俺はどうやら妹が大好きらしい
「で、デートは良いって言ったけど、お泊まりするなんて聞いてないんだからね!」
俺は今、リビングで妹に説教をされている。
正座で妹の正面に座っているのだ。
家について玄関の扉を開けた瞬間、目の前には妹が立っていた。妹は光を失った瞳で顔を上げて俺を見てきた。
一瞬、背筋が凍った。
そして、そのまま流れるようにリビングに連行され、今に至る。
「そんなにぷんすかしないでくれよ芽亜。泊まったのは事実だけど、夜までテレビ見たりしてそれから寝ただけだから」
腕を組ながら、ほっぺを膨らましてぷんすか怒っている妹をなだめる。
俺の巧みな話術のお陰でヤンデレみたいだった瞳はすぐに戻すことは出来たのだが、それでも不機嫌だ。
こんな調子なので一緒に寝たことなどは黙っていた方がいいかもしれない。
「ど、どうせお兄ちゃんはその女の子と一緒に寝たんでしょ。そ、それで…その…へ、変なことしたんじゃないの?」
「俺は寝るときはソファーで寝たから、一緒に寝てはないよ。その芽亜の言う変なことって何?」←首を傾げて表情を変化させない
問い詰められるので、少しだけ反撃に出た。
妹の言う「変なこと」の意味はおおよそ検討がつくがあえて分からないふりをして聞いてみる。
さぁ、言ってみろ!
小学生の考える変な事とは具体的に何だ?
さあ!さあ!
「へ、変なことっていうのは…そ、その…何て言うか…。その……」
「ん?口ごもってどうした芽亜」
「ううっ……。も、もう!それは……エ、エッチなこと…だよ!」
「エッチなこと?具体的にどういうことかな?お兄ちゃん、そこらへんの知識ないからわかんないよー」←最低、もちろん知ってる
顔を真っ赤にしながらも言いきった妹の顔を見て、心の中ではゲスい笑みを浮かべながらも、執拗に問い詰める。
「えっ!?そ、それは具体的に言うと…ゴニョゴニョ」
「え?何て言ったか聞こえなかった。もう一回言ってくれない?」
下を向きながら恥ずかしそうに何か言った妹を、可愛くていじめたくなってしまったので更にしつこく聞いてみる。
……楽しい。
妹の可愛らしい反応が見れて幸せだ。
勿論、自分が最低なことをしてる罪悪感は無いこともない。
妹の反応から見るに妹にもそういう知識が多少はあるのだなと思って少し複雑な気分になった。
嫁に行ってもプラトニックラブでいて欲しい。
それかお兄ちゃんのお嫁さんになれば問題ないのだが。
オ○ニーを息子が覚えたことを知った母親の気持ちはこんな感じなのかもしれない。
あ、息子の部屋でエロ本を発見した母親の気持ちと言った方が近いかもしれないが。
「そ、そんな事、言えるわけないでしょ!お兄ちゃんのバカ!」
そう言って妹は恥ずかしくなったのか自分の部屋に走って行こうとした。
「そうは……させるか!」
「きゃあ!」
そんな妹を俺は逃がさずに後ろから抱きついて捕まえた。
大抵のアニメとかだと、妹は部屋に入ってしばらくツンツンして、またしばらくしてデレると言う展開になるが、俺はそうはさせない。
妹にちょっとでも冷たくされたらそれがツンだと分かっていても、お兄ちゃんの心には響くのだよ!
「はっはっは!逃がすと思ったか!」
「は、はーなーしーてー!」
俺の腕の中で妹は少し暴れたが、ぎゅーっと体に押し付けるようにホールドする。
あっ、いい匂いがする。
小学生ならではの細く柔らかい抱き心地の良さを堪能しながら、肩の上に顎を乗せて優しく聞いてみる。
「暴れないで、可愛い可愛い芽亜。俺は普通に遊んだだけだからさ。今、芽亜を捕まえたのは、芽亜がエッチなことについて純粋に何処まで知っているのか、兄として興味があっただけなんだ!……知ってることをお兄ちゃんに教えてくれないかな?」
少し力を入れていた手を緩めて、優しく愛情を込めて抱き締めると、妹はスッと力を抜いておとなしくなった。
更に俺は頭を撫でて、妹を安心させる。
アメとムチの作戦で妹の表情は落ち着き、少しトロンとした表情に変わっていた。
さっきまで怒られていたはずだったが、いつの間にか形成逆転だ。
アニメの主人公も怒られたら抱き締めるとかおっぱい揉むとかで対抗して欲しい。
「……お兄ちゃんが……そこまで言うなら……教える……よ。め、芽亜の知ってる、そ、その……エッチな事っていうのは……。……ううっー」
今度は赤くなって、うつむいてしまった。
この反応からは何処まで知っているか判断が難しいが、少し可哀想になってしまったので、ここらで解放してあげる。
多分、恋のABCは知っていそうに感じた。
さて、今までのやり取りは早香さんとのデートの事を誤魔化すためにやった事だからこの辺にしておこう。
「話をそらさないで!」とか言われたら、また別の手段もあったけどね。
「……なんてな。芽亜がどんな事を知っててもそれは、芽亜が成長したんだなって兄として思うし、俺は芽亜がどんないやらしい子になっても嫌いになったりしないけどね」
