始動
―戸村宅―
私、西条美香は、海上自衛官戸村洋介との結婚を決めた。
「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」
緊張で声が震える。無理もない。
将来の義父となる人物、戸村幸一と話をしているのだ。
しかも相手は国連日本海軍の大佐で戦艦大和艦長だ。
一応私は防衛省事務官でシビリアンコントロールの上では制服組の上位に立つが、こういった歴戦の指揮官の前ではそんなことなど忘れてしまう。
相手は口を開いた。
「こちらこそ洋介をよろしくな、お嬢ちゃん、いや美香さん」
驚いた。
相手は屈託のない笑顔を私に向けた。
大佐というからにはもっと堅い人かと思っていた。
「親父、俺の嫁だかんな?手ぇ出すなよ?」
すかさず洋介がジョークを飛ばす。
「そんなことしねえよ」
この場に笑いが起こる。
この家に嫁入りして本当に良かった。
だが、この平和が壊されることを私は知らなかった。
―皇居―
内閣総理大臣たる私は、日本国の安全保障について天皇陛下に内奏していた。
内奏は、天皇陛下に対し国政について説明する行為だ。
「天皇の教養を高める」という名目だが、日本の最高権威者にあらせられる陛下に、お伺いを立てるといった面も存在するだろう。
「やはり中国は、尖閣諸島支配を目論んでいるのですね」
「はい陛下。中国海洋警察も活発に動いています」
「……総理大臣、やるつもりですか?」
机には作戦書が置かれている。
『セ号作戦(尖閣諸島奪還作戦)要綱綴』
「ええ。私は断固として日本国の主権と存立を守ります」
「そうですか」
国連軍関連法により、天皇陛下は国連日本陸海空軍の名誉総裁となられた。その意味でもこの内奏は重要だ。
こう言うのもまことに畏れ多いが、天皇陛下には覚悟を決めていただきたい。
―首相官邸―
「大統領閣下、わが日本国は尖閣諸島を武力奪還する所存であります」
「承知したソウリ。見守っている」
「ありがとうございます」
電話を切り、私はため息をついた。
「全ては日本のために」