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3. 二人から同じお願いをされることになるなんて

 次の日、どうやって殿下に接触したものかと悩み、昨日のお礼ということで話しかけてみようかと思っていた。

 しかし、わたしの思惑を飛び越えて殿下の方から接触してきた。


「サラ・トーマ殿、少しいいだろうか」


 殿下の護衛であるルートディヒ様が教室に入ってきて、わたしの名前を呼んだ。

 うなずくとついてきてくれと言われ、後ろをついていった。


 この誘い方流行ってるのかなと、既視感を感じながらつれていかれた場所は、広大な敷地を持つ学園の庭の一角につくられた四阿(あずまや)だった。


 木の屋根がつくられ簡素な木のベンチが置かれているだけの場所だったが周りを植木に囲われ、人通りもすくないため落ち着けそうな場所だった。

 そこに、金髪のスラリとした殿下が座っているだけで、まるで一枚の絵画のようだった。


 わたしたちに気がついたようで、殿下は気さくな感じで手をあげてきた。


「忙しいところ呼び出してすまないね」


 とんでもありませんと言いながら、わたしはぶんぶんと首を横に振った。


「相変わらずキミはおもしろいね。見ていて飽きないよ」


 なんだか、小動物を愛でるような視線を向けられてしまった。

 だけど、好意的に見られているようで安心した。


 殿下に向かいに座るようにうながされ腰を下ろしたのだけど、殿下の傍らで腕を後ろ手に組んで立っているルートディヒ様が、わたしにジッと視線を向けていた。


 ルートディヒ様のお父様は騎士団長で、ルートディヒ様も将来は近衛騎士として殿下の警護につくか、もしくは騎士団長の後をつぐのではと目されていた。


 太い眉に厳しい顔つきをしていて、鍛えられ引き締まった筋肉に覆われているため、立っているだけで迫力がビシビシと伝わってきた。

 お願いだから、そんなにジッと見ないでと身を縮こまらせた。


「ルートディヒ、あまり、怖がらせるな」


「はっ、申し訳ありません」


 殿下に注意されたルートディヒ様は、わたしから視線をずらした。おかげですこしだけ緊張を解けたのだが、そんなわたしの様子を見て殿下が楽しげに微笑んでいた。


「キミは感情がよく顔にでていて、かわいらしいね」


「か、かわいい!?」


 殿下から出た言葉に思わず狼狽してしまった。生まれてこのかた、かわいいだなんて両親からしか言われたことがなかった。


「ベアトリクスもキミぐらい素直になってくれると、可愛げがあるのだろうな」


 ここで、ベアトリクス様の名前がでたことで、なんとなく殿下の用件に察しがついた。


「キミは彼女と親しくしているそうだね」


 公爵家とそんな恐れ多いことはないといいたかったが、このままいけばベアトリクス様の依頼を達成しやすくなると思い、うなずくことにした。


「実は頼みがあって、彼女の気持ちが知りたいんだ。子供の頃から彼女はあまり感情を表に出そうとしない人でね。なかなかその気持ちを知ることができなかったんだ」


 きっと、公爵家令嬢ひいては将来の王妃としての教育によって、感情を顔を出さない術を身に着けたのだろうと、あの方の氷のような微笑を思い出しながら想像した。


「ちょっとしたことでいいから、彼女のことを教えてもらえないだろうか」


「はい、お任せください!!」


 わたしは力強くうなずいた。


 ビアトリクス様に続き、王太子殿下からも婚約相手の気持ちが知りたいと依頼されてしまった。

 やばいなー、わたしってばそんなに頼りになる人間なのかなーと自惚れたいところだけど、色々と面倒な事情が絡んでいるのだろう。


 殿下がここまで心情を明かしてくるのは、わたしが端にも棒にもひっかからない男爵家の人間というのが大きいのだろう。

 生徒の間でいろいろ派閥ができているらしいが、わたしにはまったく関係がなかった。というよりも、だれからも相手されていなかった。

 ぐすん。一応友達はいるんだから……。


 しかし、そんな涙を流したくなるような立場によって、予想外の収穫を得ることにつながるとは思わなかった。王家と公爵家とのつながりを得られれば、これほど強い後ろ盾はないだろう。


