんなに俺に会いたいか……なんてね。


愛奈と雫さんはお互いに電車や体育で授業などで面識があるらしく、その女…誰?というアニメならでわの展開にはならなかった。

まあ、体育の授業で少し愛奈と雫さんが会話をしてたの見たから知ってたけどね。


可愛い女の子二人に挟まれて会話をするのは、なんともいい気分だ。

まあ、電車の中だからマナー的に会話は控えるけどね。


「あれ?修史、首のところ大丈夫か?沢山、虫に刺されてるみたいだけど」

「あ、ほんとだね。修史くん、痒くない?」


ちっこい愛奈が俺の首を見て、そう言った。

雫さんも少しかがんで俺の首を見て、痒くないか心配してくれた。

だが、痒くもないし虫に刺された記憶もないので、俺自身少し驚いた。


「痒くないから大丈夫だよ。あれ?いつの間に刺されたのかな?」


そう言って俺は、鞄から手鏡を取りだし、自分で確認してみた。

すると、愛奈達の言った通り虫さされのような赤いポツポツが……って、これキスマークじゃねぇか!

妹か?それとも早香か?

キスするなら首はバレるから止めてくれよぉ(切実)


「どうかしたの?急に顔色変わったけど?」

「大丈夫!大丈夫だよ!薬買って塗っておけば虫さされなんてすぐに治るよね!虫さされなんて!」

「う、うん、そうだよ?この時期はしょうがないけどね!」


虫さされと言うことをアピールしたので、キスマークだとバレてはいないだろう。

少し心臓に悪い朝の出来事だった。




愛奈と別れ、雫さんと一緒に教室に入った。

席に座り、今日も貰ったラブレターの開封の儀を密かに行う。

たまに呼び出されて告白されるケースもあるが、全て返事は「お友達から始めよう」ということにしてある。


お互いをよく知ってから付き合いたいしね。

そう考えると早香とも、もう少し仲良くなってからが良かったかもしれないけど。

……まあ、幸せだからいっか!


ラブレターをくれる女の子達は友達から始めようって言ってるのに、何だか全然話しかけてくれないんだよね。

いつものメンバーに俺が囲まれてるからかな?

一人の時間を作……るのは難しいから、隙を見つけて友達になりたい。


今のところ、この世界の女の子でとても特別なのは早香だ。

それに天音さんも俺にとっては特別だ。

プールでの出来事が大きかったのかもしれない。

二人とも側にいて欲しいって思うから、もっと仲良くなれるように頑張りたい。


ラブレターをこそこそと読みつつ、雫さんと話したり、クラスの女の子何人かに話しかけられたりしていると、天音さんと早香が珍しく一緒に登校してきた。

いつもは早香の方が遅いのに、今日はやけに早く登校してきた。

珍しいものだ。


教室のドアを開け、入ってきた早香は俺と目が合った瞬間、満面の笑みを浮かべて駆け足で近付いてきた。

家に帰ってドアを開けた瞬間に駆け寄ってくる妹に少し似ていた。


「おはよっ!修史くん!」

「おはよ!早香」


ただの挨拶だが、早香はとてもデレデレっとしていた。

そんな早香の表情を見て、天音さんは何か感づいたらしく、俺に近付いて来た。

天音さんは俺に近付くと内緒話をするように耳元で話しかけてきた。


「……おめでと!早香をこれからも大切にしてあげてね!」


(……やっぱり天音さんにはすぐにバレたか。凄いな天音さんは。人の表情を読み取る能力が高すぎる。)


感の鋭さに驚きながらも、天音さんの耳元で「勿論だよ!」と答えておいた。

これから天音さんに隠し事は通じないと思った。

表情を読み取る強さや人の変化に敏感だからね。


まあ、早香が分かりやすいっていうのもあるかもしれないが……。

天音さんは俺の答えに満足したようで目を細めて微笑んだ。


(何だかいいなぁ。天音さんは。)


少しドキッとした。

天音さんに言われた通り、大好きな早香をこれからも大切にしようと改めて思った。


「何コソコソ二人で話してるの?」

「「なんでもないよ」」


俺と天音さんの距離が近かったからか、早香が少しやきもちを焼いたみたいでぐいっと来た。

そんな早香を見て、俺と天音さんは揃って少し笑ってしまった。



それからはいつもと変わらない時間があっという間に過ぎていった。

勉強も休み時間もお昼の会話タイムも直ぐに終わった気がした。

この世界での格段に楽しい時間は、前の世界のことを忘れさせてくれるくらいに、楽しくて有意義な時間だった。



放課後になり、クラスの皆や早香が部活に行く中、今日は珍しく天音さんが教室に残っていた。

俺は雫さんとすぐに帰ろうか、他の部活を見に行こうか迷っていたが、今日は天音さんとの放課後の時間を楽しみたいと思った。


「天音さん、珍しいね、放課後に教室に残っているなんて。今日はバイト休みなの?」

「まあ、そういうことだね。店長が急用が出来たから、今日はお店を開かないってことになったの。……休みなんて……」


何か最後の方でボソッと呟いたように思たが、聞こえなかった。

休みになったと言うのに、喜ぶどころかむしろ残念そうな表情をしていた。

俺なら休みになった瞬間にひゃっはー!ふなっ○ーなっしーって叫ぶくらい喜ぶのに……。

あっ、次の日の仕事が増えるからかな?