「め、芽亜はいやらしくなったりしないもん!……お兄ちゃんのバカ!」
そう言って問い詰めるのをやめて、お兄ちゃんはずっと妹を嫌いにならないと言っておく。
妹も何だかんだ、俺の「嫌いになったりしない」という言葉が嬉しかったようで照れている。
「芽亜、こっち向いて。ごめんな、少しからかったりして。……俺にはこれから何人か彼女が出来ると思うけど、それでも芽亜は世界でたった一人だけの大切な妹だからな。妹への愛情は変わらないよ!」
「っ!お、お兄ちゃん……」
妹と向き合い、見つめ合って話をする。
からかったのは事実なので素直に謝り、俺にとって芽亜は世界一大切な妹だと言うことを強調しておく。
妹は完全に俺にデレきった、うるっとした表情をしている。
「め、芽亜にとっても、お兄ちゃんは世界でたった一人の大切なお兄ちゃんだよ。それにとっても、とーっても大好きなお兄ちゃんなんだからね!」
「ありがとう芽亜!俺も芽亜の事大好きなだぞ!」
お互いに大好きだと言い合った後、俺は妹をぎゅーっと抱き締めた。
少し長めに抱き締めた後、離れようとしたが妹がうるうるした瞳で俺を見つめて顔を近付けて来た。
そしてスッと目を閉じた。
その時の妹のは、俺が受け入れてくれると信じて疑っていない、期待のこもった表情をしていた。
(こ、これはキ、キスを求めているのか!?い、いや、流石に兄妹だぞ。……でも……。)
少し俺は倫理的に戸惑いを覚えた。
しかし、動いた。
(兄妹だからってなんだ!!芽亜の気持ちを無下になんて、俺は出来ない!!それに……やっぱり大切で大好きだから。)
俺は顔が近づけ唇を重ねた。
妹だからとか、小学生最高とかそういうのは一切なく、純粋な気持ちだった。
……いや、兄妹という罪悪感が無かったとは言い切れないかもしれない。
でも、後悔は一切ない。
罪悪感があったとしても、この行動は正しいと感じた。
ゆっくりと唇が離れ、向き合う。
妹の瞳はとても潤んでいて心から嬉しいのだと一目でわかった。
「えへへっ!兄妹なのに、キ、キス……しちゃったね!」
「お兄ちゃんとキスするのはいけないことか?」
「ううん!だってこんなにも好きなんだもん。だから、いけなくないよ!…だから…ね…。お兄ちゃんもう一回……」
そう言って再び顔を近付けてくる妹に優しくキスをした。
厚みはないがツルッとしていて小さい、大人の唇とはまた違った感触がした。
好きな妹だからかとても心地がよかった。
気持ちいいというより、心地よいという感覚の方が大きかった。
うっすら目を開けると、間近で幸せそうな妹の顔が見えたので、嬉しく思い再び目を閉じた。
ーー
結局、今日は妹と家でだらだらして過ごした。
デートの内容を聞かれたので簡単に答えると、今度二人で遊びたいと言われたのでいつか行こうと約束をしておいた。
「お兄ちゃん!」
「ん?なんだい?」
「えへへ!なんでもない!」
さっきから上機嫌で俺に話しかけてくる妹は、本当に天使のようだった。
もし、妹に彼氏が出来ようものなら……考えたくないな。
自分が何をするか分からない。
彼氏なんぞ出来ないで欲しいと思った。
ただ、芽亜が自分から他の男の事を好きになったとしたら、応援したいと思う。
……もしそうなったら、俺はは生きていけるか心配だ。
「お兄ちゃん!」
「なんだい?」
「お兄ちゃんに彼女さんが出来ても、芽亜はお兄ちゃんが幸せならすっごく嬉しいよ!……だけど、もしお兄ちゃんを悲しませるような女だったら……すぐに芽亜に教えてね!」
一瞬だけ何故かとても寒気がした。
まあ、だが気にしない。
「わかったよ、その時は芽亜に頼るからね」
「うん!ありがと!」
芽亜は目を細めて笑った。
彼女が出来て、妹との時間は減るが、その分一緒にいるときは大切にしたいと思った。
笑顔で「お兄ちゃん」
照れながら「お兄ちゃん」
元気いっぱいに「お兄ちゃん」
そう呼んでくれる可愛い妹との時間はあっという間に過ぎていき、また今日が終わっていった。
その表情を守っていきたいとも強く思った。
ーー
夜、幸せそうに隣で眠る妹の顔を見て、改めて幸せな気持ちになる。
前の世界で、もしこんな風に妹を好きになっていたら俺はどう行動していたか分からない。
「いけないこと」だっていう認識が強いと思うから。
しかし、この世界なら俺はなんとかなると確信している。
まあ、普通に前の世界で妹はいなかったけどね。
脳内の妹ならいたんだけど。
「……幸せだな。だが、この生活をずっと続けるためにも俺は人間的にも成長しなければならないな。」
俺の将来のお嫁さん達を、またいずれ出来るであろう子供達のために、楽しみながらも改めて頑張ろうと強く思った。
そんな中、俺の意識は静かに心地の良い闇へと沈んでいった。
兄と妹の関係のまま愛しあいたいのか、別の関係になりたいのかは今は分からないので、未来の俺に決断を任せた。