 卒業後に、王宮の官吏として働くときも安心というものだ。ふははははっ。

 よーし、二人のいいところをお互いに聞かせるようにして、仲をとりもってやろうじゃないか。



 お二方から依頼を受けた後、伝書鳩よろしく殿下とベアトリクス様の間を行き来する日々を過ごした。


 この日も、ベアトリクス様の部屋を訪れると、殿下についてひとしきり報告した。

 テーブルを挟み、お茶を飲みながらわたしの話を聞くベアトリクス様は、特にこれといった反応を示すことがなかった。


 本当にちょっとしたことばかりなので、本当にこれで役に立つのだろうかという疑問がわいてきた。


 そこで、殿下に報告にあがるときのネタを得るために、ベアトリクス様の質問することにしてみた。

 とりあえずは二人の初めての出会いのときのことでも聞いておくとしよう。そうすれば、二人の恋の橋渡しもしやすくなるだろう。


「トゥールーズ様は、殿下とはいつごろ知り合ったのですか?」


「5歳のときだと記憶していますわ。将来結婚するお相手として、お父様に連れられて殿下と引き合わされました。元々、王家と公爵家の関係を強化するために、私と殿下が生まれたときに決まっていた結婚ときかされていましたわ」


 生まれたときから相手が決まっていたのか。

 うちのような男爵家だと、貴族どころか商人と結婚ということもあり世界が違っていた。


「殿下は幼少の頃から聡明な方だったと聞いていますが、トゥールーズ様から見てどのような方だったのですか?」


「子供ながらにとても落ち着いた方だったわ。既に、王となる自覚をもっていらっしゃったわ」


 ほほう、会ったときから既に好印象だったわけか。これは殿下に報告せねば。


「わたしなどは、まだ相手すら見つかっていませんのにおうらやましいです。殿下のようなステキな男性との出会いがほしいです」


「お父上から見合いは勧められませんの?」


「いやあ、うちのお父様もその辺は特に決めていないようでして、わたしが決めた相手なら平民でも構わないと言っています。母も平民の出でして、特にこだわりはないようですね」


「そう……、お母上は健勝なのかしら?」


「ぴんぴんしてますよ。うちの家族は元気だけが取柄だと思っています」


「ご家族との仲がよろしいのね。うらやましいことですわ」


 家族のことを話すベアトリクス様の表情に陰が落ちていた。

 公爵家ともなると、家をまとめるのにいろいろと苦労があるのだろう。



 別の日、殿下のところに報告に向かい、いつもの四阿(あずまや)で殿下と話を交わした。


「トゥールーズ様から殿下と初めて出会ったころの話を伺ったのですが、とても好印象だったそうですよ」


「そうであったか。彼女は幼い頃からあまり感情を表に出さなかったが、それならばよかった。家のために結婚を強いられ、嫌がっているわけではなかったのだな」


 殿下は満足そうにうなずいていた。

 ベアトリクス様は子供のころからあの様子だったとは、筋金入りなのだなと感心した。


 今度は、殿下がベアトリクス様に抱いた第一印象を聞いてみた。


「初めは、良く笑い子だと思っていたのだが、大きくなるにつれて落ち着きのある態度をとるようになっていたな。彼女も将来の王妃としての自覚をもち、周囲にスキを見せないようにしたのだろうが、私としては以前の彼女も好ましく思っていたのだがな」


 あの氷の微笑を浮かべるベアトリクス様も、子供の頃は無邪気な笑みを浮かべていたのだと思うと、なんだか親近感が湧いた。


「サラよ、感謝するぞ。ベアトリクスは私にとって欠かすことのできないパートナーだ。信頼関係を築けていることが確認できて安心した」


 殿下は満足そうに微笑んできて、わたしはもったいないお言葉ですと恐縮するばかりだった。

 政略結婚とはいっても、きちんと相手のことを見ようとしている殿下に好感を持った。



 別の日に、殿下からきいたことをベアトリクス様に報告したのだが、あまり嬉しそうな様子ではなかった。

 しかし、もっと殿下から話を聞いて来てほしいと言われ、態度と言動にちぐはぐな印象を受けた。


 まるで、話を聞いてくるのが目的というよりも、わたしを殿下のところに行かせようとしているかのように感じた。

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