それなら納得だ。


「そういうことなんだね。天音さんは飲食店でバイトしてるの?」

「……うん、まあそれがメインかな。後は時給の高い短期のバイト見つけたらやってるよ。……お金がね、やっぱり必要だから……ね。」


天音さんは何かを思い出すように話していた。

その時の天音さんは、いつもの明るい表情のはかけ離れた、寂しさや苦労を秘めたなんとも言えない表情をしていた。


その表情を見た瞬間に、俺は既視感を覚えていた。


(…なんだ?何処かで見たことある表情だ。なんだ?この頭に引っかかる感じは?)


俺は頭に何か引っかかる感じがして、モヤモヤした。


「まあ、今日は早く帰ることにするよ。妹達とたまには遊んであげたいからね」


俺が必死に何かを思い出そうとしていると、天音さんはそう言って帰る支度を始めていた。

気を取り直し、へぇー、妹がいるんだ!と天音さんに言おうとした瞬間に、俺の脳内でとある映像が流れ始めた。


……それは、前の世界の幼かった頃の俺が体験した、辛い出来事だった。




「お母さん、いってらっしゃい!」


まだ、中学に上がる前の幼い俺が、いつものようにパートに出かける母親を玄関で見送ろうとしていた。


「…修史、お母さんはもう帰ってこないよ。……じゃあね」

「…えっ?」


母親の言葉の意味が分からない俺は、時が止まったかのように、ただ呆然と玄関を眺めて固まっていた。

時間が少し立って、頭の整理が追い付かない俺は何かから逃げるようにDSでゲームをしていた。


いつの間にか夕食の時間になり、珍しくお父さんがご飯を作っていて、それを食べた。

夜の九時を回って、いつも母親がとっくに帰ってくる時間なのに帰っていなかった。


「お父さん、お母さん遅いね!まだかな?」

「……お母さんは帰ってこないよ」

「……え?」


父親の返答に訳が分からず、頭がついて来なかった。

父親も俺の方を見ずに、窓の外を見ながら煙草を吸っていた。


家事の大半をやったり、参観日や学校での集まりで友達の母親が多く来ることが、何かと頭に引っかかる日々を過ごしていた。

結局、体から何かがスッと無くなったような違和感が続きながら、月日がどんどん流れていき、いつの間にか高校受験がすぐ近くに迫るまでになっていた。


そんな時、ふと鏡を見ると俺は感情をあらわにして驚いた。

そこには別人のような顔をした俺がいた。

その顔は寂しさや苦労を感じさせる、生きているのに死んでいるような悲しい表情をしていた。

鏡に移るその顔は……まるで……。



その一連の映像が脳内で流れた瞬間、俺ははっと気付いた。

その時の鏡に写った自分と、目の前にいる天音さんの表情がほとんど同じだということに。


「それじゃ!また、明日ね、修史くん。」


そう言って帰ろうとする天音さんの手を、無意識に俺は掴んだ。


「えっ?」


どうしたの?と不思議そうな表情を浮かべる天音さんの顔を見ながら俺は小さく呟いた。


「……俺も天音さんの……家について……行きたい。」


何故か視界がぼやけて見えた。

頬に何か液体がつたって行くのがわかった。

何故か言葉が上手くしゃべれなかった。


だが、ここで一歩踏み出さないと後悔すると確信していた。


俺は前の世界で、親友に寂しさや辛さをぶちまけて心の隙間を埋めて本当に楽になることが出来た。

だが、天音さんはまだ心の隙間を埋めることが出来ていないと、俺には……俺だからわかった。


(勘違いならそれでいい。だけど、辛い事があるのなら俺にぶちまけてほしい。俺は少しでも君を支えたいんだ!)


そんな想いを持ちながら、俺は涙をぬぐって、天音さんの手を握っている右手に力を込めた。


暗い展開はすぐにある終わるのでご安心を。

作者の小学生の体験を少し入れてしまった。

……俺は絶対に離婚しないぞ!……あっ、すみません。彼女すらいない分際で大口叩きました。






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